内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

リニアモーターカー(リニア新幹線)、越すに越されぬ大井川! ― 大井川陸上トンネル化を提案する ― (再掲)

2023-07-31 | Weblog

リニアモーターカー(リニア新幹線)、越すに越されぬ大井川!

      ― 大井川陸上トンネル化を提案する ― (再掲)

 超伝導リニアモーターを利用したリニア中央新幹線は当初東京―名古屋間の2027年開業を目指して建設が開始された。東京―名古屋間40分の夢の超特急だ。

 しかし大井川の地下に通すトンネルが水の流れに影響し、静岡県の下流への水資源を枯渇させ、流域の農業や生態系等の環境に大きな影響が出るのではないかと懸念され、同県知事が着工を了承していない。各種の環境影響調査、協議等が行われているものの、大井川トンネルの着工が出来ないままとなっている。2029年以降の開業についても見通せず、総事業費は約10.5兆円に増加するとされている。正に、越すに越されぬ大井川だ。

 大井川の下にトンネルを通すことにより流れ出す大量の水を川に戻すなどの案が検討されている。しかしそれには莫大な費用と時間が掛る上、それにより下流での従来の水量が確保出来るかは明らかでない。更に将来予想出来ない豪雨に見舞われた場合、水還流設備は対応出来るのか、またトンネル自体が絶え得るかが懸念される。悪化する気候変動の中で自然の力を見くびることは出来ない。

 そこで大井川の工区だけ陸上トンネル(大井川空中トンネル仮称)とすることを提案したい。恐らく景観の問題等で反対はあるだろうが、景観になじむデザインにするなどにより解決出来るだろう。例えば、トンネルの一部を硬質ガラスでリニア新幹線の通過を可視化すれば、撮り鉄ファンにとっては格好のスポットとなろう。乗客も一瞬の外の景色にほっとするだろう。トンネルの上部に遊歩道を築いて観光化することも考えられる。本件は経済社会問題として検討されるべきであろう。

 大井川工区の陸上トンネル化を行い、リニア新幹線の早期開業を期待したい。

(2023.1.9.) (Copy Rights Reserved.)

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 地球温暖化対策で米国はリーダーシップを取れるか       (その1)再掲

2023-07-31 | Weblog

 地球温暖化対策で米国はリーダーシップを取れるか       (その1)再掲

 はじめに  厳戒態勢下のパリで開催されていた地球温暖化への対応に関する国連会議(COP21)は、12月12日、新たな枠組みを規定する「パリ協定」を採択した。温暖化の原因とされる炭酸ガス排出大国である米国や中国始め、先進工業国及び発展途上国を含む全ての国連加盟国が温室効果ガスの削減に取り組むことに同意した初めての枠組みなる歴史的な合意と言えよう。パリ協定は、米国等の不支持により形骸化した京都議定書を18年振りで塗り替えるもので、‘気温上昇を産業革命前に比べて摂氏1.5度の上昇に抑えるよう努力するとし、世界全体の温室効果ガスの排出量を減少させ、今世紀後半には実質的にゼロにするよう削減に取り組む’こととすると共に、‘途上国も含めた全ての国が5年毎に温室効果ガスの削減目標を国連に提出し、対策を進めることが義務付けている。’

 しかしこの協定は、今後世界が温室効果ガス削減、温暖化抑制に向けての出発点でしかなく、炭酸ガス排出大国である米・中両国やEU、日本などの先進工業国、インド、ロシア、ブラジルなどの新興工業国などの主要炭酸ガス排出国がどのような削減計画を策定し、現実に実施するかに掛かっている。その観点からは、G20諸国が具体的にどのようにこの協定を具体化して行くかが注目される。その上で炭酸ガス排出大国である米国や中国が重要な役割を果たすことが期待されるが、今後の動向を見る参考として、今回の合意前から掲載している本稿を引き続き掲載したい。

 

 現在、世界の気候は不安定な動きをする共に荒々しさと破壊力を強めている。温暖化の速度、原因などについては議論が分かれている。どの説を取るかは別として、着実に進んでいる事実がある。このブログでも述べてきたが、北極海の氷原が夏期に融けて縮小していることだ。北極海で起きていることは、南極大陸でも同様に大陸を覆う氷原や氷河が急速に融けている。それが海流の動きを変化させると共に、水温が上がり、上昇気流となり、気流に大きな変化とエネルギーを与えるのだろう。現在、日本はもとより世界各地で気流や海流の動きや温度がこれまでのパターンでは予測できない荒々しい動きを示しており、巨大なエネルギーとなって東アジアでの台風やカリブ沿岸でのハリケーン、そして南太平洋のサイクロンとして猛威を振るっている。また局地的な豪雨や突風・竜巻、日照りや干ばつ、豪雪や吹雪などにより従来の想定を越えた被害を出している。そして国連の専門家グループ(気象変動に関する政府間パネルーIPCC)により、干ばつなどによる食糧生産の減少、大都市部での洪水、異常気象によるインフラ機能の停止など、温暖化が進むリスクが指摘されている。地球環境は、近年経験したことがない局面に入っていると言えよう。

 

 オバマ大統領は、就任以来地球温暖化問題に積極的に取り組む姿勢を示しているが、7月30日、“きれいな発電計画(Clean Power Plan)”を発表し、発電所から排出される“二酸化炭素を2030年までに2005年を水準として32%削減”することを表明した。オバマ大統領は、この削減目標を設定する一方、“きれいな発電計画”の枠組みの下で各州が独自の実施計画を進めることが可能であるとしつつ、これまで進められている太陽電池や風力発電などの再生可能エネルギー、エネルギー効率の促進をベースとして、‘きれいなエネルギー’を更に進めるための長期的な投資などの諸措置を掲げ、米国の気候変動への対応におけるリーダーシップを継続するとしている。

 

 米国はブッシュ共和党政権以降、温暖化ガス削減に向けての数値目標設定に消極的であったことから、“二酸化炭素を2030年までに32%削減”する数値目標を掲げた“きれいな発電計画(Clean Power Plan)”は野心的で歴史的であるが、米国がこの計画を達成出来るのか、そして地球温暖化に対する国際的な取り組みにリーダーシップを発揮できるのかが注目されるところである。

 

 2015年12月、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)がパリで開催予定であり、2020年以降の新しい温暖化対策の枠組みにつき審議されることになっている。温暖化ガス削減に向けての数値目標に合意している米・中両国、そして環境先進国とも言える欧州連合(EU)が中心となって新たな枠組みに合意点を見出せるのか。地球の将来は、米国をはじめとする各国のこの問題の重大性への理解と解決努力に掛かっていると言っても過言ではない。

 

 1、米国は“きれいな発電計画”を実施に移せるか

 

 オバマ政権のこのような二酸化炭素削減目標に対し、主として電力・石炭業界や共和党を中心として根強い反対がある。オバマ大統領の本件目標が発表された直後に、共和党系のウエスト・ヴァージニア州の検事総長から強い異議が唱えられており、共和党系の15州は共同して反対する姿勢が示されている。またブッシュ政権において米国環境保護庁の法律顧問を務めたR. マーテラ・グループなども活動を開始している。

 

 既に2014年には、30余りの関係企業法律顧問やロビイスト、共和党戦略担当がワシントンにある米国商工会議所で定期的に会合し、オバマ政権から提案されるであろう温暖化防止規制の廃止に向けて法的戦略を検討して来ているようだ。オバマ政権は、2016年11月の大統領選挙まで残すところ1年数か月となっており、新たな法案を実現する期間が限られている上、米国議会は上下両院とも共和党が多数を占めているので“二酸化炭素を2030年までに32%削減”する数値目標を具体化するのは容易ではない。

 

 もっとも、環太平洋経済連携協定(TPP)の大統領への交渉権限付与につき、民主党内で労働組合支持勢力が反対の姿勢を示していたのに対し、オバマ政権は共和党の支持勢力を取り込んで実現しているので、同大統領がリーダーシップを発揮する余地はある。この点は日本の国会運営においても、両院協議会などの弾力的な活用によって与野党間の協議を通じ対立点を調整することが望まれるところであり、学ぶべき点がありそうだ。

 

 明年の米国の大統領選挙で共和党候補が勝利し、共和党政権が誕生することになれば地球温暖化問題への取り組みは振り出しに戻る可能性が強いので、オバマ大統領が残る1年強の任期において、どこまでリーダーシップを発揮できるか注目されるところである。

 

 他方、温暖化防止規制に反対する業界や共和党グループとしても、激甚化する気候変動やその原因とされる地球温暖化への対応策を示す社会的責任があると共に、恐らく2016年11月の米国の大統領選挙の現実的な争点の一つとなって行くと見られるので、共和党としても対応が迫られることになろう。

 

 2、二酸化炭素削減に関する米・中合意の行方      (その2に掲載)

 

 3、注目される日本の環境対策             (その3に掲載)

 

(2015.8.27.)(All Rights Reserved.)

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北朝鮮は米韓共同軍事演習への対抗措置を画策か!?  (総合編)再掲

2023-07-31 | Weblog

北朝鮮は米韓共同軍事演習への対抗措置を画策か!?  (総合編)再掲

 北朝鮮は、昨年12月、金正恩体制への反逆行為として張成沢国防副委員長を処刑するなど、その関係者、親族を粛清し、その後の動向が注目されていた。その中で1月16日、北朝鮮国防委員会は、南北朝鮮間に良好な環境を作り出すためとして、旧正月が始まる1月30日以前に相互に批判し挑発し合うことを止め、軍事的な行為を中止するよう提案すると共に、米韓両国の共同軍事演習の中止を訴えた。

 更に1月24日、北朝鮮国防委は、国防委委員長でもある金正恩第一書記の特別な指示として、祖国統一の新たな段階を開くため上記の提案に言及しつつ韓国当局ほか関係方面に宛てた公開書簡を公表した。

 韓国政府はこれを誠意あるものではないとして拒否したが、北朝鮮は池在中国大使が記者会見を行い、この提案は真摯なものであり支持するよう訴えた。中国当局からもプレッシャーが掛けられていることが伺える。

 その後北朝鮮は、韓国との南北離散家族再開事業を実施(2月20日から6日間)した他、日朝間においても、日朝赤十字会談(3月19日)や日朝政府間協議(3月30日、31日)を行うなど、融和姿勢を示す一方、短、中距離のミサイルの日本海向け発射などの示威行為を行い、硬軟両用の姿勢を示しており、その真意が注目されている。

 1、米韓合同軍事演習への反発をあらわにする北朝鮮の狙い

 このような北朝鮮側の米韓共同軍事演習の中止提案に対し、北朝鮮側が張成沢国防副委員長他の血の粛清後国際的に孤立化していることを受けての融和策、或いは経済的困難を回避するための和解姿勢など、ステレオタイプのコメントが多く聞かれた。

無論そのような狙いがあることは否定するものではない。しかし上記の2度に渡る提案を読み進めると、具体的には次の2点を要求している。

(1)  南北間に良好な環境を作り出すため、当面、米韓合同軍事演習(フオール・イーグル、及びキー・リゾルブ)を中止すること。

(2)  北朝鮮としては‘朝鮮半島の非核化’を共通の目標と考えるが、朝鮮半島に‘第3国の核’を持ち込まないこと。北朝鮮の核は米国の核の抑止のためであり、自衛のためにほかならない。

 この要求から分かるように、北朝鮮の当面の狙いは2月下旬から実施されている米韓合同軍事演習の中止である。提案が北朝鮮の軍事委員会の名でなされていることも、軍事的な思惑からであることを物語っている。そもそももし北朝鮮側が、真に韓国側との融和を希望するのであれば、公式ルートを通じ静かに接触し、韓国側が対話に応じた時点で公表するであろう。

 米韓合同軍事演習は、長年に亘り実施されているもので、韓国内及びその周辺で行われる大規模な演習であるが、北朝鮮側はその都度最大級の批判を繰り返して来ている。国内的にも、TVや労働党機関紙その他で米国、及び韓国による北朝鮮侵略の準備であり、北朝鮮はそのような攻撃があれば南を焦土とするなどとして、過剰とも思える反応を行っている。2013年においても同様だ。

 2、北朝鮮の融和姿勢は本当か

 このような中にあって北朝鮮は、2月20日から6日間、南北離散家族再開事業を3年ぶりに実施した。また日朝間においても、3月19日、瀋陽において日本人遺骨収集等に関する日朝赤十字会談を行い、また2012年11月以降中断していた日朝政府間協議を3月30日、31日に北京で行うと共に、横田めぐみさんの両親と孫に当たるヘギョンさんとの面会をモンゴルで実現するなど、融和姿勢を示している。

 これらの動きから、北朝鮮は、国内での食糧不足や経済困難、中国との関係の後退などから、韓国や日本との関係改善を狙っていると言われている。特に日本については、日朝交渉を通じる拉致被害者問題の進展や制裁措置の部分的な緩和による交流の促進などが期待されていると言われている。

 しかし日朝政府間協議は、‘真摯で率直な協議’が行われ、協議の継続で合意したものの、再開時期にも合意していない。政府間関係で‘真摯で率直な協議’との表現は、それぞれの立場、問題点を言い合うことを意味しており、それぞれの思惑で進展を期待しつつも、基本的に一致点がなかったことを意味している。政府間協議後の4月1日、北朝鮮側の代表宋氏は記者の質問に対し、朝鮮総連本部の入札による売却決定を許可したことに対し、‘この問題の解決なくして、日本との関係進展は必要ない’とのコメントを日本語で行っている。北朝鮮側の当面の関心が朝鮮総連本部の建物にあったことが明らかだ。既に落札され承認されているので、売却自体は実施されることになろうが、賃貸への便宜や代替地の提供などを求めて来る可能性がある。朝総連は、かねてより北朝鮮の日本での大使館或いは代表部としての機能を果たしていたとされているが、日朝両国には正式な外交関係はないので、朝総連のこのような機能、活動は認められるべきではない。朝総連のあり方等は、平和条約交渉の過程で協議されるべきであろう。

一方、国連人権理事会が設置した北朝鮮人権調査委員会は、2月に報告書を公表し、北朝鮮の拉致を含む人権侵害行為に対し「人道に対する罪」として非難すると共に、安全保障理事会に対し、国際的な刑事司法の枠組みで北朝鮮指導者の責任追及を検討するよう促した。そして人権理事会は3月28日、北朝鮮の人権侵害を非難する決議を採択した。このように北朝鮮の人権侵害、人道違反に関しては、2013年12月の粛清を含め国際世論の批判が強まっていることから、国際世論を和らげるための融和姿勢が必要だったとも言える。また北朝鮮は、国連専門機関から毎年のように受けている食料などの人道支援を確保するためにも融和姿勢を示す必要がある。もっとも、一方で経済制裁を行いながら、北朝鮮への食料などの人道支援を実施することには、矛盾があり、実施するにしても、実際に貧困層の人々の口に届くような確実且つモニターシステムを確立することが不可欠と言えよう。

 3、北朝鮮の真の狙いは核、ミサイル開発の促進?!

 今回の北朝鮮側の一連の米韓合同軍事演習の中止要求が韓国側により拒否され、米韓合同軍事演習が行われたため、北朝鮮側は、米韓による戦争準備が行われているなどとして非難を強め、自国防衛の一環と称して長距離ロケットや核兵器の開発、実験を加速する可能性が強い。既に北朝鮮側は、日本海に向け短距離ミサイルの発射(2月27日)、そして中距離ミサイル・ノドンの発射(3月26日)を実施すると共に、黄海に向けロケット砲の発射(3月31日)を行っている。また、長距離ロケットの発射台を設置し始めており、ウラン濃縮も再開されているなどと伝えられているので、北朝鮮は、今後の重要日程に合わせてミサイル、核実験を強行する恐れが強い。

 南北間の環境改善に向けての北朝鮮の提案は、強硬姿勢を合理化するための国際世論向けのジェスチュアーと見られる。北朝鮮が今回中距離ミサイルの発射を行ったことに関し、国連安保理は2013年1月の安保理制裁決議に反するとして非難したことに対し、北朝鮮はこれに抗議した上、‘新たな形の核実験を行うことも排除されない’との外務省声明を発表している。

 確かに南北朝鮮は未だに“休戦状態”であるので、軍事的には合同軍事演習は必要であろう。しかし北朝鮮側の極端な反応が予想されるのにも拘らず、何故朝鮮半島周辺で毎年のように大規模な軍事演習を行うのか。北朝鮮側も、軍事演習自体を否定はしていない。米国内か朝鮮半島から遥か離れたところで行うように促している。北朝鮮の核及びミサイルの開発実験問題については、1990年代中頃より各種の努力がなされているが、朝鮮半島周辺における大規模な米韓合同軍事演習は、北朝鮮側に核、ミサイル開発加速への口実を与え、既成事実を重ねさせ、事態を悪化させて来ているのではないだろうかろうか。

 それだけでなく、1953年7月に締結された南北間休戦協定以来60年を越える休戦状態が継続し、和平が成立しない限り北朝鮮の先軍政治が継続するので、毎年行われる米韓の合同軍事演習は、北朝鮮に先軍政治を継続する格好な口実を与える結果ともなっている。

 軍事的観点だけでなく、総合的な判断が求められよう。

(2014.04.10.)

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北朝鮮は休戦状態の朝鮮戦争終結宣言を望まず?

2023-07-31 | Weblog

北朝鮮は休戦状態の朝鮮戦争終結宣言を望まず?

 北朝鮮(DPRK)は2022年に入り、1月5日(日本時間)に巡航ミサイルの発射実験を皮切りに、同月11日弾道ミサイル(極超音速ミサイルと公表)、14日弾道ミサイル、25日巡航ミサイル、及び27日短距離弾道ミサイルの発射(各2発)を行った。更に30日、中距離ミサイルとみられる発射実験(1発)を行い、ミサイル発射実験・訓練の実施をエスカレートさせている。30日の中距離ミサイルの発射実験は、2017年11月以来のものである。

 いずれも東方向に発射され日本の排他的経済水域(EEZ)の外側(公海上乃至北朝鮮、ロシア沖の水域)に落下したものと見られている。日本への直接の影響を避け、また長距離弾道ミサイルではなく、短・中距離ミサイルの発射実験であり、一定の抑制的配慮をしているものと見られる。従って日本については、それをわきまえた対応が望ましい。

しかし今回の一連のミサイル発射は「発射実験」と言うよりは「実戦配備」を前提とした周到な「ミサイル発射訓練」とも言えるものもあり、朝鮮半島を中心とする北東アジアの安全保障情勢に現実的な影響を与え、緊張を煽ると共に、国連安全保障理事会の累次の決議に反するものであるので、自制を求めたい。

 1、北朝鮮は「朝鮮戦争終結宣言」を望んでいない?!

 (1)膠着状態の北朝鮮の非核化交渉

 北朝鮮の非核化については、米国のトランプ前大統領の下で劇的な進展が期待された。しかし、2019年2月27、28日にハノイで行われた米朝首脳会談において、米国側は核施設の廃棄・査察と大陸間弾道ミサイル(ICBM)などミサイルの撤去を求め、朝鮮戦争の終結を視野に入れた全面的解決を意図していた。これに対し北朝鮮側は、一部核施設の廃棄の見返りとして国連安保理決議による経済制裁の解除、特に民生用、民需用物資への制裁解除((安保理決議2270号、2375号など5決議関連)を求め、段階的な対応を期待していた。しかし両者間の溝は埋まらず、「取り引き無し」(‘ノーデイール’)で終わり、休戦状態の終了、朝鮮戦争終結の期待も遠のき、非核化交渉は膠着状態となった。

 (2)北朝鮮は休戦状態にある朝鮮戦争の終結を望んでいない!?

2021年1月に発足したバイデン政権は、「前提条件無しの会合」を呼びかけているが、北朝鮮側は応じていない。

 このような中で、韓国の文 在寅(ムン・ジェイン)大統領は2021年9月の国連総会において、北朝鮮、米国、中国に対し韓国と共に「戦争終結宣言」に向けて措置をとることを呼びかけた。同大統領は、2022年5月の大統領任期満了までに南北間の平和プロセスの再活性化と“実質的進展”を希望するとした。

 これを受けて韓国と米国の外交当局が宣言案につき協議し、2021年12月11、12日に英国で開催されたG7外相・開発相会議に際し、鄭義溶(チョン・ウィヨン)韓国外交部長官とブリンケン国務長官との間で「朝鮮戦争終結に関する宣言案」に原則として合意した。

 本来、朝鮮戦争終結のためには、相互に敵対行為を行わないこと、境界の確定と経過措置としての緩衝地帯の設置、国連監視団駐留、北朝鮮の核兵器・ミサイルの撤去と駐留米軍の撤退、相互査察、南北交流の条件など詳細な取り決めが必要になる。しかし今回米・韓両国で原則合意された宣言案は、未だに休戦状態にある南・北間の敵対関係を終了させ、正式に朝鮮戦争を終結させ、和平のための対話を図るというシンボリックな宣言と見られる。

 この文韓国大統領の呼びかけに北朝鮮は応じておらず、「宣言案」起草作業にも参加していない。北朝鮮の金与正国務委員(キム・ヨジョン、金正恩総書記の妹)は、9月に韓国大統領の「戦争終結宣言」提案を受けて、「前提条件が整えば、対面で会い、重要な“戦争終結”を宣言することも可能だろう。そうでなければ、“戦争終結宣言”は紙切れに過ぎない。」と論評している。

 他方バイデン政権は、「前提条件を付さず、何処でも何時でも北朝鮮と会う用意がある。」旨繰り返し述べており、北朝鮮側にもその趣旨は届いているであろう。一般的には、「前提条件無しの対話」はオープンな呼びかけとして好意的に受け止められる。しかし「前提条件」が現在の、と言うよりトランプ大統領時代のハノイでの「取り引き無し」以来の米・朝関係のキーワードである。北朝鮮は、経済制裁の一部解除、特に石油を含む民生用物資への制裁解除が交渉継続の「前提条件」としている。米国が「前提条件」を付さず外交的対話に応じると表明しても、取引には応じないとの意図と受け取られてしまう。

 北京で2022年2月に開催されているオリンピックには、北朝鮮は参加しないことを中国側に正式に伝えている(2022年1月7日)。いずれにしても北朝鮮は、2021年7月から9月に開催された東京オリンピック・パラリンピックに参加しなかったため、国際オリンピック委員会(IOC)により北朝鮮オリンピック委員会の資格が1年間停止する懲戒措置(2021年9月)が課されているので、今回の北京冬期オリンピックにはいずれにしても参加出来ない。北朝鮮が中国側に不参加の正式通報したのは、中国側の面子を潰すことなく金正恩総書記を含む代表団がオリンピック期間中に訪中しないことを示唆するためであったのであろう。同時に、これにより北京における南北首脳会談の機会は消え、「戦争終結宣言」も拒否されたものと見られる。

 米・韓によりまとめられた「戦争終結宣言」は、シンボリックな宣言であっても、朝鮮半島の和平と非核化の出発点として重要な宣言と言えよう。現在の「休戦状態」が継続する限り、敵対関係は継続し、相互に挑発や核兵器やミサイル開発を含む軍拡競争は続けられることになろう。北朝鮮にとっては、「休戦状態」の継続は軍部を含む政権にとって国内引き締め、団結を維持するための都合の良い状態と言える。「戦争終結宣言」は敵対関係から和平に転換する契機となると共に、それが無ければ何時までも敵対関係に呪縛されたままになる恐れがある。

 1月に入ってからの一連のミサイル発射実験・訓練は「戦争終結宣言」を当面望んでいないとのサインと受け取れる。核、ミサイルの排除を巡る北朝鮮との関係は、新たな局面に入っていると理解すべきなのであろう。交渉再開への門戸を開き、外交努力を継続する一方、国連の場で経済制裁の強化、拡大し、それに向けての国際世論の醸成と支持国の一層の拡大努力が必要となっているのではないだろうか。また韓国には戦域高度防衛ミサイル(THAAD)が配備されているが(2017年)、圧倒的な防衛網の整備が急務と言えよう。

 


 2、北朝鮮労働党にとって「特別に重要な年」に誇示したい軍事力

 北朝鮮は、2022年には、2月16日に故金正日(キム・ジョンイル)総書記の生誕80年、そして4月15日に故金日成(キム・イルソン)主席の生誕110年を迎え、「革命的大慶事の年」として輝かせるとしている。

 この「大慶事」に際し、今日の北朝鮮の基礎を築いた祖先の意志を継ぎ、国力を増進させたことを内外に誇示するため、長・中距離弾道ミサイルや短距離戦術兵器を含む軍事パレードを行うと見られる。1月の一連のミサイル発射実験・訓練はその前哨戦と言えそうだ。

 3、慣例となっている米韓合同軍事訓練への北の恒例の激しい反発

 米韓合同軍事訓練は、毎年春と夏に行われるのが慣例になっており、米国が未だに指揮権を持っているので軍事的には必要であろう。2019年6月30日にトランプ米大統領(当時)が板門店を訪問し、軍事境界線を挟んで北朝鮮の金正恩委員長と握手し、挨拶を交わし、北朝鮮の非核化を巡る米・朝交渉への期待感が高まって以降は、平和ムード造りのため米韓合同軍事訓練は中止或いは抑制された形で実施され、また北朝鮮は核爆発実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験が中断するなど、相互に行動を抑制していた。

 米韓合同軍事訓練は2021年には3月と8月に実施されているが、2022年3月に実施することで米韓安保協議(SCM)において合意されており、‘演習日程に変更はない’とされている。

 北朝鮮は従来より、米韓合同軍事訓練が実施される毎に激しい批判を繰り返しており、国内的にも、TVや労働党機関紙その他で米国、及び韓国による北朝鮮侵略の準備であり、北朝鮮はそのような攻撃があれば南を焦土とするなどとして、過剰とも思える激しい反応をして来ている。

 北朝鮮にとっては、隣接する韓国で米韓合同軍事訓練が行われることは、米韓両国の敵対的姿勢として国民に訴え、戦争ムードを演出し、国内引き締めのために格好の材料になっている。恐らく今回も同様の反応をするものと予想される。

 北朝鮮のミサイル等の発射実験や訓練は、米韓合同軍事訓練への対抗として実施するという口実を北朝鮮側に与えているとも言える。米韓軍事訓練については、米国が未だに指揮権を有しているので必要であろうが、頻度や期間を縮小することや、机上訓練や訓練場所を北朝鮮から可能な限り遠い場所で行うなど、刺激しない形で実施することも現実的な選択肢となろう。

(2022.2.11.) (Copy Rights Reserved.)

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