話の種

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女らしさについて(「女らしさは誰のため?」)

2023-09-08 16:47:31 | 話の種

女らしさについて(「女らしさは誰のため?」)


ジェーン・スー氏(コラムニスト)と中野信子氏(脳科学者)の対話集で「女らしさは誰のため?」という本がある。(小学館新書)
面白かったので、要点(私が注目した点)の要旨のみを記載しておく。

「世間が言う「女らしい」ってどんなもの?」

(中野):文化圏によって差があるが、日本なら、気が利く、神経が細やか、出しゃばらない、言動に嫌味がない、人を不安にさせない、サポートしなければならない相手が近くにいたら口を出さずにさっとサポートできるといったところかな?
つまり、女らしさって決して自ら行動したり、モノをいうところにはないんだろうなと思う。逆に、自分が足りないところを察して補ってくれそうだなという印象を与えられる人が女らしいとされるというか。
(スー):ちゃんと気遣いができて、誰かをサポートする能力に長けている、それが世間から女らしいと評される人。
(中野):内助の功という言葉にも端的にそれが表れていて、完璧な秘書の属性と言ってもいいかも知れない。「おーい、お茶」と言ったら適温のお茶がさっと出てくるとか、「この人はこういうことを聞いて欲しいんだろう」と察して「何があったの?」と話を振ってくれるとか。
(スー):女らしいと女っぽいは似ているようで実はニュアンスが違うよね。女らしいは完全に誉め言葉だけど、女っぽいだとノイズに近い感じがある。「彼女のああいうところ、女っぽいよね」って言い回しだと、意地悪っぽい、陰口を叩く、感情的みたいなマイナスの意味合いに取られる場合もあるよ。でも、「女らしいよね」って言われると、相手は褒めているんだろうなと思う。これって女らしさ=女性が到達すべき社会規範と思われていることの表れだよね。

「「女らしさ」とは自己決定権を手放すこと」

(中野):女らしさは男らしさと対になる概念。では男らしさとは何なのか、列挙してみると、「頼りがいがある」「リーダーシップがある」「決断力がある」という感じかな?一言で言えばドミナンス(支配、優越)と言っていいと思う。
(スー):集団の上に立つこと、メインを張ることが男らしいと言われる。誰かのサポートに回ることではない。つまり、男らしさ=支配、女らしさ=被支配の構図が無意識にある。

「「おごられる」ことは相手の支配を受け入れること」

(スー):「女はおごってもらって当然」という女性もいれば、「女はおごってもらえるからラッキーだよな」と見る男性もいる。でも、おごられるって、場合によっては自己決定権を手放すってことですからね。
(中野):もう本当にそれ。おごられることを受け入れるのは、相手の支配を受け入れても良いというサインになることがある。

「「控えめな女」に高得点はもうつかない!」

(スー):なぜ多くの女性が自分に自信を持てないのかを考えると、「自信満々じゃないほうが女らしくてかわいい」と刷り込まれてきたのもひとつの理由だと思う。自信がなくておどおどしている女のほうが、「かわいげがある」「謙虚で控えめ」と褒められて、高得点がつけられてきた。そういう意味では本人のせいだけではない。じゃあだれのせいかというと、「社会」とか「世間」とか、個別の顔が見えない存在なんだけど。
(中野):「瓶の蓋が開かな~い」って男に頼るとかね。まあ、似たようなことをやったことは、ないこともないのだけれど・・・。「この問題が解けないから教えて」って興味のある男性に近づいてみたりとか。あれをやると男性ってすごく嬉しそうになるよね。本当は私も解ける問題だったりするんだけど(笑)。
(スー):頼りがいのある男でいなければという男性の社会圧を利用して、好きな男の前でわざと愚かに振舞った経験は私にもあるよ。注意を引いたり愛情を獲得するためにね。ただそのルールは変わりつつある。

「「らしさ」は役割と権力が生み出す」

(スー):「女が大統領になったら戦争は起こらないはずだ」って言う人もいるけど・・・。
(中野):古今東西の女の武将とか政治家とか知らないのかしら。承久の乱で鎌倉武士たちを煽って指揮したのは北条政子だけどなあ。
(スー):権力を持ったら当然そうするよね。昔ながらの「女らしさ」は弱さとセットなので、立場が強くなったらその特性は薄れますよ。性差と言われている「らしさ」の正体は、役割と権力の差が生むものがほとんど。立場が人の発言や行動を作るよね。他者の庇護下から脱すれば、女らしさと言われるものもどんどん変わっていくでしょうね。
(中野):ただ、議論の前提として庇護が受けやすいことは得なのか損なのかをちゃんと議論した方がいいかも知れない。庇護が受けられることを得だと感じる人は多いでしょうが、その得は一体何の得なのか。誰かのパワーを借りたり経済的な負担を担ってもらったりすることと、自分の選択を自分で決められるイニシアティブを持つこと。損得の議論は、大まかにいってこの二項対立の議論でしょう。私自身は、金銭面の部分を自分でまかなうことでイニシアティブを奪われない得を選択しがちとはいえる。
(中野):ただ、誰かの庇護下で生きることを自ら選択してきた人たち、周りからヘルプを得る形で生きてきた人たちにしてみれば、男女同権が進んでいったら実は困ることになる。そういう人たちから見れば、私のような存在は苦々しいものであり、新自由主義の権化のように見えるかもしれない。

「女であることのメリットとデメリット」

[メリット]
・メイクやファッションにおいて、装飾のバリエーションが多い
・力が弱いため、男性にフォローしてもらえる場合がある
・妊娠・出産を体験できる(人もいる)
・組織や社会からの期待度が低いため自由度が高い場合もある

[デメリット]
・身ぎれいであることを社会から期待される
・毎月の生理による肉体的・精神的負担がかかる人もいる
・妊娠・出産による身体的負荷が大きい
・生殖可能な時期が男性より短い
・育児に割くコスト(時間、労力)が大きく、男性よりキャリアに影響が及びがち
・身体能力の差が不利に働く場面が多い(犯罪被害)
・常にセキュリティー面で注意が必要となる
・組織や社会からの期待度が低いため実力を発揮できない場合がある

この他に、中野信子氏の発言には脳科学者らしく、ホルモンの影響、進化の過程、人類の今後の進化を推測しての女性の役割(生き方)など興味深い発言もあったが、ここでは割愛しておく。

ともかくこの本で参考になったのは、「女性らしさ」は、普通は誉め言葉としての肯定的なものだが、一方状況によってはこの言葉に縛られてこれを窮屈或いは障壁と感じる女性もいるということ。
例えば、いつまでも男のサポート的立場(秘書的役割)にいるのではなく、自己決定権を持ちたいということで、そのために自立したいと考える人たちなど。
しかし、そのように思わない女性たちもいるわけで、これは各自の価値観、居心地の良さの違いによるものだろう。

*「女性差別」「男女平等」ということについても、これ迄、女性議員や会社での女性役職者の比率とか、賃金格差、家庭内の役割分担などが問題視されていると思っていたが、この様な外面的なことだけでなく、内面的な視点からも見る必要があると考えさせられた。
(何を今更と言われそうだが)

 

 

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