『翳りゆく部屋にて』
静かに
静かに
翳りゆく部屋
囚われの私は
そこから動けずに
右半身さえも
まるきり動けずに
窓越し
小さな空に
秋の雲と
夏の雲と
風の匂いも
残さずに
※9/6に某アプリに投稿したもの。
『コオロギの夢』
共用廊下に
蟻の群れ
蟋蟀の亡骸
昨夜鳴いていた
蟋蟀なのだろう
果てた
その瞬間まで
何を思って
鳴いていたのか
どんな夢を
見ていたのか
遠く台風が
運んだ風に
応えるものなど
居はしない
共用廊下に
蟻の群れ
蟋蟀の亡骸
夢を見ること
許されなくなった
業を背負った
黄泉がえりがひとり
蟋蟀の夢に
思いを馳せた
※9/6に某アプリに投稿したもの。
『変わり目』
夏は
「もう去りたい」
と言った
秋は
「まだ嫌だ」
と言った
仕方なく
二つの季節は
便利屋稼業の
『変わり目』に
継ぎ手を頼んだ
「今年は長くなるよ」
と二つの季節
「かまわんよ」
と変わり目
どうやら今年の
季節の変わり目は
大変長く
なるらしい
※9/5に某アプリに投稿したもの。
『月夜の晩に』
鶴と亀みたいにさ
月夜の晩に滑ったのは
君か
僕か
二人ともか
月の下の恋は
いつだって順番違い
重なる影は
いつまでも
揺蕩って
揺れている
罪を忘れる
かのように
※9/5に某アプリに投稿したもの。