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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 67

2009年03月12日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
「で、何が聞きたいの?」
 花は言った。コーイチはまた花の前に座り直した。
「聞きたい事ねぇ・・・」コーイチは腕組みをした。・・・色々とあるんだけど、何をどう聞いたらいいんだろうなあ。「そうだねぇ・・・」
「あら、そんな優柔不断な人って、嫌いよ!」花はぷいと横を向いてしまった。「もう知らない!」
「いや、あの、その、ちょっと待って!」コーイチはあわてた。この世界の事が何も分からないままじゃ、どうしようもない。「今考えているから、少し時間をくれないかな? ねっ?」
「うふふふふ・・・」花が茎をよじりながら笑い出した。「ああ、おかしい。コーイチさんって、楽しい人ね!」
「・・・」コーイチは憮然とした。からかわれるのは楽しいものではない。それが花だったら、なおさらだ。・・・しかし、今はそんな事は言っていられないんだった。「・・・じゃあ、色々と聞かせてもらえるのかな」
「ええ、どうぞ」
 花はコーイチの方を向いた。コーイチはこほんと軽く咳払いをした。
「ここはどう言う所なんだい?」
「ここはいつからあるのかは知らないけれど、何もない世界だったらしいわ」
「何もないって、どう言う意味?」
「文字通り、何もないのよ。たぶん、真っ白な空間だけが、無限に拡がっていたって話よ」
「・・・なにか怖ろしい感じだね」
「そうね。そしてここに最初に一人の男の人がやって来たの。それからしばらくして、二人の男の人と一人の女の人がやって来た。やって来た時は、ここは真っ白な無限空間だった」
「他には来た人はいなかったのかい?」
「来たけど、みんな戻って行ったり、また来たりしていたみたいよ」
「そう言えば、ここは元々は刑罰のためにあるんじゃないかって、芳川さんが言ってたな。たしかに真っ白無限空間じゃ、そんな感じだな」
「もしそうだとしたら、ここに来たその四人はずっといるわけだから、極悪人で終身刑って所なんでしょうね」
「そうかもしれないね・・・」コーイチはうんざりした。・・・そんな連中と渡り合わなければならないのか。この平凡な僕が。腕力もからっきしなこの僕が。「いやいやいやいや、まいったなあ」
「ある時、最初に来た男の人が、リンゴを食べたいって思ったの」花はコーイチの不安に気づく事なく話し続けた。「そうしたら、美味しそうなリンゴが、突然手の平に現れたんだって! 無の空間から有の物を作り出したのよ!」
「えっ!」
「たぶん、この空間に適応して、この空間のエネルギーを使いこなせるようになったのね」
「そんな事できるのかなあ?」
「実際、ここがそうじゃない!」花はコーイチをしかりつけた。地面から茎を中心に左右に伸びた長い二本の葉をくるりと丸め、まるで腰に手を当てているような形になった。「とにかく、できるようになったの! その人は、それから腕を磨き、何でも作り出せるようになったわ。他の三人にもやり方を教えたみたいね。そして、四人はどんどんと物を作り出して行った」
「何だか、神様みたいな話だね」
「そうね。で、最初の人は、この世界を統治する大王になったの。他の三人は。それぞれ自分のエリアを設けて自分の好きな世界を作ったってわけ」
「その大王って人、ピンクの服を着ているかい?」
「ええ、私は見た事ないけど、そう言う話よ。あなたは会った事があるの? すごいじゃない! 会えるのは、その三人くらいなものなのに!」
「そうなんだ・・・」ほめられたが、嬉しくはなかった。・・・あのピンクのおじいさん、ここの大王なんだ。ますます勝ち目は無さそうだった。「他の三人のエリアって?」
「一人の男の人は、どこで知ったのかしら、日本のサムライの世界の将軍になっていて、もう一人は、これもどこで知ったのか、カンフーの世界の最強マスターになっていて、唯一の女の人が、このエリアを作ったベリーヌ女王様なのよ」
「どうだろう、話せば分かるって感じかなあ・・・」
「どうかしらね。元々は違う世界を作っていたんだけど、ちょっと前に、ある本を読んで(きっと外の世界から持ち込んだ人が置き忘れて戻っていったのね)、それを真似した世界に変えたの。その中の女王様のセリフが気に入ったかららしいわ」
「どんなセリフ?」
「こう言うの」花はそっくり返り、右の葉を水平に走らせ空を切った。「『首をちょん切っておしまい!』」
「それって・・・」コーイチは自分の首をそっと押さえた。「『不思議の国のアリス』だ・・・」

       つづく

いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ

(そろそろ記録更新ですね。本人には通過点でしかないでしょうが・・・)



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