父の姉が着物を取り扱っていたらしく、高い価格の着物を、若干安くしてくれたらしいけれど、それでも高価な振袖だったようだ。
ハタチの私は、着物になど全く興味が無かった。せっかく買ってくれた晴れ着を、仕方なく着たのだった。
窮屈だし、帯が緩んだり崩れたりするし、慣れない草履は、親指と人差し指の間が痛んだし、何より歩きづらかった。着物を着ることは、はっきり言えば嫌いだった。
何度着ただろうか。
成人式に1度。それと職場での新年の仕事初め。カウンターの女性は皆着物を着ることになっていた。毎年だったから、3度か4度着たかしら。その内、職場のその習慣も消滅し、トータルで着た回数は多分5回ほど。
一時、いとこの成人式の為、叔母に貸していたこともあったけれど、戻ってきてからは、ずーっとタンスに保管していた。
私が着た時から更に40年経って、娘の成人式にどうかとも思ったけれど、娘は昭和の着物には興味を持たなかった。結局レンタルの着物で済ませてしまった。
もう誰も着ない私の振袖。持っていてもしょうが無い。そう思ってネットのフリマに出品した。
このくらいの値段で売れたらいいなぁと思って付けた金額は、元値と比べると、とても安い金額だった。けれども、フリマ界隈では高額とみなされていたのか、いつまでも売れる気配が無かった。
フリマに出品してしまったけれど、気持ちは何だか複雑だった。
もう着ることは出来ないけれど、両親が私の為に用意してくれた高額な品物だった事を考えると、「売れなくてもいいかな」という気持ちさえ浮かんだ。
出品してから2年間そのままにしておいたが、やはりそのままの金額では売れなかった。
持っていてもしょうが無い。やはり欲しい方に譲って着ていただくのが良いと思い直して、少しずつ値段を下げて行った。
値段が下がるに従い、閲覧者は増えたけれど、なかなか買い手は付かなかった。
最近になって、大胆に、1万円の値引きであれば買いたいと言う通知が着た。
どうしようか迷った。買いたいと言う方のフリマサイトを覗いてみた。
その方が出品している品物の中に、明らかに年頃の女の子のスカート等があった。
私は、この方のお嬢さんが成人式を迎えるのではないか、その為の晴れ着を買おうとしているのではないだろうかと想像した。それなら気持ち良くお値引きしよう。
そう思い、1万円のお値引きを了承する事を通知した。すると程なくして売れた。
ああ、遂に売ってしまった。
でも、これでいいのだ。
先方からのコメントは無し。まあ、いっか。
発送の準備をしながら、マジマジと着物を見つめた。
白地にオレンジや赤の大小様々な花があしらわれ、赤と黒の格子が縦横に大胆に走る。まるで花嫁衣装の様な艶やかで素敵な柄の着物だったんだなあと、今更のように思う。
慎重に着物を包み、箱へ収め梱包は完了した。明日発送だ。
さようなら、私のおべべ。