内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

トランプ流通商強硬策の真の狙いは何か?!

2018-07-18 | Weblog
トランプ流通商強硬策の真の狙いは何か?!
 トランプ米大統領は、3月22日、‘中国が米国の知的財産権を侵害している’として、最大で600億ドル(約6.3兆円)規模の中国製品に対し関税を課すことを目指す大統領覚書に署名した。またこの覚書中で、中国で米国を含め外国企業が合弁事業を行う際、現地企業への技術ライセンス供与が求められていることについて、世界貿易機関(WTO)に提訴するようUSTRに指示した。
 同大統領は、これに先立つ3月8日、鉄鋼、アルミニウム製品の米国への輸入増加が‘国家安全保障上の脅威になる’として輸入制限措置を決定したが、3月23日から鉄鋼に25%、アルミに10%の関税が課されることになった。この関税引き上げ措置は、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉中であるカナダとメキシコを除き全ての国・地域には適用される。トランプ大統領はこの措置を発表するに当たって記者団に対し、日本については首相とも仲が良いが、対日貿易赤字は続いておりやむを得ないとの趣旨を述べている。
 1、中国等の報復措置の連鎖により貿易戦争は勃発するか
 米国の知的財産権侵害に対する対中措置は、通商法301条に基づくものであり、米通商代表部(USTR)が関税対象となる中国製品の品目リストを作成することになるが、ハイテク製品を中心に約1,300品目にも及ぶとも見られている。これにより最大で年間600億ドル(約6.3兆円)相当の中国製品に25%の関税が課されることになり、中国への打撃は大きいが、対象リスト作成後30日の審査期間が設けられ、関係業界等から意見を求められるので、最終的な関税措置の実施にはなお一定の期間が必要となる。
 この措置を前にして、3月17日、中国の貿易救済調査担当局長は談話を発表し、‘米国の調査結果に根拠はない’とすると共に、‘米国の最終決定が中国の利益に影響を与える場合、必要な措置を講じる’旨述べ、対抗措置の可能性を示唆した。中国外交部報道官も3月23日の記者会見において、‘中国側の立場はすでにはっきりと示しており、伝えた情報も非常に明確だ。贈り物をもらって返さないのは失礼であり、中国はこれに対応する。米国側が真剣に中国側の立場に向き合い、合理的で慎重な政策決定をすることを希望する’旨表明している。米国の措置を批判する一方、ある種の余裕を示しているように映る。
 そして中国は、4月2日から、豚肉やワインなど米国産品128品目、総額約30億ドル相当の対米輸入品に最大25%の関税上乗せを実施する旨明らかにした。中国政府はこの措置を‘米国が設定した新関税による損失から中国の利益と取引残高を保護する’ためとする一方、‘貿易戦争’を望むものではないとしている。
 これに対しトランプ大統領は、4月5日、対中輸入品に対し更に1,000億ドル(約10.7兆円)規模の追加関税を検討する旨表明した。中国はこれを‘国際貿易ルール違反’などとして米国の対応を批判した。
これを受けトランプ大統領は声明の中で、‘中国は自らの違法行為を正すことなく、米国の農家や製造業に被害を与えることを選んだ’として中国の報復措置を非難する一方、米国は‘貿易戦争はしてない’としてその正当性を表明し、強硬策を貫く姿勢を示した。
 トランプ大統領は、2017年1月に就任後も大統領選挙期間中の‘アメリカ・ファースト、雇用の回復’の主張を繰り返し、中国等との膨大且つ一方的な貿易赤字を解消するため、‘フェアーな貿易、相互の利益’の実現を事ある毎に訴えて来た。同大統領は就任後早々に、北米自由貿易協定(NAFTA)や環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱、2国間自由貿易交渉の優先を鮮明にし、カナダ、メキシコ両国との再交渉を進めるなど、首脳レベルやペンス副大統領レベルを含め様々なレベルで水面下の打診、協議が行われていたと見られる。

 2、周到な計算づくのトランプ大統領の対中強硬措置
 今回の通商強硬措置は、大統領就任後1年間で様々なレベルで関係各国と水面下の接触を行うと共に、中国を含め関係各国との首脳レベルでの関係を構築した上で、周到な計算に基づき打ち出された強硬措置と見ることが出来るだろう。
 一部でこれにより関税引き上げ競争による世界経済の縮小や貿易戦争の恐れとの懸念が表明され、このような懸念を背景として米国の株式市場は大幅に下げ、相互に対抗措置が発表されるごとに下落を繰り返している。
 これはこれまでの常識的な反応であり、当面神経質な動きが続くであろう。しかし中国はもとより米国も‘貿易戦争’となることを否定している。トランプ大統領が表明している通り、関税引き上げ競争でより多くの被害を受けるのは中国であろう。中国は13億の国民に十分な食料等を確保しなくてはならないし、それが出来なければ社会的な反発や不安定化を引き起こす可能性がある。またそもそも知的財産については、中国政府の一定の努力にもかかわらず、中国側に多くの問題があることは明らかであり、米国がその改善を求めるのは当然であろうし、日本を含む他の技術先進国にとっても必要なことであろう。
 遅かれ早かれ米・中両国は貿易問題について交渉の席に着くであろう。トランプ大統領は、各国との通商関係において‘フェアーで相互の利益’の確保を主張しているが、これは通商関係だけでなく国家関係一般に通じる原則、基準であり、
 今回の米国の関税措置は2国間の通商交渉を求めるノロシと見るべきであり、相手国を交渉の席につかせる強い意志の表われと見るべきであろう。不動産業で成功したビジネスマン的交渉スタイルと言えようが、安易な妥協を図ることはなく、決裂すれば‘ユーアー ファイアード(お前は首だ)!’とばかりに強硬策をとることを躊躇はしないであろう。
 しかしトランプ大統領も次の諸点は理解すべきであろう。
 1)米国のように成熟した市場経済では、物の貿易に加え、蓄積された膨大な資本を背景としてより多くの利潤が期待出来る海外に投資することが多くなり、貿易収支が赤字でも資本収支が黒字となりこれを補てんするので、貿易収支を切り離して見るのではなく、国際収支全体で考えるべきである。
 2)米国からの海外への資本投資や資本逃避は米国人ビジネスマン自身が行っているので、米国内への再投資を促すことは米国自身の問題である。
 3)米国の中国、アジア等への直接投資は、多くの場合本社機能やハイテク技術を備える生産工程全体で行われる形が多くみられ、いわば根こそぎ投資となり米国内にほとんど何も残らず、米国の企業家自身が雇用機会を奪っていると言える。それらの海外製品が米国にも輸出されると、米国の貿易収支の悪化要因となる一方、米国の投資家に多額の利益がもたらされていることを理解すべきであろう。
トランプ大統領は、米国内での製造活動を増進させたいというのであれば、輸出国を批判するだけではなく、米国自身の問題として企業家の投資態度の改善、転換も図るべきであろう。

 3、トランプ大統領の北朝鮮問題をめぐる中国への隠れたメッセージ
 今回の米国の関税引き上げ措置、特に知的財産権侵害に対する対中経済措置は、第一義的には選挙公約である米国への雇用機会回復を狙ったものであるが、制裁措置というよりは‘公正で相互利益性’を基礎とした通商交渉を促すことが目的と見られる。しかし同時に、それは通商措置にとどまらず、トランプ大統領は北朝鮮問題においても中国の動きに満足しておらず、中国が北朝鮮に対し核兵器とミサイルを放棄するよう経済制裁措置を誠実に実施し、更に圧力を掛けるよう促すと共に、もし北朝鮮が核、ミサイルの放棄に応じない場合には強硬手段も辞さないというメッセージが込められていると思われる。
 関税引き上げという強硬措置は、自由貿易の流れに反し、貿易戦争を引き起こし、世界貿易を縮小させる恐れがあり、従来の概念では批判の多い政策であることはトランプ大統領も承知の上で敢えて打ち出したものであろう。それは長期に亘る膨大な貿易不均衡問題、特に対中貿易不均衡問題はこれ以上容認できず、批判があっても敢えてそれを解決するという強い意志を示したものであろう。
 環太平洋経済連携協定(TPP)は、米国抜きの11カ国で発足する運びとなったが(3月8日11カ国署名)、トランプ大統領は、4月12日、通商代表部(USTR)に対し復帰のための条件を検討するよう指示しており、強硬措置一辺倒ではなく、交渉による現実的な解決にも取り組む意向を示している。北米自由貿易協定(NAFTA)については既にカナダ、メキシコと再交渉を開始している。
 同大統領は、4月13日付の自らのツイッターで、“(米国は)オバマ大統領に提示された取引より実質的に良い取引でのみ参加する。米国はTPP加盟の6カ国と既に折衝している。その中で最も大きい日本は、長年にわたり米国をたたいているが、取引をすべく作業している。”と述べている。過去1年間、関係国と水面下で周到な準備、協議を行っていることを物語っている。

4、ホワイトハウス、主要閣僚ポストをトランプ好みに固めた大統領
 トランプ大統領は、2017年1月20日の就任式以来、大統領補佐官を含む主要な補佐官、長官の辞任、解任が頻繁に行っており、2018年に入っても3月にゲーリー・コーン大統領補佐官兼国家経済会議議長(後任は保守派経済評論家ラリー・クドロー氏)、続いてレックス・ティラーソンが国務長官が解任(後任にマイク・ポンペオCIA長官)、4月にマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)(後任はジョン・ボルトン元国連大使)が交代している。この時期に関税引き上げ措置など貿易強硬策がとられ、また北朝鮮の金正恩書記長との5月までの首脳会談などが打ち出されたことから、これらの対外経済、安全保障・外交問題での意見の対立が原因であったと見られる。
 その他、2017年中に次のように主要な補佐官がホワイト・ハウスを去っており、トランプ政権の不安定性を懸念する向きが多い。
・マイケル・フリン大統領補佐官 辞任(ロシア疑惑で)(2017年2月) 
⇒後任マクマスター元陸軍中将(上記の通り2018年4月に辞任)
=>後任ジョン・ボルトン元国連大使
・スパイサー大統領報道官(兼広報部長代行)辞任(2017年7月)
・プリーバス首席補佐官 辞任(政権の内部情報をリークか)(同月)
⇒後任ケリー国土安全保障長官
・アンソニー・スカラムチ広報部長 辞任 (同月)
⇒後任サラ・ハッカビー・サンダース
・スティーブン・バノン首席戦略官兼上級顧問 辞任 (2017年8月)
(大統領選挙期間中からトランプの有力な側)
 しかしトランプ大統領の政権運営にとっては、そのような一般的な懸念、批判に反し、政権運営の安定性、迅速性が増したとする見方も出来る。確かに政権発足1年強で主要な補佐官、長官等が政権を去ることは好ましいことではないが、トランプ大統領が政治の経験のない財界出身である上、大統領選挙(2016年11月)の3か月前の共和党大会まで共和党候補が決まらず、政権を担う人材を固める時間的余裕がなかったこと、更に同大統領は‘既成の政治’の打破を政治信条に据えていることからも人材確保に従来の政権以上に時間を要することなどを勘案すると、主要ポストを固めるのに1年強を要したことはやむを得なかったとも言える。いずれにしてもトランプ大統領自身の感覚からすると、同大統領と政策を共有し、一緒に仕事が出来る人材を確保するためであるので、不安定性などは感じておらず、安定性は増し、より迅速に決断出来ると認識しているであろう。それは同時に性急な結論を出す可能性を秘めており、同大統領が米国内の異なる意見にも耳を傾ける共に、主要国とも十分協議しつつ事を進めることが望まれる。日本としても、トランプ政権の政策を、自ら情勢分析の上慎重に見極め、判断することが必要なのであろう。(2018.4.16.)(Copy Rights Reserved.)
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日-EU経済連携協定の署名を歓迎!

2018-07-18 | Weblog
日-EU経済連携協定の署名を歓迎!
 日本と欧州連合(EU)は、2018年7月17日、日-EU経済連携協定に署名した。2019年に発効となる。
 2017年7月6日、日本はEU(欧州連合)と経済連携協定(EPA)に大枠で合意したもの。
 日-EU経済連携協定は、物品の輸出入だけではなく、サービスや人的交流、政府調達、及ぶ投資分野に亘り活動をより自由にし、相互の市場の連携をより緊密にすることを目的とする。
EUは、東欧を含む28か国で構成され、英国は脱退予定だが、人口約5億人、経済総生産(GDP)は現世界の約22%で、この連携協定により日本とEUは、総人口6億3千万人、GDP約28%を超える豊かな市場を構成することになる。日本との貿易総額は約11%程度しかないが、封建制度を経験した長い歴史と伝統を重んじ、街角に商店街が存在するなど、文化形態は異なるが、古い伝統に裏打ちされた文化や技術を尊重する意識において共通点は多いので、広い分野での経済交流が進展すれば、市場間の距離は縮まるものと期待される。
 農業・酪農や自動車など一部工業製品で競合する分野があるので、今後調整をようするが、生産者の立場から若干の調整を要するものの、双方の消費者にとっては質や価格の面で選択の幅が広がることになるので、速やかな協定の合意、締結が望まれる。(2018.7.18.更新)
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日・ロ共同経済活動の早期実施を期待する

2018-07-18 | Weblog
日・ロ共同経済活動の早期実施を期待する
2016年12月15、16日、プーチン・ロシア大統領が訪日し、山口県と東京で安倍首相との一連の首脳協議が行われた後、首相官邸で共同記者会見が行われ、今次協議の結果などが報告された。
1、平和条約締結に向けて出発点となる北方4島での日・ロ共同経済活動
両国首脳は、2016年12月16日、共同記者会見に際し声明を発出し、「択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島における日本とロシアによる共同経済活動に関する協議を開始する」ことに合意し、この協議が、「平和条約の締結に向けた重要な一歩になり得ること」を相互に確認したことを明らかにした。
2016年12月のプーチン大統領の訪日に際しては、この他、日本の旧島民の
墓参等に際する4島訪問手続きの簡素化、及び8項目の協力プランに沿って、医療・保健、エネルギー、産業多様化、極東開発、先端技術協力等の分野で合計12の文書に署名し、またウラジオストック等での都市づくり、生産管理に関する訪日研修、極東での温室野菜栽培事業、農産物乾燥保存技術等など、企業等が行うプロジェクトに関して68件の文書に署名された。これらはいわば‘日・ロ間の平和条約締結に向けての環境作り’、或いは平和条約の果実の前倒しとも言える措置であるが、今次会談の最大の進展は、‘特別な制度の下での北方四島での日・ロ共同経済活動’について合意したことであろう。
2、日・ロ共同経済活動の早期実施が不可欠
‘北方四島での日・ロ共同経済活動’は、平和条約に関する両国の立場を害さず、「特別な制度」の下で実施されることになっている。即ち両国の北方4島の領土権に関する立場を害することのない「特別な制度」の下で実施されることになるが、領土権がぶつかり合うことのない「国際的な特区」或いは自由貿易地域的な取り決めが必要となると見られる。この点で日・ロ政府当局間が双方の立場に固執すれば長期に亘る協議となる恐れがあり、更に平和条約締結が遠のく恐れがあるが、首脳間で十分協議の上で合意したことであるので、一両年中にも「特別な制度」での取り決めに合意し、実施に移すことが不可欠である。
3、日本の旧島民地権者の地権回復が緊要
日・ロ共同経済活動は、‘漁業,海面養殖,観光,医療, 環境その他の分野’
を含む分野で進められることになるが、具体的な活動に当たって施設や道路等のインフラ整備が行われることになろう。そのため4島の各所で土地が収容、利用されることになると予想されるので、旧島民及びその後継者の地権が侵害される恐れがある。
従って、日・ロ共同経済活動の実施に当たっては、旧島民の地権をまず保護する必要があろう。
今次会談で、日本の旧島民の墓参等に際し4島訪問手続きの簡素化が行われることは歓迎されるとことであるが、日・ロ共同経済活動が実施されるに際し、日本の旧島民の地権(4島における土地登記者及びその相続者等)を回復、或いは代替物件の提供が不可欠であろう。旧島民は1万7千人ほどであったが、ソ連の軍事支配の下で強制的に退去させられたものである。これらの島民はほとんどが軍人ではなく、首都東京から1,000キロ以上も離れ、戦争や戦闘には関与していない一般市民(シビリアン)であったので、シビリアンが所有、相続している土地、不動産は一定の保護、補償がなされるべきであろう。
 国家の領土権は、国家と国家の間の問題であり、シビリアンである個人の地権、所有権とは異なり、個人の土地、財産所有権の問題であるので、責任ある国家としてはそれを尊重する義務がある。国家間の戦争において、戦闘に関与していない一般市民の生まれ、育った故郷に平穏に住む権利を奪うことは、今日の国際通念において人道上も、人権の上でも容認されて良いものではない。プーチン大統領は、現在北方4島に住んでいるロシア人の生活があることを強調している。しかしソ連が占領する以前からこれら4島に住んでいた日本人の旧島民が1万7千名ほどおり、日・ロ共同経済活動と並行して、或いはその一環として、それら島民が故郷に住む権利を回復すべきであろう。プーチン大統領も、ロシア人の生活だけでなく、日本の旧島民の気持ちは十分に分かるであろう。
 日・ロ間には‘平和条約’こそないが、戦闘は終結し、1956年には外交関係が再開し、事実上の平和は維持されており、その中で北方4島において共同経済活動を実施しようとしている。事実上の平和が維持されている今日、4島に住んでいた日本の旧島民及びその家族が故郷に住む権利、そして地権の回復か代替地の提供が早期に行われることが強く期待される。(2017.1.5.)
(Copy Rights Reserved.)
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