近所のお庭に、こんなにも薔薇が咲き乱れているのを、今年始めて気が付いた。
15年以上も駅までの片道10分ほどの道を、往復していたというのに。
もしかしたら、長い年月をかけて薔薇の苗木が大きく成長し、今年大輪の花を見事に咲かせ、その姿を主張し始めたのかな?
「ポジ人さん、いつも気づいてくれないけど。見て見て!こんなにきれいに咲いたのよ!」ってね。
人様の庭庭を見ながら歩く。
薔薇の名前はわからないけれど、家を出てすぐに、淡いピンクの大輪の薔薇群。同じ庭の反対側に、小さくて可愛らしい赤みがかったピンクの小さな薔薇。
庭のお手入れが苦手らしい。四方八方に伸び放題の薔薇の枝が窓にもかかり、小さい花々が賑やかに、これでもかと咲き乱れている。それはそれで、かわいらしい薔薇のお花の面々。大勢が「いってらっしゃ~い」と見送り「おかえりなさ~い」とお迎えされるようで、目にする度に楽しい。
メイン通りに出て少し歩くと、よく手入れされたお庭に、青みがかった高貴なピンクの立派な大輪の薔薇。
やがてマンモスマンションの花壇。
黄色、ピンク、赤の3色の美しい薔薇の苗木三姉妹が、仲良く並んで咲いている。色合いが美しい。
今が盛りの薔薇の花々を観賞しながらの通勤。自然と気持ちも上がるというものだ。
薔薇の花で、子育て時期の事を思い出した。
初めてのお産。
長男が生まれ、張り切って子育てに挑んだものの、思ってたのと違う。
育児書を何冊も読んで、準備万端だった筈なのに、思う様に行かない。
紙おむつは高価だし、環境に悪いからと布おむつを使う事にした。反物からチクチク縫って用意した。
母乳が芳しく出ない事が、母乳育児という理想を実現できず、自分に失望。
ミルクを作る哺乳瓶の消毒も、「ミル○ン」という消毒液があったのだが、殺菌後ヌルヌルするのが、赤ちゃんの身体に悪い様な気がした。電子レンジがあると、レンジで殺菌も出来たのに、当時は我が家になかった為、瓶の消毒は毎回鍋に湯を沸かし、“煮沸消毒”にこだわった。もっと、楽な道を選択すれば良かったのに、“こだわり”が自らを苦しめた。
「〇〇しなければならない」というプレッシャーで、“マタニティーブルー”になってしまった。
それでも、4、5ヶ月ほど経ち、何とか落ち着きを取り戻し始めた。
長男が眠りについたのを見計らっては、買い物に出かけた。
くたびれたトレーナー、よれたジーパンにスッピンという出で立ちで、慌てて出かけた。
「長男が目覚めないうちに…」と大急ぎで走って行くと、私の前方に赤ちゃんをおぶったお母さんが、楽しそうにゆったりと横切っていくのが見えた。
手にはピンクの一輪の薔薇。
背中の赤ちゃんにかざしながら、お話している。見たところ4、5ヶ月のうちの長男と変わらない月数の赤ちゃんだ。
ハッとした。
心の余裕を失って、髪を振り乱してアタフタと行動している自分。
方や、子供との生活を楽しみながら、ゆったりと過ごしている、薔薇のお母さん。
私は我が身を振り返り恥ずかしくなった。
子育ての環境は、そんなに差は無いはず。心の持ちようなのだと思った。何よりも、薔薇の花一輪の余裕。
その後も、私は心に余裕を持てずに、赤ちゃんとの生活を充分に楽しむ事は出来なかったように思う。それでも、あのお母さんの足元に近づけるよう、努力はしたつもりだったが…。
あのお母さんが持っていた一輪の薔薇は、幸福を象徴するような愛らしいピンク色だった。
バラ色の人生。
誰しもが皆、そんな人生を送られるといいな。
朝夕、薔薇と挨拶する幸福を感じながらそう思った。