激動の時代を経て生まれたブッダの基本思想(その2)
―ブッダのルーツの真実― 2018年2月19日
日本の国勢調査では、総人口の約74%が仏教系統。ところが一般には、ブッダが誕生した時代背景やルーツ、基本思想などについては余り知られていない。ブッダの誕生地は「北インド」と習った人が多く、未だに多くの教科書にはそのように記載。
また国際的にも、ブッダが青年期を過ごしたシャキア王国の城‘カピラヴァスツ’がインド側とネパール側にあるなど、未解明であり、不思議。ブッダ誕生の歴史的、社会的な背景やルーツを知ることは日本の文化や思想をよりよく知る上で必要。
このような観点や疑問から2011年に著書「お釈迦様のルーツの謎」(東京図書出版)を出版。また2015年、英文著書「The Mystery over Lord Buddha’s Roots」がニューデリーのNirala Publicationsから国際出版。特に英文ではブッダの基本思想やその歴史的な意味合いに注目。
Ⅰ.ブッダのルーツの真実と歴史的背景
1、ブッダの生誕地ルンビニ(ネパール) (その1で掲載)
2、城都カピラヴァスツ(シャキア部族王国―ブッダ青年期の居城)と周辺の遺跡群 (その1で掲載)
3、もう一つのカピラバスツは何か?ーインドのピプラワとガンワリア(その2に掲載)
北インド(ウッタル・プラデッシュ州)のピプラワ(Piprahwa)村にカピラバスツとされる遺跡がある。その南東1キロほどのところに「パレス」と表示されている遺跡。
(1)ピプラワのカピラバスツーブッダの骨壷が発見された大きなストウーパ跡の周囲に煉瓦造りの建物の遺跡。僧院群。
(2)ガンワリアの「パレス」遺跡―ピプラワの遺跡から南東に1キロほどのところに「パレス」と表示されたガンワリアの遺跡。城壁なども無い僧院作りの重厚な建物。
4、歴史の証人―決め手となる法顕と玄奘の記録 (その2に掲載)
ー>歴史的にルンビニはブッダ教の巡礼地。
中国の僧侶法顕は5世紀初頭、玄奘はその200年ほど後の7世紀にルンビニ始め、ブッダゆかりの地を訪問、それぞれ「仏国記」(「法顕伝」)、「大唐西域記」として記録。
―>6世紀以降日本に入って来た仏典等は漢字で書かれた経典や伝承。(サンスクリットが漢字の音で表記され、難解。)
(1)「法顕伝」が伝えるカピラヴァストウ
法顕は、シャキヤ族の城都「カピラヴァストウ城」の項の中で、「城の東50里に王園がある。王園の名は論民(ルンビニのこと)と言う。」と記述。
従って、カピラ城は「ルンビニの西50里」=西20~25キロ」のところになる。
ネパールのテイラウラコット村の城址と一致。
(2)異なる記述の玄奘の「大唐西域記」
玄奘も、コーサラ国の首都シュラバステイや僧院などを経てカピラヴァストウを訪問しており、「カピラヴァストウ国」の項で異なる記述。「城」でなくて、「国」と記述。
Ⅱ、激動の時代を経て、相対的な安定期に生まれたブッダ思想 (その3に掲載)
インド亜大陸へのアーリアンの長期にわたる大量の人口流入とドラビダ族等との支配を巡る紛争と融合を経て、16大国時代という相対的な安定期の中でブッダは誕生。大国間の支配を巡る潜在的な対立が存在する一方、各部族地域内では人口融合が進展。インド亜大陸統一は、その後約200年を経て、マガダ国の マウリア王朝時アショカ王により実現。
このようなブッダ誕生の歴史的、社会的背景から次のようなことが読み取れる。
1、根底にバラモンの思想と先代ブッダの存在―知的文化(古代ブッダ文化)の存在
2、王子の地位を捨て悟りの道を決断した基本思想―人類平等と人類共通の課題
3、生きることに立脚した悟り
4、不殺生、非暴力の思想
5、ヨーロッパ、アジアを大陸横断的に見た思想の流れ (その4に掲載)
(All Rights Reserved.) 2018年2月19日
日本の国勢調査では、総人口の約74%が仏教系統。ところが一般には、ブッダが誕生した時代背景やルーツ、基本思想などについては余り知られていない。ブッダの誕生地は「北インド」と習った人が多く、未だに多くの教科書にはそのように記載。
また国際的にも、ブッダが青年期を過ごしたシャキア王国の城‘カピラヴァスツ’がインド側とネパール側にあるなど、未解明であり、不思議。ブッダ誕生の歴史的、社会的な背景やルーツを知ることは日本の文化や思想をよりよく知る上で必要。
このような観点や疑問から2011年に著書「お釈迦様のルーツの謎」(東京図書出版)を出版。また2015年、英文著書「The Mystery over Lord Buddha’s Roots」がニューデリーのNirala Publicationsから国際出版。特に英文ではブッダの基本思想やその歴史的な意味合いに注目。
Ⅰ.ブッダのルーツの真実と歴史的背景
1、ブッダの生誕地ルンビニ(ネパール) (その1で掲載)
2、城都カピラヴァスツ(シャキア部族王国―ブッダ青年期の居城)と周辺の遺跡群 (その1で掲載)
3、もう一つのカピラバスツは何か?ーインドのピプラワとガンワリア(その2に掲載)
北インド(ウッタル・プラデッシュ州)のピプラワ(Piprahwa)村にカピラバスツとされる遺跡がある。その南東1キロほどのところに「パレス」と表示されている遺跡。
(1)ピプラワのカピラバスツーブッダの骨壷が発見された大きなストウーパ跡の周囲に煉瓦造りの建物の遺跡。僧院群。
(2)ガンワリアの「パレス」遺跡―ピプラワの遺跡から南東に1キロほどのところに「パレス」と表示されたガンワリアの遺跡。城壁なども無い僧院作りの重厚な建物。
4、歴史の証人―決め手となる法顕と玄奘の記録 (その2に掲載)
ー>歴史的にルンビニはブッダ教の巡礼地。
中国の僧侶法顕は5世紀初頭、玄奘はその200年ほど後の7世紀にルンビニ始め、ブッダゆかりの地を訪問、それぞれ「仏国記」(「法顕伝」)、「大唐西域記」として記録。
―>6世紀以降日本に入って来た仏典等は漢字で書かれた経典や伝承。(サンスクリットが漢字の音で表記され、難解。)
(1)「法顕伝」が伝えるカピラヴァストウ
法顕は、シャキヤ族の城都「カピラヴァストウ城」の項の中で、「城の東50里に王園がある。王園の名は論民(ルンビニのこと)と言う。」と記述。
従って、カピラ城は「ルンビニの西50里」=西20~25キロ」のところになる。
ネパールのテイラウラコット村の城址と一致。
(2)異なる記述の玄奘の「大唐西域記」
玄奘も、コーサラ国の首都シュラバステイや僧院などを経てカピラヴァストウを訪問しており、「カピラヴァストウ国」の項で異なる記述。「城」でなくて、「国」と記述。
Ⅱ、激動の時代を経て、相対的な安定期に生まれたブッダ思想 (その3に掲載)
インド亜大陸へのアーリアンの長期にわたる大量の人口流入とドラビダ族等との支配を巡る紛争と融合を経て、16大国時代という相対的な安定期の中でブッダは誕生。大国間の支配を巡る潜在的な対立が存在する一方、各部族地域内では人口融合が進展。インド亜大陸統一は、その後約200年を経て、マガダ国の マウリア王朝時アショカ王により実現。
このようなブッダ誕生の歴史的、社会的背景から次のようなことが読み取れる。
1、根底にバラモンの思想と先代ブッダの存在―知的文化(古代ブッダ文化)の存在
2、王子の地位を捨て悟りの道を決断した基本思想―人類平等と人類共通の課題
3、生きることに立脚した悟り
4、不殺生、非暴力の思想
5、ヨーロッパ、アジアを大陸横断的に見た思想の流れ (その4に掲載)
(All Rights Reserved.)
激動の時代を経て生まれたブッダの基本思想(その1)
―ブッダのルーツの真実― 2018年2月19日
日本の国勢調査では、総人口の約74%が仏教系統。 ところが一般には、ブッダが誕生した時代背景やルーツ、基本思想などについては余り知られていない。 ブッダの誕生地は「北インド」と習った人が多く、未だに多くの教科書にはそのように記載。
また国際的にも、ブッダが青年期を過ごしたシャキア王国の城‘カピラヴァスツ’がインド側とネパール側にあるなど、未解明であり、不思議。 ブッダ誕生の歴史的、社会的な背景やルーツを知ることは日本の文化や思想をよりよく知る上で必要。
このような観点や疑問から2011年に著書「お釈迦様のルーツの謎」(東京図書出版)を出版。 また2015年、英文著書「The Mystery over Lord Buddha’s Roots」がニューデリーのNirala Publicationsから国際出版。 特に英文ではブッダの基本思想やその歴史的な意味合いに注目。
Ⅰ. ブッダのルーツの真実と歴史的背景
1、ブッダの生誕地ルンビニ(ネパール)
ブッダは、紀元前6世紀から5世紀にかけて現在のネパール南部ルンビニでシャキア王国(釈迦族の部族王国)の王子(シッダールタ)として誕生、29歳までカピラバスツ城で生活。
ブッダの生誕地がルンビニとされる根拠は、アショカ王の石柱(アショカ・ピラー)の存在。 1896年12月、英国の植民地下インド北西州の考古学調査官フュラー博士は、ネパール政府の許可を得て、南部のルンビニにおいて「アショカ・ピラー」を発掘、碑文を解読。 碑文には「シャキヤの賢者ブッダがここに誕生したこと」が記載。
マヤデヴィ寺院遺跡は、長いこと埋められていたが、ルンビニ園は1997年にUNESCOの世界遺産に登録。 ブッダの生誕地として世界的に認識されるように。
ブッダの生誕地ルンビニは、カピラバスツ城の位置を特定する上で基点となるので重要。
2、城都カピラヴァスツ(シャキア部族王国―ブッダ青年期の居城)と周辺の遺跡群
(1)ルンビニの西約25キロのテイラウラコット村に城都カピラヴァスツとされる城址が。
(背景:シッダールタ王子の青年期のルーツ
ブッダが属するシャキア(釈迦)族は、北西インドを中心に勢力を広げていたコーサラ族の流れを汲んでいる。 インド北西地域には、紀元前2000年頃からアーリア人がイラン高原を経由して長い年月を掛けて流入し、人口圧力の中で先住民との抗争を続けながら南東方向に浸透した。 そして紀元前10世紀頃から先住民のトラヴィダ族等との融合が始まるが、アーリアンの支配と種族の保全の観点から、バラモン(司祭・聖職者階級)、クシャトリア(騎士・支配階級)、ヴァイシャ(農業・生産者階級)及びスードラ(従属者階級)というカースト制度が発達したと見られる。
紀元前6世紀頃から紀元前5世紀頃にかけては、インド北西部を中心として16大国が割拠し競い合っていたが、コーサラ国がブッダが修行に向かったマガダ国などと並んで最も有力な国の一つ。 コーサラ国は、現在のインドのウッタル・プラデッシュ州に位置。 そして時の国王が、故あって第一王妃の王子、王女に森に行き、国を作るよう指示した。 王子、王女たちは「ヒマラヤ南麓」に辿り着き、シャキア王国を築いたと言われている。 )
(2)テイラウラコットのカピラ城址の周辺に多くの遺跡。 ネパールのカピラ城址がシャキア王国の城跡であることを裏付け。
ⅰ)寄り添って並ぶ2つの仏塔 (トウウイン・ストウーパ)
ⅱ)歴史を刻む2つのアショカ・ピラー。 アショカ王が何度もブッダの郷里に足を運んだ証拠。
・ゴテイハワのアショカ・ピラー
・ニグリハワのアショカ・ピラー上部には、次の趣旨の4行の碑文が刻まれている。
ピヤダシ王(アショカ王の別称)は「・・・即位[20年]を経て 国王自ら訪れ
[そして]国王は[この石柱を建立することを]指示した」)
ⅲ)シッダールタ王子、覚醒後ブッダとして父王と再会した場所クダンー4つの僧院遺跡やマウンドが。
(背景:ブッダは、ラージグリハ(現在のインドのビハール州)で富豪より寄進された竹林の僧院(日本語表記 竹林精舎)からカピラバスツまで約770キロ、2ヶ月ほどの道。 )
ⅳ)サガルハワのストウーパ(仏塔)遺跡
法顕伝は、「大城の西北に数百千のストウーパがある。 」等と記述。
このような歴史的な遺跡の存在は、ここにシャキア王国の城都カピラバスツがあったことを如実に物語っていると共に、カピラ城址周辺には古代ブッダ文化地帯とも言える知的文化があったこと示している。
3、もう一つのカピラバスツは何か? ーインドのピプラワとガンワリア(その2に掲載)
4、歴史の証人―決め手となる法顕と玄奘の記録 (その2に掲載)
Ⅱ、激動の時代を経て、相対的な安定期に生まれたブッダ思想 (その3に掲載)
インド亜大陸へのアーリアンの長期にわたる大量の人口流入とドラビダ族等との支配を巡る紛争と融合を経て、16大国時代という相対的な安定期の中でブッダは誕生。 大国間の支配を巡る潜在的な対立が存在する一方、各部族地域内では人口融合が進展。 インド亜大陸統一は、その後約200年を経て、マガダ国の マウリア王朝時アショカ王により実現。
このようなブッダ誕生の歴史的、社会的背景から次のようなことが読み取れる。
1、根底にバラモンの思想と先代ブッダの存在―知的文化(古代ブッダ文化)の存在
2、王子の地位を捨て悟りの道を決断した基本思想―人類平等と人類共通の課題
3、生きることに立脚した悟り
4、不殺生、非暴力の思想
5、ヨーロッパ、アジアを大陸横断的に見た思想の流れ (その4に掲載)
日・ロ平和条約締結への交渉加速を期待する (再掲)
2018年11月26日
日・ロ平和条約締結に向け、シンガポールで開催されたASEAN関連首脳会議に際し、2018年11月14日、安倍首相はロシアのプーチン大統領と会談した。この会談は2016年に持たれた両首脳の日本での会談において、「新しいアプローチで問題を解決する」との方針の下で、北方4島での共同経済活動を促進することで合意したことを受けて行われたものである。
日本外務省が公表した会談概要では、事務当局を含めた全体会合(45分)の他、通訳のみでの両首脳の個別会談(40分)が行われた。全体会合では、平和条約問題の他、2国間経済関係の促進、国際的な安全保障分野での協力、北朝鮮非核化問題など幅広い分野で意見交換が行われている。
日・ロ平和条約締結問題については、全体会合においては、北方4島における共同経済活動の促進につき協議されると共に、日本側より元島民の問題について提起されたが、北方4島返還問題を含む平和条約締結問題については突っ込んだ話し合いは行われず、両首脳による個別会談で行われた。
首脳間個別会談の後、安倍首相は記者団に対し、「1956年宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる。そのことをプーチン大統領と合意した。」と述べ、これが公表された会談概要にも記載されている。1956年に調印された日・ソ共同宣言においては、外交関係を回復し、平和条約締結交渉を継続することとし,‘条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡しする’旨記されている。
日本は従来、4島一括返還を主張し、領土問題解決が平和条約締結の前提条件としていた。しかし1956年の共同宣言から62年、歴代政権が交渉を重ねてきたものの見通しが立っていない今日、長年の膠着状態を打破するため平和条約締結に向け1956年の共同宣言を基礎として条約交渉を実質的且つ具体的に加速することを支持する。
日本としては、老齢化する旧島民や地権者の精神的負担を軽減すると共に、急速に存在感を増す中国との関係においても海を隔てた隣国ロシアとの平和条約を締結することがタイムリーと言えよう。他方ロシアにとっては、強大化する中国との関係において、クリミア半島併合以来米・欧との関係が悪化し、制裁を科され、G8(主要先進8カ国)からも外され、孤立感を深めているので、政治的にも経済的にも日本との平和条約締結は望ましいものと言えよう。
1、ロシアは北方領土返還により日本の信頼を回復出来る
プーチン大統領は、今回の首脳会談後、‘同宣言には、ソ連が2つの島を引き渡す用意があるということだけ述べられ、それらがどのような根拠により、どちらの主権に基づくかなどは述べられていない。慎重な議論が必要だ’と述べたと伝えられている。しかしロシア側は、北方4島を奪取した経緯と旧島民のみならず日本国民にとっての北方領土返還の意味を理解すべきであろう。それは北方領土の権益等の経済的な価値などではなく、日本のロシアに対する信頼性回復の問題なのである。
プーチン大統領は、日本の北方領土は‘戦争の結果得たものである’と述べていたところであり、日本の領土であることは認識していると思われる。従って、‘日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡しする’ということは、2島を日本の主権下に‘引き渡す’と言うことに他ならない。無論、ロシア、その前身であるソ連がこれらの島に投じた資金や現実にロシア人が生活をしているので、それらに対する代償については、プーチン大統領が示唆している通り‘議論が必要’であろう。
日本人にとっては、北方領土は‘経済的代償’以上の意味合いがある。
日本は、第2次世界大戦前の1941年4月、ソ連と中立条約を締結している。しかしソ連は、中立条約の破棄通告もなく(1年前の事前通告が規定)、1945年8月8日、突如日本に対し宣戦布告し、北方4島を奪取、占領した。
ソ連は日本との重要な国際約束を破ったのである。従って、ロシアが平和条約を締結しても、北方4島をどのような形であろうと日本に返還しないということは、ソ連、従ってそれを継承しているロシアは、国際約束を遵守しない、都合により一方的に破棄することがあるということを意味し、日本人は、また世界は‘ロシアは信頼できない’という認識を持つであろう。平和条約を締結しても、‘信用できないロシア’との貿易・投資が積極的に進められるとも思えない。
プーチン大統領は、北方領土問題は‘経済的代償’の問題以上に‘信頼性’の問題であることを十分に理解すべきであろう。他方‘経済的代償’については、日本側は可能な限り知恵を出すべきであろう。
2、北方領土問題につき1956年の共同宣言を越えられるかが鍵
今後平和条約交渉が実質的に加速し、条約締結の段階に至っても、北方領土に
ついては歯舞、色丹の2島返還だけに終わると、1956年の日・ソ共同宣言以来の62年間に亘る歴代政権の交渉努力は何だったのかとの批判に晒される恐れがある。
従って今後の最大の鍵は、残る択捉、国後2諸島の取り扱いとなろう。同時に、歯舞、色丹の2島が返還されることになれば、この両島の地権者の問題は解決するが、択捉、国後2諸島において‘共同経済活動’が継続するとしても、この両島の地権者の地権回復が問題となろう。
(1)残る択捉、国後2諸島の取り扱い
択捉、国後2諸島については、‘1956年日・ソ共同宣言’の外になるので、今回の交渉で結論を出すことは困難と予想され、何らかの形で継続協議となる可能性がある。そのような可能性があるとしても、歯舞、色丹2島の返還を前提とした条約締結交渉を支持する。
しかし択捉、国後について一定の方向性を出すことが望まれる。例えば次のような選択肢が考えられる。
イ)現状のまま‘共同経済活動’を継続し、帰属につき代償を含め協議する。
ロ)領有権は日本側に引き渡すが、ロシア側に一部を実質上無償で無期限租借する。
ハ)択捉、国後2諸島については、‘日・ロ自由貿易地域’(仮称)として日・ロ両国の共同管理
する、など。
いずれにしても両国が、両国国民の理解と信頼が得られるよう知恵を出すことが不可欠であろう。
3、地権者の権利を認め、帰還を認めるか、補償が支払われるべき
ソ連による北方4島占領当時、島民は3,124世帯、17,291人ほど(独法北方領土問題対策協会資料)であり、その生活や権利は回復しない。両国による領有権問題は別として、日・ロ共同経済活動と並行して、或いはその一環として、それら島民が故郷に住む権利を回復すべきであろう。また住むことを希望しないものに対し補償がなされるべきであろう。国家の領土権問題は、国家と国家の間の問題であり、シビリアンである個人の地権、所有権は個人の土地・財産所有権の問題であるので、責任ある国家としてはそれを尊重する義務がある。国家間の戦争において、戦闘に関与していない一般市民の生まれ育った故郷に平穏に住む権利を奪うことは、今日の国際通念において人道上も、人権の上でも容認されて良いものではない。
旧島民による墓参活動が進展しているが、ロシア側、或いはロシア人在住者が日本人の墓地や鳥居などの旧跡を破壊、撤去せず、維持していることは日本人のルーツ、心情を認識、理解しているものとして評価できる。プーチン大統領も、ロシア人の生活だけでなく、日本の旧島民の気持ちは十分に分かるであろう。
日・ロ間には‘平和条約’こそないが、事実上の平和が維持されている今日、4島に住んでいた日本の旧島民及びその家族が故郷に住む権利、そして地権の回復か代替地の提供、或いは補償が早期に行われることが強く期待される。多くの家族が土地登記をしている。
(2018.11.26.)(Copy Rights Reserved.)
求められる「等級制」終身雇用形態の転換 (その2)(再掲)
総務省は、2013年2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。
また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。
被雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は 2014年には37.4%に達し、若干の上下動はあるものの、その後も37%台の高水準にある。
雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになる。日本の雇用慣行においては、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制がなお一般的であるため、中間的な本採用は少数であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があるため、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。
このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、非正規就労者は、自由な生活スタイルが可能となる一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。
その上、環太平洋経済連携(TPP)やEU等との経済連携により物・サービスの自由化が進み、労働力交流や対日投資も増加する中で、日本の労働生産性は先進工業国中最下位の状態が続いており、今後外国企業や外国人就業者に市場機会を奪われ、日本の産業が停滞して行くことが財界自身により危惧され始めている。日本の終身雇用制とそれに付随する新卒至上主義や定年制という雇用制度は、戦後の産業保護と円安為替レートにも支えられ、産業の安定的発展には寄与してきたものの、労働生産性は低迷しており、複雑多岐に亘る規制、規則、通達や労働慣行などによる労働生産性抑制要因と共に、「非正規就労者」が全体の平均賃金レベルを下げる結果を招いているのではないかとみられる。国際的競争がますます熾烈になると予想される今日、深刻な課題となっている。
1、望まれる職種・技能・技術を基準とした職階制雇用形態の普及 (その1 で掲載)
(1)閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態
(2)職種・技能を基準とした職能制雇用形態への転換、普及が不可欠
(3)定年制は各種の弊害を生んでいる
2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠
地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象とし、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。
このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わることを希望する国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。
従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提し、年功序列に基づく「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置く、「国民参加型」行政組織とすることが望ましい。
(1) 幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」
職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。
日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、官職の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。しかし「職階制」は、日本において旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正で職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。
(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)
(職階制の確立)
第29条 職階制は、法律でこれを定める。
2 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、
分類整理しなければならない。
3 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に
ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者
に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ
ばならない。
4 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。
5 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定
による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であって、かつ、
この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧
告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。
(職階制の実施)
第30条 職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。
2 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事
院規則でこれを定める。
(官職の格付)
第31条 職階制を実施するに当たっては、人事院は、人事院規則の定めるところに
より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。
2 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再
審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。
(職階制によらない官職の分類の禁止)
第32条 一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること
はできない。
昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は‘国民に開かれた公務’を遂行する上でデメリットも多い。
(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」
雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうである。
政策レベルの問題以外でも、公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、政党間の政権交代にしても、与党内での首班交代にしても、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。逆に、公務員だけが「職階制」でも、民間で職階制が普及しない場合は、公務員が辞めたくても行き場がないので、「職階制」は維持できなくなる。恐らく、過去に公務員の職階制がいつの間にか排除されたのも、民間での「職階制」導入が進まなかったからではなかろうか。また米欧からの人材が日本の労働市場に参入しにくくするとの意図もあったのかもしれない。いずれにせよ、公務員を職種・技能に基づく「職階制」とすれば、配転はより容易かつ円滑に行われるであろう。国家公務員については日本国民であることが原則になっている。
このような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよ
う閉鎖的で硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべき時期なのであろう。
また企業、団体も二流の就労者とも見られている「非正規雇用」形態をなくすため、また低迷する労働生産性を高め、世界の多国籍企業との競争力を回復するためにも、職階制に転換、普及することが望まれる。
(2020.1.7.)(不許無断転載)(All Rights Reserved)
総務省は、2013年2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。
また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。
被雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は 2014年には37.4%に達し、若干の上下動はあるものの、その後も37%台の高水準にある。
雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになる。日本の雇用慣行においては、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制がなお一般的であるため、中間的な本採用は少数であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があるため、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。
このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、非正規就労者は、自由な生活スタイルが可能となる一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。
その上、環太平洋経済連携(TPP)やEU等との経済連携により物・サービスの自由化が進み、労働力交流や対日投資も増加する中で、日本の労働生産性は先進工業国中最下位の状態が続いており、今後外国企業や外国人就業者に市場機会を奪われ、日本の産業が停滞して行くことが財界自身により危惧され始めている。日本の終身雇用制とそれに付随する新卒至上主義や定年制という雇用制度は、戦後の産業保護と円安為替レートにも支えられ、産業の安定的発展には寄与してきたものの、労働生産性は低迷しており、複雑多岐に亘る規制、規則、通達や労働慣行などによる労働生産性抑制要因と共に、「非正規就労者」が全体の平均賃金レベルを下げる結果を招いているのではないかとみられる。国際的競争がますます熾烈になると予想される今日、深刻な課題となっている。
1、望まれる職種・技能・技術を基準とした職階制雇用形態の普及 (その1 で掲載)
(1)閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態
(2)職種・技能を基準とした職能制雇用形態への転換、普及が不可欠
(3)定年制は各種の弊害を生んでいる
2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠
地方公務員、準公務員を含め、公務員の新規採用は基本的に新卒者を対象とし、受験資格の年齢制限を定めており、また定年までの終身雇用を前提とする「等級制」となっている。公務員の地位は法律で守られており、解雇は原則として困難であり、懲戒免職も例外的でしかない。技術職や専門職で若干の中間採用はあるが、多くはない。
このような公務員の地位の一定の保護は、公平性、中立性が問われる公務の性格上必要であろう。しかし公務員、準公務員を含む公務員の強い閉鎖的人事制度は、私企業や私的組織なら兎も角として、社会人となってから行政に携わることを希望する国民の参加を排除する一方、どうしても内部的な組織の論理や前例などが優先し、社会の変化や新たなニーズへの対応を遅らせる要因ともなっている。
従って公務員こそが、一括の新卒採用や年齢制限、終身雇用を前提し、年功序列に基づく「等級制」を廃止し、職種、技能・経験を基準とする「職階制」に移行することが望ましい。現在、教育においても経済社会活動においても広く人材は育っていると共に、一旦社会人となっても行政に携わってみたい国民に対し門戸を広く開けて置く、「国民参加型」行政組織とすることが望ましい。
(1) 幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」
職階制は、職種に必要な資格要件に基づき職級を定め、同一の職位や職にある者に対し同一の幅の俸給を定める制度であり、欧米諸国や国連など国際機関で広く採用されている。
日本においても戦後検討され、人事院か職階制について立案し、国家公務員法(昭和22年10月公布)の第29条2項、4項においては、「一般職に属する官職に関する職階制」を規定し、官職の分類の原則及び職階制の実施について規定され、施行された。しかし「職階制」は、日本において旧来よりの終身雇用制に合致しないことから、職階制は凍結された(昭和27年4月人事院、規則六)。そして旧来通り等級制が実施されてきたことから、公務員人事の総理府人事局での一括管理などの改革の一環の中で、2009年4月の国家公務員法の一部改正で職階制関連規定(同法第29条から第32条)は削除されている(削除された関連条項 参考)。また地方公務員についても職階制は導入されていない。
(参考)国家公務員法から削除されていた職階制関連条項(2009年4月)
(職階制の確立)
第29条 職階制は、法律でこれを定める。
2 人事院は、職階制を立案し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じて、
分類整理しなければならない。
3 職階制においては、同一の内容の雇用条件を有する同一の職級に属する官職に
ついては、同一の資格要件を必要とするとともに、且つ、当該官職に就いている者
に対しては、同一の幅の俸給が支給されるように、官職の分類整理がなされなけれ
ばならない。
4 前3項に関する計画は、国会に提出して、その承認を得なければならない。
5 一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第95号)第6条の規定
による職務の分類は、これを本条その他の条項に規定された計画であって、かつ、
この法律の要請するところに適合するものとみなし、その改正が人事院によつて勧
告され、国会によつて制定されるまで効力をもつものとする。
(職階制の実施)
第30条 職階制は、実施することができるものから、逐次これを実施する。
2 職階制の実施につき必要な事項は、この法律に定のあるものを除いては、人事
院規則でこれを定める。
(官職の格付)
第31条 職階制を実施するに当たっては、人事院は、人事院規則の定めるところに
より、職階制の適用されるすべての官職をいずれかの職級に格付しなければならない。
2 人事院は、人事院規則の定めるところにより、随時、前項に規定する格付を再
審査し、必要と認めるときは、これを改訂しなければならない。
(職階制によらない官職の分類の禁止)
第32条 一般職に属するすべての官職については、職階制によらない分類をすること
はできない。
昭和22年の国家公務員法に規定されていた「職階制」は、“公務の民主的且つ能率的な運営を促進する”ことを目的としていたものである。それが長期に亘り実施されることなく、旧来より実施されて来た新卒採用、定年までの終身雇用を基本とした「等級制」が既成事実化され、法律上容認されたことになる。無論「等級制」には、雇用者、被雇用者双方にとって雇用の安定性確保等のメリットはあるが、雇用形態の閉鎖性、硬直性は‘国民に開かれた公務’を遂行する上でデメリットも多い。
(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」
雇用者は、民間であれば私企業であり団体であるが、公務員の雇用者は国民から選ばれて政権に就いた内閣や地方の首長となるが、民主制においては内閣や首長は国民の選択により変わる。従って選挙によって雇用者である内閣や首長が変わり、政策や方針、施策が変わるが、被雇用者である公務員の閉鎖性、硬直性が円滑な政策転換のブレーキや障害となる可能性がある。特に課長(室長等を含む)以上の管理職がそうである。
政策レベルの問題以外でも、公務員の雇用形態の閉鎖性は、一旦社会人となった国民が行政に携わる道を実態的に閉ざすという弊害となっている。就労人口の35%強を占める「非正規労働者」にしても「正規労働者」にしても、一定年齢以上になると公務員になれる可能性はほとんどない。「職階制」とすれば、政権交代等に際し、政党間の政権交代にしても、与党内での首班交代にしても、新体制の政策や方針に共鳴できない公務員は他の分野や民間等に転職し易くなる。そのためにも、民間でも職階制が普及することが望まれる。逆に、公務員だけが「職階制」でも、民間で職階制が普及しない場合は、公務員が辞めたくても行き場がないので、「職階制」は維持できなくなる。恐らく、過去に公務員の職階制がいつの間にか排除されたのも、民間での「職階制」導入が進まなかったからではなかろうか。また米欧からの人材が日本の労働市場に参入しにくくするとの意図もあったのかもしれない。いずれにせよ、公務員を職種・技能に基づく「職階制」とすれば、配転はより容易かつ円滑に行われるであろう。国家公務員については日本国民であることが原則になっている。
このような観点から、公務員の雇用体制も、政権交代をより円滑に行えるよ
う閉鎖的で硬直的な終身雇用の等級制から国民に開かれた職階制にすべく、政府が率先して実施努力をすべき時期なのであろう。
また企業、団体も二流の就労者とも見られている「非正規雇用」形態をなくすため、また低迷する労働生産性を高め、世界の多国籍企業との競争力を回復するためにも、職階制に転換、普及することが望まれる。
(2020.1.7.)(不許無断転載)(All Rights Reserved)
求められる「等級制」終身雇用形態の転換 (その1)<再掲>
2020年1月下旬より武漢発のコロナウイルス禍の拡大、継続により、解雇者や雇い止め、新規卒業者の就職難や内定取り消しなど、就労市場はまさに冬の時代となっている。2008年のリーマン・ショックにより解雇された正規就労者も、新卒優先の定年制に基づく「正規社員」としての再就職の機会はなく、多くは契約社員やアルバイトなどの「非正規社員」の地位を強いられている。今日、コロナウイルス禍の影響はリーマン・ショックを上回る状況となっており、これらの失職者を受け入れる就労市場の転換が迫られている。他方、65歳以上の年長者は人口の28.7%を占め、100歳以上が8万人を超えており、もはや新卒優先の終身雇用制、これに基づく等級・職階制は過去のものとなっており、これらの就労者を公正に受け入れることは困難になっている。
本稿は、このような新たな状況に鑑み、再掲するものである。
総務省は、2013年2月19日、2012年の労働力調査の結果を発表し、就労者(役員を除く)の内、アルバイトや派遣、契約社員などの「非正規労働者」の割合が平均で35.2%(1,813万人)と3年連続で過去最高値を更新したと発表した。景気の回復や退職年齢の引き上げなどにより男子の比率は約20%と若干回復したものの、女子の比率は55%弱とやや悪化し、女性労働者にしわ寄せされた形となっている。
また同省は、契約社員や派遣社員など期間が定められた期間雇用は全就労者の約26%(1,410万人)としており、期間雇用が予想以上に一般化していることが明らかになっている。そして全就労者の10%程度がパートやアルバイトなどなるが、生活スタイルの多様化は良いとしても、雇用や生活の安定性からすると課題は多い。
被雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は 2014年には37.4%に達し、若干の上下動はあるものの、その後も37%台の高水準にある。
雇用労働者の3人に1人以上が「非正規労働者」であり、例外的な雇用形態ではなくなっている。今後若干景気が回復しても景気の不安定性を勘案するとこの状態はかなり長期に継続すると予想される。従って「非正規労働者」の問題は、かなり長期に亘って日本の雇用関係の一角を形成することになる。日本の雇用慣行においては、基本的に新卒採用を出発点とした終身雇用制がなお一般的であるため、中間的な本採用は少数であることを考慮すると、ほとんどの「非正規労働者」が生涯「非正規労働者」として過ごす可能性が高いこと、及び「正規労働者」との比較で賃金はもとより、健康保険、年金などの社会福祉などの労働条件において格差が常態化する可能性があるため、「非正規労働者」の定年年齢後の年金や医療などの社会福祉費が社会福祉予算を圧迫する可能性がある。
このように雇用労働者の3人に1人以上の人達が常態化する一方、非正規就労者は、自由な生活スタイルが可能となる一方、相対的に不安定な雇用、生活環境に置かれる可能性があるので、少子高齢化時代と低位安定成長を前提とした今後の日本社会を再構築していく上で、「非正規労働者」に区分されている就労者への諸制度の整備や基本的な雇用制度のあり方が重要な課題となっていると言えよう。
その上、環太平洋経済連携(TPP)やEU等との経済連携により物・サービスの自由化が進み、労働力交流や対日投資も増加する中で、日本の労働生産性は先進工業国中最下位の状態が続いており、今後外国企業や外国人就業者に市場機会を奪われ、日本の産業が停滞して行くことが財界自身により危惧され始めている。日本の終身雇用制とそれに付随する新卒至上主義や定年制という雇用制度は、戦後の産業保護と円安為替レートにも支えられ、産業の安定的発展には寄与してきたものの、労働生産性は低迷しており、複雑多岐に亘る規制、規則、通達や労働慣行などによる労働生産性抑制要因と共に、「非正規就労者」が全体の平均賃金レベルを下げる結果を招いているのではないかとみられる。国際的競争がますます熾烈になると予想される今日、深刻な課題となっている。
1、望まれる職種・技能・技術を基準とした職階制雇用形態の普及
3人に1人以上もの就労者が「非正規雇用」になっている現在、「正規雇用」
に対し「非正規」と呼称することは多くの就労者を差別化することになり、労働市場を「正規」と「非正規」に2分することは好ましくない。これらの就労者はいずれも日本経済にとって不可欠な人材であるので、安定した労働形態として制度を整え、「正規」「不正規」の区別を無くし、労働市場に適正に位置付けて行く必要があろう。
その解決策の1つが職種・技能・技術を基準とした職能制雇用形態への転換、普及である。
(1)閉鎖性の強い現在の「正規雇用」形態
現在日本の「正規雇用」は、多くの場合新卒者採用を原則として定年まで同じ企業、組織で就労する終身雇用の形態となっており中間採用は多くはない。
終身雇用は、企業経営側にとっては、組織、従って経営陣への忠誠心を維持し易く、組織の安定性を確保し易いと言えよう。また中小企業など、創業家を中心とする家族経営においては家族主義的な組織管理を行い易いメリットがある。雇用されている側も定年まで定職に就けるという安定性を享受できる。しかし家族主義的な雇用形態は、新規の人材を外部から導入することを阻み、内外の経済環境やグローバルに拡大、激化する競争関係に迅速、的確に対応できず、競争力を失うなどのデメリットも多い。雇用されている側も、組織内で希望の職種や仕事に就けるのはわずかである。その上景気の後退期には人員整理が困難であるため、迅速な対応が出来ず、企業の存続を脅かすことにもなる。
職種によっては新卒採用に拘泥する必要はなく、必要な職種、技能を補充するために中間採用を機動的に活用する方が急速に変化する内外市場へのダイナミックな対応が可能となろう。
(2)職種・技能を基準とした職能制雇用形態への転換、普及が不可欠
職種・技能を基準とした職階制雇用においては、新卒か否かや年齢にとらわれず、職種ごとの技能や経験年数により採用することになるので、採用した人材が即戦力となる。新卒採用者を除き、研修費やリードタイムでの諸経費の節約にもなる。一方就労者側も一定期間の就労の後、より良い労働環境を求めて企業や地域を変更することが出来るので、双方にとって弾力的な雇用形態となる。「正規」「非正規」の区別も不要となる。欧米諸国で広く採用されている。
現在就労者の35%以上を占める「非正規就労者」にとっては、たまたま学校卒業時期に不況であったため「非正規雇用」となり、日本の終身雇用制の下では今後長期にその状態が続くことになると予想される。これらの人達にチャンスを与え、より多くの人が安定した職が得られるように雇用形態を多様化、弾力化すると共に、正規の雇用形態とすることが望ましい。これは、ほとんどの就労者が健康保険や年金などの社会保険の恩恵を受けられる体制にする上でも重要である。呼称も「正規雇用」「非正規雇用」とすることは適当でなく、「一般職」「職能技術職」とすれば足りることであろう。
無論、どのような雇用形態とするかは企業の経営管理方針、選択によるが、職種・技能を基準とした職能制雇用形態の普及により、「正規」「非正規」の区別をなくし、「一般職」と「職能技術職」に移行させることが望ましい。
(3)定年制は各種の弊害を生んでいる
正規雇用形態は、多くの場合、入口の新卒者採用と共に出口である定年制とセットになっており、その上で年功序列の体系となっているので、年齢が決定的な要因になっている。しかし長寿化により、退職後余命が顕著に長くなっており、退職後の過ごし方が大きな問題になると共に、年金財源を圧迫する主要因にもなっている。
平均寿命は、日本の戦後復興が本格化し始め、諸制度が整備し始めた1960年で男性65.3歳、女性で70.2 歳であったが、2010年には男性79.6 歳、女性86.4歳と顕著に伸びている。1960年代の定年年齢を55歳とすると、定年後余命は10年程度となる。2010年には定年が60歳として、定年後余命は19.6年と2倍に伸びており、女性についてはもっと長くなっている。従って現在、定年後の過ごし方と年金財源の不足が社会問題となるのは当然と言えよう。最大の問題は、経験や技能・技術を持ち、働く意欲がある者を、寿命が延びているにも拘らず、年齢により一律に労働市場から排除してしまう上、年金への依存を高めることであろう。長寿化を前提とすると、定年後の期間が従来よりも著しく長くなっているので、現在では「定年制度」は事実上の‘年限解雇’の制度となっているとも言える。
このような状況に対応し、現在年金支給年齢を65歳とし、その穴埋めとして60歳定年の延長や再雇用、或いは定年の撤廃が選択肢として検討されており、当面の対策としてはして良いのであるが、寿命はさらに伸びる可能性があり、定年制を維持する限りイタチごっことなり、抜本的な対策とはならない。顕著な寿命の伸長に対し、雇用制度や諸慣行、社会保障制度などへの対応が追いついていないと言えよう。基本的に年齢に過度に執着しない雇用モデルが必要になっていると言えよう。
「正規就労者」もいずれは定年となるが、職能職階制を導入すれば、一定年齢以降についても、働く意欲があり健康であれば、自らが選択する職種、技能で組織に留まることが出来るようにすることが可能となろう。定年制を維持すれば、寿命が延びたことにより定年年齢となっても働けるが職のない人口が多くなる一方、年金支給年齢を65歳に引き上げても年金給付期間は以前よりも長期間となるため、年金の財源を圧迫し続けることになる。恣意的に定められている定年が各種の社会的な障害となっていると言えよう。
女性の社会進出の促進にしても、いろいろな問題が議論されているが、終身雇用の下での年功序列的な等級制度が続く限り、現実問題としてはなかなか進まないと見られている。多くの場合、出産や子育などで、一定期間年功序列のエスカレーターから外れてしまうからだ。女性の社会進出の促進のためにも、職種・技能に基づく職階制への転換が望まれる。
2、国家公務員等の人事制度の改善が不可欠 (その2に掲載)
(1)幻に終わった「国家公務員の職階制に関する法律」
(2)国民に開かれた公務員制度を可能にする「職階制」
(2020.1.7.)(不許無断転載)(All Rights Reserved.)
コロナウイルス感染縮小、評価するもPCR検査数も削減!
コロナウイルスの感染者数が東京でも全国規模でも顕著に縮小しており、大変喜ばしい。
これは6月20日より3か月間緊急事態宣言が継続された結果、各種活動が抑制され、マスク着用などの国民レベルでの感染予防努力があったことと、ワクチン接種の促進によるところが大きい。
国、地方自治体の関係部局、医療関係者のご努力に感謝すると共に、国民の皆様、飲食・観光関係者のご努力や我慢等に対し心から敬意を表したい。
1、PCR検査数が減れば新規感染者の数も減る
他方、コロナウイルス感染が縮小し、感染率も大幅に低下しているが、9月に入りPCR検査の数も大幅に減少している。PCR検査の数は、曜日によって異なるが、東京都では8月中・下旬の1日当たりの平均的検査数が1万5千人から1万6千人前後であったのに対し、10月初旬から中旬には6千人から7千人前後と1/3以下に削減されている。
全国規模では、更に顕著で、8月中・下旬には14~15万人前後であったが、10月初旬から中旬には5万人から6万人前後とほぼ1/3に激減している。
2、 8月レベルの検査が行われていれば、新規感染者数は約3倍!
感染率が減れば検査対象者が減り、検査数が減るのは道理だが、大まかに言って8月レベルの検査が行われていれば、新規感染者数は公表されている数の約3倍となる。10月9日の東京都の新規感染者は89人と公表され100人を切ったと言われているが、単純計算ではあるが、8月レベルの検査が行われていれば267人と3桁となる。全国レベルでは774人と1,000人を切ったが、8月レベルの検査が行われていれば2,322人と2,000人を上回ることになる。
政府当局が政府の政策に有利な情報や数値を公表する場合がある。今回は、国民の健康と命にかかわることであり、統計数値の操作は国民や関係活動に影響を与えるだけに、そのようなことがないことを期待したい。しかし現在公表されている数値については、8月との比較では、その約3倍前後と考えた方が良さそうだ。自分自身や家族等の健康と命にかかわる問題であるので、油断は禁物だ。
現在でもコロナウイルスで自宅療養している方や病院には入れない調整中が多数おり、また無症状や軽症者も多数存在し、自由に外出し、旅行もしている。コロナウイルスが無くなったわけではない。また多くの人が後遺症に苦しんでいることを忘れてはいけないだろう。後遺症に対しても救済が必要だ。
このような中で、旅行代理店や観光関連団体がGo To トラベル再開への促進活動を活発に行っており、支持する向きもある。関係業者のご苦労は十分に理解出来るところであり、現在検証実験的に試行されているが、観光客を含め国民の健康と命にかかわることであるので、慎重な対応が望まれる。2020年7月の拙速を繰り返してはならない。多くの国民は旅行や飲食を渇望しているので、現在は、旅行や飲食を一定の条件で解禁さえすれば十分だろう。行うなら、まず各自治体内で判断して行うことが望ましい。
また、このような感染力の強い国際的な感染症(パンデミック)については、関係分野毎に一定の予防措置を執ることを義務付けた上で営業を許可し、感染者が出たら1か月前後の営業停止を求め、消毒や予防措置の改善を図ることにするのも、各分野の自主的努力を促進し、賛同も得やすく効果的であろう。(2021.10.17.)
コロナウイルスの感染者数が東京でも全国規模でも顕著に縮小しており、大変喜ばしい。
これは6月20日より3か月間緊急事態宣言が継続された結果、各種活動が抑制され、マスク着用などの国民レベルでの感染予防努力があったことと、ワクチン接種の促進によるところが大きい。
国、地方自治体の関係部局、医療関係者のご努力に感謝すると共に、国民の皆様、飲食・観光関係者のご努力や我慢等に対し心から敬意を表したい。
1、PCR検査数が減れば新規感染者の数も減る
他方、コロナウイルス感染が縮小し、感染率も大幅に低下しているが、9月に入りPCR検査の数も大幅に減少している。PCR検査の数は、曜日によって異なるが、東京都では8月中・下旬の1日当たりの平均的検査数が1万5千人から1万6千人前後であったのに対し、10月初旬から中旬には6千人から7千人前後と1/3以下に削減されている。
全国規模では、更に顕著で、8月中・下旬には14~15万人前後であったが、10月初旬から中旬には5万人から6万人前後とほぼ1/3に激減している。
2、 8月レベルの検査が行われていれば、新規感染者数は約3倍!
感染率が減れば検査対象者が減り、検査数が減るのは道理だが、大まかに言って8月レベルの検査が行われていれば、新規感染者数は公表されている数の約3倍となる。10月9日の東京都の新規感染者は89人と公表され100人を切ったと言われているが、単純計算ではあるが、8月レベルの検査が行われていれば267人と3桁となる。全国レベルでは774人と1,000人を切ったが、8月レベルの検査が行われていれば2,322人と2,000人を上回ることになる。
政府当局が政府の政策に有利な情報や数値を公表する場合がある。今回は、国民の健康と命にかかわることであり、統計数値の操作は国民や関係活動に影響を与えるだけに、そのようなことがないことを期待したい。しかし現在公表されている数値については、8月との比較では、その約3倍前後と考えた方が良さそうだ。自分自身や家族等の健康と命にかかわる問題であるので、油断は禁物だ。
現在でもコロナウイルスで自宅療養している方や病院には入れない調整中が多数おり、また無症状や軽症者も多数存在し、自由に外出し、旅行もしている。コロナウイルスが無くなったわけではない。また多くの人が後遺症に苦しんでいることを忘れてはいけないだろう。後遺症に対しても救済が必要だ。
このような中で、旅行代理店や観光関連団体がGo To トラベル再開への促進活動を活発に行っており、支持する向きもある。関係業者のご苦労は十分に理解出来るところであり、現在検証実験的に試行されているが、観光客を含め国民の健康と命にかかわることであるので、慎重な対応が望まれる。2020年7月の拙速を繰り返してはならない。多くの国民は旅行や飲食を渇望しているので、現在は、旅行や飲食を一定の条件で解禁さえすれば十分だろう。行うなら、まず各自治体内で判断して行うことが望ましい。
また、このような感染力の強い国際的な感染症(パンデミック)については、関係分野毎に一定の予防措置を執ることを義務付けた上で営業を許可し、感染者が出たら1か月前後の営業停止を求め、消毒や予防措置の改善を図ることにするのも、各分野の自主的努力を促進し、賛同も得やすく効果的であろう。(2021.10.17.)
膨らむ企業の内部留保、求められるコロナ禍での使い道
2021年9月1日に公表された法人企業統計(財務省)によると、企業の利益剰余金(内部留保、金融・保険業を除く)は、2020年度末時点で前年度に比べ2.%増の484兆円強となった。増加率は低下したものの、2012年度以来、9年連続で増加し、過去最高を更新している。
利益剰余金は、総売上額から人件費や原材料費など必要経費を引き、株主への配当金や税金を差し引いたもので、企業が将来の設備投資や事務所拡大など自由に使える。業種により余剰金額は異なり、コロナ禍では、製造業やIT関連企業を中心として業績を伸ばした一方、観光関連業種や対面サービスを行う業種などは大幅減となっている。
コロナ禍でも利益剰余金を積み上げられる企業が存在することは大変心強いところであり、その努力に敬意を払いたい。
1、企業の利益剰余金(内部留保)の国民経済への還流が望まれる
しかしコロナ禍で多くの企業が経営難にあえいでいる中で、日本の国民総生産(GNP)にほぼ匹敵する484兆円強もの利益剰余金を企業が抱え込んでいることが経済全体にとって適切か否かが問われる。
一部に、内部留保積み上げはコロナ禍で設備投資を手控えたためとされるが、設備投資の手控えはそれだけで民間投資の減少、従ってそれだけ総生産(GNP)を引き下げる結果となっている。
一定の内部留保は、将来の設備投資と安定した経営基盤を維持する上で必要である。しかし個人の貯蓄同様、好調な時期には積み上げ、停滞期には放出することが必要だろう。コロナ禍で経済停滞する現在、GNPの縮小に繋がる484兆円強にものぼる企業の内部留保のなるべく多くの額を国民経済に還流することが望まれる。
基本的には平常時において、賃金や契約社員等への報酬、役員報酬、及び株式配当金への分配をもう少し引き上げる努力が望まれるが、今回のような緊急時においても、例えば、契約社員等の雇い止めを極力回避すると共に、報酬・賃金の引き上げ、株式配当の増加、社員研修の強化、研究開発の促進や関連下請け企業製品の価格引き上げなどの他、企業内での感染防止措置の拡充、授業員家庭支援など、企業にとっては負担となるが、内部留保を経済に還流し、経済全体の底上げ努力が望まれる。
2、「異次元」の金融緩和は家計所得や消費増には繋がらなかった
企業の内部留保は、阿倍自・公政権が2013年1月に発足し、「異次元」の金融緩和が開始された頃より顕著に増加している。「異次元」の金融緩和により、輸出産業や観光関連産業など一部の産業が業績を伸ばしたことを背景として、株価が上昇したため、多くの企業は株式評価益等が出たことにより、利益剰余金を積み上げて行ったと見られる。他方、このような局部的な産業の好調と内部留保の積み上げとは裏腹に、実質家計所得は減少しており、消費は低迷した。日銀は、「異次元」の金融緩和とマイナス金利を長期に継続しているが、産業への局部的効果はあるが、家計所得や個人消費の増加には繋がっていないことが明らかになった。金融政策依存の限界と言えよう。
逆に、2008年9月のリーマンショック以来の切れ目のない恒常的な金融緩和策とゼロ金利政策が、2013年1月以来の「異次元」の更なる金融緩和とマイナス金利政策により更に助長され、金融緩和により恩恵を受ける分野とその恩恵がほとんど及ばない分野との間で著しい経済格差を生む結果となっている。
それに追い打ちを掛けたのが、2020年1月以来の武漢発の新型コロナウイルスの国際的な感染拡大である。これが各国の航空・観光産業や飲食産業、娯楽産業とこれらを支える関連産業を直撃し、人の動きを制限し、経済社会活動を減速させた。その対策として、各国政府は、感染拡大を抑制するための検査やワクチンを含む医療体制の拡充をする一方、職や所得を失った人々などへの財政支出を拡大すると共に、無利子の融資を含む金融支援策を実施したことにより、金融緩和が加速し、経済社会の格差を更に拡大する結果となっている。
米国のバイデン政権の下で、連邦準備理事会(FRB)が、雇用の維持促進とインフレ率を睨みながら、金利の引き上げを含め、金融緩和の抑制時期を検討しているのは、金融緩和策による副作用を除去し、金融正常化に道を開くためである。
日本銀行も米国の金融正常化に向けての政策転換を参考にしつつ、金融緩和幅の縮小を通じた株価の沈静化を図っているようだが、それは経済の抑制に繋がる可能性がある。このような中で、企業がそれぞれの企業経営に資する形で内部留保を積極的に活用し、経済に還元することが望まれる。また政策当局としても、企業の巨額の内部留保を景気の局面に応じて誘導することが経済対策に繋がることに注目する必要があろう。(2021.9.6.)(All Rights Reserved.)