あれが初恋と呼べるなら、それは保育園時代、既に好きな男の子がいたのだ。
私は顔から好きになっていくタイプだ。美しいものにいつも心惹かれる。
私が好きになった男の子は、頭がツルツルのスキンヘッドだった。眉毛はしっかりと凛々しく、顔立ちが整ったハンサムだった。いつも元気に走り回っていて、じっとしていることがなかったから、言葉を交わしたこともなかった。彼はいつも、彼の世界の中にいて、多分私の存在に気付いたことも無かったのではないだろうか。
私の片思いは、人知れず保育園の卒園とともに終わった。
小学校1年生になってからは、クラスの中に、ジャニーズばりのハンサムがいた。くまがいくんだ。成績もクラスでトップだったが、私の好みは美しすぎても、優秀過ぎてもダメなのだった。
1年生の時は男の子より、同じクラスの女の子、なかむらともこちゃんが一番のお気に入りのお友達だった。彼女は私にとっての初めての親友と呼べるほどの存在だった。
今振り返ると、ともちゃんは小学1年生なのに、私と比べると随分としっかりしていて大人だった。頭も良かったし、彼女のお母さんもお姉ちゃんも魅力的な人物だった。
ある日、ともちゃんと教室の中で立ち話をしていたのだが、やんちゃな男子達が背後で追いかけっこか何かをしていた。そのうちの一人が、私だったか、ともちゃんだったかどちらかの背中にぶつかってきた。その瞬間、背格好のほぼ同じだった私たちは、押された拍子にお互いの唇が重なったのだ。これがはからずも、二人のファーストキスになってしまったのだった。
後年になって、ラブストーリーなどで、そんなシチュエーションを漫画やドラマでよく見かける。
「そんな事、実際にあるわけ無い!」と思っている人もいるでしょうが、あるんです!私が経験済みですからね。
アクシデントでキスしてしまった私たちは、反射的に離れた後、笑いが止まらなかった。それはしばらく「ドンチュッ!」事件として、そのワードを口にしては思い出し、よく笑い合ったのだった。
「ドンチュッ!」は二人だけの合言葉みたいだった。
そんなともちゃんも、1年生を終えないうちにお父さんの転勤で、引っ越してしまった。
わたしのファーストキスはともちゃんだった。
けれども、よくよく考えてみると、私の「真のファーストキス」はもっと以前にあったのではないだろうか。
私が赤ちゃんだった頃に、家族の誰かに唇を奪われたのじゃないだろうか。きっと父に。
そう確信するのは、私もまた息子と娘のファーストキスを、彼らが赤ちゃんのうちに、私が既に奪ってしまっているからだ。
きっと、みんな誰しも赤ちゃんのうちにファーストキスを奪われているに違いない。そう思うのは私だけだろうか。