こんにちは!公認会計士の青山です

パブリックセクターを中心に会計その他のお手伝いをしています。徒然なるままに仕事やプライベートについて紹介します。

オリンピック・レガシーと施設の有効性、効率性について その3

2016-10-19 | 公会計

 最後に、運動施設と「スポーツ文化」について考えてみることにします。

 自治体が運営する運動施設、たとえば東京体育館や市民プールは、公共性のある施設として維持費の一部に税金が投入されています。これは前述のとおりです。では、税金が投入されることは当然なのでしょうか。私は違うと思います。本来は運動施設でも採算がとれる施設であるべきです。民間が運営している施設なら、様々なイベント等を行うことによって赤字にならないようにするでしょう。自治体が運営する運動施設で、税金の投入が許される条件、言い換えると公共的施設になり得る条件はただ1つ、その地域に「スポーツ文化」が熟成していて、競技会場がそのための施設かどうかだと思います。

 では、「スポーツ文化」とは何でしょうか。「文化」と言っても、下町文化や江戸文化など地域や歴史のまとまりを指すものや、食文化と言った人の活動を指すものなど様々で、一言で定義するのは難しい概念です。しかしながら、あえて定義すると、「人間が有史以来獲得してきた能力や慣習、さらにそれから発達した芸能、宗教、政治、経済・・・・そしてスポーツなどなど」でしょうか。

 人間は、進化してきた過程で自然環境に適応する身体的特徴を失ってきました。たとえば、寒冷地に生息する動物は毛皮や厚い皮下脂肪があるなど身体的特徴がありますし、肉食動物は鋭い牙を持っています。逆に人間は、身体的特徴を切り落としてきており、その代わりに道具を用いたり服装や住居を工夫したりしてきました。これらが能力や慣習となり、結果として文化を生み出してきたと思われます。スポーツについても同じです。

 人は生きていく上で「心と体のバランス」が重要となります。つまり、健全な心を維持するためには健全な体が必要になります。また、健全な体は健全な心が支えます。人は生きていく手段として体を酷使しなくなった後でも健全な体を維持するために体を動かす慣習を保持し、それが各種のスポーツとして発達してきました。そして、これらスポーツが地域の人々に慣習として根付いている状況こそが、「スポーツ文化」の熟成ということができるのではないでしょうか。

 運動施設に税金の投入が許されるには、「スポーツ文化」の熟成、つまりスポーツが地域の人々に慣習として根付いており、さらに施設が、1)地域の人々に対して、生涯を通じてスポーツに参加(する、見る、支える)する機会を提供し(これは、たとえ参加していなくてもスポーツを身近に感じることを含む)、2)年齢を重ねてもその世代に応じて活動を継続できる環境を提供し、3)さらには、生涯を通じてスポーツが必要不可欠なものとして生活の一部を占める環境を提供できる機能を備えていることが必要です。

 最初に戻ります。3競技会場が「負の遺産」にならないためには、東京において「スポーツ文化」が熟成しており、さらに自治体が有効性、効率性の高い施設として維持できるかです。まずは、その判断のための情報、たとえば初期投資額(建築費)及び毎年度どの程度の維持費がかかるかについて、東京都は都民に公表すすることも必要だと思います。


オリンピック・レガシーと施設の有効性、効率性について その2

2016-10-18 | 公会計

 施設の有効性と効率性について、もう少し考えてみましょう。

 実は、オリンピックの遺産は競技会場だけではありません。1964年の東京オリンピックでは、東海道新幹線の整備も代表的なオリンピックの遺産です。ご承知のとおり東海道新幹線は、その後の日本経済に計り知れない効果をもたらしています。また、社会への経済的効果だけではなく、財務的にも十分採算が取れる遺産となっています。一方、競技会場などの運動施設はどうでしょうか。私の知る限り自治体が運営する運動施設で採算がとれる施設はありません。但し、運動施設の場合、採算が取れる施設である必要はありません。採算が取れる施設なら、民間に任せれば良いのです。どういうことでしょうか。ここで問題となるのが「施設の公共性」と「受益者負担」です。

 たとえば、ある自治体が運営する運動施設の維持費用が1,000円であるとします。この施設は地域住民であれば誰でも使える施設であり、そのために税金が800円投入されています。これが「施設の公共性」です。但し、地域住民によっても利用頻度は異なります。この不公平性を解消するために、実際に利用する場合には一部負担させるべきです。そのため、利用には200円を徴収することにします。これが「受益者負担」です。つまり、結果的に施設は800円の赤字となりますが、これは最初から想定されていることです。

 では、もともと採算が取れない施設でどのようにして「有効な遺産」か「負の遺産」なのかを判断するのでしょう。これが、有効性、効率性です。たとえば、住民満足度が高い施設は有効性が高い施設でしょう。また、稼働率が高い施設も同様です。ただし、ある程度の稼働率は維持していても莫大な維持費がかかる施設は効率性が低いことになり「負の施設」と判断されるかもしれません。

 なお、これらの判断は、自治体自らが行いますので、住民はしっかり自治体が行う判断の妥当性を見ている必要があります。


オリンピック・レガシーと施設の有効性、効率性について

2016-10-16 | 公会計

 2020年のオリンピックに向け都が整備に着手している施設の内、3競技会場の抜本的見直しが話題になっています。3競技会場とは、ボート、カヌー・スプリント会場「海の森水上競技場」(東京湾中央防波堤)、水泳会場「オリンピックアクアティクスセンター」(江東区)、バレーボール会場の「有明アリーナ」(江東区)です。

 小池百合子東京都知事は「ランニングコストも考えた上での報告書で、重く受け止めたい。負の遺産を都民に押し付けるわけにはいかない」と述べています。この小池知事の発言のキーワードは「負の遺産」です。一方、オリンピック憲章では、この遺産という言葉に関して次のように記載されています。

14. オリンピック競技大会の有益な遺産を、 開催国と開催都市が引き継ぐよう奨励する。14. to promote a positive legacy from the Olympic Games to the host cities and host countries;

(オリンピック憲章 第2章オリンピックムーブメント 2 IOCの使命と役割 14

 つまり、競技会場を整備すべきかどうかは、当該施設が「有益な遺産」(positive legacy)か「負の遺産(negative legacy)かにかかっています。この判断で重要となるのが、施設の有効性と効率性の検証です。まず、施設の有効性とは、施設建設の成果が十分に発現されているかという視点で、具体的には住民満足度や年間観客数、稼働率で測ることができます。次に、施設の効率性とは、その成果に対して最少の経費・労力で施設が維持されているかという視点で、具体的には来場者1人当たりコストなどで測ります。スポーツ施設などの大規模施設は、建設費だけではなく、毎年度莫大な維持管理コストがかかります。したがって、当該施設は毎年度十分な成果が期待できるか、またある程度の成果は期待できるがそれがコストに見合ったものであるかについて十分な検討が必要なのです。

 「有益な遺産」(positive legacy)か「負の遺産」(negative legacy)の判断は、慎重に行う必要があります。


合格祝賀会

2016-09-25 | 日記

 私は、私立大学の監事をしています。その関係で、先週、大学の法科大学院・司法研究所主催で行われた司法試験の合格祝賀会に出席しました。本大学院では、予備試験経由での合格も含めて計3名が合格しました。

 合格された皆さま本当におめでとうございます。そして、今後のご活躍を期待します。今までの苦労はこれからの社会への貢献で報われるでしょう。

 私も公認会計士に合格した時を思い出し感慨深くなりました。もう20年以上前です。考えてみれば、その時から今までいろいろなことがありました。合格された皆さまも、これからいろいろなことがあるかと思いますが、再び動きだした時計を止めることなく着実に前に進んで欲しいと思います。


独法、国大の財務諸表と業績

2016-09-24 | 公会計

 民間企業のように、独立行政法人や国立大学法人においても、その業務活動状況を知りたいと思うことは、内外の利害関係者にとって当然のことです。業務活動状況を示す財務諸表としては、「損益計算書」と「行政サービス実施コスト計算書」(国大の場合、「国立大学法人等業務実施コスト計算書」(以下、「コスト計算書」と言います。))の2つがあります。いずれもも、収益と費用を計算し最終的に利益(コスト)を算出する計算書です。

 では、違いは何でしょうか。ごく簡単に言うと、「損益計算書」は「費用」と「国からの運営費交付金を含む収益」の差から「利益(コスト)」を計算します。一方、「コスト計算書」は「費用」と「国からの運営費交付金を含まない収益」の差から「コスト」を計算します。

 この違いは、損益計算書の場合あくまで独法(国大)を単体で見た計算書で、一方コスト計算書は独法(国大)と国を一体と見た計算書という点にあります。単体で見る損益計算書の場合、国からの運営費交付金も外部からの資金であり収入です。一方、コスト計算書は独法(国大)と国を一体とみますので運営費交付金は独法(国大)にとっては収入でも国にとっては同額の支出となり、結果的に差し引きゼロでコスト計算書には反映されません。コスト計算書が独法(国大)と国を一体とみる意味は、国民にとって独法(国大)がどの程度の費用(つまり税金)をかけて運営しているか示すことにあり、この場合運営費交付金は全く関係ないものだからです。

 いずれにしても、損益計算書、コスト計算書の存在意義は、組織の効率性の程度を示すことにあります。しかしながら、特に独法の場合、運営費交付金の会計処理の関係で(業務達成基準となっても損益均衡の考え方は継続)、利益はあまり意味のないものとなっています。一方、コスト計算書のコストは意味を持ちます。例えば、そのコストを生徒数で割れば、生徒1人当りコスト(その大学は生徒1人にどれくらいの税金をかけているか、)がわかり、人口で割れば国民1人当りコスト(その大学は国民1人当りどれくらいの税金が投入されているか)がわかります。

 損益計算書を今以上に役立つものとするために、今後も工夫が必要です。

 


少しあたたかい話 ~続き~

2016-09-24 | 日記

 以前立ち寄った弘前の小料理屋に約2年ぶりに訪ねてみました。きっとご主人は覚えていないなと思いつつカウンター座ると、

 「以前、来ましたか?」と突然の質問、覚えてくれていたようです!うれしいですね。

 「平河町で働いていたのですよね。」私が言うと、少し照れたように「そんなことまで話しましたか。」

 その日も話が弾み、平河町の店で働いていたときの同僚の店まで紹介してもらいました。中野にある寿司屋Y亭に、方南町の天婦羅Tふね。いずれも人気店になっているようなので、いつか行きましょう。


青森にて

2016-09-23 | 公会計

 最近疲れ気味だったので、身体にご褒美をあげました。青森はもう肌寒いですよ。

 大間のまぐろ、大畑海峡サーモン、マツカワガレイ、八戸前沖さば、八戸イカ、十三湖しじみ汁・・・


退院その後

2016-06-12 | 日記

 先々週末に退院し一週間が経ちましたが、おかげさまで大分回復してきました。病名は顔面神経麻痺というもので、原因は不明です。もしかして冬の東北出張がいけなかったのでしょうか。 

 先週火曜日にはり治療も開始したのですがその効果には驚きました。動かなかった顔のパーツが治療後から動き始めたのです。金曜には某省の行政事業レビューに参加したのですが、たぶん病気だったことを気付かれなかったかと思います。某省の担当者の方も「レビュー本番に間に合うかどうか心配していました。」とおっしゃっていましたが、本当に良かったです。

 それにしても、綱渡りの1週間でした。。。


1日の始まりと4時13分の音楽

2016-06-11 | 日記

 私と関係のある方の多くは知っていることですが、私の起床は早い(年を取って寝きれないというのも事実ですが)。だいたい4時には目覚め、7時ごろまでに一日に必要なメールや業務の多くは済ませるよう努めています。

 そして4時に起きた場合、いつもなんとなく聴く音楽があります。NHK総合で4時13分に必ず流れる音楽です。これを聞くと、なぜか今日も一日が始まったなと感じるのです。調べると、「Suddenly Yours - 2002」という音楽らしいのですが、一度聴いてみてください。癒されるかもしれませんよ。でも、ほとんどの人は、そんな時間に起きないですね。

https://www.youtube.com/watch?v=jQn4U-IxDL8&sns=em

補足:朝早く私からメールを受け取られる方々、ご容赦ください。


退院

2016-06-03 | 日記

本日無事退院。一人で歩いての帰宅途中カフェに寄り、健康であることの幸せを改めて実感しました。とりあえず週末はゆっくりしよっ!

 


人生初

2016-05-31 | 日記

 先週末から人生初の経験をしています。初入院に初点滴。今週末には退院できそうですが、皆さま心配をおかけしてすいません。


独立行政法人における業務の履行とは

2016-05-31 | 公会計

 前回、「運営費交付金」が「負債」から「収益」に化けるには「業務の履行」が必要と言いました。では、「業務の履行」とは何でしょうか?独立行政法人会計では、「業務の履行」を測る指標として「業務達成基準」、「期間進行基準」、「費用進行基準」の3つの考え方を提示しています。

 

(1) 業務達成基準

一定の業務等と運営費交付金との対応関係が明らかにされている場合には、当該業務等の達成度に応じて、財源として予定されていた運営費交付金債務の収益化を進行させる。

(2) 期間進行基準

業務の実施と運営費交付金財源とが期間的に対応している場合には、一定の期間の経過を業務の進行とみなし、運営費交付金債務を収益化することができる。たとえば、独立行政法人ではありませんが、大学では一学期が終われば一学期分の授業(教育機関としての大学の業務)は履行していると考えられますね。

(3) 費用進行基準

業務のための支出額を限度として収益化するものとする。

 従来、多くの独立行政法人では、一番会計処理が楽な「費用進行基準」を採用していました。この「費用進行基準」を採った場合、費用認識の額と同額が収益化されることになり、差益が発生する余地はありません。しかし、平成27年に会計基準が改正され、「業務達成基準」が原則とされ「費用進行基準」は採用できなくなりました。これには、多くの独立行政法人が慌てました。業務の進行度合いをどのように測るか検討もつかなかったからです。

 ただし、その後会計基準のQ&Aも見直され、投入資源(例えば作業時間、投入費用)などのインプット情報で進行状況を測定できる場合、業務の進行状況と密接に関連するなどの理由から、投入資源に着目した指標を設定することも考えられるとの見解を公表しました。あれ?もしかして、これ「費用進行基準」ではない?従来との違いは、今までは法人全体で「費用進行基準」を行っていたところが、新たな処理は業務区分ごとに処理を行う違いはありますが、費用進行の考え方は同じです。業務達成基準(投入費用方式)とも言うらしいのですが、、、

 この結果は、実務サイドと基準設定サイドの妥協の結果とも言えますが、いずれにしても、多くの独立行政法人はほっとしたでしょうね。


日本一わかりやすい国立大学法人・独立行政法人の会計の話

2016-05-31 | 公会計

 公会計の仕事をしていると、よく公的機関の会計がわからないと言われます。特に、国立大学法人・独立行政法人の会計では、「運営費交付金」の会計がわからないようです。

 「運営費交付金」は、国が各国立大学法人・独立行政法人交付している一種の補助金です。各組織は、主にこの「運営費交付金」をもとに業務を運営しています。では、早速「運営費交付金」の会計処理について説明しましょう。

 一般的に、民間企業でも公的機関でも、その組織の現金預金(キャッシュ)が増える理由は、おおざっぱに言って2つ考えられます。金融機関等からの借入れによって現金預金(キャッシュ)が増える場合、売上によって現金預金(キャッシュ)が増える場合です。複式簿記の場合、常に取引を二面性で捉える必要がありますが、前者の場合は借入という「負債」の増加と現金預金という「資産」の増加が生じ、後者の場合は売上という「収益」の増加と現金預金という「資産」の増加が生じることになります。両者では、将来の返済義務があるかないかの違いが生じます。

 では、運営費交付金を国から受入れた場合はどうでしょうか。実は借入金の会計処理と同じなのです。「運営費交付金」を受け入れた際に、「運営費交付金債務」という科目を「負債」に計上し、一方、同額の現金預金が「資産」に計上されることになります。

 このように、借入金と「運営費交付金」の会計処理は同じなのですが、ここで、運営費交付金は借入金と違い返済義務がないのに、なぜ借入金と同様に負債に計上するのかという疑問が生じるかもしれません。しかしながら、「運営費交付金」も次期の中期目標期間に繰り越すことはできず中期目標終了後に原則として国庫に納付しなければならないという点において、借入金と同様に返済義務があるのです。但し、国への返済義務は、「業務の履行」により解除されます。これが、借入金と「運営費交付金」の違いです。

 「運営費交付金」における返済義務の解除は、会計上は「運営費交付金債務の収益化」という独立行政法人特有の会計処理を行うことで対応しています。独立行政法人会計では、業務の履行により返済義務が解除され、その時点で会計上は「負債」である「運営費交付金債務」から「運営費交付金収益」つまり「収益」に化けるのです。民間企業では「負債」から「収益」に化けることは考えられませんね。

 この結果、業務未履行分に相当する「運営費交付金債務」だけが負債として残り、中期目標期間終了後に原則国庫に納付されることになります。


国立天文台

2016-05-08 | 日記

 東八道路のオートバックスに車を預け、その回収まで3時間程度あったので、国立天文台を訪れた。三鷹に住んで15年、初めての訪問です。思っていたより深い森です。スズメバチや毒蛇のヤマカガシも出るそうです。

 それにしても、天文台は大正時代に麻布飯倉から三鷹に移転したそうです。私と同じなのかと思うと、より感慨深いものがあります。

 

  


大学再編と会計

2016-05-07 | 公会計

 私は、縁あって国立大学、公立大学、私立大学のすべての種類の大学に仕事で関係しています(たぶん、このような方はあまりいないのではないでしょうか)。このように大学と関わらせていただいている中で最近感じることとして、同じ教育機関でありながら、種類の違う大学を比較することはほぼ不可能ということです。たとえば、会計の分野においては、国立大学法人会計と公立大学法人会計は類似していますが、国立大学法人会計と私立大学が適用している学校法人会計は全く別物です。

 今まではこれで良かったかもしれません。しかし、前にも述べたとおり、現在国公立私立大学の枠組みを超えた統合を視野に入れた再編が検討されています。このような中においては、国立大学と私立大学等とを比較する会計ツールも必要になるのではないでしょうか。

 いずれそれぞれの種類の大学の会計基準の見直しの議論が生じるかもしれませんね。