平らな深み、緩やかな時間

16.「実験工房」について

はじめにお知らせです。
3月20日から28日まで、上野の東京都美術館で「現代アーチストセンター展」が開催されます。私はその中の「ぼつ ボツ 勃 展」に出品します。現代アーチストセンターの展覧会は、東京都美術館の改修工事の間、休止していましたので、今回の開催は久しぶりです。
私自身のことでいえば、最後に参加したのは相当以前のことになります。ですから、改修期間の休止と言ってもあまり関係ないのですが、今回は事務局の野村さんの声がけで参加することにしました。作品は油彩画4点ほどで、正直に言って質、量ともに物足りないものです。しかし、ほかに多くの作家が参加する展覧会でもありますし、同時に中込さんの企画した国際作家展「reclaim ―再生― 」も開催されますので、多くの方にご覧いただければ、と思っています。

さて、今回の話題は神奈川県立近代美術館で開催されている「実験工房展」です。展覧会準備や年度末の職場のあわただしさで、つい見逃してしまうところでしたが、何とか都合をつけて鎌倉まで見に行きました。
「実験工房」に参加した芸術家たち・・・北代省三、福島秀子、山口勝弘、湯浅譲二、武満徹、秋山邦晴、駒井哲郎といった人たちですが、彼らはそれぞれ、美術家、音楽家としてよく知られた人たちです。もちろん、指導的な立場にあった、瀧口脩造については言うまでもありません。ですから、そこに新たな作品との出会いを期待したわけではありません。
それでは、何を見に行ったのか、ということになります。それは「実験工房」の活動の全体像です。それと同時に、当時の時代背景や状況なども見ることができれば言うことはありません。日本美術の1950年代の絵画や彫刻を並べて、これが「具体美術」の作品、これが「実験工房」の作品、と名札で表示するような展覧会なら、これまでも見たことがあります。しかし、それでは実感がわきません。たとえば美術家と音楽家との共同作業がどのようなものであったのか、とか、グループとしてどのような広がりがあったのか、などといったことが、実感としてわかればいいなぁ、というところです。
結論から言えば、よくここまで資料をそろえたな、と感心してしまう展覧会でした。新聞や雑誌の記事まで含めて展示してありますので、美術展としての見応え、というのとは別の次元で、よく出来た展覧会だと思います。カタログも丁寧で読み応えがあります。正直に言えば、展覧会場のガラスケースの中の資料を見るのは疲れます。本として見ると気ままにページがめくる方が楽しめる、ということはあります。それも含めて、ほぼ期待を満たした展覧会だと言えそうです。
個々の作品、作家について書きだすと量が膨大なので、「実験工房」ならではの、多面的な活動について感じたことを書いておきましょう。
美術、音楽、文学などを総合した芸術、といえば舞踏や演劇、映像作品などがそれにあたるでしょう。今回の展覧会でも、別館の会場で『銀輪』という映像作品を見ることができました。監督/松本俊夫、脚本/松本俊夫・北代省三・山口勝弘、撮影/荒木秀三郎、美術/北代省三・山口勝弘、音楽/武満徹・鈴木博義、特殊撮影/円谷英二というスタッフです。日本自転車工業会のPR映画で10分程度の短いものですが、自転車のハンドルなどの部分らしきものが、空中で離散集合したり、踊ったり、というイメージの映像が次々と出てきます。いまから見れば他愛のないものだと思います。ビデオやパソコンを駆使してもっと手軽に、上手なものが作れるでしょう。実際に私たちはテレビのCMで、そんな作品を毎日浴びるように見ています。しかし、そういう作品とこの『銀輪』とは、明らかに違っています。
その違いは、ひとつには志というか、夢みているものというか、そういう作品の背後に感じられるものの大きさに違いがあると思います。画像と音楽が合成されることで、そこに何か化学反応のようなものがおこり、新たな芸術が生まれる、という信念のようなものが感じられるのです。たんなる心地よさやエンターテイメントのようなもの、瞬間的に人目を引けばいいもの、とは違うのです。(それすらも、現代では大変な努力がはらわれていることも、充分に承知しているつもりですが・・・。)
展覧会全体について感じたことは、芸術の可能性について肯定的に考えようとする若々しい力です。自分の若いころを考えてみると、もっと息苦しい行き詰まりのような感覚があったと思いますが、それは時代の差なのかもしれません。また、同時代の「具体美術」と比べると、知的で文学的な感触があります。そのやや観念的なところが、美術と音楽の融合を可能にしたのかもしれません。カタログの資料によれば、活動形態として、メンバーを固定せず、作家個人の活動の活発化とともに自然解消する、という自由さがあったようです。
その活動には、当然のことながら、課題や限界も目につきました。音楽作品についてはよくわかりませんが、美術関係の作品を見ると、海外の新しい美術作品の焼き直し、といった面は否めないし、個々の作品のレベルが驚くほど高い、というわけでもありません。若い人から見れば、その作品の意義よりも、古臭さの方が目につくかもしれません。しかし、この年齢になってみると、彼らの高揚感がすこしうらやましい気がします。

この展覧会は、神奈川での展示はもうすぐ終わりますが、このあと、いわき、富山、北九州、世田谷の各美術館を巡回するようです。企画した人たちに拍手を送りたい、そんな展覧会です。

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