あのアントニオ猪木氏が亡くなったらしい。
40年以上前、「ある仕事」で開設した事務所に忽然と、アントニオ猪木がいた。
ドアを開けたらそこにいた、だから狭い事務所が一層狭く見えた。
彼の色々なこと?が上手く行かなくなっていた時だ。
当時、その「ある仕事」の仕掛け人だったスポーツ界の某フィクサーを訪ねて、というより支援を求めてやって来たのだ。
大きな背中を丸めて近況やらこれからのことを話していたが、まともに相手にしてもらえずに逆に突き放すように怒られて説教されていた。
机がいくつか並べてあるだけの事務所だから、目の前で話している会話が丸聞こえで予備知識のない私にも凡そのことが理解できた。
当時彼には倍賞美津子さんという立派な奥さんがいたが、彼は必ずしもいい夫ではなかったようだ。
他にも色々と不義理や不始末を重ねていたようで、悪びれずに盛んに言い訳や適当な提案を展開していた。
その時の新ネタは「アントン・マテ茶」という南米から輸入したマテ茶で、製品には自分と奥さんの顔の絵が印刷されていた。
私も一箱貰ったのだが、どんな味だったのか思い出せない。
やり取りを聞いているだけで、私にはアントンがどんな人物なのかがよく分かった。
彼は組織や社会と協調して器用に生きていくことができない人だ。
本気で協調する気がないから、いつも一人で先走りすることになる。
自分の世界だけで自己完結を求めているから、周りにいる人は引っ張りまわされて疲弊させられてしまう。
悪気など微塵もないから始末が悪い。
自分の夢や目標にただまっしぐら、それが全てでそれしかない人だから、見ているだけの人は楽しいが、共に暮らしたり一緒に仕事をする人はたまったものではない。
私にも同じような傾向があるからよく分かるが、これは治ったり修正したりできるものではない。
死ぬまで貫き通して生きていくしかない不治の病の様な気質だ。
同じ時代を生きて、ほんの少し接点のあった彼に贈る言葉はこれしかない。
「アントン、お疲れさんでした。」