2024年末に放送されたNHKスペシャル『量子もつれ アインシュタイン最後の謎』を見ていてふと思ったことがあり、それについて書くことにした。
そのために、まず「量子もつれ」について述べる(が、既に「量子もつれ」について知っている人は飛ばしてもかまわない)。
「量子もつれ」は元々、量子論を受け入れられなかったアインシュタインが量子論に対する反証として出したものだという。それは量子論から導かれる、相関関係にある量子同士の奇妙な性質についてのものだ。
量子論によれば、この相関する2つの量子はどれだけ(例えば何光年も)離れていても、観測によって一方の状態が分かると同時に、もう一方の状態も一意的に確定してしまう(それは古典的な物理学ではあり得ないことだ)。仮に量子同士が連絡し合って互いの状態を決めているとすると、数光年離れた量子同士が一瞬で情報をやり取りしていることになるが、それは光速を超える情報伝達は不可能であるという相対論に反する。ゆえに量子論は成立しない。
──というのがアインシュタインによる量子論の反証だった。
しかし現在では、「量子もつれ」が確かに存在し、それが量子同士の相互連絡によるものではない(つまり相対論に反しない)ことが(「ベルの不等式」の破れ、という形で)実験的に示されている。そして量子コンピュータの研究、開発において、この「量子もつれ」が重要な鍵を握っている──らしいが、それはこの記事の趣旨とは関係ないので、これ以上は触れない。
さて、やっと本論に入れる。上に述べたように、現時点で「量子もつれ」は直感的には奇妙ではあるが物理現象として存在し、実際にそれは活用もできるようだということは分かった。それでも、「なぜそんなことが起こるのか?」については解明できているわけではない(実は私が知らないだけで、物理学的に既に解かれているかもしれない。だとしたら、以下はもう読む意味がないので、ずみやかに別の記事に移るなりしてほしい)。
そこで私がふと思ったのは、「この世界は大域的には射影空間の構造を持っているのではないか」ということだった。
──という一文で私が言いたいことが分かってしまった人は、多分その通りなので、この記事はここで閉じてもらっていいだろう。以下、そうでない人のために。
まず、射影空間について少々説明する(が、既に射影空間について知っている人は飛ばしてもかまわない)。
なお、私は過去に「身体をリーマン球面として捉える」でも射影空間について書いたが、ここで述べる射影空間はそれとはまた別の話。
簡単なところから、1次元の射影空間(これをP^1と書く)を作ってみよう。数学では原点を中心とする半径1の円を単位円と呼ぶので、その単位円から円周だけを取り出す。次に原点を通る直線y=ax(-∞≦a≦∞ ただしa=±∞の時はy軸と見なす)と円周との2つの交点を同一視する(=同じ点と見なす)。同一視した点の一方は(同じ点と見なせるので)消していくと、元は円周だったものが半円周になっていく。そしてその半円周の両端点も同一視できるので、これは消さずにトポロジー的にグイッと引っ張って重ね合わせ、形を整えると、再び円周ができる。これがP^1だ。つまりP^1は円周である。
では、2次元の射影空間(P^2)はどうか。今度は原点を中心とする半径1の球の表面(=球面)を考え、原点を通る直線(といっても今度は3次元的な直線)との2つの交点を同一視するように球面を操作していく。P^1の時と同様に同一視した点の一方を消していくと、元は球面だったものが半球面になっていく。次に残った円周状の縁の部分。P^1の時のように、同一視した点の一方を消して半円周にして…とやりたくなるかもしれないが、今回はそれはできない。消した側は境界自体が消えてしまうから。なので円周上の同一視する点同士を丁寧に貼り合わせるしかない。ここで守らなければならないのは、同一視する点同士を貼り合わせても、同一視しない点同士は貼り合わせてはならない、というルールだ。ゆえにP^2は球面に近い形だが、貼り合わせる箇所の作りが球面とは決定的に異なっていて、P^2を図に描くことはできない。
このように、n≧1に対してn次元射影空間(P^n)はn次元球面から同じ仕方で作ることができる。
上に述べたように、射影空間は対応する点同士を同一視することで作られる。で、私が「この世界は大域的には射影空間の構造を持っているのではないか」と思ったのは、「量子もつれ」が生じる理由が「そもそも空間自体の構造がそうなっているから」で説明できるのではないか、と考えたからだ。
世界が相関関係にある2つの量子を同一視することによる射影空間とすれば、一方の量子を観測することは、同一視しているもう一方の量子も同時に観測していることになるので、一方の状態が確定すれば、それに応じてもう一方の量子の状態も一意的に確定するのはごく自然なこと。この記事で私が言いたかったのは、そういうことだった。
──が、ここまで読んで疑問に感じた人がいるかもしれない。「射影空間は円周や球面などの対応する2点を同一視して作っただけのもので、相関関係にある2つの量子の間で距離に関係なく起こる『量子もつれ』のモデルにはならないだろ?」と。なので、そのことについて補足しておきたい。
上では射影空間を円周や球面から作ったが、では原点を中心とする中身の詰まった円や球(ただし原点を含むと同一視するのに支障が生じるため、原点は除くとする)から作ったらどうなるか? この場合、原点を通る1本の直線と重なる点を全て同一視することで射影空間を作るのだが、実はトポロジー的に考えると、このようにして円や球から作った射影空間も円周や球面から作った場合と同じになることが分かる(ゼヒ確認してみてほしい)。なので、P^nはn次元球面から作ったものだけを考えればよいのである。
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