足を「えいっ」と蹴り上げても、体は反り返り鉄棒に巻き付かない。
何度やっても同じだ。出来ない。出来なくなった。
父から教わり、小学生になった時には楽々出来るようになり、
器械体操を始めた中学生の時なんて、お茶の子さいさいの技、
いや、技なんて呼べるほどのものでもなかった、
あの逆上がりをだ。
今日は少し頑張り過ぎた。
2月中旬に10日間入院したせいで、体力がひどく落ちているのに驚いた。
少し歩いただけで「はぁはぁ」息切れする。
早く体力を戻さなければ──通常、ウオーキングは40分、
5000歩を目標にしているのだが、今日はこれにジョギングに近い早足、
それに16段ある石段の上り下りを5回加えたのだ。
そんな焦りのせいで、道にそのまま座り込みたくなるほどだった。
右手の小さな児童公園。息を切らしながら通り過ぎようとして目をやると誰もいない。
足は自然とそちらへと向いた。
ブランコに座ると、早春の緩やかな暖かさが息を次第に落ち着かせ、整えてくれた。
ジャングルジムがある。鉄棒もあった。
「逆上がりでもやってみるか。前回り、後回りも出来るだろう」
なぜかそんな気が起きた。
久し振り、60年、いやもっと前の鉄棒の感触だった。
2度、3度きゅっと握りしめる。手の平は、この感触を忘れていなかった。
しっかり握りしめ、右足を少し後ろに下げた。
そして、その右足を「えいっ」と蹴り上げた。
体は鉄棒に巻き付き、後に半回転して頭と体は鉄棒の上にある、はずだった。
だが、蹴り上げた足はそのまますとんと元の地面に落ちていた。
何度やっても、蹴り上げた途端に体が反り返ってしまい、
体が鉄棒に巻き付かないのだ。
まだ出来なかった頃が、これとまったく同じような有様だった。
「あんなに簡単に出来ていた逆上がりが、出来なくなってしまった」
顔に苦笑い、心の奥にはちょっぴりの無念さがあった。
前回り、後回りは到底出来はしまい。しないまま諦めた。
年を取ればこうなる。言われなくとも分かっている。
でも、こんなに無様に跳ね返されるとは……
81年の年月の衰えを食い止めるのは、どうあがいたって無理。
鉄棒を握りしめたまま、見上げた真っ青な空。
悔しさはその空はるかへ徐々に遠のき、
「仕方ないな」諦めの気持ちが勝っていった。
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