シリーズ 被災地の復興、復旧に一つになろう、日本! (その3、その4 再掲)
5月6日、菅首相は浜岡原子力発電所を5つの原子炉につき全て停止するよう中部電力に要請した旨公表した。同発電所は、静岡県御前崎市の沿岸にあり、東海地震の震源域のほぼ中央にあり、マグニチュード8以上の大地震が発生する可能性が高いとの専門家の予測に基づき、大規模地震と津波に対する防災面での対応をするためとされる。
2004年12月26日にスマトラ沖で発生したマグニテユード9.3の巨大地震と広範な巨大津波は大きな被害を残したが、翌2005年3月28日にその震源から250キロほど南東沖でマグニテユード8.6の地震が発生し、近隣諸島に津波被害が出ている。必ずしも連動した地震ではないと言われおり、今回そのような地震が再発するとは言えないものの、東海地震の震源域にある浜岡原発の防災上の手当ては急務であるので、一つの判断であると言える。
これを受けて中部電力は、翌7日の取締会で対応を検討したが、夏期を前にして電力需要に応えられるかや火力発電などへの切り替えによるコスト高、収益悪化などへの影響を考慮して、結論を見送った。また政府の公的な要請で原子炉を停止するのであるから、損失補填の問題や防災措置の整備に必要な費用助成の問題なども検討されることになろう。
菅政権側は、浜岡原発以外の原子力発電所については停止を要請しないとしているが、その他の原子力発電所についても防災措置を点検する必要があろう。また安全保障上の問題でもあるので公には余り議論されていないが、国際テロを含む原子力発電所への攻撃への備えについても、抜本的な再検討を迫られていると言えよう。
このようなことから、原子力発電が「クリーンで安全」とのこれまでの説明と共に、原子炉に問題が発生した場合の広範な影響と膨大な費用を考慮すると低コストとのイメージに疑問が呈されており、エネルギー政策の再検討が不可欠になっている。
このような状況から、日本経済は東日本大震災を契機として、復旧、復興を道筋と共に、電力供給やエネルギー政策を中心として日本経済全体のあり方を再検討する必要に迫られていると言えよう。「シリーズ 被災地の復興、復旧に一つになろう、日本!」は震災後5つの政策評論を掲げたが、シリーズ3の「福島原発被災事故への対応と今後の電力政策」とシリーズ4の「東日本復興は日本経済リセットの好機!」を再掲載することとしたい。
2、福島原発被災事故への対応と今後の電力政策
福島原発被災事故は、東日本大震災による被災対策を非常に複雑且つ危機的なものにすると共に、首都圏の経済社会活動に大きな影響を与え、それへの対応が長期化する様相を呈している。同時に、今後原子力政策や電力供給政策の再検討を余儀なくされている。
(1)十分でなかった災害、事故への備え
基本的に「想定を越えた災害」が起こったとは言え、福島原子力発電所における大規模地震や津波災害への備えが十分でなかったことが明らかになったと共に、原子炉に危機的な異変が起こった後の対応振りや備えがハード、ソフト双方の面で十分でなかったことが明らかになった。これまで検出されている放射能レベルから原子炉内の核燃料や冷却されている使用済み核燃料が融解、損傷していることは明らかであり、強い放射能の漏出のため冷却装置の復旧作業を一層困難にしている。その安定化には相当の長期を要するものと予想される。
この状況は、核融解の瀬戸際という国家危機とも言えるところであるので、東京電力1企業の能力を超える段階に来ていると言えよう。これのような状況を受けて政府(原子力安全・保安院)は、4月12日、国際的な核安全基準の暫定評価を最高レベルの7「危険な状態」に引き上げた。この評価についても、86年のチェルノブイリ原発事故と比較して放射能レベルは低い、或いは公表が遅すぎた、今後更に何が起こるのかなど、様々な意見が出されている。
放射能防護などについては、日本だけではなく、核先進各国の核防護スペシャリストや軍の核防護スペシャリスト、或いは放射能防護のための資機材の提供など、あらゆる可能な方法を総動員する必要があろう。
3月11日に発電施設が地震と津波で被害を受け、原子炉等の冷却装置が作動しなくなって以来、東電の職員、関係者や消防、自衛隊等が昼夜に亘り事態に対処しているが、放射能の危険の中で免震重要棟において寝泊りし最悪の事態を回避するため原子炉の安定化に努力している姿は、日本人の責任感の強さと士気の高さとして多くの国でも賞賛されている。後手に回っている、情報伝達が遅いなど各方面からの批判はあるが、過酷な状況で健康を掛けて沈静化作業に当たっている現場の作業員を激励し、支援することも重要なのであろう。少なくても寝具、食料や放射線防護用品などを十分に供給すると共に、放射線量なども勘案してローテンションを組み、休憩組みは少し離れた適当な宿舎で休ませるなど、作業員の健康保持に留意することが強く望まれる。
今後原子力政策は再検討を余儀なくされ、また原子力発電所建設に関する途上国援助についても安全性の向上や危機時の対応の必要性を含め慎重に再検討する必要があろう。そして今後の電力供給については、電力消費の節減を図る一方、原子力発電の安全性向上のための更なる研究はもとよりのことであるが、基本的に原子力に依存しない体制を築いて行くことが望まれる。例えば高層ビルや工場については、屋上や屋根に太陽光パネルを敷設し、或いは太陽光フイルムを窓ガラスに張るなどして太陽発電をもっと組織的に利用するなど、技術力を発揮すべきであろう。また水力発電についても今一度国レベルだけではなく、地域レベルでも再検討して良いのであろう。若干コスト高になるが、地域、コミュニテイ・レベルでの中規模水力発電なども検討の価値があろう。また東日本と西日本とで電気の周波数を統一するか互換性を持たせることが急務だ。
危機時にはシナリオはない。どのような危機も、想定外の災害や事故が重なり危機的な状況となって行くので、どうしても芋ずる式対応になりがちだ。それを事象が分ってから批判することは簡単であるが、大切なことは現場の者を鼓舞し、対応の仕方を示して挙げることであろう。現場の者は全て各々真剣に事態に対応しており、事態の収束を最も強く願っているのも現場の者である。
しかし行政組織を一つにまとめるためのリーダーシップが必要だ。リーダーシップとは、判断の上決断し、その結果に責任を取るということであろう。行政執行の専門集団である行政各部は、責任を共有する組織であるので、どうしても責任が分散されることは避けられない。また従来築かれた制度、ルールに従って行動している以上、どうしてもそれを擁護する意識が働くことは自然な流れであろう。それだけに大きな政策判断や危機時などには政治的リーダーシップの下での決断が重要になって来るのであろう。
各種の批判等があるが、旧来の政治・行政では想定していなかった大震災に遭遇しているので仕方がないのであろう。東電福島原発自体が被災者でもある。大災害への備えが十分でなかったとの批判があり、これらの制度を築いて来た人達を含め誰も予想し得なかったとしても、結果論としては批判は避けられないのであろう。過去の安全・保安体制に不備があったことは明らかであり、再検討を余儀なくされよう。しかしそれは当面の危機を回避し、6基の原子炉が安定状態となったからでも遅くはない。
当面の国民や世界の関心は、危機の回避、原子炉の安定化、放射能の封じ込めである。小異を越えて政府、与野党が一つになりこの国家危機を回避して欲しいものだ。(2011.04.)
3、東日本復興は日本経済リセットの好機!
3月11日午後に発生した東日本大震災は、マグニチュード9.0という大規模地震と津波であったことから、東日本全域に及ぶ甚大な被害を与えた。更に福島原発被災事故による放射能被害の拡散と電力供給不足が問題を複雑化、長期化させており、影響が首都圏のみならず日本経済全体に及ぶ緊急事態となっている。被災された皆様、関係者の皆様に心からのお見舞いをお伝えしたい。
従って今回の災害対策は、被災地の復旧・復興から原子炉の安定化と放射能対策、そして電力供給対策、放射能汚染食物対策、飲料水対策など、広域、多岐に亘る。
しかしそのよう当面の被災対策に加え、萎縮する経済・社会活動への対策が不可欠となって来ている。
(1)オーバーキル(過剰抑制)は復旧・復興のためにはならない
復興活動には長期を要し、膨大な資金を必要としている。基本的にはそれを日本の経済活動の中から捻出して行かなくてはならない。復興税や消費税増税の議論は別として、日本経済を前に進め、収益を出し、税収を図って行かなくてはならない。節電や自粛の呼び掛けは必要としても、経済や社会活動がオバーキル(過剰抑制)することなく、前に進める姿勢と行動が必要だ。
(2)日本経済をリセットして新しい生産・消費モデルを構築する好機
三陸地方の被災地では被災者は既に復旧に立ち上がっている。復興の夢を持って生きるためである。それを支えるのが被災地外の経済・社会である。
節電の一方で、福島原発を補填する電力を確保して行かなくてはならない。そこで遊休している火力発電所の再開などが行われているが、従来通りの電力需要に応えるためには地球温暖化防止のために目標とされている炭酸ガス排出基準を上回ることが予想されている。しかし地球温暖化防止は、地球上の人類及びその他生物の活動の持続可能性に係わる課題であり、先進工業国と新興経済諸国を中心として世界で真剣に検討されている国際的な取り組みである。その努力を日本が軽々に放棄することは許されない。日本は国連気候変動枠組み条約の京都議定書で合意した温室効果ガスの排出基準も達成していない。
今後の東日本の復興、再生に当たっては、これまでの生産、消費モデルをそのまま復元するのではなく、化石燃料の量的制約と排出ガス等の問題、原子力発電新設上の制約や温暖化対策への国際的協力の必要性など、国内外の制約ときちんと向き合った上、東日本を中心として日本経済をリセットして新しい生産・消費モデルを構築し、エネルギー・資源の効率的使用、温暖化防止対策において世界に誇れる経済を構築出来るのではないだろうか。
(3)被災地の復旧・復興特需で経済成長率は上昇する
大震災により東日本の生産活動は当面20%から30%前後後退するものと予想され、悲観論が伝えられている。地震だけでなく三陸地方を中心に巨大津波で根こそぎ被害を受けているので、復旧が軌道に乗るまでは影響は大きいことは明らかだ。
しかし1995年1月の阪神淡路大震災に際しては、予想外の関西での大震災であったので内外に大きな衝撃を与えたが、この年の経済成長率は2.5%、翌96年は2.9%と前年度を上回り、阪神淡路大震災の影響は克服されている。
被災地の多くは復旧に立ち上がっている。それは当面の生活の場の復旧であり、その後の地場産業を含む復興、再生のためである。このような復旧、復興活動から、いわば復旧・復興特需とも言える需要が生まれ、景気を下支えする。重要なことは、このような地元の復旧、復興活動を資機材面、資金面及び人材面で支えて行くことが大切である。
今、国民の多くは被災地復興と電力危機への対応で一つになっている。これほど多くの分野、人達が国家危機を乗り越えようと一つになったことは余り例がない。その国民的な支持、コンセンサスがあれば、これまでの大量生産・大量消費の生産モデルを適量消費・適量生産に基づいた高かい資源・エネルギー効率の生産・消費モデルに転換し、電力を含むエネルギー・資源の高効率、低排出ガスにおいて世界に誇れる経済となることは不可能ではない。そこからまた世界の市場を対象として新しいビジネス・チャンスや雇用機会が生まれるものと期待される。(2011.04.11.) (All Rights Reserved.)(不許無断引用)
5月6日、菅首相は浜岡原子力発電所を5つの原子炉につき全て停止するよう中部電力に要請した旨公表した。同発電所は、静岡県御前崎市の沿岸にあり、東海地震の震源域のほぼ中央にあり、マグニチュード8以上の大地震が発生する可能性が高いとの専門家の予測に基づき、大規模地震と津波に対する防災面での対応をするためとされる。
2004年12月26日にスマトラ沖で発生したマグニテユード9.3の巨大地震と広範な巨大津波は大きな被害を残したが、翌2005年3月28日にその震源から250キロほど南東沖でマグニテユード8.6の地震が発生し、近隣諸島に津波被害が出ている。必ずしも連動した地震ではないと言われおり、今回そのような地震が再発するとは言えないものの、東海地震の震源域にある浜岡原発の防災上の手当ては急務であるので、一つの判断であると言える。
これを受けて中部電力は、翌7日の取締会で対応を検討したが、夏期を前にして電力需要に応えられるかや火力発電などへの切り替えによるコスト高、収益悪化などへの影響を考慮して、結論を見送った。また政府の公的な要請で原子炉を停止するのであるから、損失補填の問題や防災措置の整備に必要な費用助成の問題なども検討されることになろう。
菅政権側は、浜岡原発以外の原子力発電所については停止を要請しないとしているが、その他の原子力発電所についても防災措置を点検する必要があろう。また安全保障上の問題でもあるので公には余り議論されていないが、国際テロを含む原子力発電所への攻撃への備えについても、抜本的な再検討を迫られていると言えよう。
このようなことから、原子力発電が「クリーンで安全」とのこれまでの説明と共に、原子炉に問題が発生した場合の広範な影響と膨大な費用を考慮すると低コストとのイメージに疑問が呈されており、エネルギー政策の再検討が不可欠になっている。
このような状況から、日本経済は東日本大震災を契機として、復旧、復興を道筋と共に、電力供給やエネルギー政策を中心として日本経済全体のあり方を再検討する必要に迫られていると言えよう。「シリーズ 被災地の復興、復旧に一つになろう、日本!」は震災後5つの政策評論を掲げたが、シリーズ3の「福島原発被災事故への対応と今後の電力政策」とシリーズ4の「東日本復興は日本経済リセットの好機!」を再掲載することとしたい。
2、福島原発被災事故への対応と今後の電力政策
福島原発被災事故は、東日本大震災による被災対策を非常に複雑且つ危機的なものにすると共に、首都圏の経済社会活動に大きな影響を与え、それへの対応が長期化する様相を呈している。同時に、今後原子力政策や電力供給政策の再検討を余儀なくされている。
(1)十分でなかった災害、事故への備え
基本的に「想定を越えた災害」が起こったとは言え、福島原子力発電所における大規模地震や津波災害への備えが十分でなかったことが明らかになったと共に、原子炉に危機的な異変が起こった後の対応振りや備えがハード、ソフト双方の面で十分でなかったことが明らかになった。これまで検出されている放射能レベルから原子炉内の核燃料や冷却されている使用済み核燃料が融解、損傷していることは明らかであり、強い放射能の漏出のため冷却装置の復旧作業を一層困難にしている。その安定化には相当の長期を要するものと予想される。
この状況は、核融解の瀬戸際という国家危機とも言えるところであるので、東京電力1企業の能力を超える段階に来ていると言えよう。これのような状況を受けて政府(原子力安全・保安院)は、4月12日、国際的な核安全基準の暫定評価を最高レベルの7「危険な状態」に引き上げた。この評価についても、86年のチェルノブイリ原発事故と比較して放射能レベルは低い、或いは公表が遅すぎた、今後更に何が起こるのかなど、様々な意見が出されている。
放射能防護などについては、日本だけではなく、核先進各国の核防護スペシャリストや軍の核防護スペシャリスト、或いは放射能防護のための資機材の提供など、あらゆる可能な方法を総動員する必要があろう。
3月11日に発電施設が地震と津波で被害を受け、原子炉等の冷却装置が作動しなくなって以来、東電の職員、関係者や消防、自衛隊等が昼夜に亘り事態に対処しているが、放射能の危険の中で免震重要棟において寝泊りし最悪の事態を回避するため原子炉の安定化に努力している姿は、日本人の責任感の強さと士気の高さとして多くの国でも賞賛されている。後手に回っている、情報伝達が遅いなど各方面からの批判はあるが、過酷な状況で健康を掛けて沈静化作業に当たっている現場の作業員を激励し、支援することも重要なのであろう。少なくても寝具、食料や放射線防護用品などを十分に供給すると共に、放射線量なども勘案してローテンションを組み、休憩組みは少し離れた適当な宿舎で休ませるなど、作業員の健康保持に留意することが強く望まれる。
今後原子力政策は再検討を余儀なくされ、また原子力発電所建設に関する途上国援助についても安全性の向上や危機時の対応の必要性を含め慎重に再検討する必要があろう。そして今後の電力供給については、電力消費の節減を図る一方、原子力発電の安全性向上のための更なる研究はもとよりのことであるが、基本的に原子力に依存しない体制を築いて行くことが望まれる。例えば高層ビルや工場については、屋上や屋根に太陽光パネルを敷設し、或いは太陽光フイルムを窓ガラスに張るなどして太陽発電をもっと組織的に利用するなど、技術力を発揮すべきであろう。また水力発電についても今一度国レベルだけではなく、地域レベルでも再検討して良いのであろう。若干コスト高になるが、地域、コミュニテイ・レベルでの中規模水力発電なども検討の価値があろう。また東日本と西日本とで電気の周波数を統一するか互換性を持たせることが急務だ。
危機時にはシナリオはない。どのような危機も、想定外の災害や事故が重なり危機的な状況となって行くので、どうしても芋ずる式対応になりがちだ。それを事象が分ってから批判することは簡単であるが、大切なことは現場の者を鼓舞し、対応の仕方を示して挙げることであろう。現場の者は全て各々真剣に事態に対応しており、事態の収束を最も強く願っているのも現場の者である。
しかし行政組織を一つにまとめるためのリーダーシップが必要だ。リーダーシップとは、判断の上決断し、その結果に責任を取るということであろう。行政執行の専門集団である行政各部は、責任を共有する組織であるので、どうしても責任が分散されることは避けられない。また従来築かれた制度、ルールに従って行動している以上、どうしてもそれを擁護する意識が働くことは自然な流れであろう。それだけに大きな政策判断や危機時などには政治的リーダーシップの下での決断が重要になって来るのであろう。
各種の批判等があるが、旧来の政治・行政では想定していなかった大震災に遭遇しているので仕方がないのであろう。東電福島原発自体が被災者でもある。大災害への備えが十分でなかったとの批判があり、これらの制度を築いて来た人達を含め誰も予想し得なかったとしても、結果論としては批判は避けられないのであろう。過去の安全・保安体制に不備があったことは明らかであり、再検討を余儀なくされよう。しかしそれは当面の危機を回避し、6基の原子炉が安定状態となったからでも遅くはない。
当面の国民や世界の関心は、危機の回避、原子炉の安定化、放射能の封じ込めである。小異を越えて政府、与野党が一つになりこの国家危機を回避して欲しいものだ。(2011.04.)
3、東日本復興は日本経済リセットの好機!
3月11日午後に発生した東日本大震災は、マグニチュード9.0という大規模地震と津波であったことから、東日本全域に及ぶ甚大な被害を与えた。更に福島原発被災事故による放射能被害の拡散と電力供給不足が問題を複雑化、長期化させており、影響が首都圏のみならず日本経済全体に及ぶ緊急事態となっている。被災された皆様、関係者の皆様に心からのお見舞いをお伝えしたい。
従って今回の災害対策は、被災地の復旧・復興から原子炉の安定化と放射能対策、そして電力供給対策、放射能汚染食物対策、飲料水対策など、広域、多岐に亘る。
しかしそのよう当面の被災対策に加え、萎縮する経済・社会活動への対策が不可欠となって来ている。
(1)オーバーキル(過剰抑制)は復旧・復興のためにはならない
復興活動には長期を要し、膨大な資金を必要としている。基本的にはそれを日本の経済活動の中から捻出して行かなくてはならない。復興税や消費税増税の議論は別として、日本経済を前に進め、収益を出し、税収を図って行かなくてはならない。節電や自粛の呼び掛けは必要としても、経済や社会活動がオバーキル(過剰抑制)することなく、前に進める姿勢と行動が必要だ。
(2)日本経済をリセットして新しい生産・消費モデルを構築する好機
三陸地方の被災地では被災者は既に復旧に立ち上がっている。復興の夢を持って生きるためである。それを支えるのが被災地外の経済・社会である。
節電の一方で、福島原発を補填する電力を確保して行かなくてはならない。そこで遊休している火力発電所の再開などが行われているが、従来通りの電力需要に応えるためには地球温暖化防止のために目標とされている炭酸ガス排出基準を上回ることが予想されている。しかし地球温暖化防止は、地球上の人類及びその他生物の活動の持続可能性に係わる課題であり、先進工業国と新興経済諸国を中心として世界で真剣に検討されている国際的な取り組みである。その努力を日本が軽々に放棄することは許されない。日本は国連気候変動枠組み条約の京都議定書で合意した温室効果ガスの排出基準も達成していない。
今後の東日本の復興、再生に当たっては、これまでの生産、消費モデルをそのまま復元するのではなく、化石燃料の量的制約と排出ガス等の問題、原子力発電新設上の制約や温暖化対策への国際的協力の必要性など、国内外の制約ときちんと向き合った上、東日本を中心として日本経済をリセットして新しい生産・消費モデルを構築し、エネルギー・資源の効率的使用、温暖化防止対策において世界に誇れる経済を構築出来るのではないだろうか。
(3)被災地の復旧・復興特需で経済成長率は上昇する
大震災により東日本の生産活動は当面20%から30%前後後退するものと予想され、悲観論が伝えられている。地震だけでなく三陸地方を中心に巨大津波で根こそぎ被害を受けているので、復旧が軌道に乗るまでは影響は大きいことは明らかだ。
しかし1995年1月の阪神淡路大震災に際しては、予想外の関西での大震災であったので内外に大きな衝撃を与えたが、この年の経済成長率は2.5%、翌96年は2.9%と前年度を上回り、阪神淡路大震災の影響は克服されている。
被災地の多くは復旧に立ち上がっている。それは当面の生活の場の復旧であり、その後の地場産業を含む復興、再生のためである。このような復旧、復興活動から、いわば復旧・復興特需とも言える需要が生まれ、景気を下支えする。重要なことは、このような地元の復旧、復興活動を資機材面、資金面及び人材面で支えて行くことが大切である。
今、国民の多くは被災地復興と電力危機への対応で一つになっている。これほど多くの分野、人達が国家危機を乗り越えようと一つになったことは余り例がない。その国民的な支持、コンセンサスがあれば、これまでの大量生産・大量消費の生産モデルを適量消費・適量生産に基づいた高かい資源・エネルギー効率の生産・消費モデルに転換し、電力を含むエネルギー・資源の高効率、低排出ガスにおいて世界に誇れる経済となることは不可能ではない。そこからまた世界の市場を対象として新しいビジネス・チャンスや雇用機会が生まれるものと期待される。(2011.04.11.) (All Rights Reserved.)(不許無断引用)