ポルトガルの空の下で

ポルトガルの町や生活を写真とともに綴ります。また、日本恋しさに、子ども恋しさに思い出もエッセイに綴っています。

「最後の法王」のベストセラー作家の死

2018-03-05 14:14:33 | spacesis、謎を追う
2018年3月5日

古典文学から現代小説まで、好きな本はたくさんある。
根っからの活字中毒で、本は借りるより、自分で買って手に取り読むタイプです。話題に上る現代作家のものにも惹かれる本は多いが、サイン会などに出かけて行って直接署名をお願いするなどは、正直、一度もしたことがない。まぁ、したいと思ってもポルトガルからでは無理なのだが、元来が著名人にサインをもらうということに、さして興味がないからでもある。

そのわたしが、署名してもらったものがたった一冊、いや上下だから二冊ある。


ポルトガル人作家、ルイス・ミゲル・ローシャの作品、「O Último Papa (最後の法王)」だ。
日本語学習者の一人とたまたま本の話をするに及び、ローシャ氏を知っているという、当時は「P2」を読み終えた直後であり、彼の本を持っていると言ったところ、希望ならば署名をもらってきてあげますという。

その際、持っているのは単行本ではなくて、文庫本なのだが失礼ではないのか思い、尋ねると、大丈夫大丈夫というので、せっかくの生徒さんの申し出に甘えることにした。


ローシャ氏は親切にも上下両方に「Yukoへ:この本をあなたが楽しみますように。Beijinho(ベイジーニュ=ポルトガル語でKissの意味)」と書き入れてくれた。わたしは、お礼に、間に入ってくれた日本語の生徒さんとローシャ氏に、日本の小物をさしあげたのである。2015年春のことである。


ルイス・ミゲル・ローシャ氏は、ポルト生まれである。ポルトガルのテレビ局TV1で番組制作の仕事をしていたが、イギリスへ渡り、脚本家、プロデュサーとして番組制作に携わっていた。2006年に「最後の法王」を発表し、イギリス、アメリカ、ブラジルなど、30カ国以上で翻訳され、2009年にはニューヨークタイムズ紙で、ベストセラートップにあげられた。

この本、邦題は「P2」とされている。「P2」とは、正式名を「ロッジP2 」もしくは「Propaganda Due(プロパガンダ2)」の略で、イタリアフリーメーソン大東社のロッジのひとつだったのだが、目的のためには手段を選ばない違反活動により、P2はフリーメーソンから破門されている。後、極右秘密結社組織「ロッジP2」となる。スキャンダルまみれで失脚に追い込まれたイタリア元首相ベルルスコーニはこのメンバーだ。

ローシャ氏が、この本で取り上げているヨハネ・パウロ1世は1978年9月に自室で遺体で発見され、在位がたった33日という歴代の法王で在位最短であり、暗殺、陰謀説が囁かれる。ヨハネ・パウロ1世は周囲をこのP2メンバーに取り囲まれていたと言われる。

ローシャ氏はこの作品をヨハネ・パウロ1世に捧げている。

残念ながら日本語訳はまだ出ていないが、この他、「The Holly Bulle(聖なる弾丸)」「The Pope´s Assassine(法王の暗殺)」などが、ローシャ氏のバチカン・ミステリーシリーズとして出版されている。

さて、早く他の日本語翻訳版がでないかなぁと、常々思っていた矢先の3月26日のこと、「最後の法王の著者、ルイス・ミゲル・ローシャ、亡くなる」と流れたニュースに驚かざるを得なかった。39歳の若さである。どのニュースでも、死亡原因が「長い間の持病」としか書いておらず、実は検索しまわったのである。


ルイス・ミゲル・ローシャ(Luis Miguel Rosha)

とあるサイトでやっと見つけたのが「癌」だ。ふ~む、一体なんの癌だったのだろうか、と思いつつ、数日前に、もう一度本を読み返してみようかと、まず、訳者あとがきから始めた。以下、要約を許されたし。

「ローシャは複数のインタビューで法王の死をめぐる自説について重大なコメントをしている。小説中の場面はすべて独自に入手した情報、資料を基にして再構築した。最大の情報源は10数年前に知り合い、書面で長く交流があった人物で、2005年に、ポルトまでローシャを訪ねてき、法王の死は暗殺だったこと、下手人は自分だと告白し、死亡当夜、法王が持っていた書類や日記をローシャに手渡した。

その人物は当時すでに高齢で今はこの世の人ではない。ローシャによると、それらの証拠書類は、法王の没後40年目の2018年9月29日午前1時に公開されることになっている。」今年だ。

ローシャ氏が存命中に読んだはずこの文章は、当時さほど気にしなかったが、この赤字の文にわたしの目は吸い寄せられしばらく呆然としたのである。ローシャ氏は本当に病死だったのか?その書類は今、どこにあるのか?言うではないか、事実は小説より奇なり、と。

ここまで来て、わたしは寒気を覚えたのである。


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