つらつら日暮らし

『浄土布薩式』の冒頭(『浄土布薩式』参究1)

それでは、今回から『浄土布薩式』の本文を学んでみたい。まずは、冒頭部分である。

浄土布薩戒 上
         大日本国華洛沙門源空述
浄土宗頓教一乗円実大戒布薩法式
    『続浄土宗全書』巻15・74頁


『浄土布薩式』は上下2巻本である。それから、法然上人(に帰せられた)の署名は、「大日本国華洛沙門源空」となっている。「華洛」とは、華やかな都という意味であり、端的に京都にいた法然上人のことを指すとはいえる(なお、『浄土布薩式』は、江戸時代の段階で法然上人の親撰が疑われており、現代では法然上人の著作ではないとの評価が定まっていると言って良い)。

それから、この布薩を行う戒の名目が凄い。「頓教一乗円実大戒」とある。頓教なので、すぐに悟れる教えであり、一乗であるから誰一人救われない者がおらず、円実だというから、円かで真実なる大戒だという意味になる。なお、「頓教一乗」という語句は、『円覚経』の註釈書に見えるもののようだが、実際の著者確定に関わるものだろうか?分からない。

若し、此の法式を行んと欲するの人有れば、須く月月に二箇度之を行ずべし。又、須く十五日と晦日とに定むべし。黒月の大は十五日を尽くし、即ち上下合して三十日なち。小は二十九日を晦に順じて、即ち十四日なり。今、此の法式に就いて、十六段有り。
    前掲同著・同頁


さて、この文章が『浄土布薩式』の実際の式文の始めである。そして、これは「布薩」に対応していることは明らかである。すると、智顗が著し、宋代の与咸が更に註記した『註菩薩戒経』巻下には「半月布薩法式」が入っているのだが、その冒頭で、「白月十五日、黒月大尽は十五日、即ち三十日なり、小尽は十四日、即ち二十九日なり」とあって、『浄土布薩式』と対応している。ただし、この「半月布薩法式」は、以下の通りである。

一鳴鐘集衆
二作礼説布薩偈
三法事僧出衆秉白行事
四維那鳴槌曰衆警念発願
五白未発心者出
五問持
六問小護
七問清浄入
八結問行籌
九行在家籌
十結唱籌数
十一請上座説戒
十二請説戒
十三戒師陞座
十四梵音
十五焼香散花
十六誦戒
十七誦畢梵唱
十八戒師礼謝
十九三帰
二十大衆慶快
    「半月布薩法式」


一方で、『浄土布薩式』は、十六段となっているので、全体の数が違うし、実際の法式の進め方も違う。

第一 集衆
第二 和合
第三 灑水
第四 焼香
第五 発願
第六 発心
第七 問遮
第八 懺悔
第九 入壇
第十 請師
第十一 受戒
第十二 証明
第十三 現瑞
第十四 説相
第十五 回向
第十六 勧持


以上である。なお、こちらの各科の名称は、『浄土布薩式』の註釈書である了吟上人『浄土布薩広戒儀尽規』(全1巻)から引用した。今後の連載でも、しばしば参照されると思う。

次回以降は、この『浄土布薩式』の第一段から見ていくつもりだが、上記の布薩の法式を見知っていただくと、違いが更に際立って理解出来るだろう。なお、布薩の本質とは、「説戒」にあるのだが、その前に、参加者が懺悔し、清浄になっていることが必要である。そして、清浄になった参加者の数を数え、そして戒師が法座に上って説戒するというのが、基本的な流れである。

なお、本連載の準備の記事で、「此の名号の戒は布薩戒也」という記事を紹介した。つまり、阿弥陀仏の名号が布薩戒だというが、少なくとも『浄土布薩戒』では、「布薩」に則って始めようとしている。だからこそ、どの日に行うべきかを挙げたのである。旧暦(太陰暦)では、大月三十日、小月二十九日である。そうなると、布薩は毎月2回だから、十五日・三十日に行う場合と、十四日・二十九日に行う場合とが出て来る。『浄土布薩式』ではそれが理解されているのである。

それでは、どの辺が「布薩」で、どの辺が浄土宗の宗義に関わる「布薩戒」となるのか?これは、来月からの記事で更に説明していくことにしたい。

【参考資料】
・宗書保存会『続浄土宗全書』巻15、大正14年
浄土布薩式(新編浄土宗大辞典web版)

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