深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

正しい人、間違った人

2019-04-09 16:15:37 | 一治療家の視点
「正しい人」が「間違った方法」を用いる時は、その人はそれを働かせる方法を見つけ出し、しかもうまく働かせる。「間違った人」が「正しい方法」を用いる時、そこからは何もいいことは生まれない。


これはカール・グスタフ・ユングの比較的有名な言葉で、いつの頃からか私は自分が行っているクラニオ基礎セミナーの資料の冒頭にこの言葉を掲げている。

以前、この言葉の意味を尋ねられたことがあって、その時は「自由に解釈してください」と相手に一任してしまったのだが、ちょっと思うところあって、この言葉に対する私の解釈を述べることにした。

ユングがここで言っている「正しい人」、「間違った人」とはもちろん倫理的、道徳的なことではなく、「(物事の)本質を理解している人」、「本質を理解していない人」という意味だと私は考えている。つまり上の言葉が意味するのは、「本質を理解していれば、仮にやり方が少々間違っていたとしても(ゴールは分かっているわけだから)上手くいくように持っていくことができるが、本質が理解できていなければ、形だけ正しくやっていても求める結果は得られない(か、場合によってはもっとひどいことになる)」ということだ。

ところで、治療、施術に限らず、ある種の技術とか芸事を習う際によく言われることに「守・破・離」というのがある。これは「何も分からなくても、まずは師匠の猿まねでいいから、とにかく教わったとおりにやっていろ。するとそのうちに、そうする理由が分かってきて、師の足らざる面も見えてくる。そうしたら猿まねが自分オリジナルのものに変わっていくから、そこから自分の道を行け」というようなことだと私は理解している。

が、この「守・破・離」は「本質よりまずは形/型から」ということであり、上のユングの言葉と正反対のことを言っているように見える。だとしたら重要なのは、(型は間違っていても)本質を理解することか、(本質が理解できていなくても)正しい型を身につけることか? これについては各人それぞれ意見はあると思うが、私はちゃらんぽらんな人間なので「どっちでもいい」という立場。結局どちらも目指すところは同じであり、ただアプローチの仕方が違うだけなのだ。

例えば能や歌舞伎の家では、子供は物心ついた頃から芸の修行を始めるという。その場合、年端もいかない子供に「この芸の本質は…」なんて言ってみても詮無いことだから、問答無用で型を叩き込むことになる。確か野村萬斎は子供の頃からワケも分からず父や祖父から狂言の型を叩き込まれ「僕は狂言サイボーグだ」と嘆いたこともあったが、後に狂言だけでなくシェイクスピアなどの西洋古典劇や現代劇などをやるようになって、「自分は型にはめられたことで自由になった」と述べている。これなどは、まさに「守・破・離」の典型と言えるだろう。

しかし、このブログを読んでいるような人の多くはそんな小さな子供ではないし、理由も分からず「これはこうなんだから、つべこべ言わずに教えられたとおりにやれ」というやり方に苦痛を感じる人もいるだろう(実は私もその一人)。そういう人は(あるいは、そういう人こそ)型を身につけるより本質を理解することを優先すべきだ。なぜなら型は本質によって規定されるものだから、本質が理解できれば型などいくらでも修正可能なのだから(まさにユングが言うように)。

ただその場合、本質を理解するに当たっては「そもそも、それの本質は何か?」という点が極めて重要な意味を持ってくる。

例えばクラニオというメソッドの本質とは何だろう? ネットで検索すると「クラニオというのは脳脊髄液の循環動態を改善させるためのもの」、「頭蓋の縫合の圧縮を緩めるためのもの」、「膜系の緊張を取るためのもの」といった説明がなされているが、本当にそれがクラニオという施術の本質なのか、私には疑問だ(患者に対しては、分かりやすいようにそうした説明を使っているが)。そして同じようにクラニオを行っていても、そうしたことがクラニオの本質だと考えて施術するのと、そうしたことはクラニオによって得られる副次的な効果の1つに過ぎないと考えて施術するのとでは、仮に外見上はよく似ていたとしても、メソッドとして全く別物になっているだろう。

だとしたら、あなたの教わった本質は、本当に本質だろうか?


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