妻から頼まれた郵便振り込みの手数料は287円だった。
ズボンのポケットにはビニール袋に入れた
1円、5円、10円といった小銭でずしっと重い。
手数料はだいたいこのくらいだろうと見当をつけた妻から、
「この小銭で払ってきて」と持たされたものだった。
さすがに200円というのは100円玉2枚としたが、
あとはビニール袋から10円玉を8枚、5円玉を1枚、1円玉を2枚、
間違えないよう数えながら硬貨投入口に入れたのだった。
家には、小銭がまだたくさんある。
その小銭を貯め込んだ張本人は、他ならぬこの爺さんだ。
何か物を買うにも、食べるにも現金払いしかしなかったから
1円、5円、10円といった小銭が釣り銭として手元に戻ってきたのだ。
とはいえ、これら小銭は格別の使い道もなく、その都度、箱の中に放り込まれた。
気付くと、それは結構な量になり、小遣い銭として孫たちを喜ばせた。
孫たちはそれを1円、5円、10円と仕分けし、
計算すると時にそれは1万円ほどにもなることがあった。
もちろん、孫たちは大喜びだった。
ところが、このところ孫たちは少々まごついている。
以前は銀行に小銭を持ち込めば無料で両替してもらえたものが、
最近は手数料がいるようになっているのである。
金融機関によって多少違いはあるが、
ある地銀の場合、たとえば窓口での取り扱いだと、
硬貨1~50枚は無料、51~500枚だと330円、
501~1000枚で550円、1001以上は1100円となる。
両替機を使うと多少安くなるが、いずれにせよ手数料が必要だ。
極端な例で恐縮だが、1円玉50枚、5円玉24枚、10円玉3枚、
合わせて77枚200円を窓口に持ち込み、
100円玉2枚に両替してもらおうとすると、手数料330円がいる。
両替してもらって手にしたお金より支払うお金が高くなるという計算だ。
こうした例はほとんどないに違いないが、妙と言えば妙な話である。
このように小銭の両替に手数料が必要だということになったせいで、
孫たちも以前みたいには喜ばなくなった。
では手元に残った小銭はどうするか。
今度の郵便局での払い込み手数料みたいにもの、
あるいはスーパーでの買い物でたまに小銭を混ぜて支払う。
そういうふうにして、ボツボツと〝消化〟していっているのだ。
ただ、ここで注意しなければならないのは、
スーパーなどのセルフレジに小銭を大量に投入したことで
機械が故障するといったケースが頻発しているそうだ。
孫が喜んでくれると思い、せっせと貯め込んだ小銭、それが今は少々、厄介者かな。
申し訳ないことながら。
では、小銭を貯め込まないにはどうすればよいか。
簡単な話だ。現金を使わず支払いを済ませればよい。
今はクレジットカード、電子マネー、プリペイドカードなど
キャッシュレス決済の時代だ。
これだと、釣り銭として小銭を手にすることはない。
ということで、この爺さんもまさにおずおずと時代の流れに乗ることにした。
これで小銭は増えることはなく、
これまでにため込んでいたものをもボツボツと減らしていくのみだ。
そうこうしながら、ふと考えた。
キャッシュレス決済ということになると、
お金というものをまったく見かけなくなるのではないか。
小銭だけでなく1000円札も1万円札までも。
伴って、何だかお金のありがた味が薄れていくような。
年寄りはついそんなことを考えてしまう。
なりました。社会の為になるというより
自分だけの論理でことを処理する。
もはや紙幣・硬貨は必要性が無くなり手間の
掛からない電子マネーへの入り口に立っています。
冗談はよして下さいと思うジイさんです。
同じ思い多々です。