福島県にいたことがある。今から思うに、ここは名実ともに日本酒の本場だった。
二本松市(10万石の旧城下町)の駅裏の蕎麦屋で出てきた「燗酒」が「奥の松」
だったので聞いたら、「本社が二本松にある」というのでびっくり。
「大七酒造」の「きもと」もそうだ、という。
ふと考えれば、「智恵子抄」で有名な高村光太郎夫人・旧姓長沼智恵子の実家は、
近在の「花霞」という造り酒屋だったっけ。
そういえば、先日浸かった岳温泉のファミリーマートの売り場に「花春」の
ワンカップが置いてあったのも。
私が「奥の松」の味を覚えたのは、何を隠そう、新宿駅西口の「想い出横丁」
(ションベン横丁の方が通りがいいか)の大衆食堂だった。
35年ほど前は、あの終戦直後と同じバラック造りの粗末な建物で、
「なすみそ炒め」250円とか、「たらこのちょい焼き」400円とかのメニューで、
どんぶり飯を食らっていたのだ。
ああいうところで昼間から冷酒をあおるのが日本酒の正しい飲み方ではないかと痛切に思う。
「奥の松」は味といい香りといいあの店にぴったりだった。
料理の邪魔をしない奥ゆかしさでありながら、また頼んでしまう習慣性。
今は建物は新築。あの時の板さんはガンで死んだとか。
経営者こそ変わらないが、歳月の速さだけが身にしみる。(2012.2.18記)
今はさすがに代替わりしたが、先代の夫人はたまに来る。
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