Toshiが行く

日々の出来事や思いをそのままに

指先の嘆き

2024-01-27 06:00:00 | エッセイ

 

 

バカバカしく、それでもちょっぴり切なくて……爺さんが一人つぶやく。

 

昼時になると順番待ちの列が店外まで延び、またSNSによるのだろう、

外国人客が結構多い評判のトンカツ屋。

僕のひいきの店であり、天神でのランチは決まってここになる。

定番のランチメニューは『トンカツ膳』だ。

大きさによって『中』『大』『ジャンボ』に分かれている。

年相応に無理をせず『中』を注文する。

すぐにゴマを入れた小さなすり鉢、箸、それにお茶が運ばれてくるから、

まずはゴマをすり、それに壺の形をした陶器製の容器から

移し取ったタレを混ぜ合わせておいて、トンカツが来るのを待つ。

そう思い、容器の蓋の突起部分を親指と人差し指でつまんで開けようとしたら、

するりと滑り落ちてしまった。

幸い、テーブル上を2、3度転がっただけで床に落ちることはなかったが、

それでもガチャンという衝撃音は

周囲の客、店員の視線を集めるのに十分だった。

 

      

 

年を取ると指先が乾燥し滑りやすくなる。

これだけではない。たとえば、新聞も本もうまくめくれず、

スマホのタッチパネルの反応も悪くなる。

それで指先を舌で湿らせて……と、あまり見られたくない仕草を繰り返す。

空気が乾燥する冬は特にひどくなる。

 

顔のかさつきもそうだ。

誕生日が同じで一歳下のAさんとの喫茶タイム。

どうしても互いの体調を気遣う会話になるのだが、

ある時「あなたはクリーム派? 乳液派? それとも化粧水派ですか」の

やり取りになった。

ひげ剃り後、あるいは洗顔後は何を付けるかの問答なのだ。

顔の乾燥度がひどいほどに、クリーム—乳液—化粧水の順になるのだが、

2人とも「冬はクリーム、春・秋は乳液、夏は化粧水と使い分けている」

と同じで、顔のかさつき度は似たようなものだった。

後期高齢者同士のバカバカしくも切ない会話である。

 

若い頃の古傷、椎間板ヘルニアは普通に生活するには格別の支障はないが、

ゴルフは腰をひねるせいであろう、必ず痛みが出る。

それであっさりやめた。

長年プレーしたものの100を切ったのは一度だけという腕前だったから、

さしたる未練はないが、ただ皆さんが元気にプレーされているのを見ると、

何だか取り残されたような寂しさを感じる。

鏡を覗けば長く伸びた眉が垂れ、いかにも爺さんといった面相が映る。

おまけに指先、顔のかさつきといった話である。

お~い トンカツはまだか——食欲だけが慰めだ。

 

コメント (2)
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