我ながら涙もろくなったなあと思う。
若い頃は、鼻でせせら笑ったテレビドラマ、
そのシーンと似たような場面に、今は涙がボロボロと流れ落ちてくる。
ちょっと恥ずかしいから、妻に気付かれぬよう流れるにままにするが、
見れば、その妻だって同じように涙を流している。
2、3年前だったか、右目がいつも、いわゆる涙目になるものだから、
それを指で拭っていたらヒリヒリと痛むようになってしまった。
慌てて眼科クリニックに駆け込むと、「流涙症」という診断だった。
涙腺から出た涙は外へ流れ出るか、あるいは目頭にある涙点という孔に吸い込まれ、
鼻涙管というものを通って鼻腔に排泄されるそうだ。
小さい頃、わんわん泣くと鼻がぐすぐすしたのは、そのせいだったのか。
さて、この鼻涙管、これにはポンプ機能があるのだそうだ。
ところが、年を取るとその機能が弱まり、鼻涙管が狭窄・閉鎖してしまうという。
クリニックで涙点から細くて長い針のようなものを差し込み調べてみると、
やはり鼻涙管が詰まっていた。それで鼻腔に流れず、いつも涙目の状態になっていたわけだ。
「治療には手術という方法がありますが、正直なところ、これは痛いですよ」
医師にすっかり脅され、「先生、何とか手術しないで済みませんか」
と哀願するような表情をしたら、「では点眼薬を出しておきましょう」と、
いともあっさり処方箋を書いてくれた。
おかげで、しばらくしたら涙目状態は収まったが、
時々同じような症状が起きることがある。年のせい──半ば諦めている。
この「流涙症」は加齢によって出てくる、まさに目の疾患であり、
「涙もろくなる」とは、ちょっと意味合いが違う。
そもそも涙には、2種類ある。
目を乾燥やゴミから保護してくれる涙、それに感動して気持ちが動いて出る涙だ。
「涙もろくなる」のは、喜怒哀楽いずれかの感動による。
高齢になるほど、その感動に敏感になり、結果「涙もろくなる」のだ。
なぜ、年を取るとそうなるのか。ある大学教授がこんなふうに説明している。
「年を取れば取るほど、それだけ多くの人生経験を積みますよね。
それで共感できるポイントが増えるわけです。若い時は共感ポイントが少なく、
したがって感動することも少ない。そういうことです」
「加えますと、年を取ることによって脳のブレーキが緩みやすくなる。
これが涙もろくなる決定的な理由だと思います」
なるほど、長く生きていれば喜怒哀楽さまざまに多く経験する。
朝ドラを見ていて、嫁に出した娘を亡くした両親の嘆き悲しむシーンがあった。
自分が親となり、娘を育ててみれば、テレビのシーンは我がことのように思えるはずだ。
つまり、親になり娘を育てた経験を積んだからこそ、
ドラマの中で嘆き悲しむ親の気持ちに共感できるわけだ。
挙句、みっともないほどに声を殺して涙を流す。
おそらく独身時代だと、それほどの感動を覚えないだろう。
ここで、気を付けなければならないこともある。
そんな感情にいったん陥ると脳のブレーキが利かなくなる、これが怖い。
涙もろくなること自体は、別に問題ではない。
「ブレーキがきかず、キレる老人が多くなっている」というのだ。
そんなことを何かで読んだ記憶がある。
年を取ると、何とも厄介なことが次々と出てくるものだ。
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