新聞のチラシの中に最近ひときわ多いのが、「査定無料」と書かれた買取専門店の広告だ。
自宅に電話もよくかかってくる。
「お宅にご不要品ありませんか?高額で買い取りますよ」と。
最近そんな電話がかかってくると私は、
「つい最近、業者さんが来て買い取りしてもらったところなんですよね〜」と言うことにしている。買い取ってもらうような物はもう何も無いと嘘をつく。嘘も方便だ。
先日テレビで、買い取ったジュエリー類の行方についての番組が放送されていた。
今、日本は再び「黄金の国ジパング」として注目されているのだという。
老人大国の日本では、お年寄りが若い頃に購入した良質の金銀、財宝が老人世帯のタンスの中にたくさん眠っているらしい。それに買取業者が目をつけて、活発な買い取りをしているという。
買取業者の宣伝等が目につくようになったのは、そんな事情があるかららしい。
テレビでは、買取業者が買い付けた宝飾類を、インド人バイヤーにまとめて買い取ってもらう姿が映されていた。
ビニール袋に入った大量の中古宝飾が、その場でバイヤーによって価格が査定され、数百万の札束と宝飾類とが交換されていた。儲かる商売なのだ。
バイヤーに買い取られた中古の宝飾は、腕の良い職人によって磨かれ、新品のような輝きを取り戻し、再び市場に出回るのだ。元は中古宝飾だから、若干割安なので飛ぶように売れるらしい。
はー、なるほどね~。これも、リサイクル。SDGsに貢献してると言うのだろうけど。
ガラス瓶やプラスチックのリサイクルとは金額のケタが大違いだ。
きらびやかなジュエリー類には、ほぼ興味のない私のこと、最低限の物しか持っていない。
ドレスアップ用に、数千円の金メッキのネックレスは何本か購入したが、どれも宝飾と呼ぶにはお粗末なものばかり。
でも、1点だけ本物がある。
息子が自分の初給料で買ってくれた金のネックレス。これは、私が持つ正真正銘の“宝物”だ。
それともう1点だけ、宝石と呼べる物を持っている。それは、新婚旅行で行ったギリシャで買ったものだ。
確か地中海のクルーズの途中で立ち寄った小さな島の土産物屋だった。
ガラスケースの品物を眺めていると、現地の若い金髪の女性店員が「シンコンヨンコ」と声をかけてきたのだった。
「???」何が4個だって?と思ったけど、よく聞いてみると、どうやら「新婚旅行?」と私達夫婦に声をかけ、商売のきっかけをつかむための常套句だった様だ。
ガラスケースの中には私の誕生石であるトルコ石が何点か展示されていた。
トルコ石のあの濃い青が私は何となく好きになれなかったのだが、展示品の中に一点だけ極めて薄い水色のトルコ石があった。
新婚旅行中であり、海外であり、地中海の島!テンション、マックスの私は旅行の記念に買っても良いなと、財布の紐は既に緩んでいた。
かの金髪の店員さんは、私が興味を持っているのを察してケースから出した。記憶では日本円にして6万円ほど。高いなと思って躊躇していると、2万円ほどの値引きを提示して来た。ほぼ4万円。この値引きに心が動き、結局購入した。
購入直後から、あの店員の安易な値引きに、値段はあって無いようなものなのだと思った。相応の値段かどうかも分からないし、言ってみれば真正なトルコ石かどうかも分からない。でも、記念の旅行だし、騙されたとしてもそれも一興と割り切って、買ったのだった。
そのトルコ石は、父がいつだったか私に買ってくれた、18金のシンプルなネックレスに通して、随分活用した。
今もたまにオシャレな友人と会う時は、それを首に飾って出かけたりもする。
けれど、それが本当にトルコ石という宝石なのかどうか、疑念を抱いたまま、モヤモヤしている。鑑定してみようかとも思うけれど、結果が何より怖い。
テレビ番組の「開運!なんでも鑑定団」で、100万で購入した掛け軸が、3000円と鑑定される様なシーンを何度も見た。
でも、私の場合4万円で買った物がたとえ1000円だったとしても、「なんでも鑑定団」程の大きなショックではない。しかし、遠い異国のギリシャで、もし騙されて買ったと分かったら、新婚旅行の思い出に傷が付く。などなどと、埒のあかない事を延々と考えてしまう、秋の夜長なのだ。
先人が残したことわざに従い、
「知らぬがほとけ」
死ぬまで知る必要は無いのかも知れない。
真価は息子に託すとしよう。
墓前に報告よろしく!
偽物だったら、悔しくて化けて出るかも(笑)