今年一年～人の情けに感謝 ②

メイドの仕事に就いたのは只の思いつきだった。
何となく飲食業じゃない事をやりたい。
動機はそんな程度の事だったと思う。
ただホテルの仕事には興味があった。
クオリティの高いサービスは憧れるし、
何よりホテルマンってちょっと素敵じゃん
ま、そんな事はさておき、
とりあえず今年の春、ホテルのメイドとなった。
求人広告では「しっかりとした研修制度」と書いてたくせに、
実際は清掃手順と書かれたプリントを一枚渡され、
先輩メイドの清掃を一部屋見学しただけだった。
清掃内容もベッドの作り方も教わらず、
「はい頑張って」と放り出されてしまったのだ。
訳も解らず一ヶ月が過ぎ、
「明日から皆さんと同じ数やってもらいます。」と
研修期間が終了した。
正式にフロアに配属されてからが大変だった。
リーダーからめちゃくちゃ言われた。
全てにおいてなってない給料泥棒！
それでいいと思ってるあなたの人格を疑う。
などなど、よくもそこまで言えるなぁと感心したが、
相変わらず「どうすれば良いか」は教えてくれなかった。
無茶苦茶言われ続け凹むだけ凹んで再びフロア変え。
今度のリーダーはフィリピン人のジャネット（仮名）だった。
彼女のチェックの厳しさはリーダーの中でもトップクラス。
外国人特有のはっきりとしたもの言いを疎ましく思うメイドもいる。
当然の事ながら私も早速ダメだしを食った。
しかし彼女は前のリーダーとは違い、
何がダメなのか、どうやればいいのか、
そしてそのやり方を丁寧に説明してくれた。
外国人というだけでベテランのメイドは彼女を見下し、
指示もろくに従わない者が少なくない。
そんな中で彼女に敬語で接する私は異様な存在だった。
私は自分のポリシーとして、
たとえ自分の子供ほどの年齢の者にでも、
仕事を教わる時は直立不動で常に敬語を使う事にしている。
そのせいであろうか？
次第にフィリピン人のメイドが話しかけてくるようになり、
仕事に手間取っていると何かと助けてくれた。
フィリピン人のハウスマンはこっそり多くベッドを組んでくれた。
後に聞いたところ、
ジャネットに敬意を払う姿が嬉しかったと言う。
でも私にとっては仕事をしっかり教えてくれたり、
不慣れな私をフォローしてくれてるフィリピン人の仲間たちこそ、
本当にありがたく感謝する存在だった。