野山に純白の花を咲かせ春の訪れを告げる花木、コブシ“Magnolia kobus”。
シデコブシ
福岡県直方市ふくち山麓はな公園にて(以降の写真すべて)
福岡では、だいたい春の彼岸前後に野山で一斉に花を咲かせる。
この花が咲くと、本格的な春の訪れ。
そのため、日本各地で古くから、この花の開花を合図に、
農作物の種まきや植え付けなど、農作業の開始合図にされる。
福岡では、残念ながらそろそろ花は終わり。
シデコブシ。
奥に見える鈴なりの花はアセビ(馬酔木)。
シデコブシの花のアップ。
モクレン科モクレン属の植物で、
同じ時期に咲く、ハクモクレンとそっくり。
だが、花が完全に開くかそうでないかで容易に見分けられる。
花が完全に開くのがコブシ。
また、ハクモクレンの方はコブシよりもずっと花が大きい。
ハクモクレン。
パッと見、コブシにそっくりだ。
コブシの名前の由来は、夏に実るその果実が、ごつごつしたいびつな形状に育ち、
その見た目が人の握り拳に見えることから。
だが漢字にすると、“拳”ではなく、“辛夷”と当て字になる。
これは中国から伝わった漢字で、本来はモクレンを指す。
コブシの実
写真は7月半ばに撮影した、まだ未成熟の実。
秋に熟した実は真っ赤に色づくらしい。
果実は熟すると真っ赤に色づき、鳥たちの格好のエサになる。
このデコボコの実の中は白い糸で実が連結されていて、
果肉を食べる鳥たちが、この糸を引っ張ると、
内部から種子が引っぱり出されるという構造になっているそうだ。
こんど秋に完熟した果実を観察してみよう。
シデコブシ
コブシは枝に芳香があるらしく、油も採取される。
花にも芳香があり、こちらは香水の原料にされる。
さらに漢方で、鼻炎に効く生薬にもされる。
古くから人々に利用されてきた花木だ。
シデコブシ
コブシと言って思い出すのが、
中学だったか高校だったか、国語(現代文)の教科書に載っていた、ある文学作品。
文中に“コブシ”が印象的に出てきたのを覚えている。
大人になって、コブシの花を初めて認知したときにも、
この教科書に載っていた文章を思い出した。
作家名も、その内容もうろ覚えだったのだが、
今回この記事を上げるのに際して、調べてみた。
堀辰雄 著 “辛夷の花”。
タイトルにそのまんま“コブシ”って入ってたのか・・・。
>「いま、向うの山に白い花がさいてゐたぞ。なんの花けえ?」
>「あれは辛夷の花だで。」
>「むかうの山に辛夷の花がさいてゐるとさ。ちよつと見たいものだね。」
>「あら、あれをごらんにならなかつたの。」
>妻はいかにもうれしくつてしやうがないやうに僕の顔を見つめた。
>「あんなにいくつも咲いてゐたのに。……」
ああ・・・これだこれだ間違いない。
あの頃はコブシなんて花、全然知らなかったなあ。
まず花に興味がなかった。
それがどうしてこうなった?
コブシの蕾
ほんのりピンク色したシデコブシ。
八重咲きだ。
コブシの木。
見事な逆光だ。
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