昔の映画やドラマでは劇中、ごく普通にたばこをスパスパやった。
それは、今はない。
3期にわたる「がん対策推進基本計画」で、がん予防のため
すぐに思い浮かぶのは肺がんだが、
ついでに言えば僕が再三悩まされた膀胱がんも喫煙が危険因子らしい、
ともかくこれらのがん予防のため
成人の喫煙率を2022年度には12%にまで減少させることが打ち出され、
これを機に喫煙率は減少の一途をたどっている。
かつては室内の喫煙も許されていたが、それも今はダメで
喫煙者には屋外の特定の場所があてがわれるなど
こんなことが、ごく普通のことになっている。
これらの策により、2022年の調査では目標には届かなかったものの
喫煙率は男性25.4%、女性7.7%まで低下してきているようだ。
僕もこの「基本計画」に促されて禁煙した一人であろう。
直接的にはかかりつけ医の女医さんの厳しい警告の結果だ。
「心筋肥大による不整脈が出ているし、血圧は高い、
コレステロール値も基準値をオーバーしている。
それなのに、たばこですか……」母親のごとく諭し、
それでいてきっぱりと「たばこは、おやめなさい」と宣ったのだ。
それほど強く言われなくとも、たばこが体に良くないことは自覚していた。
朝の歯磨き時に、必ず「うぇっ」となるのは、たばこのせいなのだと分かっていた。
「こりゃ、いかんぞ」と思っていたところに、女医さんからのきつい警告だったのだ。
今更……という思いもしたが、毎朝の不快さを思えば、潮時であろうと諦めた。
「お医者さんと一緒に禁煙」は2カ月半ほど続いた。
そして、ようやく50余年もの〝付き合い〟を清算することが出来たのである。
あれからもう15年ほどになる。
だが、時として未練の火はいまだに悩ましくくすぶり続ける。
公園の片隅に10人ほどの男女がたむろして、
唇に、指に、その香しい誘惑をちらつかせる。
側を通れば、ほんわりと近寄る、紫をまとったその香しさ。
あれは、自らを懸命になだめての決断だった。
なのに、手を差し伸べたくなる切なさが、ふつふつと沸いてくる。
ふらりと身を委ねそうになる。
誘惑の香しさを懸命に振り切りつつ、足を速める。