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肩こりを放置すると脳梗塞になる?

2020-12-09 19:11:01 | 症例から考える

あるメルマガを見ていたら、治療家仲間に「『肩こりを放置すると脳梗塞になりますよ』と言うと患者がリピートする」と教えている先生がいるらしい。

そのメルマガ発行者の名誉のために付け加えておくと、その人は「この手法、僕はあんまりおすすめしません」と書いているが、私も同感である。肩こりが脳梗塞のサインであるという何らかの明確なエビデンス(根拠)があってそう言っているのならともかく、そんなことを仲間にいけしゃあしゃあと勧める治療家なら、ほぼ間違いなくエビデンスなど持ってはいない。とすれば、そんなのは患者を不安にさせて何度もリピートさせるための単なる脅し文句に過ぎない。

患者にそんなことを言う治療家も治療家なら、そんな治療家の言うことを真に受けて通ってくる患者も患者だ。「この程度の国民にはこの程度の政治家」という言葉があるが、「この程度の治療家にはこの程度の患者」ということだろうか。

とはいえ「肩こりを放置すると脳梗塞になる」かどうかはともかく、放置してはいけない肩こりがあるのもまた事実。

まず教科書的な例としては、(特に左側の)肩こりや首肩の違和感を訴える人に対しては心疾患(例えば狭心症や心筋梗塞)の可能性を疑え、というものがある。これはよく知られた臨床上の注意点の1つで、私もそういう患者には一応ルーチンで調べることにしているが、それで心臓周りに異常が見つかったことはない。実際のところ私自身は、肩こりと心疾患の間に言われるほどの関連があるのかはちょっと疑問だ。

ただ肩は位置的に、内臓系では呼吸器系、心血管系の影響が現れることは十分考えられる。また、私がカイロプラクティックの専門学校に行っていた時、そこの講師だった岡根知樹先生から、肩こりを訴えてよく来ていた患者が実は膵臓癌だった、という話を聞いたことがある。岡根先生が言うには「その人は膵臓が腫大してスペースを圧迫し、体がその圧を肩から逃がそうとしていたのを、本人は肩こりだと感じたのではないか」と。だから、肩こりが何らかの内臓疾患のサインである可能性はあり得る。

それとは別に、首肩を形成する主な筋肉の1つである僧帽筋を考えると、上部線維は起始が外後頭隆起、上項線内側1/3、項靱帯、C7棘突起、停止が鎖骨外側1/3、肩峰で、頭頚部と鎖骨、肩甲骨を結んでいるから、肩周りの問題が頭部からの影響で生じることは珍しくない。私が以前診た、頚部の痛みを訴えて来た人の場合は結局、歯から来る顎関節の問題によるものだった。それは物理的な原因によるものだが、それ以外にもさまざまなストレスや心理的、感情的な要因によって首肩に異常が出ている例は少なくない。が、肩こりが脳梗塞のサインだったという例を私は知らない。

対して、腰痛と脳梗塞の関係は比較的よく知られている。それは脳梗塞後遺症による腰痛である。脳梗塞によって片麻痺になると、姿勢を維持したり動作に応じて必要な筋肉をバランスよく動かすことが難しくなる。そのため姿勢が非対称になったり、左右の筋肉がアンバランスなまま動作しなければならなくなったりして、結果として腰痛を生じることは少なくない。ただし、それはあくまで脳梗塞の後遺障害であって、「腰痛を放置したら脳梗塞になった」ということではない。

こうしてみると、「肩こりを放置すると脳梗塞になりますよ」というのはいかにも嘘っぽいが、「肩こりを放置すると心筋梗塞になりますよ」というのは可能性としてなくはない。ただ患者に対してそう言うのは、心疾患の既往について問診したり相手の心臓の状態まで調べた上で、心臓の状態が肩こりと関連している可能性が少なからずあると判断した時だけだ。

ま、たかが肩こり、されど肩こり。肩こりは他の病気のサインの可能性もあるので不用意に軽く考えることなく、でも同時に変な治療家の根拠のない脅しにダマされないよう、ご注意あるべし。

 


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