内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵― (総集編)

2010-03-22 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵― (総集編)
 2010年3月の大学新卒予定者の内、就職出来ない学生が10万人を超える見通しと文部科学省が新年早々明らかにした。大学院などへの進学予定者は含まれていないので、一部留年するとしても、就職出来ない学生が10万人を超えるのは2004年以降初めてとされており、改革成長路線の恩恵が2010年でほぼ消えることになる。1月の厚労省発表では、本年3月の大学新卒予定者の就職内定率は73%強に止まっているが、高校では68%と就職難であるので、中学、高校・専門学校を含めると、正規に就職できない新卒者は10万人を大きく上回ることになる。
 これは新卒者にとって大きな問題であるが、その社会・経済的な意味合いはもっと深刻だ。10万人を上回る新卒者がアルバイトや派遣労働者など、新たに「不正規雇用者」となる。日本の就職制度は、基本的には新卒者の終身雇用を前提にしているので、若干の中間採用はあるが、一旦「不正規雇用者」に組み込まれるとほぼ生涯不正規就業者として生活して行かなくてはならないことになる。不正規雇用者は、労働力調査では09年に総就労者5千万人強(農業を除く)の約33%、約1,680万人にも達している。2010年にはその比率が34、5%に増加し、総就労者の3人に1人が「不正規雇用者」となり、将来景気が顕著に回復しない限りその状態が続くことになる。
 不正規就労者はバブル崩壊の影響が顕著となった90年代半ば頃より急速に増加し、2004年まで年間10万人を越え、30%台となった。その後年間10万人を下回るなだらかな増加に転じつつあったが、今年10万人を越える増加に再び転じる。このことは、2001年以降の小泉改革成長路線は“格差”を広げたと言われているが、アルバイトや派遣などの不正規労働者は90年代半ば頃より急速に増加し、正規、不正規という労働市場の2重構造、格差が改革成長路線以前に造られており、適切な経済対策、雇用対策が採られなかったことを物語っている。そして、改革成長路線の成果が現れ始めた05年以降やや改善していたものの十分ではなかったことを示している。しかしその成果も残念ながら本年で消える見通しだ。
 終身雇用制は、就労者にとっても、雇用者側にとっても安定的な雇用関係が維持できるという利点があり、それ自体に問題があるわけではないが、総就労者の3人に1人以上が「不正規雇用者」であることは、就労形態としてはもはや例外的ではなく、構造的な問題となって来ており、格差の温床となっている。「不正規雇用者」の常態化の最大の問題は、新卒者として社会人なる出発点で「不正規就労者市場」に組み込まれ、ほぼ一生正規就労者となる機会を失ってしまうことだ。無論、フリーターなど自由な生活スタイルを希望する者もいるが、多くの人は安定した職業、所得を望んでいる一方、失職すれば失業保険の増加の他、ホームレスや生活保護、自殺などの社会問題を起こし易く、社会コストを増加させる結果となっている。従って、短期的な雇用対策は必要であるが、中・長期的にはこれらの人々がもっと安定的な形で就労する機会が与えられるような雇用形態、制度として行くことが望まれる。
 1、鍵となる職能制雇用形態の拡大
 不正規雇用者の比率は、バブル経済崩壊前夜の1990年の20.0%から徐々に増加し、2003年には30%を超え、06年には33.2%に達したものの、なだらかな増加となっていた。しかし、米国の低所得者向け住宅ローン(サブ・プライムローン)の破綻に端を発した金融不安から、08年9月に米国の5大証券の一つのリーマン・ブラザースが倒産し、金融危機が深刻化すると共に世界に波及し、日本の輸出産業の業績悪化から派遣従業員の大量解雇などが行われたことから、08年の不正規雇用者は33.9%に達した。
 今後の米国をはじめとする世界経済の回復状況にもよるが、不正規雇用者の比率は当面30%台で推移するものと予想される。当分の間劇的な改善は予想されない。
 日本の終身雇用制の問題は、原則として新卒者を新規雇用の対象としていることで、たまたま就職の年が不況であったり、希望する企業等への就職を逃すと中間採用で救済されることはほとんどなくなり、余程強い志を持っている場合を除き、多くの人は卒業、就職でほぼ将来が決まってしまい、制度として再チャレンジややり直しの道はほとんどないということである。
 新卒者の採用数を減らし、その分中間採用を増やすようになればこの面での硬直性はある程度改善して行くであろう。しかし、それが定着するまでは、企業としては賃金コストが上がると共に、ポストの問題や企業機密の流失などの問題がありメリットは少ない。他方業績不振でも解雇は困難で、労働組合との調整がつかなければ倒産の道を選ばざるを得なくなるなどのデメリットがある。しかし通常は事業継続が前提であるので、パートや派遣従業員などで補う方が現実的だ。
 新卒至上主義を改め、適材適所でやる気のある人材を広く求められる雇用制度は職能制雇用の拡大にあるのではないだろうか。
 製造産業については、それぞれの産業において産業別か、旋盤、プレス、仕上げ加工、ロウ付け、組み立て、塗装、検査など職種による職能別給与区分とする。その上で、各職種について、例えば経験0-5年未満、5-10年未満、10-15年未満、15-20年未満、20年以上などとして経験年数別の給与の幅を設け、職能別、経験年数別で経験年数・技能レベルに基づく給与表を作成する。65歳以上(役員は除く)については給与レベルは逓減することになろうが、特に年齢制限を設けず、職種、経験年数区分の中で採用時に格付けする。事務職、技術職についても同様に産業別に庶務職、会計職、コンピューター技術職、営業職、一般総合職、課長職、部長職など、職能別、経験年数別の給与表を作成する。
 これにより求職者は、新卒者は新卒者として、また新卒者以外でもそれぞれの経験や技能・技術に応じて志望産業の職能別に応募し、経験年数に応じた給与を得ることになる。異なる職能を希望する場合は改めて応募すればよいので、年齢を問わず、経験年数に応じて産業、職種を選べることになる。求人側も、職能、経験に応じた人材を得易くなり、弾力的な雇用関係が形成されることになろう。
 このような職能制雇用が制度化して行けば、バブル崩壊後の不況期にぶつかった新卒者で不正規就業者となった者も常に職能別の雇用の機会が得られる上、景気の回復に従って各自の希望する産業、職種への就職がより容易になると予想される。また今後の少子化、新卒者の減少と退職年齢層の増加を考えると、景気が大幅に回復した場合、新卒者の大量雇用、労働力補充が困難になると見られるので、年齢を問わず職能別に広く人材を求める職能制雇用制度はメリットとなろう。
 派遣法を改正し、製造業への「派遣」を禁止するとの動きがある。それ自体は良いとしても、それにより企業はアルバイトや日雇いなどの不正規労働者に切り替えるなどの対応をし、正規社員の中途採用に転換する企業は極めて限定的となる可能性が強い。
 職能制求人は、各企業が行うことであるが、経産省と厚労省が中心となり職能制の模範形を作成し、奨励すれば促進効果が期待される。ハローワークなどで職業訓練が行われているものの、就職にはなかなか結びつかないなど実効が上がっていないのが実情だが、職能制が拡大すれば職業訓練も生きてこよう。

 2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
(All Rights Reserved.)
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵― (総集編)

2010-03-22 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵― (総集編)
 2010年3月の大学新卒予定者の内、就職出来ない学生が10万人を超える見通しと文部科学省が新年早々明らかにした。大学院などへの進学予定者は含まれていないので、一部留年するとしても、就職出来ない学生が10万人を超えるのは2004年以降初めてとされており、改革成長路線の恩恵が2010年でほぼ消えることになる。1月の厚労省発表では、本年3月の大学新卒予定者の就職内定率は73%強に止まっているが、高校では68%と就職難であるので、中学、高校・専門学校を含めると、正規に就職できない新卒者は10万人を大きく上回ることになる。
 これは新卒者にとって大きな問題であるが、その社会・経済的な意味合いはもっと深刻だ。10万人を上回る新卒者がアルバイトや派遣労働者など、新たに「不正規雇用者」となる。日本の就職制度は、基本的には新卒者の終身雇用を前提にしているので、若干の中間採用はあるが、一旦「不正規雇用者」に組み込まれるとほぼ生涯不正規就業者として生活して行かなくてはならないことになる。不正規雇用者は、労働力調査では09年に総就労者5千万人強(農業を除く)の約33%、約1,680万人にも達している。2010年にはその比率が34、5%に増加し、総就労者の3人に1人が「不正規雇用者」となり、将来景気が顕著に回復しない限りその状態が続くことになる。
 不正規就労者はバブル崩壊の影響が顕著となった90年代半ば頃より急速に増加し、2004年まで年間10万人を越え、30%台となった。その後年間10万人を下回るなだらかな増加に転じつつあったが、今年10万人を越える増加に再び転じる。このことは、2001年以降の小泉改革成長路線は“格差”を広げたと言われているが、アルバイトや派遣などの不正規労働者は90年代半ば頃より急速に増加し、正規、不正規という労働市場の2重構造、格差が改革成長路線以前に造られており、適切な経済対策、雇用対策が採られなかったことを物語っている。そして、改革成長路線の成果が現れ始めた05年以降やや改善していたものの十分ではなかったことを示している。しかしその成果も残念ながら本年で消える見通しだ。
 終身雇用制は、就労者にとっても、雇用者側にとっても安定的な雇用関係が維持できるという利点があり、それ自体に問題があるわけではないが、総就労者の3人に1人以上が「不正規雇用者」であることは、就労形態としてはもはや例外的ではなく、構造的な問題となって来ており、格差の温床となっている。「不正規雇用者」の常態化の最大の問題は、新卒者として社会人なる出発点で「不正規就労者市場」に組み込まれ、ほぼ一生正規就労者となる機会を失ってしまうことだ。無論、フリーターなど自由な生活スタイルを希望する者もいるが、多くの人は安定した職業、所得を望んでいる一方、失職すれば失業保険の増加の他、ホームレスや生活保護、自殺などの社会問題を起こし易く、社会コストを増加させる結果となっている。従って、短期的な雇用対策は必要であるが、中・長期的にはこれらの人々がもっと安定的な形で就労する機会が与えられるような雇用形態、制度として行くことが望まれる。
 1、鍵となる職能制雇用形態の拡大
 不正規雇用者の比率は、バブル経済崩壊前夜の1990年の20.0%から徐々に増加し、2003年には30%を超え、06年には33.2%に達したものの、なだらかな増加となっていた。しかし、米国の低所得者向け住宅ローン(サブ・プライムローン)の破綻に端を発した金融不安から、08年9月に米国の5大証券の一つのリーマン・ブラザースが倒産し、金融危機が深刻化すると共に世界に波及し、日本の輸出産業の業績悪化から派遣従業員の大量解雇などが行われたことから、08年の不正規雇用者は33.9%に達した。
 今後の米国をはじめとする世界経済の回復状況にもよるが、不正規雇用者の比率は当面30%台で推移するものと予想される。当分の間劇的な改善は予想されない。
 日本の終身雇用制の問題は、原則として新卒者を新規雇用の対象としていることで、たまたま就職の年が不況であったり、希望する企業等への就職を逃すと中間採用で救済されることはほとんどなくなり、余程強い志を持っている場合を除き、多くの人は卒業、就職でほぼ将来が決まってしまい、制度として再チャレンジややり直しの道はほとんどないということである。
 新卒者の採用数を減らし、その分中間採用を増やすようになればこの面での硬直性はある程度改善して行くであろう。しかし、それが定着するまでは、企業としては賃金コストが上がると共に、ポストの問題や企業機密の流失などの問題がありメリットは少ない。他方業績不振でも解雇は困難で、労働組合との調整がつかなければ倒産の道を選ばざるを得なくなるなどのデメリットがある。しかし通常は事業継続が前提であるので、パートや派遣従業員などで補う方が現実的だ。
 新卒至上主義を改め、適材適所でやる気のある人材を広く求められる雇用制度は職能制雇用の拡大にあるのではないだろうか。
 製造産業については、それぞれの産業において産業別か、旋盤、プレス、仕上げ加工、ロウ付け、組み立て、塗装、検査など職種による職能別給与区分とする。その上で、各職種について、例えば経験0-5年未満、5-10年未満、10-15年未満、15-20年未満、20年以上などとして経験年数別の給与の幅を設け、職能別、経験年数別で経験年数・技能レベルに基づく給与表を作成する。65歳以上(役員は除く)については給与レベルは逓減することになろうが、特に年齢制限を設けず、職種、経験年数区分の中で採用時に格付けする。事務職、技術職についても同様に産業別に庶務職、会計職、コンピューター技術職、営業職、一般総合職、課長職、部長職など、職能別、経験年数別の給与表を作成する。
 これにより求職者は、新卒者は新卒者として、また新卒者以外でもそれぞれの経験や技能・技術に応じて志望産業の職能別に応募し、経験年数に応じた給与を得ることになる。異なる職能を希望する場合は改めて応募すればよいので、年齢を問わず、経験年数に応じて産業、職種を選べることになる。求人側も、職能、経験に応じた人材を得易くなり、弾力的な雇用関係が形成されることになろう。
 このような職能制雇用が制度化して行けば、バブル崩壊後の不況期にぶつかった新卒者で不正規就業者となった者も常に職能別の雇用の機会が得られる上、景気の回復に従って各自の希望する産業、職種への就職がより容易になると予想される。また今後の少子化、新卒者の減少と退職年齢層の増加を考えると、景気が大幅に回復した場合、新卒者の大量雇用、労働力補充が困難になると見られるので、年齢を問わず職能別に広く人材を求める職能制雇用制度はメリットとなろう。
 派遣法を改正し、製造業への「派遣」を禁止するとの動きがある。それ自体は良いとしても、それにより企業はアルバイトや日雇いなどの不正規労働者に切り替えるなどの対応をし、正規社員の中途採用に転換する企業は極めて限定的となる可能性が強い。
 職能制求人は、各企業が行うことであるが、経産省と厚労省が中心となり職能制の模範形を作成し、奨励すれば促進効果が期待される。ハローワークなどで職業訓練が行われているものの、就職にはなかなか結びつかないなど実効が上がっていないのが実情だが、職能制が拡大すれば職業訓練も生きてこよう。

 2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
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2010-03-22 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵― (総集編)
 2010年3月の大学新卒予定者の内、就職出来ない学生が10万人を超える見通しと文部科学省が新年早々明らかにした。大学院などへの進学予定者は含まれていないので、一部留年するとしても、就職出来ない学生が10万人を超えるのは2004年以降初めてとされており、改革成長路線の恩恵が2010年でほぼ消えることになる。1月の厚労省発表では、本年3月の大学新卒予定者の就職内定率は73%強に止まっているが、高校では68%と就職難であるので、中学、高校・専門学校を含めると、正規に就職できない新卒者は10万人を大きく上回ることになる。
 これは新卒者にとって大きな問題であるが、その社会・経済的な意味合いはもっと深刻だ。10万人を上回る新卒者がアルバイトや派遣労働者など、新たに「不正規雇用者」となる。日本の就職制度は、基本的には新卒者の終身雇用を前提にしているので、若干の中間採用はあるが、一旦「不正規雇用者」に組み込まれるとほぼ生涯不正規就業者として生活して行かなくてはならないことになる。不正規雇用者は、労働力調査では09年に総就労者5千万人強(農業を除く)の約33%、約1,680万人にも達している。2010年にはその比率が34、5%に増加し、総就労者の3人に1人が「不正規雇用者」となり、将来景気が顕著に回復しない限りその状態が続くことになる。
 不正規就労者はバブル崩壊の影響が顕著となった90年代半ば頃より急速に増加し、2004年まで年間10万人を越え、30%台となった。その後年間10万人を下回るなだらかな増加に転じつつあったが、今年10万人を越える増加に再び転じる。このことは、2001年以降の小泉改革成長路線は“格差”を広げたと言われているが、アルバイトや派遣などの不正規労働者は90年代半ば頃より急速に増加し、正規、不正規という労働市場の2重構造、格差が改革成長路線以前に造られており、適切な経済対策、雇用対策が採られなかったことを物語っている。そして、改革成長路線の成果が現れ始めた05年以降やや改善していたものの十分ではなかったことを示している。しかしその成果も残念ながら本年で消える見通しだ。
 終身雇用制は、就労者にとっても、雇用者側にとっても安定的な雇用関係が維持できるという利点があり、それ自体に問題があるわけではないが、総就労者の3人に1人以上が「不正規雇用者」であることは、就労形態としてはもはや例外的ではなく、構造的な問題となって来ており、格差の温床となっている。「不正規雇用者」の常態化の最大の問題は、新卒者として社会人なる出発点で「不正規就労者市場」に組み込まれ、ほぼ一生正規就労者となる機会を失ってしまうことだ。無論、フリーターなど自由な生活スタイルを希望する者もいるが、多くの人は安定した職業、所得を望んでいる一方、失職すれば失業保険の増加の他、ホームレスや生活保護、自殺などの社会問題を起こし易く、社会コストを増加させる結果となっている。従って、短期的な雇用対策は必要であるが、中・長期的にはこれらの人々がもっと安定的な形で就労する機会が与えられるような雇用形態、制度として行くことが望まれる。
 1、鍵となる職能制雇用形態の拡大
 不正規雇用者の比率は、バブル経済崩壊前夜の1990年の20.0%から徐々に増加し、2003年には30%を超え、06年には33.2%に達したものの、なだらかな増加となっていた。しかし、米国の低所得者向け住宅ローン(サブ・プライムローン)の破綻に端を発した金融不安から、08年9月に米国の5大証券の一つのリーマン・ブラザースが倒産し、金融危機が深刻化すると共に世界に波及し、日本の輸出産業の業績悪化から派遣従業員の大量解雇などが行われたことから、08年の不正規雇用者は33.9%に達した。
 今後の米国をはじめとする世界経済の回復状況にもよるが、不正規雇用者の比率は当面30%台で推移するものと予想される。当分の間劇的な改善は予想されない。
 日本の終身雇用制の問題は、原則として新卒者を新規雇用の対象としていることで、たまたま就職の年が不況であったり、希望する企業等への就職を逃すと中間採用で救済されることはほとんどなくなり、余程強い志を持っている場合を除き、多くの人は卒業、就職でほぼ将来が決まってしまい、制度として再チャレンジややり直しの道はほとんどないということである。
 新卒者の採用数を減らし、その分中間採用を増やすようになればこの面での硬直性はある程度改善して行くであろう。しかし、それが定着するまでは、企業としては賃金コストが上がると共に、ポストの問題や企業機密の流失などの問題がありメリットは少ない。他方業績不振でも解雇は困難で、労働組合との調整がつかなければ倒産の道を選ばざるを得なくなるなどのデメリットがある。しかし通常は事業継続が前提であるので、パートや派遣従業員などで補う方が現実的だ。
 新卒至上主義を改め、適材適所でやる気のある人材を広く求められる雇用制度は職能制雇用の拡大にあるのではないだろうか。
 製造産業については、それぞれの産業において産業別か、旋盤、プレス、仕上げ加工、ロウ付け、組み立て、塗装、検査など職種による職能別給与区分とする。その上で、各職種について、例えば経験0-5年未満、5-10年未満、10-15年未満、15-20年未満、20年以上などとして経験年数別の給与の幅を設け、職能別、経験年数別で経験年数・技能レベルに基づく給与表を作成する。65歳以上(役員は除く)については給与レベルは逓減することになろうが、特に年齢制限を設けず、職種、経験年数区分の中で採用時に格付けする。事務職、技術職についても同様に産業別に庶務職、会計職、コンピューター技術職、営業職、一般総合職、課長職、部長職など、職能別、経験年数別の給与表を作成する。
 これにより求職者は、新卒者は新卒者として、また新卒者以外でもそれぞれの経験や技能・技術に応じて志望産業の職能別に応募し、経験年数に応じた給与を得ることになる。異なる職能を希望する場合は改めて応募すればよいので、年齢を問わず、経験年数に応じて産業、職種を選べることになる。求人側も、職能、経験に応じた人材を得易くなり、弾力的な雇用関係が形成されることになろう。
 このような職能制雇用が制度化して行けば、バブル崩壊後の不況期にぶつかった新卒者で不正規就業者となった者も常に職能別の雇用の機会が得られる上、景気の回復に従って各自の希望する産業、職種への就職がより容易になると予想される。また今後の少子化、新卒者の減少と退職年齢層の増加を考えると、景気が大幅に回復した場合、新卒者の大量雇用、労働力補充が困難になると見られるので、年齢を問わず職能別に広く人材を求める職能制雇用制度はメリットとなろう。
 派遣法を改正し、製造業への「派遣」を禁止するとの動きがある。それ自体は良いとしても、それにより企業はアルバイトや日雇いなどの不正規労働者に切り替えるなどの対応をし、正規社員の中途採用に転換する企業は極めて限定的となる可能性が強い。
 職能制求人は、各企業が行うことであるが、経産省と厚労省が中心となり職能制の模範形を作成し、奨励すれば促進効果が期待される。ハローワークなどで職業訓練が行われているものの、就職にはなかなか結びつかないなど実効が上がっていないのが実情だが、職能制が拡大すれば職業訓練も生きてこよう。

 2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵― (総集編)

2010-03-22 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵― (総集編)
 2010年3月の大学新卒予定者の内、就職出来ない学生が10万人を超える見通しと文部科学省が新年早々明らかにした。大学院などへの進学予定者は含まれていないので、一部留年するとしても、就職出来ない学生が10万人を超えるのは2004年以降初めてとされており、改革成長路線の恩恵が2010年でほぼ消えることになる。1月の厚労省発表では、本年3月の大学新卒予定者の就職内定率は73%強に止まっているが、高校では68%と就職難であるので、中学、高校・専門学校を含めると、正規に就職できない新卒者は10万人を大きく上回ることになる。
 これは新卒者にとって大きな問題であるが、その社会・経済的な意味合いはもっと深刻だ。10万人を上回る新卒者がアルバイトや派遣労働者など、新たに「不正規雇用者」となる。日本の就職制度は、基本的には新卒者の終身雇用を前提にしているので、若干の中間採用はあるが、一旦「不正規雇用者」に組み込まれるとほぼ生涯不正規就業者として生活して行かなくてはならないことになる。不正規雇用者は、労働力調査では09年に総就労者5千万人強(農業を除く)の約33%、約1,680万人にも達している。2010年にはその比率が34、5%に増加し、総就労者の3人に1人が「不正規雇用者」となり、将来景気が顕著に回復しない限りその状態が続くことになる。
 不正規就労者はバブル崩壊の影響が顕著となった90年代半ば頃より急速に増加し、2004年まで年間10万人を越え、30%台となった。その後年間10万人を下回るなだらかな増加に転じつつあったが、今年10万人を越える増加に再び転じる。このことは、2001年以降の小泉改革成長路線は“格差”を広げたと言われているが、アルバイトや派遣などの不正規労働者は90年代半ば頃より急速に増加し、正規、不正規という労働市場の2重構造、格差が改革成長路線以前に造られており、適切な経済対策、雇用対策が採られなかったことを物語っている。そして、改革成長路線の成果が現れ始めた05年以降やや改善していたものの十分ではなかったことを示している。しかしその成果も残念ながら本年で消える見通しだ。
 終身雇用制は、就労者にとっても、雇用者側にとっても安定的な雇用関係が維持できるという利点があり、それ自体に問題があるわけではないが、総就労者の3人に1人以上が「不正規雇用者」であることは、就労形態としてはもはや例外的ではなく、構造的な問題となって来ており、格差の温床となっている。「不正規雇用者」の常態化の最大の問題は、新卒者として社会人なる出発点で「不正規就労者市場」に組み込まれ、ほぼ一生正規就労者となる機会を失ってしまうことだ。無論、フリーターなど自由な生活スタイルを希望する者もいるが、多くの人は安定した職業、所得を望んでいる一方、失職すれば失業保険の増加の他、ホームレスや生活保護、自殺などの社会問題を起こし易く、社会コストを増加させる結果となっている。従って、短期的な雇用対策は必要であるが、中・長期的にはこれらの人々がもっと安定的な形で就労する機会が与えられるような雇用形態、制度として行くことが望まれる。
 1、鍵となる職能制雇用形態の拡大
 不正規雇用者の比率は、バブル経済崩壊前夜の1990年の20.0%から徐々に増加し、2003年には30%を超え、06年には33.2%に達したものの、なだらかな増加となっていた。しかし、米国の低所得者向け住宅ローン(サブ・プライムローン)の破綻に端を発した金融不安から、08年9月に米国の5大証券の一つのリーマン・ブラザースが倒産し、金融危機が深刻化すると共に世界に波及し、日本の輸出産業の業績悪化から派遣従業員の大量解雇などが行われたことから、08年の不正規雇用者は33.9%に達した。
 今後の米国をはじめとする世界経済の回復状況にもよるが、不正規雇用者の比率は当面30%台で推移するものと予想される。当分の間劇的な改善は予想されない。
 日本の終身雇用制の問題は、原則として新卒者を新規雇用の対象としていることで、たまたま就職の年が不況であったり、希望する企業等への就職を逃すと中間採用で救済されることはほとんどなくなり、余程強い志を持っている場合を除き、多くの人は卒業、就職でほぼ将来が決まってしまい、制度として再チャレンジややり直しの道はほとんどないということである。
 新卒者の採用数を減らし、その分中間採用を増やすようになればこの面での硬直性はある程度改善して行くであろう。しかし、それが定着するまでは、企業としては賃金コストが上がると共に、ポストの問題や企業機密の流失などの問題がありメリットは少ない。他方業績不振でも解雇は困難で、労働組合との調整がつかなければ倒産の道を選ばざるを得なくなるなどのデメリットがある。しかし通常は事業継続が前提であるので、パートや派遣従業員などで補う方が現実的だ。
 新卒至上主義を改め、適材適所でやる気のある人材を広く求められる雇用制度は職能制雇用の拡大にあるのではないだろうか。
 製造産業については、それぞれの産業において産業別か、旋盤、プレス、仕上げ加工、ロウ付け、組み立て、塗装、検査など職種による職能別給与区分とする。その上で、各職種について、例えば経験0-5年未満、5-10年未満、10-15年未満、15-20年未満、20年以上などとして経験年数別の給与の幅を設け、職能別、経験年数別で経験年数・技能レベルに基づく給与表を作成する。65歳以上(役員は除く)については給与レベルは逓減することになろうが、特に年齢制限を設けず、職種、経験年数区分の中で採用時に格付けする。事務職、技術職についても同様に産業別に庶務職、会計職、コンピューター技術職、営業職、一般総合職、課長職、部長職など、職能別、経験年数別の給与表を作成する。
 これにより求職者は、新卒者は新卒者として、また新卒者以外でもそれぞれの経験や技能・技術に応じて志望産業の職能別に応募し、経験年数に応じた給与を得ることになる。異なる職能を希望する場合は改めて応募すればよいので、年齢を問わず、経験年数に応じて産業、職種を選べることになる。求人側も、職能、経験に応じた人材を得易くなり、弾力的な雇用関係が形成されることになろう。
 このような職能制雇用が制度化して行けば、バブル崩壊後の不況期にぶつかった新卒者で不正規就業者となった者も常に職能別の雇用の機会が得られる上、景気の回復に従って各自の希望する産業、職種への就職がより容易になると予想される。また今後の少子化、新卒者の減少と退職年齢層の増加を考えると、景気が大幅に回復した場合、新卒者の大量雇用、労働力補充が困難になると見られるので、年齢を問わず職能別に広く人材を求める職能制雇用制度はメリットとなろう。
 派遣法を改正し、製造業への「派遣」を禁止するとの動きがある。それ自体は良いとしても、それにより企業はアルバイトや日雇いなどの不正規労働者に切り替えるなどの対応をし、正規社員の中途採用に転換する企業は極めて限定的となる可能性が強い。
 職能制求人は、各企業が行うことであるが、経産省と厚労省が中心となり職能制の模範形を作成し、奨励すれば促進効果が期待される。ハローワークなどで職業訓練が行われているものの、就職にはなかなか結びつかないなど実効が上がっていないのが実情だが、職能制が拡大すれば職業訓練も生きてこよう。

 2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
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不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵― (総集編)

2010-03-22 | Weblog
不正規就労者問題に光をー職能制採用の拡大が鍵― (総集編)
 2010年3月の大学新卒予定者の内、就職出来ない学生が10万人を超える見通しと文部科学省が新年早々明らかにした。大学院などへの進学予定者は含まれていないので、一部留年するとしても、就職出来ない学生が10万人を超えるのは2004年以降初めてとされており、改革成長路線の恩恵が2010年でほぼ消えることになる。1月の厚労省発表では、本年3月の大学新卒予定者の就職内定率は73%強に止まっているが、高校では68%と就職難であるので、中学、高校・専門学校を含めると、正規に就職できない新卒者は10万人を大きく上回ることになる。
 これは新卒者にとって大きな問題であるが、その社会・経済的な意味合いはもっと深刻だ。10万人を上回る新卒者がアルバイトや派遣労働者など、新たに「不正規雇用者」となる。日本の就職制度は、基本的には新卒者の終身雇用を前提にしているので、若干の中間採用はあるが、一旦「不正規雇用者」に組み込まれるとほぼ生涯不正規就業者として生活して行かなくてはならないことになる。不正規雇用者は、労働力調査では09年に総就労者5千万人強(農業を除く)の約33%、約1,680万人にも達している。2010年にはその比率が34、5%に増加し、総就労者の3人に1人が「不正規雇用者」となり、将来景気が顕著に回復しない限りその状態が続くことになる。
 不正規就労者はバブル崩壊の影響が顕著となった90年代半ば頃より急速に増加し、2004年まで年間10万人を越え、30%台となった。その後年間10万人を下回るなだらかな増加に転じつつあったが、今年10万人を越える増加に再び転じる。このことは、2001年以降の小泉改革成長路線は“格差”を広げたと言われているが、アルバイトや派遣などの不正規労働者は90年代半ば頃より急速に増加し、正規、不正規という労働市場の2重構造、格差が改革成長路線以前に造られており、適切な経済対策、雇用対策が採られなかったことを物語っている。そして、改革成長路線の成果が現れ始めた05年以降やや改善していたものの十分ではなかったことを示している。しかしその成果も残念ながら本年で消える見通しだ。
 終身雇用制は、就労者にとっても、雇用者側にとっても安定的な雇用関係が維持できるという利点があり、それ自体に問題があるわけではないが、総就労者の3人に1人以上が「不正規雇用者」であることは、就労形態としてはもはや例外的ではなく、構造的な問題となって来ており、格差の温床となっている。「不正規雇用者」の常態化の最大の問題は、新卒者として社会人なる出発点で「不正規就労者市場」に組み込まれ、ほぼ一生正規就労者となる機会を失ってしまうことだ。無論、フリーターなど自由な生活スタイルを希望する者もいるが、多くの人は安定した職業、所得を望んでいる一方、失職すれば失業保険の増加の他、ホームレスや生活保護、自殺などの社会問題を起こし易く、社会コストを増加させる結果となっている。従って、短期的な雇用対策は必要であるが、中・長期的にはこれらの人々がもっと安定的な形で就労する機会が与えられるような雇用形態、制度として行くことが望まれる。
 1、鍵となる職能制雇用形態の拡大
 不正規雇用者の比率は、バブル経済崩壊前夜の1990年の20.0%から徐々に増加し、2003年には30%を超え、06年には33.2%に達したものの、なだらかな増加となっていた。しかし、米国の低所得者向け住宅ローン(サブ・プライムローン)の破綻に端を発した金融不安から、08年9月に米国の5大証券の一つのリーマン・ブラザースが倒産し、金融危機が深刻化すると共に世界に波及し、日本の輸出産業の業績悪化から派遣従業員の大量解雇などが行われたことから、08年の不正規雇用者は33.9%に達した。
 今後の米国をはじめとする世界経済の回復状況にもよるが、不正規雇用者の比率は当面30%台で推移するものと予想される。当分の間劇的な改善は予想されない。
 日本の終身雇用制の問題は、原則として新卒者を新規雇用の対象としていることで、たまたま就職の年が不況であったり、希望する企業等への就職を逃すと中間採用で救済されることはほとんどなくなり、余程強い志を持っている場合を除き、多くの人は卒業、就職でほぼ将来が決まってしまい、制度として再チャレンジややり直しの道はほとんどないということである。
 新卒者の採用数を減らし、その分中間採用を増やすようになればこの面での硬直性はある程度改善して行くであろう。しかし、それが定着するまでは、企業としては賃金コストが上がると共に、ポストの問題や企業機密の流失などの問題がありメリットは少ない。他方業績不振でも解雇は困難で、労働組合との調整がつかなければ倒産の道を選ばざるを得なくなるなどのデメリットがある。しかし通常は事業継続が前提であるので、パートや派遣従業員などで補う方が現実的だ。
 新卒至上主義を改め、適材適所でやる気のある人材を広く求められる雇用制度は職能制雇用の拡大にあるのではないだろうか。
 製造産業については、それぞれの産業において産業別か、旋盤、プレス、仕上げ加工、ロウ付け、組み立て、塗装、検査など職種による職能別給与区分とする。その上で、各職種について、例えば経験0-5年未満、5-10年未満、10-15年未満、15-20年未満、20年以上などとして経験年数別の給与の幅を設け、職能別、経験年数別で経験年数・技能レベルに基づく給与表を作成する。65歳以上(役員は除く)については給与レベルは逓減することになろうが、特に年齢制限を設けず、職種、経験年数区分の中で採用時に格付けする。事務職、技術職についても同様に産業別に庶務職、会計職、コンピューター技術職、営業職、一般総合職、課長職、部長職など、職能別、経験年数別の給与表を作成する。
 これにより求職者は、新卒者は新卒者として、また新卒者以外でもそれぞれの経験や技能・技術に応じて志望産業の職能別に応募し、経験年数に応じた給与を得ることになる。異なる職能を希望する場合は改めて応募すればよいので、年齢を問わず、経験年数に応じて産業、職種を選べることになる。求人側も、職能、経験に応じた人材を得易くなり、弾力的な雇用関係が形成されることになろう。
 このような職能制雇用が制度化して行けば、バブル崩壊後の不況期にぶつかった新卒者で不正規就業者となった者も常に職能別の雇用の機会が得られる上、景気の回復に従って各自の希望する産業、職種への就職がより容易になると予想される。また今後の少子化、新卒者の減少と退職年齢層の増加を考えると、景気が大幅に回復した場合、新卒者の大量雇用、労働力補充が困難になると見られるので、年齢を問わず職能別に広く人材を求める職能制雇用制度はメリットとなろう。
 派遣法を改正し、製造業への「派遣」を禁止するとの動きがある。それ自体は良いとしても、それにより企業はアルバイトや日雇いなどの不正規労働者に切り替えるなどの対応をし、正規社員の中途採用に転換する企業は極めて限定的となる可能性が強い。
 職能制求人は、各企業が行うことであるが、経産省と厚労省が中心となり職能制の模範形を作成し、奨励すれば促進効果が期待される。ハローワークなどで職業訓練が行われているものの、就職にはなかなか結びつかないなど実効が上がっていないのが実情だが、職能制が拡大すれば職業訓練も生きてこよう。

 2、望まれる公務員の職階制への転換と公募の促進
産業、企業レベルでの職階制の拡大はそれぞれ行われるべきであり、政府とし
ても奨励することが望まれるが、「不正規就業者」を縮小し、労働市場の2重構造を解消して行くためには、地方公務員を含む公務員の職階制への転換と新卒者優先、年齢制限を撤廃し、公務員組織が率先して不正規就業の縮小、労働市場の正常化に取り組むことが望まれる。公的資金で運営されている特殊法人、独立行政法人、及び一部の公益法人、財団法人などについても同様の取り組みが期待される。
 現在、官公庁は総定員法に基づく「定員」で管理されているが、その枠外でアルバイト、臨時雇員、調査員などとして多数の要員を雇用している。それらは予算上の「人件費」の枠外に置かれているが、実体上は職員であり、人件費と見てよい。また特殊法人、独立行政法人など、政府関係機関の職員も官公庁に代わって公的な業務を行っており、定員を定めている法律上の「定員」の枠外に置かれているが、公務員に準じる職員であるので、公務員同様、職階制に転換し、年齢制限を撤廃した形で広く人材を求めることが望ましい。
 特に公務員、準公務員などについては、新卒優先や年齢制限を設けて国民が公務に携わる機会を制限、排除すべきではなく、意志と能力のある国民が広く公務に付く機会を開いておくことが望ましい。
 官民において職階制の雇用形態が普及すれば、景気停滞期には官公庁が景気対策として特定の職種につき採用を増やし、取り敢えず職を持たせる雇用対策を行うことも容易になる。これらの職員も、景気が回復すれば希望に沿った職種に転職することが出来る。また政権交代の際、人事の移動や入れ替えを容易にすることにもなろう。
 現在のように、3人に1人が「不正規就業者」という雇用体系を長期化、固定化することは格差、労働市場の2重構造を固定化、制度化する結果を招く恐れがあるので、抜本的な改善が望まれる。
「不正規就業者」は、雇用形態が不安定である上、年金や健康保険、労災などの適正な労働条件が確保されていない場合もあるので、各種の社会問題を起こし、社会保障費など社会コストを増加させる結果ともなっている。いずれにしても、30%を超える就業者が、たまたま卒業の年が就職難の時期に当たったために正規の職が得られず、不正規就業の状態がほぼ生涯継続する可能性が強くなるとすれば、個人レベルの不安定性だけではなく、日本社会として問題ではなかろうか。目先の企業への雇用促進のための補助金の支給や製造業への「派遣」の禁止などの措置もよいが、官民が協力して抜本的な制度の転換を検討する時期に来ていると言えないだろうか。(2010.01.)(不許無断転載)
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