Toshiが行く

日々の出来事や思いをそのままに

元気にしとるね

2024-10-08 08:58:59 | エッセイ

 

6人の兄弟姉妹は、今はもう90歳の長女と

その8歳下、末っ子の僕の2人だけになってしまった。

幼い頃、僕を母親同然に慈しんでくれた姉には一人娘(僕にとっては姪)がいる。

パーキンソン病による長年の患いで特別養護老人ホームに入っている姉にとり

義兄はすでに亡く、この姪だけが頼りである。

 

姪はすでに還暦を過ぎ60半ばになっている。

僕が中学生の頃、おぶってあやしたあの子がである。

大きくなるにつれ親しんできたせいか、

今でも僕のことを「武雄兄ちゃん」と呼ぶ。

いつだったか、「何だかこの呼び方はテレますね」とLINEしてきたことがあり、

その後しばらくは「武雄兄さん」と変わっていたが、

数日前「今、外出されていますか? 

もし在宅なら電話かけさせてもらおうかと思い……」とLINEがあった時には、

また「武雄にいちゃん」と82歳にもなるこの爺さんを呼んでいた。

それで腹が立つわけでもなく、むしろ姪からのほんわりとした親しみに心和む。

 

一方で、届いたLINEが気になった。「家にいるなら電話したい」という。

姉に何かあったのではないか。慌てて、こちらから電話を入れた。

「姉に何かあったんじゃないだろうね」姪はこれには何も答えず、

「この電話、いったん切って、こちらから入れ直しますね」そう言って電話を切った。

そして、間もなくスマホにかかってきた電話画面には、

こちらを見る姉の顔が大映しになっていた。

 

    

 

病のせいで、言葉が上手く出なくなっているし、喜怒哀楽の表情も薄い。

でも、こちらをじっと見て「元気にしとるね」と言っているのが分かる。

それで「元気ばい。姉ちゃんも元気そうやね」と言えば、右手を右に左に振った。

それが「うん、うん」と言っているように見えた。

側から姪が「先日、コロナに罹ったんですよ。

でも、今はすっかり元気になりました」と添えてくれた。

言葉が不自由な姉が言おうとしていることを〝通訳〟できるのは、

この姪ただ一人である。

長崎に姉を見舞ったのは1年も前のことになる。

車の運転を止めたことで、長崎はますます遠のいた感じがする。

「近いうちに必ず行くからね。元気にしとってよ」

そう言って思い切り画面に向かって両手を振った。

すると、今度は姉も両手を振って返してきた。

姉と弟─残された肉親2人だけの画面越しの交わりであった。

 

 

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