お元気ですか?いよいよこちらでも?1975年を迎えました。アメリカ留学の話が出たのが去年の1月か2月頃だったことを考えると、月日のたつのは本当に早いなぁと恐ろしくなります。
さて私は今RoanokeのMrs. Klous家にいます。少しさかのぼって74年の大晦日のことから書きます。
12月31日には、私とAunt Sallieは彼女の友人のMrs. Jonesの家に昼食に招かれて、6、7人のパーティーに出席しました。 (みんなおばあさん)
ところでAunt Sallieは、Wakefieldのパーティーで私の態度がとてもfriendlyで良かったととても喜んでいるの。他の日本人の女の子は、黙り込んでいるばかりでなかなか打ち解けないけど、私はちゃんと客の応対をするので、Wakefieldの人たちの中でとても評判がよかったんですって。おかげで、Aunt Sallieは何かというと、私を引っ張り出して連れ歩きたがります。
その日の夜は、Wittmer家に寄宿している(Wittmer家はDr. Anthonyの家の真向かいなの。 Ayukoがいつも休みに帰ってくる家庭です)Hisamiが電話でWittmer家のパーティーに来ないかといってくれたので、夜9時に出かけました。HisamiとAyukoは、私がいつもAunt Sallieに連れられてオバアサンたちとばかりつき合わされているのを気の毒に思って引っ張り出してくれたのです。事実そのとおりで、多少うんざりしていたところだったので大喜びしてAunt Sallieの家を抜け出しました。なにしろAunt Sallieはあらゆるamusementを嫌うのです。完全なる"menhater"で、アメリカ中の男性を嫌っています(ホント!)(except: 牧師さんと神様とJesus Christ) 彼女の楽しみは、聖書を読むことと食べること(彼女は実に旺盛なる食欲の持ち主です)だけみたい。若い人のやることには反対するの。始めのうちは、私も調子を合わせていたのですが、一緒に暮らしてみると頭に来ることがoftenで、しばしば反抗したりもしてしまいました。
たとえば、Ayukoのボーイフレンド(David)のことについても、彼女は気ちがいのようになって反対するのです。私もDavidは結婚したことのある男性だし、あまりいい相手ではないと思うのですが、Aunt Sallieはそれが誰であろうと、ボーイフレンドを持つこと自体大反対なのです。私がAyukoと会って帰ってくると、待ち構えていたように、彼女はボーイフレンドと一緒だったか?とか何をしていたか?とか聞いてくるの。うんざりします。Ayukoのほうは真剣で、Davidとの結婚を考えているようです。両親にも話したし、今年の夏日本に帰る時は(またアメリカにもどってくるそうです)、彼も連れて行って紹介するんですって。
まぁそれはともかくとしても、大晦日の夜はWittmer家に行きました。20~30人の若者が集まっていて、家中に散らばって好き勝手なことをしています。パーティーと言ってもみんなGパンでまったくinformalなのです。地下の暗室ではレコードをかけて踊っている人たちもいれば、TVでフットボールに熱中している人もあれば、食べまくっている人もいる・・・といった感じ。フットボールといえば、大晦日から正月にかけて、日本で言えば野球のオールスター戦のような大規模なゲームの時期なの。Orange BowlとRose Bowlという2つの(セ・パリーグみたいな)大リーグがあって、その勝者同士がSuper Bowlというゲームで戦い、アメリカNo.1のチームを決めるのです。州対抗です。おかげで、この時期はどの家庭に行ってもTVではフットボールをつけています。パーティーは午前2時ころまで続きましたが、私は12時にAunt Sallie家に帰りました。
元旦には朝早くから起こされて、"Japanese New Year Party"の準備をさせられました。Aunt Sallieはこの日をずいぶん前から楽しみにしていたの。私とHisamiとAyukoと、Lynchburg Training Schoolで働いている日本人女性Dr. Owakiとが集まって「日本式」lunchを食べるのです。この日のために、Aunt Sallieは尾頭付きの大きな魚を注文していたの。「姿盛(すがたもり)」という魚料理を作ろうというのです。といっても、作ったのは「ワタシ」。彼女は命令するだけ。おかげさまで、私は生まれて初めてナマの魚を包丁でさばきました。切り開いて、骨を取り出して、切り刻んで油で揚げたの。気持ちが悪いなんて言っていられません。おかげでその日一日中手が生臭くて・・・でも味は実に良かった!その他の料理は、茶碗蒸し(中身は、チキンン、栗、マッシュルーム、グリーンピース、セロリの葉)、ベジタブル・スープにお餅を入れたお雑煮、白豆(Dr. Owakiが持ってきたの)、タクアンにご飯、というメニューです。ちょっとしたご馳走でしょ?
昼食を終えてからが大変。Aunt Sallieは近隣に住む彼女の湯人をみんな招いてtea partyを催したのです。15、6人来ました。みんな中年以上のオバサマたち。私たち4人のJapanese girlsは全員着物を着たの。Aunt Sallieも日本から持ち帰った着物(彼女用に特別あつらえの)を着ました(私たち4人がかりで着付けてあげたの)。もう暑くて暑くて汗だくになりました。なにしろ狭い部屋に20人もがひしめき合っていたのです。ともかくAunt Sallieの大満足のうちにパーティーは終わり、我々も解放されました。
1月2日にMr. Klous とMrs.Klousがシャーロッツビルのカントリークラブからの帰りにこちらに立ち寄って、私を迎えに来てくれました。そうそう、大晦日の日に私はDr. Anthonyのおうちに挨拶に行ったのですが(Dr. Anthonyは休日の少し前に足の血管の手術をしてびっこを引いていました)、そこでKlous夫妻の話が出ました。9月に最初に会って昼食を皆でとったときには、私は言葉がほとんどわからず、何の印象も受けなかったのですが、Dr. Anthonyが言うには、実に珍妙な(?!)夫婦だというのです。性格が正反対なんですって。昼食の席で、Mrs. Klousはできるだけエレガントに優雅に振舞おうとするのに、Mr.Klousはいつもそれをぶち壊すことばかり言っていたそうです。2人の育ちはずいぶん違うそうです。Mrs. Klousはお嬢様育ちだし、Mr. Klousのほうの両親はキャバレーや映画監督などの職をやっていたんですって。それで、昼食時にMr. Klousが彼の両親の経歴をおもしろおかしくしゃべろうとするのを、Mrs. Klousがカンカンになって止めようとしていたのです。Dr. AnthonyもMrs. Anthonyも笑いをこらえるのに必死だったそうです。私は、今から考えると、呆れるほど会話が理解できなかったのですが、ただ2人(Mr. & Mrs. Klous)が半分けんか腰になってお互いを制そうとしていたことだけは記憶にあります。
今回は、もう会話も良く聞き取れるようになったので、私自身の見解から申しますが、実にそのとおりなのです。私の印象では、Mr. KlousはMrs.Klousの「エレガント振り」にいつもイライラしているようです。実はMr. Klousだけでなく、私も、なのです。Mrs. Klousは一語一語じーーつにゆーっくり区切ってしゃべるので、一つのセンテンスが異様にながーーいのです。おかげで、私はその間必死で神経を集中していなければならず、しまいには疲れきって考えることができなくなっちゃうの。始めは、私のためにわざとゆっくりしゃべってくれているのかと思って、迷惑ながらもありがたい、と思っていたのですが、これは彼女の癖なのでした。それだけではなく、彼女の話題は次々と変わるのです。というか、何かの言葉の説明を私が求めると、もうたっぷり5分間くらい懇切丁寧なexplanationをしてくださるので、もう話題の本筋にもどることは不可能じゃないか、と思われるほどなのです。少なくとも私のほうは、彼女が何をしゃべっていたのか、すっかり忘れてしまうのですが、彼女はよく覚えているらしく、"Getting back to such & such.......," とか言って、また本筋に戻ってしゃべりだすの。私は、「よく理解し、聞き取る」ためには、ゆっくりしゃべることはそれほど重要でないことを発見しました。適度な速度が必要なのです。Mrs. Klousの会話は、とても聞き取るのに苦労します。
あるとき、彼女が彼女の友人の男性で法律を勉強していた人が、「あなたの専攻はなんですか?」と聞かれたときに、ただ "My major is law." と言えば済むものを、lawという言葉を変えて 「judicial ナンとかカンとか」という実に長い英単語を使ってしゃべった、という話しを面白おかしくしてくれました。その時、私は「他の人が言えば1分ですむ会話を5分くらいかけてわざと難しげにしゃべる人もいますよね」と、アイロニカルに言ってみたのですが、彼女は「そのとおり!」とか言っちゃって、まるでわかってくれないのでした。
それはともかくとしても、Mr. KlousもMrs. Klousも実にいい人たちです。家はRoanokeの中心地からはずれた山の中腹にあります。 Sherwood Forestという森に囲まれた静かなたたずまいで、裕福と思われる大きな家々が立ち並んだ地区です。Mrs. Klousの両親が共同して設計して建てさせたんですって。私は、寝室として、おおきなゲストルームをあてがわれましたが、日本式のタンスがあり、部屋の飾りつけは日本人形や掛け軸やら、すっかり日本調です。Mrs. Klousはお茶や生け花のお免状まで持っているのよ。
【Klous家全景(テラスのついた2階の部屋が私用の部屋です】
【Klous家の庭にて・Mrs.Klousと私】クリックで拡大
朝は10時頃!起きて、11時頃brunchを食べに車で出かけます。毎日外食するそうです。馴染みのレストランがshopping centerにあって、お決まりのウェイトレスが給仕してくれるのです。
夕食は、驚く無かれ、8時か9時頃なのです。Mrs. Klousが自分で料理します。私のためにわざわざステーキを焼いてくださったのはいいのですが、地下にある暖炉で本格的に焼くそうで、ものすごく時間がかかるの。昨日の夜は、火のまわりがうまくゆかず、失敗してしまって8時頃になってもう1時間かかる、というのです。私はお腹も減っていなかったのでちっとも構わなかったのですが、Mr. Klousは夕食を取るには遅すぎるからいらない、といって夕食を取りませんでした。それで、私とMrs. Klousとだけで、9時半頃から夕食をいただきました。味は一流レストラン並みでとっても美味しかったです。ただ、Mrs. Klousはいったんしゃべりだすととまらず、食べることをすっかり忘れてしまわれるので、いつも冷えたステーキを食べていたようでした。私は、フォークとナイフを動かさずに聞いていると、おいしいステーキを逃しちゃうので、必死で相槌をうちながらせっせと食べていました。
Mrs. Klousはかなりおもしろい方です。彼女が学生だった時分にはformal dance partyがたくさんあった、とか言って、その当時の話しを面白おかしくしてくれました。食事中に立ってジルバやワルツのステップを踏み出したのには仰天しましたが。 とにかくおしゃべりが続いて、毎晩寝るのは1時頃なのです。朝10時まで寝てしまうのも、無理は無いでしょう?
今のソファーでこれを書いていたら、Mrs. Klousが入ってきて、29日付のおじちゃんたちからの手紙を持ってきてくれました。まさかここで手紙を受け取るとは思わなかったので、大喜び。年の暮れのせわしない様子が目に浮かびました。いつものように義朗おじちゃんたちを招いたりしたのかしら?
テレビの話で思い出しましたが、去年だったか、その前のクリスマス頃にNHKのTVで字幕スーパーで連日外国映画を放映したの覚えていませんか?その中の一つに、アメリカ映画で貧しい家庭のクリスマスの様子を描いた映画があったでしょう?6人もの子どもがいて、クリスマスの夜にすごい吹雪になって、お父さんがなかなか戻って来ず、みんなで心配するとうストーリーの。たしか「父の帰る日」という題だったと思います。あれは、こちらでは "The Waltons" というタイトルのテレビで、毎週木曜日8時からのシリーズドラマになっています。その中の1 Chapterが日本で放映されたわけです。今では、あの家族はみんな成長して子どもたちも大きくなってるの。一番上のJohn-Boyという男の子が(日本で見たときは16、7歳だったけど)22、3歳になっています。役者は同じ人たちです。アメリカでとても人気のあるシリーズなのですって。ここではじめて気がついたけど、あの家庭のある位置はシェナンドー谷の中で、つまりVirginia州だったのです。ここRoanokeよりもう少し山中にはいった処が舞台なの。シャーロッツビルなど、今では馴染みの地名がたくさん出てきます。とてもいい番組だし、日本でも連続放映すればいいのにね。このほか、「外科医ギャノン」だの「アイアンサイド」だの、古いのでは「ペリー・メイスン」などもこちらでは放映されています。昨夜は映画で "Chitty Chitty Bang Bang"(チキチキバンバン)が放映されました。3時間もかかったのよ。こちらでは吹き替えも無いし、映画のままの味が生かされているので得します。その他、私は見なかったけれど、"My Fair Lady"も休暇前にTVで放映されました。
ただいま、午後3時20分。Mr.Klousは2階(正確には1階)で仕事をしていますし、Mrs. Klousは電話で長話し、私は地下の居間でのんびりこれを書いています。アメリカでは客人といっても特別扱いせず、家中好き勝手に歩き回れるので気楽です。この家にはPrincessという猫がいます。およそ可愛くない憎たらしい猫。Mr. & Mrs. Klousはそれこそ「猫かわいがり」しています。私も彼等の前では"She is really cute!"とか言ってニコニコしながら、彼女(猫)と2人(1人と一匹)のときは、お互いにツンとしています。彼女は私にすぐ歯をむき出すの。憎たらしいったらありゃしない。(そろそろ地が出てきた・・・とおじちゃん、ニヤニヤしていることでしょうね)
【Mrs.Klousと愛猫La.Princes(ラプランセース)】
では、またね。