宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

240 農村文化の創造に努む

2010年05月03日 | Weblog
   <↑ Fig.1 昭和2年2月1日付 岩手日報>

 前回のブログで大正15年4月1日付岩手日報の記事を挙げ、この記事が『84 師とその弟子』の中に次のように出て来る
 「岩手日報」紙上で「宮沢賢治氏が羅須地人協会を開設し、農村の指導に当たる」という記事を見て
の記事のことではなかろうかと推理したはずだったのだが…。
 軽率であった。この記事を冷静に読み直してみると、記事の中に”羅須地人協会”という言葉はひとかけらも見つからないではないか。糠喜びであった。

 そもそも松田甚次郎は大正15年4月に盛岡高等農林に入学しているのだから、大正15年4月1日の時点ではまだ入学式は済んでいなっかっただろう。したがって、松田甚次郎は4月1日頃は岩手にはまだ来ていなかった、当然、この4月1日付の岩手日報の記事は見ていなかったはずと考える方が妥当だろう。
 そういえば、”宮澤賢治と私(『宮澤賢治研究』)”で触れたように、松田甚次郎は「宮澤先生と私」において
 盛岡高等農林学校在学中、農村に関する書籍を随分と読破したのであるが、なかなか合点が行かなかった。が、或日岩手日報で先生の羅須地人協会の事が出て居つたのを読むで訪れることになったのである。
と述べてたことも思い出した。甚次郎が入学した大正15年4月早々の時点で”盛岡高等農林学校在学中、農村に関する書籍を随分と読破したのであるが”という状況にはなかったと考えるのが自然であろう。随分と書籍を読破したのだからそれなりの日数を要したわけで、盛岡に来て直ぐにはそれは無理なこと。こうなれば前回の推理はなおさら間違っているに違いない。

 そこでもう少し岩手日報の他の記事を探してみた。すると、今回のブログの先頭のような昭和2年2月1日付岩手日報の記事が見つかった。
 その内容は以下のとおり。
【昭和2年2月1日付 岩手日報】
 農村文化の創造に努む 花巻の有志が 地人協会を組織し 自然生活に立返る
花巻川口町の町会議員であり且つ同町の素封家の宮澤政次郎氏長男賢治氏は今度花巻在住の青年三十余名と共に羅須地人協会を組織しあらたなる農村文化の創造に努力することになつた地人協会の趣旨は現代の悪弊と見るべき都会文化のに対抗し農民の一大復興運動を起こすのは主眼で、同志をして田園生活の愉快を一層味はしめ原始人の自然生活たち返らうといふのであるこれがため毎年収穫時には彼等同志が場所と日時を定め耕作に依って得た収穫物を互ひに持ち寄り有無相通する所謂物々交換の制度を取り更に農民劇農民音楽を創設して協会員は家族団らんの生活を続け行くにあるといふのである、目下農民劇第一回の試演として今秋『ポランの広場』六幕物を上演すべく夫々準備を進めてゐるが、これと同時に協会員全部でオーケストラーを組織し、毎月二三回づゝ慰安デーを催す計画で羅須地人協会の創設は確かに我が農村文化の発達上大なる期待がかけられ、識者間の注目を惹いてゐる(写真。宮澤氏、氏は盛中を経て高農を卒業し昨年三月まで花巻農学校で教鞭を取つてゐた人)
なんと、この記事にはずばり羅須地人協会が登場しているから、こちらの記事のことだったのであろうと判断したいところである。

 なおこの件に関して、『校本 宮沢賢治全集第十四巻』(筑摩書房)の年譜には次のような注釈があった。
 協会員伊藤克己によると、賢治は「其の晩(編者注・必ずしも当夜を示すのではなく集会の夜かもしれない)新聞を見せて重い口調で誤解を招いては済まない」と言いオーケストラを一時解散し、集会も不定期になったという。誤解云々は思想問題を示すもので、社会主義教育を行っているとの風評もあり、日時不明(三月か)であるが、花巻警察署伊藤儀一郎の事情聴取があったためと思われる。


 それならば、昭和2年2月1日付けの方の記事を見たことが切っ掛けで『宮澤賢治―素顔の我が友―』の言うとおりの大正15年12月25日に賢治を訪ねたのという推理はどうであろうか。残念ながら、こちらの記事には『羅須地人協会』という言葉が出て来てはいても、明らかに時間的な矛盾があるから適しない。12月25日に、未だ発行されていない翌年の記事を読むことは出来ないからである。

 さりとて、大正15年4月1日~12月25日間の岩手日報にこの2つの報道以外に羅須地人協会は勿論のこと宮澤賢治に関する新聞報道はなさそうである。

 したがって、はたして松田甚次郎が大正15年12月25日に下根子桜に賢治宅を訪れていたかどうかの確認を機会があればしてみたいものである。


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