蒸し暑いからすっかり室内に避難している。
本の感想。帚木蓬生著「閉鎖病棟」(新潮文庫)を読んだ。
閉鎖病棟 (新潮文庫) | |
帚木 蓬生 | |
新潮社 |
1947年生まれの精神科医でもある小説家の方が書かれた小説で、1995年山本周五郎賞の受賞作。
著者の小説を拝読するのは初めてで、帚木蓬生(はきぎほうせい)とお読みすることも初めて知った。
小説の舞台は、精神科を専門とする病院の閉鎖病棟。実際は(この小説の中の時代でさえ)法律が変更になり解放病棟ではあるのだけれど、外出の制限があるから、やはり閉鎖病棟といってもいいのでしょう。主人公は患者たち。
社会的に隔離され、病院で暮らす患者たち。医師が親身になってくれるかというとそうでもなく、また家族からも疎まれる。そんな生活環境の中でいかに患者たちが生活に楽しみを見つけるか。
読んでいるとひたすらに切なくなってきた。
最終的には希望がある終わり方で(内容ばらしてすいません)、ほっとした。
今と状況が異なる部分はあるのだろうけれど、精神病患者あるいは元精神病患者のことを知るという意味でも読んでよかった。
誤解をおそれずに書けば、元服役囚をテーマにした小説と少し空気感が似ている気がした。一般の人がうかがい知れない世界、そして過去を背負い続けなければならないという意味で少し似ているのかもしれない。
2006年芥川賞候補作であった松尾スズキさんの「クワイエットルームへようこそ」を読んだことがある。「クワイエットルームへようこそ」も精神病院の閉鎖病棟が舞台の小説で、衝撃だった。
クワイエットルームにようこそ | |
松尾スズキ,今村景子,菅原直太 | |
メーカー情報なし |
「クワイエットルームへようこそ」は人権が侵害されているとまではおもわなかった。でも、この「閉鎖病棟」のころは人権が軽視されている印象も受けた。
精神科医である著者がこの小説を執筆してくれたことは、とても大きいんだろうね。敬服します。現代にも読み継がれている。実際、あたしが購入したのは平成30年に刷られたものだった。
それぞれの時代には時代の事情があり、あとで生まれたあたしが偉そうなことを言うべきではないとおもうけれど、でも時代が変わって本当によかった。
ストーリーテリングの技術も高く、文章も読みやすいから単純に小説としても面白いのだけれど、社会について考えさせられながら読んだよ。
唯一、ちょっと最後まで疑問に残ってしまったのが、てんかんの書かれ方。
あたしのような知識のない人間が読むと、てんかんに誤解を抱いてしまうのじゃないかなとおもった。
知り合いにてんかんの方や、一時てんかんかもということで服薬されていたことがある方がいることもあり、気になった。
ではまたー
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