内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その2)

2015-10-08 | Weblog

  北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発              (その2)

―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー

 8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。

 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。

 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。

 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。

 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。

 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発        (その1で掲載)

 2、   密かに進められる核とミサイル開発   

 8月の米韓合同演習を巡る北朝鮮の姿勢は、一見挑発から和解に転じたように映るが、その背後で核と長距離ミサイルの開発が着実に進められていることが北朝鮮の当局者の見解として明らかにされている。

 (1)ミサイル開発

 北朝鮮の国家宇宙開発局長官は、9月14日、朝鮮中央通信を通じ、‘朝鮮労働党創立70周年に際し’宇宙開発分野での成果について述べるとして、国家宇宙開発局は‘気象観測等のため、新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’旨明らかにしている。そして世界は、中央委員会が決定する場所と時期に打ち上げられる‘先軍朝鮮の一連の衛星’を見ることになろうと締めくくっている。

 (2)核開発

 翌9月15日には同じく朝鮮中央通信が、北朝鮮の核開発について‘原子力研究院’の院長へのインタビューを伝え、その中で‘北朝鮮の核の対応は、米国の北朝鮮に対する敵視政策と核の脅威である’としている。そして既に明らかにされているように、‘経済建設と核戦力開発を同時並行的に進めるとの中央委の方針に沿って、寧辺にあるウラン濃縮施設や黒鉛減速炉を初めとして、すべての核関連施設は再整備或いは変更、再調整され、既に正常な稼働を開始した’ことを明らかにした。

 この方針は2013年4月に北朝鮮原子力総局により明確にされたとしているが、経済建設と共に、核戦力開発が進められていることが公言されており、核開発の既成事実化を狙ったものと思われる。

 9月3日に中国で‘抗日戦争勝利70年’の行事が開催され、天安門で中国の最新兵器を含む大軍事パレードが行われたが、10月10日の朝鮮労働党創立70周年の行事おいても、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の兵器’を含む軍事パレードを大々的に行うであろう。張り子の兵器などが含まれている可能性はあるが、野心に満ちたパレードとなろう。

 また上記の内容は‘朝鮮労働党創立70周年’と絡めて公表されていることから、その前後に、核爆発実験や長距離ミサイルの発射実験が行われる可能性がある。特に、‘新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’としていることから、長距離ロケットの発射実験の可能性が高い。他方、‘気象観測’等のためのロケット開発であれば、韓国を含め多くの国が行っているので、国連安保理決議は決議として、北朝鮮には認めないと繰り返し言ってみても説得力に欠け、問題解決には結びついてはいないので、平和目的でのロケット開発について国際的な枠組みや機構が必要になって来ていると言えよう。

 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要       (その3に掲載)

(2015.10.03.)(All Rights Reserved.)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その2)

2015-10-08 | Weblog

  北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発              (その2)

―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー

 8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。

 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。

 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。

 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。

 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。

 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発        (その1で掲載)

 2、   密かに進められる核とミサイル開発   

 8月の米韓合同演習を巡る北朝鮮の姿勢は、一見挑発から和解に転じたように映るが、その背後で核と長距離ミサイルの開発が着実に進められていることが北朝鮮の当局者の見解として明らかにされている。

 (1)ミサイル開発

 北朝鮮の国家宇宙開発局長官は、9月14日、朝鮮中央通信を通じ、‘朝鮮労働党創立70周年に際し’宇宙開発分野での成果について述べるとして、国家宇宙開発局は‘気象観測等のため、新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’旨明らかにしている。そして世界は、中央委員会が決定する場所と時期に打ち上げられる‘先軍朝鮮の一連の衛星’を見ることになろうと締めくくっている。

 (2)核開発

 翌9月15日には同じく朝鮮中央通信が、北朝鮮の核開発について‘原子力研究院’の院長へのインタビューを伝え、その中で‘北朝鮮の核の対応は、米国の北朝鮮に対する敵視政策と核の脅威である’としている。そして既に明らかにされているように、‘経済建設と核戦力開発を同時並行的に進めるとの中央委の方針に沿って、寧辺にあるウラン濃縮施設や黒鉛減速炉を初めとして、すべての核関連施設は再整備或いは変更、再調整され、既に正常な稼働を開始した’ことを明らかにした。

 この方針は2013年4月に北朝鮮原子力総局により明確にされたとしているが、経済建設と共に、核戦力開発が進められていることが公言されており、核開発の既成事実化を狙ったものと思われる。

 9月3日に中国で‘抗日戦争勝利70年’の行事が開催され、天安門で中国の最新兵器を含む大軍事パレードが行われたが、10月10日の朝鮮労働党創立70周年の行事おいても、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の兵器’を含む軍事パレードを大々的に行うであろう。張り子の兵器などが含まれている可能性はあるが、野心に満ちたパレードとなろう。

 また上記の内容は‘朝鮮労働党創立70周年’と絡めて公表されていることから、その前後に、核爆発実験や長距離ミサイルの発射実験が行われる可能性がある。特に、‘新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’としていることから、長距離ロケットの発射実験の可能性が高い。他方、‘気象観測’等のためのロケット開発であれば、韓国を含め多くの国が行っているので、国連安保理決議は決議として、北朝鮮には認めないと繰り返し言ってみても説得力に欠け、問題解決には結びついてはいないので、平和目的でのロケット開発について国際的な枠組みや機構が必要になって来ていると言えよう。

 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要       (その3に掲載)

(2015.10.03.)(All Rights Reserved.)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その1)

2015-10-08 | Weblog

 北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発              (その1)

―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー

 8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。

 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。

 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。

 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。

 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。

 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発

 上記の北朝鮮の挑発は、8月17日より開始された米韓合同軍事演習の前後で発生している。北朝鮮側は、これまでも米韓合同軍事演習に対し激しく反発しており、いわば年中行事化している。

 2014年12月から翌2015年1月に掛けて、北朝鮮は一連の政治的粛清や人権侵害について国際的な批判に晒されていたが、2月下旬から予定されていた米韓合同軍事演習を非難した。同年1月16日、北朝鮮国防委員会は、南北朝鮮間に良好な環境を作り出すためとして、相互に批判し挑発し合うことを止めると共に、米韓両国の合同軍事演習の中止を訴えている。その後北朝鮮は、韓国との南北離散家族再開事業を実施(2月20日から6日間)した他、日朝赤十字会談や日朝政府間協議を行うなど、融和姿勢を示す一方、短、中距離のミサイルの日本海向け発射などの示威行為を行い、硬軟両用の姿勢を示しており、今回の動きと酷似している。

 今回も米韓合同軍事演習を前にした8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、8月17日より開始される米韓合同軍事演習を北朝鮮の‘中枢部の除去’を狙った奇襲を意図するものであり、最大限の反撃を行う旨の声明を発表した。更に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の攻守双方の兵器を装備している’旨述べると共に、米国による経済制裁を非難した。そして米韓合同軍事演習が開始された後の8月20日、北朝鮮は‘準戦時状態’を布告した。

 このように緊張が高まる中で北朝鮮側は、8月22日、韓国が北朝鮮向けに敷設した拡声器の方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射し、‘最高レベルの警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。

 これを受けて米国は、同日より米韓合同軍事演習を中断することを発表した。北朝鮮が8月22日、一転して南北会談を呼び掛け、南北代表の会談が開始されることになったが、米韓合同軍事演習の中断がそのきっかけとなっていると見て良いだろう。

 こうして8月22日から板門店で南北代表が会談を開始され、数次の協議の末、8月25日、緊張回避のための6項目に合意したが、年初の米韓合同軍事訓練に際する南北の緊張と融和のパターンに類似する流れとなっている。

 しかし今回の北朝鮮の対応から次のようなことが明らかになった。

(1)まず、北朝鮮が人権問題での国際的な悪評や韓国による北朝鮮国内に向けた中枢部批判や宣伝に非常に神経質であることが明らかになった。

 このことは逆に、北朝鮮の人権問題等に対する国際世論の形成やの中枢部批判や北朝鮮の社会文化的な遅れ、貧困問題などに関し北朝鮮国内に発信して行くことが効果的ということである。

(2)米韓合同軍事演習は、在韓米軍から韓国軍への戦時作戦統制権の移譲が予定されていた2015年12月から再び延期されたことから明らかのように、韓国軍の体制が未だに整っていない以上、軍事的には必要である。他方、軍事優先の専軍主義を取る北朝鮮側にとっても、毎年実施される大規模な米韓合同軍事演習は、米韓両国の北への攻撃準備等として格好の批判材料となり、国内引き締めや軍備拡張の理由に使えるので、好都合であろう。

 このことは、米国政府としても、米韓合同軍事演習の頻度や規模、実施場所などのあり方については、国防総省や軍事当局に任せるのではなく、政治的、外交的な意味合いを含めて検討するため、国レベルの国家安全保障会議や国家安全保障担当大統領補佐官により、大局的に判断すべき時期にあることを示唆している。

(3)北朝鮮が‘核抑止’を含む軍事力を誇示

 北朝鮮は既に自らを‘核兵器国’であると宣言しているが、8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、米韓合同軍事演習を‘北朝鮮への米国の核攻撃の準備’として非難すると共に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新兵器を装備’しているとし、核兵器への対応を強調している。米韓合同軍事演習に対する北朝鮮の認識は歪曲されているが、北が核兵器開発に自信を持っていることが伺える。

 北朝鮮の核問題については、1995年より米国を中心として北朝鮮との協議が開始されたが、失敗に終わった朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を経て協議の場は6か国協議に移っているが、過去20年間、具体的な成果が無いばかりか、北朝鮮は、挑発と和解を繰り返しつつ核兵器開発とミサイル開発を実質的に推進して来ているのが現実であるので、新たな方法を模索する時期に来ていると言えるだろう。

 2、   密かに進められる核とミサイル開発    (その2に掲載)

 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要       (その3に掲載)

(2015.10.03.)(All Rights Reserved.)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その1)

2015-10-08 | Weblog

 北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発              (その1)

―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー

 8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。

 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。

 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。

 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。

 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。

 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発

 上記の北朝鮮の挑発は、8月17日より開始された米韓合同軍事演習の前後で発生している。北朝鮮側は、これまでも米韓合同軍事演習に対し激しく反発しており、いわば年中行事化している。

 2014年12月から翌2015年1月に掛けて、北朝鮮は一連の政治的粛清や人権侵害について国際的な批判に晒されていたが、2月下旬から予定されていた米韓合同軍事演習を非難した。同年1月16日、北朝鮮国防委員会は、南北朝鮮間に良好な環境を作り出すためとして、相互に批判し挑発し合うことを止めると共に、米韓両国の合同軍事演習の中止を訴えている。その後北朝鮮は、韓国との南北離散家族再開事業を実施(2月20日から6日間)した他、日朝赤十字会談や日朝政府間協議を行うなど、融和姿勢を示す一方、短、中距離のミサイルの日本海向け発射などの示威行為を行い、硬軟両用の姿勢を示しており、今回の動きと酷似している。

 今回も米韓合同軍事演習を前にした8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、8月17日より開始される米韓合同軍事演習を北朝鮮の‘中枢部の除去’を狙った奇襲を意図するものであり、最大限の反撃を行う旨の声明を発表した。更に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の攻守双方の兵器を装備している’旨述べると共に、米国による経済制裁を非難した。そして米韓合同軍事演習が開始された後の8月20日、北朝鮮は‘準戦時状態’を布告した。

 このように緊張が高まる中で北朝鮮側は、8月22日、韓国が北朝鮮向けに敷設した拡声器の方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射し、‘最高レベルの警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。

 これを受けて米国は、同日より米韓合同軍事演習を中断することを発表した。北朝鮮が8月22日、一転して南北会談を呼び掛け、南北代表の会談が開始されることになったが、米韓合同軍事演習の中断がそのきっかけとなっていると見て良いだろう。

 こうして8月22日から板門店で南北代表が会談を開始され、数次の協議の末、8月25日、緊張回避のための6項目に合意したが、年初の米韓合同軍事訓練に際する南北の緊張と融和のパターンに類似する流れとなっている。

 しかし今回の北朝鮮の対応から次のようなことが明らかになった。

(1)まず、北朝鮮が人権問題での国際的な悪評や韓国による北朝鮮国内に向けた中枢部批判や宣伝に非常に神経質であることが明らかになった。

 このことは逆に、北朝鮮の人権問題等に対する国際世論の形成やの中枢部批判や北朝鮮の社会文化的な遅れ、貧困問題などに関し北朝鮮国内に発信して行くことが効果的ということである。

(2)米韓合同軍事演習は、在韓米軍から韓国軍への戦時作戦統制権の移譲が予定されていた2015年12月から再び延期されたことから明らかのように、韓国軍の体制が未だに整っていない以上、軍事的には必要である。他方、軍事優先の専軍主義を取る北朝鮮側にとっても、毎年実施される大規模な米韓合同軍事演習は、米韓両国の北への攻撃準備等として格好の批判材料となり、国内引き締めや軍備拡張の理由に使えるので、好都合であろう。

 このことは、米国政府としても、米韓合同軍事演習の頻度や規模、実施場所などのあり方については、国防総省や軍事当局に任せるのではなく、政治的、外交的な意味合いを含めて検討するため、国レベルの国家安全保障会議や国家安全保障担当大統領補佐官により、大局的に判断すべき時期にあることを示唆している。

(3)北朝鮮が‘核抑止’を含む軍事力を誇示

 北朝鮮は既に自らを‘核兵器国’であると宣言しているが、8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、米韓合同軍事演習を‘北朝鮮への米国の核攻撃の準備’として非難すると共に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新兵器を装備’しているとし、核兵器への対応を強調している。米韓合同軍事演習に対する北朝鮮の認識は歪曲されているが、北が核兵器開発に自信を持っていることが伺える。

 北朝鮮の核問題については、1995年より米国を中心として北朝鮮との協議が開始されたが、失敗に終わった朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を経て協議の場は6か国協議に移っているが、過去20年間、具体的な成果が無いばかりか、北朝鮮は、挑発と和解を繰り返しつつ核兵器開発とミサイル開発を実質的に推進して来ているのが現実であるので、新たな方法を模索する時期に来ていると言えるだろう。

 2、   密かに進められる核とミサイル開発    (その2に掲載)

 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要       (その3に掲載)

(2015.10.03.)(All Rights Reserved.)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その2)

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    北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発              (その2)

―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー

 8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。

 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。

 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。

 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。

 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。

 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発        (その1で掲載)

 2、   密かに進められる核とミサイル開発   

 8月の米韓合同演習を巡る北朝鮮の姿勢は、一見挑発から和解に転じたように映るが、その背後で核と長距離ミサイルの開発が着実に進められていることが北朝鮮の当局者の見解として明らかにされている。

 (1)ミサイル開発

 北朝鮮の国家宇宙開発局長官は、9月14日、朝鮮中央通信を通じ、‘朝鮮労働党創立70周年に際し’宇宙開発分野での成果について述べるとして、国家宇宙開発局は‘気象観測等のため、新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’旨明らかにしている。そして世界は、中央委員会が決定する場所と時期に打ち上げられる‘先軍朝鮮の一連の衛星’を見ることになろうと締めくくっている。

 (2)核開発

 翌9月15日には同じく朝鮮中央通信が、北朝鮮の核開発について‘原子力研究院’の院長へのインタビューを伝え、その中で‘北朝鮮の核の対応は、米国の北朝鮮に対する敵視政策と核の脅威である’としている。そして既に明らかにされているように、‘経済建設と核戦力開発を同時並行的に進めるとの中央委の方針に沿って、寧辺にあるウラン濃縮施設や黒鉛減速炉を初めとして、すべての核関連施設は再整備或いは変更、再調整され、既に正常な稼働を開始した’ことを明らかにした。

 この方針は2013年4月に北朝鮮原子力総局により明確にされたとしているが、経済建設と共に、核戦力開発が進められていることが公言されており、核開発の既成事実化を狙ったものと思われる。

 9月3日に中国で‘抗日戦争勝利70年’の行事が開催され、天安門で中国の最新兵器を含む大軍事パレードが行われたが、10月10日の朝鮮労働党創立70周年の行事おいても、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の兵器’を含む軍事パレードを大々的に行うであろう。張り子の兵器などが含まれている可能性はあるが、野心に満ちたパレードとなろう。

 また上記の内容は‘朝鮮労働党創立70周年’と絡めて公表されていることから、その前後に、核爆発実験や長距離ミサイルの発射実験が行われる可能性がある。特に、‘新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’としていることから、長距離ロケットの発射実験の可能性が高い。他方、‘気象観測’等のためのロケット開発であれば、韓国を含め多くの国が行っているので、国連安保理決議は決議として、北朝鮮には認めないと繰り返し言ってみても説得力に欠け、問題解決には結びついてはいないので、平和目的でのロケット開発について国際的な枠組みや機構が必要になって来ていると言えよう。

 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要       (その3に掲載)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その2)

2015-10-08 | Weblog

    北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発              (その2)

―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー

 8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。

 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。

 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。

 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。

 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。

 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発        (その1で掲載)

 2、   密かに進められる核とミサイル開発   

 8月の米韓合同演習を巡る北朝鮮の姿勢は、一見挑発から和解に転じたように映るが、その背後で核と長距離ミサイルの開発が着実に進められていることが北朝鮮の当局者の見解として明らかにされている。

 (1)ミサイル開発

 北朝鮮の国家宇宙開発局長官は、9月14日、朝鮮中央通信を通じ、‘朝鮮労働党創立70周年に際し’宇宙開発分野での成果について述べるとして、国家宇宙開発局は‘気象観測等のため、新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’旨明らかにしている。そして世界は、中央委員会が決定する場所と時期に打ち上げられる‘先軍朝鮮の一連の衛星’を見ることになろうと締めくくっている。

 (2)核開発

 翌9月15日には同じく朝鮮中央通信が、北朝鮮の核開発について‘原子力研究院’の院長へのインタビューを伝え、その中で‘北朝鮮の核の対応は、米国の北朝鮮に対する敵視政策と核の脅威である’としている。そして既に明らかにされているように、‘経済建設と核戦力開発を同時並行的に進めるとの中央委の方針に沿って、寧辺にあるウラン濃縮施設や黒鉛減速炉を初めとして、すべての核関連施設は再整備或いは変更、再調整され、既に正常な稼働を開始した’ことを明らかにした。

 この方針は2013年4月に北朝鮮原子力総局により明確にされたとしているが、経済建設と共に、核戦力開発が進められていることが公言されており、核開発の既成事実化を狙ったものと思われる。

 9月3日に中国で‘抗日戦争勝利70年’の行事が開催され、天安門で中国の最新兵器を含む大軍事パレードが行われたが、10月10日の朝鮮労働党創立70周年の行事おいても、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の兵器’を含む軍事パレードを大々的に行うであろう。張り子の兵器などが含まれている可能性はあるが、野心に満ちたパレードとなろう。

 また上記の内容は‘朝鮮労働党創立70周年’と絡めて公表されていることから、その前後に、核爆発実験や長距離ミサイルの発射実験が行われる可能性がある。特に、‘新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’としていることから、長距離ロケットの発射実験の可能性が高い。他方、‘気象観測’等のためのロケット開発であれば、韓国を含め多くの国が行っているので、国連安保理決議は決議として、北朝鮮には認めないと繰り返し言ってみても説得力に欠け、問題解決には結びついてはいないので、平和目的でのロケット開発について国際的な枠組みや機構が必要になって来ていると言えよう。

 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要       (その3に掲載)

(2015.10.03.)(All Rights Reserved.)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その2)

2015-10-08 | Weblog

    北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発              (その2)

―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー

 8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。

 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。

 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。

 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。

 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。

 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発        (その1で掲載)

 2、   密かに進められる核とミサイル開発   

 8月の米韓合同演習を巡る北朝鮮の姿勢は、一見挑発から和解に転じたように映るが、その背後で核と長距離ミサイルの開発が着実に進められていることが北朝鮮の当局者の見解として明らかにされている。

 (1)ミサイル開発

 北朝鮮の国家宇宙開発局長官は、9月14日、朝鮮中央通信を通じ、‘朝鮮労働党創立70周年に際し’宇宙開発分野での成果について述べるとして、国家宇宙開発局は‘気象観測等のため、新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’旨明らかにしている。そして世界は、中央委員会が決定する場所と時期に打ち上げられる‘先軍朝鮮の一連の衛星’を見ることになろうと締めくくっている。

 (2)核開発

 翌9月15日には同じく朝鮮中央通信が、北朝鮮の核開発について‘原子力研究院’の院長へのインタビューを伝え、その中で‘北朝鮮の核の対応は、米国の北朝鮮に対する敵視政策と核の脅威である’としている。そして既に明らかにされているように、‘経済建設と核戦力開発を同時並行的に進めるとの中央委の方針に沿って、寧辺にあるウラン濃縮施設や黒鉛減速炉を初めとして、すべての核関連施設は再整備或いは変更、再調整され、既に正常な稼働を開始した’ことを明らかにした。

 この方針は2013年4月に北朝鮮原子力総局により明確にされたとしているが、経済建設と共に、核戦力開発が進められていることが公言されており、核開発の既成事実化を狙ったものと思われる。

 9月3日に中国で‘抗日戦争勝利70年’の行事が開催され、天安門で中国の最新兵器を含む大軍事パレードが行われたが、10月10日の朝鮮労働党創立70周年の行事おいても、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の兵器’を含む軍事パレードを大々的に行うであろう。張り子の兵器などが含まれている可能性はあるが、野心に満ちたパレードとなろう。

 また上記の内容は‘朝鮮労働党創立70周年’と絡めて公表されていることから、その前後に、核爆発実験や長距離ミサイルの発射実験が行われる可能性がある。特に、‘新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’としていることから、長距離ロケットの発射実験の可能性が高い。他方、‘気象観測’等のためのロケット開発であれば、韓国を含め多くの国が行っているので、国連安保理決議は決議として、北朝鮮には認めないと繰り返し言ってみても説得力に欠け、問題解決には結びついてはいないので、平和目的でのロケット開発について国際的な枠組みや機構が必要になって来ていると言えよう。

 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要       (その3に掲載)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その2)

2015-10-08 | Weblog

     北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発              (その2)

―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー

 8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。

 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。

 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。

 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。

 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。

 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発        (その1で掲載)

 2、   密かに進められる核とミサイル開発   

 8月の米韓合同演習を巡る北朝鮮の姿勢は、一見挑発から和解に転じたように映るが、その背後で核と長距離ミサイルの開発が着実に進められていることが北朝鮮の当局者の見解として明らかにされている。

 (1)ミサイル開発

 北朝鮮の国家宇宙開発局長官は、9月14日、朝鮮中央通信を通じ、‘朝鮮労働党創立70周年に際し’宇宙開発分野での成果について述べるとして、国家宇宙開発局は‘気象観測等のため、新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’旨明らかにしている。そして世界は、中央委員会が決定する場所と時期に打ち上げられる‘先軍朝鮮の一連の衛星’を見ることになろうと締めくくっている。

 (2)核開発

 翌9月15日には同じく朝鮮中央通信が、北朝鮮の核開発について‘原子力研究院’の院長へのインタビューを伝え、その中で‘北朝鮮の核の対応は、米国の北朝鮮に対する敵視政策と核の脅威である’としている。そして既に明らかにされているように、‘経済建設と核戦力開発を同時並行的に進めるとの中央委の方針に沿って、寧辺にあるウラン濃縮施設や黒鉛減速炉を初めとして、すべての核関連施設は再整備或いは変更、再調整され、既に正常な稼働を開始した’ことを明らかにした。

 この方針は2013年4月に北朝鮮原子力総局により明確にされたとしているが、経済建設と共に、核戦力開発が進められていることが公言されており、核開発の既成事実化を狙ったものと思われる。

 9月3日に中国で‘抗日戦争勝利70年’の行事が開催され、天安門で中国の最新兵器を含む大軍事パレードが行われたが、10月10日の朝鮮労働党創立70周年の行事おいても、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の兵器’を含む軍事パレードを大々的に行うであろう。張り子の兵器などが含まれている可能性はあるが、野心に満ちたパレードとなろう。

 また上記の内容は‘朝鮮労働党創立70周年’と絡めて公表されていることから、その前後に、核爆発実験や長距離ミサイルの発射実験が行われる可能性がある。特に、‘新たな地球探査衛星開発の最終段階にある’としていることから、長距離ロケットの発射実験の可能性が高い。他方、‘気象観測’等のためのロケット開発であれば、韓国を含め多くの国が行っているので、国連安保理決議は決議として、北朝鮮には認めないと繰り返し言ってみても説得力に欠け、問題解決には結びついてはいないので、平和目的でのロケット開発について国際的な枠組みや機構が必要になって来ていると言えよう。

 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要       (その3に掲載)

(2015.10.03.)(All Rights Reserved.)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その1)

2015-10-08 | Weblog

     北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発              (その1)

―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー

 8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。

 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。

 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。

 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。

 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。

 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発

 上記の北朝鮮の挑発は、8月17日より開始された米韓合同軍事演習の前後で発生している。北朝鮮側は、これまでも米韓合同軍事演習に対し激しく反発しており、いわば年中行事化している。

 2014年12月から翌2015年1月に掛けて、北朝鮮は一連の政治的粛清や人権侵害について国際的な批判に晒されていたが、2月下旬から予定されていた米韓合同軍事演習を非難した。同年1月16日、北朝鮮国防委員会は、南北朝鮮間に良好な環境を作り出すためとして、相互に批判し挑発し合うことを止めると共に、米韓両国の合同軍事演習の中止を訴えている。その後北朝鮮は、韓国との南北離散家族再開事業を実施(2月20日から6日間)した他、日朝赤十字会談や日朝政府間協議を行うなど、融和姿勢を示す一方、短、中距離のミサイルの日本海向け発射などの示威行為を行い、硬軟両用の姿勢を示しており、今回の動きと酷似している。

 今回も米韓合同軍事演習を前にした8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、8月17日より開始される米韓合同軍事演習を北朝鮮の‘中枢部の除去’を狙った奇襲を意図するものであり、最大限の反撃を行う旨の声明を発表した。更に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の攻守双方の兵器を装備している’旨述べると共に、米国による経済制裁を非難した。そして米韓合同軍事演習が開始された後の8月20日、北朝鮮は‘準戦時状態’を布告した。

 このように緊張が高まる中で北朝鮮側は、8月22日、韓国が北朝鮮向けに敷設した拡声器の方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射し、‘最高レベルの警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。

 これを受けて米国は、同日より米韓合同軍事演習を中断することを発表した。北朝鮮が8月22日、一転して南北会談を呼び掛け、南北代表の会談が開始されることになったが、米韓合同軍事演習の中断がそのきっかけとなっていると見て良いだろう。

 こうして8月22日から板門店で南北代表が会談を開始され、数次の協議の末、8月25日、緊張回避のための6項目に合意したが、年初の米韓合同軍事訓練に際する南北の緊張と融和のパターンに類似する流れとなっている。

 しかし今回の北朝鮮の対応から次のようなことが明らかになった。

(1)まず、北朝鮮が人権問題での国際的な悪評や韓国による北朝鮮国内に向けた中枢部批判や宣伝に非常に神経質であることが明らかになった。

 このことは逆に、北朝鮮の人権問題等に対する国際世論の形成やの中枢部批判や北朝鮮の社会文化的な遅れ、貧困問題などに関し北朝鮮国内に発信して行くことが効果的ということである。

(2)米韓合同軍事演習は、在韓米軍から韓国軍への戦時作戦統制権の移譲が予定されていた2015年12月から再び延期されたことから明らかのように、韓国軍の体制が未だに整っていない以上、軍事的には必要である。他方、軍事優先の専軍主義を取る北朝鮮側にとっても、毎年実施される大規模な米韓合同軍事演習は、米韓両国の北への攻撃準備等として格好の批判材料となり、国内引き締めや軍備拡張の理由に使えるので、好都合であろう。

 このことは、米国政府としても、米韓合同軍事演習の頻度や規模、実施場所などのあり方については、国防総省や軍事当局に任せるのではなく、政治的、外交的な意味合いを含めて検討するため、国レベルの国家安全保障会議や国家安全保障担当大統領補佐官により、大局的に判断すべき時期にあることを示唆している。

(3)北朝鮮が‘核抑止’を含む軍事力を誇示

 北朝鮮は既に自らを‘核兵器国’であると宣言しているが、8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、米韓合同軍事演習を‘北朝鮮への米国の核攻撃の準備’として非難すると共に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新兵器を装備’しているとし、核兵器への対応を強調している。米韓合同軍事演習に対する北朝鮮の認識は歪曲されているが、北が核兵器開発に自信を持っていることが伺える。

 北朝鮮の核問題については、1995年より米国を中心として北朝鮮との協議が開始されたが、失敗に終わった朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を経て協議の場は6か国協議に移っているが、過去20年間、具体的な成果が無いばかりか、北朝鮮は、挑発と和解を繰り返しつつ核兵器開発とミサイル開発を実質的に推進して来ているのが現実であるので、新たな方法を模索する時期に来ていると言えるだろう。

 2、   密かに進められる核とミサイル開発    (その2に掲載)

 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要       (その3に掲載)

(2015.10.03.)(All Rights Reserved.)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その1)

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     北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発              (その1)

―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー

 8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。

 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。

 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。

 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。

 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。

 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発

 上記の北朝鮮の挑発は、8月17日より開始された米韓合同軍事演習の前後で発生している。北朝鮮側は、これまでも米韓合同軍事演習に対し激しく反発しており、いわば年中行事化している。

 2014年12月から翌2015年1月に掛けて、北朝鮮は一連の政治的粛清や人権侵害について国際的な批判に晒されていたが、2月下旬から予定されていた米韓合同軍事演習を非難した。同年1月16日、北朝鮮国防委員会は、南北朝鮮間に良好な環境を作り出すためとして、相互に批判し挑発し合うことを止めると共に、米韓両国の合同軍事演習の中止を訴えている。その後北朝鮮は、韓国との南北離散家族再開事業を実施(2月20日から6日間)した他、日朝赤十字会談や日朝政府間協議を行うなど、融和姿勢を示す一方、短、中距離のミサイルの日本海向け発射などの示威行為を行い、硬軟両用の姿勢を示しており、今回の動きと酷似している。

 今回も米韓合同軍事演習を前にした8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、8月17日より開始される米韓合同軍事演習を北朝鮮の‘中枢部の除去’を狙った奇襲を意図するものであり、最大限の反撃を行う旨の声明を発表した。更に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の攻守双方の兵器を装備している’旨述べると共に、米国による経済制裁を非難した。そして米韓合同軍事演習が開始された後の8月20日、北朝鮮は‘準戦時状態’を布告した。

 このように緊張が高まる中で北朝鮮側は、8月22日、韓国が北朝鮮向けに敷設した拡声器の方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射し、‘最高レベルの警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。

 これを受けて米国は、同日より米韓合同軍事演習を中断することを発表した。北朝鮮が8月22日、一転して南北会談を呼び掛け、南北代表の会談が開始されることになったが、米韓合同軍事演習の中断がそのきっかけとなっていると見て良いだろう。

 こうして8月22日から板門店で南北代表が会談を開始され、数次の協議の末、8月25日、緊張回避のための6項目に合意したが、年初の米韓合同軍事訓練に際する南北の緊張と融和のパターンに類似する流れとなっている。

 しかし今回の北朝鮮の対応から次のようなことが明らかになった。

(1)まず、北朝鮮が人権問題での国際的な悪評や韓国による北朝鮮国内に向けた中枢部批判や宣伝に非常に神経質であることが明らかになった。

 このことは逆に、北朝鮮の人権問題等に対する国際世論の形成やの中枢部批判や北朝鮮の社会文化的な遅れ、貧困問題などに関し北朝鮮国内に発信して行くことが効果的ということである。

(2)米韓合同軍事演習は、在韓米軍から韓国軍への戦時作戦統制権の移譲が予定されていた2015年12月から再び延期されたことから明らかのように、韓国軍の体制が未だに整っていない以上、軍事的には必要である。他方、軍事優先の専軍主義を取る北朝鮮側にとっても、毎年実施される大規模な米韓合同軍事演習は、米韓両国の北への攻撃準備等として格好の批判材料となり、国内引き締めや軍備拡張の理由に使えるので、好都合であろう。

 このことは、米国政府としても、米韓合同軍事演習の頻度や規模、実施場所などのあり方については、国防総省や軍事当局に任せるのではなく、政治的、外交的な意味合いを含めて検討するため、国レベルの国家安全保障会議や国家安全保障担当大統領補佐官により、大局的に判断すべき時期にあることを示唆している。

(3)北朝鮮が‘核抑止’を含む軍事力を誇示

 北朝鮮は既に自らを‘核兵器国’であると宣言しているが、8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、米韓合同軍事演習を‘北朝鮮への米国の核攻撃の準備’として非難すると共に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新兵器を装備’しているとし、核兵器への対応を強調している。米韓合同軍事演習に対する北朝鮮の認識は歪曲されているが、北が核兵器開発に自信を持っていることが伺える。

 北朝鮮の核問題については、1995年より米国を中心として北朝鮮との協議が開始されたが、失敗に終わった朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を経て協議の場は6か国協議に移っているが、過去20年間、具体的な成果が無いばかりか、北朝鮮は、挑発と和解を繰り返しつつ核兵器開発とミサイル開発を実質的に推進して来ているのが現実であるので、新たな方法を模索する時期に来ていると言えるだろう。

 2、   密かに進められる核とミサイル開発    (その2に掲載)

 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要       (その3に掲載)

(2015.10.03.)(All Rights Reserved.)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その1)

2015-10-08 | Weblog

     北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発              (その1)

―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー

 8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。

 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。

 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。

 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。

 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。

 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発

 上記の北朝鮮の挑発は、8月17日より開始された米韓合同軍事演習の前後で発生している。北朝鮮側は、これまでも米韓合同軍事演習に対し激しく反発しており、いわば年中行事化している。

 2014年12月から翌2015年1月に掛けて、北朝鮮は一連の政治的粛清や人権侵害について国際的な批判に晒されていたが、2月下旬から予定されていた米韓合同軍事演習を非難した。同年1月16日、北朝鮮国防委員会は、南北朝鮮間に良好な環境を作り出すためとして、相互に批判し挑発し合うことを止めると共に、米韓両国の合同軍事演習の中止を訴えている。その後北朝鮮は、韓国との南北離散家族再開事業を実施(2月20日から6日間)した他、日朝赤十字会談や日朝政府間協議を行うなど、融和姿勢を示す一方、短、中距離のミサイルの日本海向け発射などの示威行為を行い、硬軟両用の姿勢を示しており、今回の動きと酷似している。

 今回も米韓合同軍事演習を前にした8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、8月17日より開始される米韓合同軍事演習を北朝鮮の‘中枢部の除去’を狙った奇襲を意図するものであり、最大限の反撃を行う旨の声明を発表した。更に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の攻守双方の兵器を装備している’旨述べると共に、米国による経済制裁を非難した。そして米韓合同軍事演習が開始された後の8月20日、北朝鮮は‘準戦時状態’を布告した。

 このように緊張が高まる中で北朝鮮側は、8月22日、韓国が北朝鮮向けに敷設した拡声器の方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射し、‘最高レベルの警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。

 これを受けて米国は、同日より米韓合同軍事演習を中断することを発表した。北朝鮮が8月22日、一転して南北会談を呼び掛け、南北代表の会談が開始されることになったが、米韓合同軍事演習の中断がそのきっかけとなっていると見て良いだろう。

 こうして8月22日から板門店で南北代表が会談を開始され、数次の協議の末、8月25日、緊張回避のための6項目に合意したが、年初の米韓合同軍事訓練に際する南北の緊張と融和のパターンに類似する流れとなっている。

 しかし今回の北朝鮮の対応から次のようなことが明らかになった。

(1)まず、北朝鮮が人権問題での国際的な悪評や韓国による北朝鮮国内に向けた中枢部批判や宣伝に非常に神経質であることが明らかになった。

 このことは逆に、北朝鮮の人権問題等に対する国際世論の形成やの中枢部批判や北朝鮮の社会文化的な遅れ、貧困問題などに関し北朝鮮国内に発信して行くことが効果的ということである。

(2)米韓合同軍事演習は、在韓米軍から韓国軍への戦時作戦統制権の移譲が予定されていた2015年12月から再び延期されたことから明らかのように、韓国軍の体制が未だに整っていない以上、軍事的には必要である。他方、軍事優先の専軍主義を取る北朝鮮側にとっても、毎年実施される大規模な米韓合同軍事演習は、米韓両国の北への攻撃準備等として格好の批判材料となり、国内引き締めや軍備拡張の理由に使えるので、好都合であろう。

 このことは、米国政府としても、米韓合同軍事演習の頻度や規模、実施場所などのあり方については、国防総省や軍事当局に任せるのではなく、政治的、外交的な意味合いを含めて検討するため、国レベルの国家安全保障会議や国家安全保障担当大統領補佐官により、大局的に判断すべき時期にあることを示唆している。

(3)北朝鮮が‘核抑止’を含む軍事力を誇示

 北朝鮮は既に自らを‘核兵器国’であると宣言しているが、8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、米韓合同軍事演習を‘北朝鮮への米国の核攻撃の準備’として非難すると共に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新兵器を装備’しているとし、核兵器への対応を強調している。米韓合同軍事演習に対する北朝鮮の認識は歪曲されているが、北が核兵器開発に自信を持っていることが伺える。

 北朝鮮の核問題については、1995年より米国を中心として北朝鮮との協議が開始されたが、失敗に終わった朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を経て協議の場は6か国協議に移っているが、過去20年間、具体的な成果が無いばかりか、北朝鮮は、挑発と和解を繰り返しつつ核兵器開発とミサイル開発を実質的に推進して来ているのが現実であるので、新たな方法を模索する時期に来ていると言えるだろう。

 2、   密かに進められる核とミサイル開発    (その2に掲載)

 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要       (その3に掲載)

(2015.10.03.)(All Rights Reserved.)

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北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発 (その1)

2015-10-08 | Weblog

     北朝鮮の挑発と和解の繰り返しで進む軍事開発              (その1)

―朝鮮労働党創建70周年に北朝鮮は世界に何を見せるのかー

 8月10日、南北非武装地帯の韓国側付近で韓国軍兵士2人が敷設されていた地雷により負傷した。韓国側は、‘地雷は北朝鮮が最近埋めたものであることが確実’と発表し、南北朝鮮を分断する軍事境界線(通称38度線)を挟み、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が再び高まった。北朝鮮側のこの種の挑発は、7月11日にも北朝鮮軍10人余が軍事境界線中央付近(江原道鉄)で韓国側に侵入する事件などが起こっている。

 これに対し韓国側は、地雷敷設事件に謝罪を要求、北朝鮮がこれを厳しく非難し、地雷爆発事件は‘でっち上げた’として否定するなど、南北が非難の応酬を行った。

 韓国側は、対抗措置として2004年6月に南北で合意した‘批判宣伝合戦停止’を中断し、北に向けた大音量の拡声器による金正恩体制への批判等を8月22日から再開した。これに対し北朝鮮側は、拡声器が敷設されている方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射した。北朝鮮は‘準戦時状態’を布告(8月20日)していたが、韓国側は最高レベルの‘警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。各紙、テレビでは南北間は一触即発で、局地的に不測の事態も起こりかねない等と報じた。

 しかし北朝鮮が一転して南北会談を呼びかけ、8月22日、板門店で南北代表(韓国側代表 金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長、北朝鮮側黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長)が会談を開始し、数次の協議を重ねた後、8月25日、南北は相互の挑発中止で合意した。合意した内容は、北朝鮮側が地雷爆発により韓国軍兵士が重傷を負った事件に対し遺憾を表明する一方、韓国側は拡声器を使った宣伝放送を同日正午に中断することが中心となっている。その上で北朝鮮は‘準戦時状態’を解除すると共に、関係改善に向けてソウルか平壌で当局者会談を開催し、また朝鮮戦争などで生じた離散家族の再会に向けた実務者会議を開催することや、多様な分野での民間交流活性化などが合意されている。

 これで南北間において多様な分野での民間交流が行われることになるとの印象を受けるが、この種の挑発と和解のプロセスはいわば年中行事となっている。

 1、 年中行事化した米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発

 上記の北朝鮮の挑発は、8月17日より開始された米韓合同軍事演習の前後で発生している。北朝鮮側は、これまでも米韓合同軍事演習に対し激しく反発しており、いわば年中行事化している。

 2014年12月から翌2015年1月に掛けて、北朝鮮は一連の政治的粛清や人権侵害について国際的な批判に晒されていたが、2月下旬から予定されていた米韓合同軍事演習を非難した。同年1月16日、北朝鮮国防委員会は、南北朝鮮間に良好な環境を作り出すためとして、相互に批判し挑発し合うことを止めると共に、米韓両国の合同軍事演習の中止を訴えている。その後北朝鮮は、韓国との南北離散家族再開事業を実施(2月20日から6日間)した他、日朝赤十字会談や日朝政府間協議を行うなど、融和姿勢を示す一方、短、中距離のミサイルの日本海向け発射などの示威行為を行い、硬軟両用の姿勢を示しており、今回の動きと酷似している。

 今回も米韓合同軍事演習を前にした8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、8月17日より開始される米韓合同軍事演習を北朝鮮の‘中枢部の除去’を狙った奇襲を意図するものであり、最大限の反撃を行う旨の声明を発表した。更に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新の攻守双方の兵器を装備している’旨述べると共に、米国による経済制裁を非難した。そして米韓合同軍事演習が開始された後の8月20日、北朝鮮は‘準戦時状態’を布告した。

 このように緊張が高まる中で北朝鮮側は、8月22日、韓国が北朝鮮向けに敷設した拡声器の方面に2発の砲弾を発射、韓国側もこれに応じ2発の砲弾を発射し、‘最高レベルの警戒態勢’を取って応じるなど、緊張が更に高まった。

 これを受けて米国は、同日より米韓合同軍事演習を中断することを発表した。北朝鮮が8月22日、一転して南北会談を呼び掛け、南北代表の会談が開始されることになったが、米韓合同軍事演習の中断がそのきっかけとなっていると見て良いだろう。

 こうして8月22日から板門店で南北代表が会談を開始され、数次の協議の末、8月25日、緊張回避のための6項目に合意したが、年初の米韓合同軍事訓練に際する南北の緊張と融和のパターンに類似する流れとなっている。

 しかし今回の北朝鮮の対応から次のようなことが明らかになった。

(1)まず、北朝鮮が人権問題での国際的な悪評や韓国による北朝鮮国内に向けた中枢部批判や宣伝に非常に神経質であることが明らかになった。

 このことは逆に、北朝鮮の人権問題等に対する国際世論の形成やの中枢部批判や北朝鮮の社会文化的な遅れ、貧困問題などに関し北朝鮮国内に発信して行くことが効果的ということである。

(2)米韓合同軍事演習は、在韓米軍から韓国軍への戦時作戦統制権の移譲が予定されていた2015年12月から再び延期されたことから明らかのように、韓国軍の体制が未だに整っていない以上、軍事的には必要である。他方、軍事優先の専軍主義を取る北朝鮮側にとっても、毎年実施される大規模な米韓合同軍事演習は、米韓両国の北への攻撃準備等として格好の批判材料となり、国内引き締めや軍備拡張の理由に使えるので、好都合であろう。

 このことは、米国政府としても、米韓合同軍事演習の頻度や規模、実施場所などのあり方については、国防総省や軍事当局に任せるのではなく、政治的、外交的な意味合いを含めて検討するため、国レベルの国家安全保障会議や国家安全保障担当大統領補佐官により、大局的に判断すべき時期にあることを示唆している。

(3)北朝鮮が‘核抑止’を含む軍事力を誇示

 北朝鮮は既に自らを‘核兵器国’であると宣言しているが、8月15日、北朝鮮国防委スポークスマンは、米韓合同軍事演習を‘北朝鮮への米国の核攻撃の準備’として非難すると共に、北朝鮮は‘核抑止を含め公にしていない最新兵器を装備’しているとし、核兵器への対応を強調している。米韓合同軍事演習に対する北朝鮮の認識は歪曲されているが、北が核兵器開発に自信を持っていることが伺える。

 北朝鮮の核問題については、1995年より米国を中心として北朝鮮との協議が開始されたが、失敗に終わった朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を経て協議の場は6か国協議に移っているが、過去20年間、具体的な成果が無いばかりか、北朝鮮は、挑発と和解を繰り返しつつ核兵器開発とミサイル開発を実質的に推進して来ているのが現実であるので、新たな方法を模索する時期に来ていると言えるだろう。

 2、   密かに進められる核とミサイル開発    (その2に掲載)

 3、朝鮮半島非核地帯の創設が緊要       (その3に掲載)

(2015.10.03.)(All Rights Reserved.)

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