晩上好っ!、こんばんやでございます。
今夜は、阪神・淡路大震災の数日前に私が書いた作品をお届け致します。
震災の時、母親はタンスの下敷きになったそうですが
観音開きのタンスの扉が開いたおかげで母親の布団の両脇に開いた扉が支える格好になり怪我はありませんでした。
また揺れで窓のサッシの閉めた鍵が開き隣のおじさんが二階までよじ登って母親を助けてくれたそうです。
私の部屋は本がびっしり入った重たい本棚が枕を直撃していたそうです。
ちなみに私は東京におりまして帰る予定が時計の電池が切れて止まっていたために
新幹線に乗り遅れて家には帰れなかったのです。
それではお笑いの世界をご堪能くださいませっ!><
この作品は私が産まれるずっと前の話です。
母親から聞いた話を元にかなりデフォルメして書いてます。
ここはおとついのストーリと違って男の子でないと駄目なんですね。
でもスズメぐらいの大きさの蛾って本当にいたんでしょうか?
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あなたがいるじゃない【雀蛾編】
初稿:1995/01/11、某所に投稿
推敲修正:1999/05/02
『あなたっ! 蛾 いるじゃないっ!』
場所は東京の吉祥寺1334番地、
とある会社の平屋の社宅である。
社宅とはいっても新築である。
しかも庭に滑り台まである結構いい一軒家だ。
そこに不幸は訪れた。
住んでいるのは男とその女(当然男の妻)である。
『ひぃぇえぇ~っ!』
女が悲鳴を上げる。
『なんやのぉっ これなんやのぉっ!』
男はともかく女は生粋の大阪人である。
『うるさいなぁ たかが蛾くらい。。』
と男は白黒TVをみながら返事をする。
『どっから入ってきたんっ!』
まだ女は叫んでいる。
『東京にはいるんだよ 雀蛾が。。』
と男は相手にしていない。
『もう いややぁ なんとかしてぇなぁっ!』
女は泣き声になっている。
『わかった わかった。。』
男はしぶしぶ立ち上がる。
かくしてこの巨大な雀蛾と男との壮絶な闘いが始まった。
雀蛾の生きることへの執着と男の一家の主の面子を賭けた闘いである。
しかし自然界で鍛えられた雀蛾と都会の街中で育ったもやしっ子では
圧倒的に雀蛾が有利である。
男は箒(ホウキ)を振り回して応戦する。
『不利だ。届かんっ。』
男はそう思った。
天井で大きく旋回する雀蛾を恐怖の目で見つめる女。
そして手当たり次第に箒を振り回す男。
『このままでは長期戦だ。いますぐ決着をつけてやるっ。』
男は一気に勝負にでた。
男は新築の社宅に合わせて新調した三面鏡の椅子によじ登ったのだ。
『よしこれなら届く。』
男はニヤっと笑い、勝利を確信した。
形勢は一気に逆転する。
部屋の中央で旋回していた雀蛾は防戦一方だ。
しばらく逃げまっている。
『なんという男だ。』
『これでは負ける。』
雀蛾は思った。
部屋は締め切られている。
逃げ場はない。
『ようしっ!』
『俺も勝負だっ。』
雀蛾は決意した。
『俺も日本雀蛾だ。』
『目にもの見せてやる。』
雀蛾の判断に迷いはない。
雀蛾は男に向かって突進した。
やはり当たって砕けろ精神は東洋の神秘、
黄金の国ジパング日本において人間だけでなく日本産の雀蛾の世界でも同じなのだ。
『馬鹿なっ!?』
男はたじろいだ。
箒を持っているだけに正面からの攻撃には弱い。
男は体勢を崩しながらも突撃してくる雀蛾を叩き落とそうとした。
そのときだ。
『ボキッっ!』
という鈍い音が聞こえた。
『うわぁっ!』
男は体勢を崩し、その新築の社宅に合わせて新調したばかりの三面鏡の椅子から畳に転げ落ちた。
『ああっっ!』
女が叫んだ。
『椅子がぁっ! 三面鏡の椅子の足がぁっ!』
そこには新築の社宅に合わせて新調したばかりの三面鏡の椅子の足が1本見事に折れていた。
無残だ。あまりにも無残だ。
やはり醜い男同士の闘いの後に泣くのはいつの時代でも女性なのだ。
よりによって新築の社宅に合わせて新調したばかりの三面鏡の椅子が折れるなんて。
女はしばらく呆然としていたが、やがてそれは怒りとなり男に向けられた。
男にとってはまさに味方の反逆である。
展開はとんでもない方向に向かっていく。
『このあほたれぇ~っ!』
箒は女の手にある。
男は天井を旋回できないだけ雀蛾よりも断然不利である。
こうなると男は弱い。
しかもその女がよりによって女学校時代に薙刀(ナギナタ)とか竹やりで
鍛えた経験があるだけになおさら男は不利である。
『でてけぇ~っ!』
深夜の東京である。
今と違って昭和30年前後の三鷹台の夜はひっそりとしている。
『なにやってんねんっっ! あほちゃうかぁ~っ! 』
そんな夜中にこんな大阪弁が響くのである。
家から男が追い出されるのが見える。
『しかし何という俄の強い連中だ。』
雀蛾はそんな光景を眺めながら思った。
『このあたりも住みにくくなったな。』
雀蛾は暗い電灯の付いた電柱に向かって飛んでいき電柱の周りを小さく旋回した。
時は鉄の時代である。
そしてあたり一面が井の頭公園と区別がつかぬ時代であった。
-----
あれから何年かたった。
女は男の子を産んでしばらくして男は病気で死んだ。
男が死ぬと同時に女は子供を連れて大阪へ帰りそこを生涯の地とすることにした。
『やっぱり大阪はええわ。』
女はそういって三面鏡を眺め、それから椅子のほうに目をやった。
そこには縄で縛りつけた椅子があった。
もはやぼろぼろになった三面鏡と折れた足を縄で縛った椅子はまだ健在だった。
そして女はかすかにフフッと笑い息子に話すのだった。
『昔東京でお父さんが雀蛾と格闘してねぇ。椅子の足折りよったんよ。』
子供は退屈そうに聞いていた。
『ふ~ん、雀蛾ねぇ。そんなもんおるんか。』
-----
そして1995年新年を迎え今でも実家にはその椅子が三面鏡と一緒においてある。
もしかしたら一番長生きするのはその椅子かもしれない。
ただ昔と違うのは僕が座ると怒られることだ。
血は争えん、今度はおまえが折りそうだといって。
少なくとも母にしてみればその椅子は東京時代の思い出の品なのだろう。
この正月、僕は折れた椅子の話をまた聞かされた。
聞き飽きた話なのでほんの軽い気持ちで話の腰をポキッと折った。
天井で雀蛾が飛んでいるような気がした。
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明日、明後日はこのブログお休みする予定です。
月曜日にまたっ!
阪神・淡路大震災のような悲劇が二度と起こりませんことを願って・・・再見っ!><
今夜は、阪神・淡路大震災の数日前に私が書いた作品をお届け致します。
震災の時、母親はタンスの下敷きになったそうですが
観音開きのタンスの扉が開いたおかげで母親の布団の両脇に開いた扉が支える格好になり怪我はありませんでした。
また揺れで窓のサッシの閉めた鍵が開き隣のおじさんが二階までよじ登って母親を助けてくれたそうです。
私の部屋は本がびっしり入った重たい本棚が枕を直撃していたそうです。
ちなみに私は東京におりまして帰る予定が時計の電池が切れて止まっていたために
新幹線に乗り遅れて家には帰れなかったのです。
それではお笑いの世界をご堪能くださいませっ!><
この作品は私が産まれるずっと前の話です。
母親から聞いた話を元にかなりデフォルメして書いてます。
ここはおとついのストーリと違って男の子でないと駄目なんですね。
でもスズメぐらいの大きさの蛾って本当にいたんでしょうか?
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あなたがいるじゃない【雀蛾編】
初稿:1995/01/11、某所に投稿
推敲修正:1999/05/02
『あなたっ! 蛾 いるじゃないっ!』
場所は東京の吉祥寺1334番地、
とある会社の平屋の社宅である。
社宅とはいっても新築である。
しかも庭に滑り台まである結構いい一軒家だ。
そこに不幸は訪れた。
住んでいるのは男とその女(当然男の妻)である。
『ひぃぇえぇ~っ!』
女が悲鳴を上げる。
『なんやのぉっ これなんやのぉっ!』
男はともかく女は生粋の大阪人である。
『うるさいなぁ たかが蛾くらい。。』
と男は白黒TVをみながら返事をする。
『どっから入ってきたんっ!』
まだ女は叫んでいる。
『東京にはいるんだよ 雀蛾が。。』
と男は相手にしていない。
『もう いややぁ なんとかしてぇなぁっ!』
女は泣き声になっている。
『わかった わかった。。』
男はしぶしぶ立ち上がる。
かくしてこの巨大な雀蛾と男との壮絶な闘いが始まった。
雀蛾の生きることへの執着と男の一家の主の面子を賭けた闘いである。
しかし自然界で鍛えられた雀蛾と都会の街中で育ったもやしっ子では
圧倒的に雀蛾が有利である。
男は箒(ホウキ)を振り回して応戦する。
『不利だ。届かんっ。』
男はそう思った。
天井で大きく旋回する雀蛾を恐怖の目で見つめる女。
そして手当たり次第に箒を振り回す男。
『このままでは長期戦だ。いますぐ決着をつけてやるっ。』
男は一気に勝負にでた。
男は新築の社宅に合わせて新調した三面鏡の椅子によじ登ったのだ。
『よしこれなら届く。』
男はニヤっと笑い、勝利を確信した。
形勢は一気に逆転する。
部屋の中央で旋回していた雀蛾は防戦一方だ。
しばらく逃げまっている。
『なんという男だ。』
『これでは負ける。』
雀蛾は思った。
部屋は締め切られている。
逃げ場はない。
『ようしっ!』
『俺も勝負だっ。』
雀蛾は決意した。
『俺も日本雀蛾だ。』
『目にもの見せてやる。』
雀蛾の判断に迷いはない。
雀蛾は男に向かって突進した。
やはり当たって砕けろ精神は東洋の神秘、
黄金の国ジパング日本において人間だけでなく日本産の雀蛾の世界でも同じなのだ。
『馬鹿なっ!?』
男はたじろいだ。
箒を持っているだけに正面からの攻撃には弱い。
男は体勢を崩しながらも突撃してくる雀蛾を叩き落とそうとした。
そのときだ。
『ボキッっ!』
という鈍い音が聞こえた。
『うわぁっ!』
男は体勢を崩し、その新築の社宅に合わせて新調したばかりの三面鏡の椅子から畳に転げ落ちた。
『ああっっ!』
女が叫んだ。
『椅子がぁっ! 三面鏡の椅子の足がぁっ!』
そこには新築の社宅に合わせて新調したばかりの三面鏡の椅子の足が1本見事に折れていた。
無残だ。あまりにも無残だ。
やはり醜い男同士の闘いの後に泣くのはいつの時代でも女性なのだ。
よりによって新築の社宅に合わせて新調したばかりの三面鏡の椅子が折れるなんて。
女はしばらく呆然としていたが、やがてそれは怒りとなり男に向けられた。
男にとってはまさに味方の反逆である。
展開はとんでもない方向に向かっていく。
『このあほたれぇ~っ!』
箒は女の手にある。
男は天井を旋回できないだけ雀蛾よりも断然不利である。
こうなると男は弱い。
しかもその女がよりによって女学校時代に薙刀(ナギナタ)とか竹やりで
鍛えた経験があるだけになおさら男は不利である。
『でてけぇ~っ!』
深夜の東京である。
今と違って昭和30年前後の三鷹台の夜はひっそりとしている。
『なにやってんねんっっ! あほちゃうかぁ~っ! 』
そんな夜中にこんな大阪弁が響くのである。
家から男が追い出されるのが見える。
『しかし何という俄の強い連中だ。』
雀蛾はそんな光景を眺めながら思った。
『このあたりも住みにくくなったな。』
雀蛾は暗い電灯の付いた電柱に向かって飛んでいき電柱の周りを小さく旋回した。
時は鉄の時代である。
そしてあたり一面が井の頭公園と区別がつかぬ時代であった。
-----
あれから何年かたった。
女は男の子を産んでしばらくして男は病気で死んだ。
男が死ぬと同時に女は子供を連れて大阪へ帰りそこを生涯の地とすることにした。
『やっぱり大阪はええわ。』
女はそういって三面鏡を眺め、それから椅子のほうに目をやった。
そこには縄で縛りつけた椅子があった。
もはやぼろぼろになった三面鏡と折れた足を縄で縛った椅子はまだ健在だった。
そして女はかすかにフフッと笑い息子に話すのだった。
『昔東京でお父さんが雀蛾と格闘してねぇ。椅子の足折りよったんよ。』
子供は退屈そうに聞いていた。
『ふ~ん、雀蛾ねぇ。そんなもんおるんか。』
-----
そして1995年新年を迎え今でも実家にはその椅子が三面鏡と一緒においてある。
もしかしたら一番長生きするのはその椅子かもしれない。
ただ昔と違うのは僕が座ると怒られることだ。
血は争えん、今度はおまえが折りそうだといって。
少なくとも母にしてみればその椅子は東京時代の思い出の品なのだろう。
この正月、僕は折れた椅子の話をまた聞かされた。
聞き飽きた話なのでほんの軽い気持ちで話の腰をポキッと折った。
天井で雀蛾が飛んでいるような気がした。
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明日、明後日はこのブログお休みする予定です。
月曜日にまたっ!
阪神・淡路大震災のような悲劇が二度と起こりませんことを願って・・・再見っ!><