あたし、レイン・デシンセイ。18歳の冒険者。
世界制服の野望に燃える邪悪な妖術使いバルサス・ダイアを暗殺せよとのサラモン王の密命を受け、あたしはヤツの要塞にやってきました。
犬猿だの猿犬だのサイ男だの、変な妖怪山盛りのこの要塞。どうにかこうにか塔まで侵入に成功したけれど、ちょっと一筋縄じゃあ行かないみたい。
しかし、こんなことでくじけるあたしではないのだ。待ってろよ、バルサス・ダイア!
<現在の状況>
技術点:9
体力点:12
運点:9
魔法点:12
持ち物:剣、皮の鎧、ザック
魔法:目くらまし×2、火炎、千里眼、浮遊×2、怪力、技術増強、体力増強、骨抜き
塔の入り口の扉をくぐると、そこは細い通路になっている。その通路は少し先の扉で終わっているけど、その途中に下に降りる階段もある。あたしはとりあえず、扉を推してみる。その先も廊下になっていて、右に折れてまた扉で終わっている。
「執事ニ御用ノ方ハ呼鈴ヲ鳴ラシテクダサイ」
扉にはそう書かれた札が下がっていて、その隣にはご丁寧に呼鈴に繋がっていると思われる紐がついている。あたしはついつい素直に紐を引っ張る。すると扉が開いて、背中がぐにゃっと曲がり、虫歯だらけで服もボロボロな、気持ち悪い男が出てくる。
「へぇ、旦那。何か御用で?」
「ああ、来ることは伝えてある。謁見室はどっちだ?」
うわ、あたし、カッコいい? 自信満々にハッタリをかましてみせると、この男も面喰らったのか、おどおどして左を指差す。
「うむ。ご苦労」
あたしは尊大にうなずくと、通路を右に行く。あぁ、クセになりそう……。
通路を進むと右手に扉がある。扉にはなんだかわかんないけど、読めない文字で何か書いてある。あたしはノブに手をかける。どうやら鍵はかかっていないみたいなんで、そのまま扉を開けて中を覗き込む。中は小さな部屋で、テーブルの上に黄金の燭台が乗っている。が、突然床下からきしむような音がして、落とし穴が口を開けた!
ヤバイ!
でも、そう思うよりも早くあたしの身体は暗い穴に吸い込まれていった。ごつん、ごつん。あちこち打ち付けられながら、あたしはダストシュートを転がり落ちていく。もう、痛いやら目が回るやらで訳わかんなくなってきたときに、ようやくゴールにたどり着いた。周りで何か話し声が聞こえるけれど、あたしは意識を保つことができずに、失神した。
ん……。
目を覚ますと、そこは小さな薄汚い部屋だった。どうも牢屋に閉じ込められちゃったみたい。まいったな。ちょっと自力じゃどうにもならないようなんで、おとなしくチャンスを待とう。
一時間ほどぼーっとしてると、外で物音がした。ちょっと覗いてみると、双頭のトカゲ男が鉢と茶碗を持って降りてくるところだった。そいつはその茶碗と鉢をあたしの独房に押し込むと、自分は近くにあるテーブルに向かう。こいつが噂に聞くカラコルムね。
まあとにかく、腹が減っては戦はできぬ。取りあえず腹ごしらえ。そうそう変なモンも出てこないでしょ。もしゃもしゃ食べて、体力回復。あ、意外といけるじゃん。
食べ終わると、カラコルムに声をかける。こいつはあんまり話し好きじゃないみたいだけど、そんなに無愛想でもないみたいで、いろいろ話は聴けました。バルサス・ダイアについては口をつぐんじゃうんだけど、どうやらここは黒い塔の地下牢で、まあまず出してはもらえないだろうってことだけはわかった。しかし、口八丁だけじゃどうにもならないかな、こりゃ。
あたしは<目くらまし>の術を使って、敵に襲われるという幻覚を見せることにした。すると、テーブルの隅から一匹のネズミが、って……オイオイ。まずった?
と、カラコルムの様子がおかしい。ネズミを見たカラコルムの片方の頭が、恐怖に歪んでいるのだ。ネズミがテーブルの上に飛び乗ると、カラコルムも恐怖の叫びを上げる。うわ、おもしろー。こいつネズミが苦手なのか。あたしは小一時間その様子を眺めて楽しむと、カラコルムに助けてやるからドアを開けるよう持ちかける。するとカラコルムは、一も二も無く鍵を放り投げてよこす。あたしは悠々とドアを開け、その場を立ち去る。最後に一応術を解いてやる辺り、ホント、人間ができてるよね。
通路はあちこち曲がりくねった末に、上へ行く階段のふもとに出る。その階段を上ると短い通路の末に行き止まりにぶつかる。その壁を調べると小さな梃子があったので引っ張ってみると、壁に穴があいた。何とか通れそうな感じ。するっとぬけると穴はふさがってしまった。そしてその前には、鍵のかかった扉が。
あたしは<怪力>の術を使ってノブを引っ張る。ボキッ。あれ、ノブ、取れちゃった。仕方がないので、そのまま力任せに扉をぶん殴る。ベキッ、バキッ。扉は難なく粉砕される。うは、きもちいー。
その扉の中は大きな円形の部屋。真中に粗末なテーブルと、椅子。そしてテーブルの上に、眠りながら浮かんでいる一人の小男。げ、何、こいつ。そのとき、後ろからなにかきしむ音がしたので振り返ってみると、投石器から何かが飛んでくる、ってウソ! ちょっと待った! 避けようとしたけど、間に合わない!
ぐしゃ。
まともに額にぶつかったけど……、なに、コレ? とりあえず、身体に異常はないみたいだけど……。慎重に指で触ってみる。ぬめっとした感触。そのまま指を口の中へ。コレって、……トマト?
あたしは部屋の真中に浮かんでいる男に向き直る。そしてゆっくりと近づいていくと、小男は片目を開け、ニカっとむかつく笑顔を向けると、突然消えた。
あり?
すると後ろから「おはようさん!」と声がする。慌てて振り向くと、小男は相変わらずの笑顔でそこに立っている。
「あっしはレプレコーンのオシェイマスでさ!」
そう言って手を差し出してくる。レプレコーン? オシェイマス? くっそー、むかつくー。なんかむかつくー。
それでもあたしは、顔についたトマトをぬぐうと、大人の態度でオシェイマスと握手する。
「あたしはレイン…ふぇrpうぃお:おあwえg」
のあっ。握手した腕が痺れる。技術点も1点引かれる。その様子を見て、オシェイマスはげらげら笑い出す。くっそー、この男……。さらに後ろからも笑い声が聞こえてくるので振り向いてみると、オシェイマスは後ろに。じゃあ、あたしが握手してるのは……って、これ、人形じゃん。あーもう、これ、手から離れないし。「ほんの冗談でさ!」とオシェイマスは指を鳴らす。「さてどんなご用で?」
あたしは一瞬、剣の柄を握りかけるが、もう一度落ち着いてこの先の道を尋ねる。この先へ行くには3つの扉しかないらしい。それは「真鍮の扉」、「赤銅の扉」、「青銅の扉」の3つ。オシェイマス曰く、このうちの2つはものすごく危険で、残る一つは臭いのなんの。もうちょっと訊いてみると、「銅の取っての扉から左へ2つ目の扉は避けるし、青銅の取っての右側も避ける」だって。扉の並び方がわからないので(見ればわかるだろうって? そういう突っ込みはジャクソンにしてね)ちょっと考えるんだけど、どうやらいつのまにか赤銅が銅という表記に変わっていたみたい。つーか、このヒントからは一つダメな扉はわかるけど、正解がどこかはわかんないよね? そもそもオシェイマスがそんなに素直なヒントをくれるとも限らないし。
結局「赤銅の扉」を行くことにした。だって、銅が一番臭そうじゃない? あたしは長く暗い廊下に踏み出す。すると突然、まばゆい光が炸裂する。何? 見えない! と、低い唸り声が聞こえてくる。まずい。何かいる! と思ったときには、そいつはあたしの足に噛みついてきた。ウグッ。
あたしは<骨抜き>の術を使う。しかし、そいつの力は全然衰えを見せないどころか、どんどん激しくなってくる。まずい。もう足の感覚は殆どない。あたしの意識がなくなりかけてきた頃、喉もとにそいつの牙が喰らいついてきた……。
! あたしは突然目を覚ます。傷はついていない。一体どうなったの? と、頭上でけたたましい笑い声がする。あたしはそっちを見るまでもなく、脱力感に襲われた。こいつのしわざかよ……。
頭上の笑い声の主、オシェイマスを見ていると、あたしまでおかしくなってきた。ここまでバカらしいと、もう笑うしかない。あたしも一緒になって笑い転げる。あははのはーっと。
ようやく落ち着いてみると、オシェイマスもなんかいいやつだなっていう気になってくるから不思議だ。とは言え、あたしにも任務がある(いや、今ちょっと忘れかけてたけど……)。去ろうとするあたしに、オシェイマスは剣と皿をくれる。剣は戦闘のときに1点のボーナスがある。皿はよくわかんないけど、見事な細工の銀の鏡になっている。あたしはオシェイマスに礼を言うと、今度は青銅の扉から出て行く。
扉を開けると通路に出て、さらにいくと岩山の中をうねうねとまがりくねりながら進んでいる。どんどこどんどこ進んでいくと、やがて広い道に出た。
<つづく>
<現在の状況>
技術点:8
体力点:14
運点:9
魔法点:12
持ち物:魔法の剣、皮の鎧、ザック、銀の皿
魔法:目くらまし、火炎、千里眼、浮遊×2、技術増強、体力増強


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