ポルトガルの空の下で

ポルトガルの町や生活を写真とともに綴ります。また、日本恋しさに、子ども恋しさに思い出もエッセイに綴っています。

中川君のブロマイド

2017-11-26 23:17:41 | 思い出のエッセイ
2017年11月26日

自身はそれに染まりませんでしたが、20歳の頃の大阪京橋時代、まわりには上に素人と名のつく、演出家、役者、シナリオライターの演劇関係者、作家志望やカメラマンなど、サラリーマンとは異質の知り合いがたくさんいました。

わたしはと言うと、その中でどういう訳かこれまた上にへんちくりんな定冠詞がついて「自由人ユーちゃん」と呼ばれていたのです。わたしのどこが自由人かと問いますと、常識の枠にとらわれないで行動するからだそうで(これは20代の頃だということをお忘れなく)、褒められているのか呆れられているのか複雑なところではありました。

素人劇団の何のお役目も担っていないのに出来上がったばかりのシナリオを読まされたり、その仲間からはあっちへこっちへと引っ張りまわされたりしたのですが、都会生活がまだ2年ほどの20歳そこそこのわたしからすると彼らが皆、まぶしい輝きを放っているよう見え、深夜を問わず喜んで引っ張りまわされていた感があります。

おかげでまともな生活はできず、飲まず食わずの日が多かった青春時代ではありましたが、今振り返ってみるに、かけがえのない青春の一こまであったと思います。劇団長はかつて「劇団四季」に籍を置いたことがあるという男性で、彼らはサマセット・モームの作品のみを手がける劇団でした。

そんな知り合いたちの中に一人、プロダクションには属していないものの中川君という素人ではない(!)役者がおりまして、これが顔が大きいものですから、現代劇より時代劇でよく映えるのです。案の定、彼は京都四条にある南座で、よく歌舞伎公演での役回りをしていたのでして。なに、役回りといってもハシッパの役(笑)

これが、ある日浮かぬ顔をして現れまして、「舞台でドジッた。トップの役者さんにこってりしぼられてん」と嘆きます。
何をしたかと言いますと、出番寸前にどうにも我慢ができなくなってトイレに行った。そしたら出番の合図が聞こえたので慌てて舞台に飛び出して行ったのだと言う。

出てしまってからハッと気がついたのが、足に履いてる「便所」と書いてあるスリッパ!(爆)おまけに、手に持ってなきゃならないはずの十手をトイレに置いてきてしまって、「御用だ!御用だ! 」と突き出す手には、十手なし・・・

周りの小役人を演じている人らの後ろに後ろにと隠れて誤魔化そうとしたのだそうだが、そんなもん、ロケじゃあるまいし本番なんやから、どうやって誤魔化すのよ(笑)これを聞いたときには、気の毒な気持ちよりも大爆笑が起こって我らは皆、抱腹絶倒。

役者さんの世界って、NGがたくさんあるでしょ?あれ、爆笑ものが多いですね。しかし、劇場では毎回が本番、やり直しがきかない。中川君によると立派な歌舞伎役者さんも時には失敗するのだそうで、そういう時は、舞台が終わった後に先方さんからちゃんと陳謝として全員に何がしかが配られるのだそうです。

あれから40年ほども経つというのに、今思い出しても「便所」と書かれたスリッパを履いて、「御用だ、御用だ!」と空の手を突き出し、にっちもさっちも行かなくなっている中川君の姿を思い浮かべるたびに、くっくっくと腹を抱えて笑わずにはいられないわたしです。

中川君、どうしているでしょう^^彼からもらったヅラをつけたサイン入りのブロマイド、どこへ行ってしまったかなぁ。


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2 コメント

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Unknown (けいこ)
2017-11-27 09:32:07
こんばんは。

素敵にユニークな青春時代を過ごされたんですね。
「自由人のゆーちゃん」という呼び名も 大らかでいいです。

懐古趣味ではないけれど、若かった頃の思い出は 微笑ましいものですね。
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けいこさん (spacesis)
2017-11-28 08:35:10
子供たちも色々話せる年齢になったものの、側にいないもので、なかなか聞かせられる機会がありません。

いつの日にか、我が子たちの目に触れ、母親の青春を知ってもらうのもいいかなあ、と思いつつ、あれこれ綴っています。
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