「ちょっと、二人とも、久々に会えたのに、どうしてこうなるんだよ」
コーイチは逸子とアツコに言う。しかし、二人の耳には届いていないようだ。
「ねえ、コーイチ」チトセがコーイチの腕にしがみついたまま、顔を上げる。「あんな恐いオバさんたちは放っておいて、あっちに行こう」
「え?」コーイチは驚く。「オバさんって…… 二人ともまだまだ若いよ」
「オレから見たら、二人とも立派なオバさんだよ!」
チトセはけらけらと笑う。逸子とアツコは殺気に溢れかえった視線をチトセに向けた。
「ぬゎんですっとぅええええええ!」
二人は同時に叫んだ。二人のオーラが絡み合って、さらに噴き上がった。オーラはさながら、伸び上った龍のようになり、はるか上空からチトセを見下ろし、今にも襲い掛かろうと言う状態になっている。
「まあまあまあ…… 逸子さんもアツコさんも落ち着いて……」コーイチはオーラを見上げながら言う。「ね? 久しぶりに会ったんだし……」
「コーイチさん……」逸子が言う。「腕にそんな子供をぶら下げて振り払おうともしないんだから、何を言っても無駄よ」
「そうよ!」アツコも言う。「それにその娘、わたしまでオバさん扱いしてさ!」
「何よ! わたしだけだったら良いって言うの?」逸子がアツコをにらむ。「ふざけないでよね!」
「ふざけていないわよ! 正しいじゃない!」アツコも負けじと逸子をにらむ。「もし、わたしがオバさんなら、逸子はオバアさんよ!」
「ぬゎんですっとぅええええええ!」
逸子は怒鳴った。と、同時に、雲一つない空に雷鳴が轟いた。山賊たちはぽかんとした顔で空を見上げた。コーイチも空を見上げ、ごくりと喉を鳴らした。
「ははは、良いぞ、良いぞ!」チトセは相変わらずコーイチの腕にしがみついたまま、二人を囃し立てる。「もっとやれ、もっとやれ! そして、二人とも倒れてしまえ! そうなりゃあ、コーイチはオレの婿だ!」
「ぬゎんですっとぅええええええ!」
逸子とアツコは殺気に溢れかえった視線を、再びチトセに向けた。
「ね? 逸子さんもアツコさんも、オーラを引っ込めて、一旦落ち着こうよ。これじゃ、いつまで経っても終わらないよ」コーイチは引き吊った笑顔で言う。「ね? チトセちゃんも腕を離してくれないかな? みんなで仲良く話し合うんだよ」
「コーイチ!」チトセがコーイチを見上げる。頬を膨らませている。「どうして、オレだけ『ちゃん』付けなんだよう! オレだって一人前の女だぜ」
「おほほほほ!」アツコが笑う。「聞きましたぁ? 逸子さん。こんなお子様が一人前を気取っていますわよ」
「まあ!」逸子もアツコに調子を合わせる。「いくら本人が一人前を気取っても、『ちゃん』付けで呼ばれるって事は、お子様認定って事ですわよねぇ、アツコさん」
「ぬゎんだとぅおぉぉぉぉぉぉ!」今度はチトセが怒鳴った。コーイチの腕を離し、コーイチの正面に立った。真剣な眼差しでコーイチを見る。「コーイチ! オレは子供か? はっきり言ってくれ!」
「う~ん……」コーイチは困った顔をする。そして、ゆっくりと深呼吸をした。「……後何年かしたら、立派な大人の女性になるよ……」
チトセは眼をまん丸に見開いてじっとコーイチを見つめた。しばらくすると、その両の目から大粒の涙が溢れてきた。頬を伝う涙をぬぐう事もせず、両手をきつく握った。
「何よ! 何よ! 何よう!」
チトセは叫ぶと小屋に飛び込んだ。戸を壊れんばかりの大きな音を立てて閉めた。わあわあ泣く声がもれてきた。
「ごめん、チトセちゃん……」コーイチはつぶやいた。「妹としてなら、思えるんだけどね……」
「おい! お前!」突然、手下の中から声がした。まだ若い山賊が弓に矢をつがえてコーイチに向けていた。「よくもチトセを泣かせたな!」
「え?」コーイチは驚く。「いや、その…… 泣かしたわけじゃ……」
「おいらは太郎次だ! おいらはな、チトセが好きなんだ」太郎次は言いながら、きりきりと弓を引き絞る。「チトセが喜んでいるからと思って我慢してたのに、お前は泣かしやがった!」
「ちょっと待ってよ!」逸子がコーイチの前に立つ。「コーイチさんに何の落ち度もないじゃない!」
「そうよ!」アツコは逸子の前に立つ。逸子は邪魔だと言う顔をしてアツコの後ろ姿をにらむ。「それに、今小屋に行けばチトセと仲良くなれる良い機会じゃない?」
「それは後だ!」太郎次は言う。「その前にお前を倒す! 女でも邪魔をすると倒す!」
「ふん! やって見なさいよ!」アツコが鼻で笑う。「そんなの、かわしてやるわ!」
「馬鹿ねぇ!」後ろから逸子が言う。「あなたがかわしたら、わたしに当たるじゃない!」
「それくらい良いじゃない!」アツコは振り返って逸子に言う。「そうなれば、コーイチさんはわたしのものになるんだから!」
逸子はすっとアツコの前に出た。
「さあ、矢はわたしに向けて放つのよ!」逸子は太郎次に言う。「そうしたら、わたしが矢をかわしてアツコに当ててあげるわ!」
「馬鹿な事を言わないでよ! そうと分かって、むざむざ矢に当たるわけないじゃない!」
「でも、あなたが矢をかわしたら、コーイチさんに当たるのよ!」
今度はアツコがすっと逸子の前に立った。それから逸子に振り返った。
「じゃあ、あなたが盾になればいいじゃない! 化けて出ないように弔ってあげるし、コーイチさんの事は任せてくれて良いわ!」
太郎次の弓がきりきりと音を立てて引き絞られた。
つづく
コーイチは逸子とアツコに言う。しかし、二人の耳には届いていないようだ。
「ねえ、コーイチ」チトセがコーイチの腕にしがみついたまま、顔を上げる。「あんな恐いオバさんたちは放っておいて、あっちに行こう」
「え?」コーイチは驚く。「オバさんって…… 二人ともまだまだ若いよ」
「オレから見たら、二人とも立派なオバさんだよ!」
チトセはけらけらと笑う。逸子とアツコは殺気に溢れかえった視線をチトセに向けた。
「ぬゎんですっとぅええええええ!」
二人は同時に叫んだ。二人のオーラが絡み合って、さらに噴き上がった。オーラはさながら、伸び上った龍のようになり、はるか上空からチトセを見下ろし、今にも襲い掛かろうと言う状態になっている。
「まあまあまあ…… 逸子さんもアツコさんも落ち着いて……」コーイチはオーラを見上げながら言う。「ね? 久しぶりに会ったんだし……」
「コーイチさん……」逸子が言う。「腕にそんな子供をぶら下げて振り払おうともしないんだから、何を言っても無駄よ」
「そうよ!」アツコも言う。「それにその娘、わたしまでオバさん扱いしてさ!」
「何よ! わたしだけだったら良いって言うの?」逸子がアツコをにらむ。「ふざけないでよね!」
「ふざけていないわよ! 正しいじゃない!」アツコも負けじと逸子をにらむ。「もし、わたしがオバさんなら、逸子はオバアさんよ!」
「ぬゎんですっとぅええええええ!」
逸子は怒鳴った。と、同時に、雲一つない空に雷鳴が轟いた。山賊たちはぽかんとした顔で空を見上げた。コーイチも空を見上げ、ごくりと喉を鳴らした。
「ははは、良いぞ、良いぞ!」チトセは相変わらずコーイチの腕にしがみついたまま、二人を囃し立てる。「もっとやれ、もっとやれ! そして、二人とも倒れてしまえ! そうなりゃあ、コーイチはオレの婿だ!」
「ぬゎんですっとぅええええええ!」
逸子とアツコは殺気に溢れかえった視線を、再びチトセに向けた。
「ね? 逸子さんもアツコさんも、オーラを引っ込めて、一旦落ち着こうよ。これじゃ、いつまで経っても終わらないよ」コーイチは引き吊った笑顔で言う。「ね? チトセちゃんも腕を離してくれないかな? みんなで仲良く話し合うんだよ」
「コーイチ!」チトセがコーイチを見上げる。頬を膨らませている。「どうして、オレだけ『ちゃん』付けなんだよう! オレだって一人前の女だぜ」
「おほほほほ!」アツコが笑う。「聞きましたぁ? 逸子さん。こんなお子様が一人前を気取っていますわよ」
「まあ!」逸子もアツコに調子を合わせる。「いくら本人が一人前を気取っても、『ちゃん』付けで呼ばれるって事は、お子様認定って事ですわよねぇ、アツコさん」
「ぬゎんだとぅおぉぉぉぉぉぉ!」今度はチトセが怒鳴った。コーイチの腕を離し、コーイチの正面に立った。真剣な眼差しでコーイチを見る。「コーイチ! オレは子供か? はっきり言ってくれ!」
「う~ん……」コーイチは困った顔をする。そして、ゆっくりと深呼吸をした。「……後何年かしたら、立派な大人の女性になるよ……」
チトセは眼をまん丸に見開いてじっとコーイチを見つめた。しばらくすると、その両の目から大粒の涙が溢れてきた。頬を伝う涙をぬぐう事もせず、両手をきつく握った。
「何よ! 何よ! 何よう!」
チトセは叫ぶと小屋に飛び込んだ。戸を壊れんばかりの大きな音を立てて閉めた。わあわあ泣く声がもれてきた。
「ごめん、チトセちゃん……」コーイチはつぶやいた。「妹としてなら、思えるんだけどね……」
「おい! お前!」突然、手下の中から声がした。まだ若い山賊が弓に矢をつがえてコーイチに向けていた。「よくもチトセを泣かせたな!」
「え?」コーイチは驚く。「いや、その…… 泣かしたわけじゃ……」
「おいらは太郎次だ! おいらはな、チトセが好きなんだ」太郎次は言いながら、きりきりと弓を引き絞る。「チトセが喜んでいるからと思って我慢してたのに、お前は泣かしやがった!」
「ちょっと待ってよ!」逸子がコーイチの前に立つ。「コーイチさんに何の落ち度もないじゃない!」
「そうよ!」アツコは逸子の前に立つ。逸子は邪魔だと言う顔をしてアツコの後ろ姿をにらむ。「それに、今小屋に行けばチトセと仲良くなれる良い機会じゃない?」
「それは後だ!」太郎次は言う。「その前にお前を倒す! 女でも邪魔をすると倒す!」
「ふん! やって見なさいよ!」アツコが鼻で笑う。「そんなの、かわしてやるわ!」
「馬鹿ねぇ!」後ろから逸子が言う。「あなたがかわしたら、わたしに当たるじゃない!」
「それくらい良いじゃない!」アツコは振り返って逸子に言う。「そうなれば、コーイチさんはわたしのものになるんだから!」
逸子はすっとアツコの前に出た。
「さあ、矢はわたしに向けて放つのよ!」逸子は太郎次に言う。「そうしたら、わたしが矢をかわしてアツコに当ててあげるわ!」
「馬鹿な事を言わないでよ! そうと分かって、むざむざ矢に当たるわけないじゃない!」
「でも、あなたが矢をかわしたら、コーイチさんに当たるのよ!」
今度はアツコがすっと逸子の前に立った。それから逸子に振り返った。
「じゃあ、あなたが盾になればいいじゃない! 化けて出ないように弔ってあげるし、コーイチさんの事は任せてくれて良いわ!」
太郎次の弓がきりきりと音を立てて引き絞られた。
つづく
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