内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

地球温暖化ー融ける氷海、氷河と荒れる気候変動は止められるかー再掲

2024-07-29 | Weblog

 地球温暖化ー融ける氷海、氷河と荒れる気候変動は止められるかー再掲
 2015年3月14日から18日まで、第3回国連防災世界会議が仙台で開催された。東北大地震・大津波から5年目を迎えるこの時期に、大震災の経験と教訓をこの地から世界へ伝え、対応を考えることは大変意義があったと言えよう。他方、折しも南太平洋のバヌアツを大型サイクロン「パム」が襲い大きな被害を出していたが、根本的な原因の一つである荒れる気候変動、温暖化への対応については、途上国側は先進工業国の責任を強調し、国際的な対応を主張する先進工業国と対立し、抜本的な対応については平行線のままで終わった。しかしその間にも海水温は上がり、海流は変化し、地球の気候は悪化している。地殻変動は止められず、被害を防ぐしかないが、気候の劣化については世界が協力すれば止められる。気候の劣化に大きく影響する海や海流の温度や流れは、温度差に敏感な漁業資源にも影響する。何時までも平行線の議論をしている時ではなく、世界が具体的に行動する時期ではないのだろうか。世界のリーダーがこの問題に真剣に向き合うべき時のようだ。
 国連の「気象変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第2作業部会は、横浜で地球温暖化の影響を検討し、2014年3月31日、報告書を取りまとめた。その中で「全ての大陸と海洋で、温暖化の重要な影響が観測されている」との認識の下で、“北極海の海氷や世界各地域における珊瑚礁は後戻り困難な影響を既に受けている”などとして生態系や人間社会への影響を指摘している。そして温暖化が進むリスクとして、世界的な気温の上昇、干ばつなどによる食糧生産の減少、大都市部での洪水、異常気象によるインフラ機能の停止などを盛り込んでいる。当コラムも、北極海の海氷の融解と縮小ブログでもこのような状況を2008年頃から指摘して来ているが、それが国際的に理解され始めたと言えよう。
 日本の地球温暖化への取り組みについては、環境省は、日本の温室効果ガスの削減目標を2020年度までに2005年度比で3.8%減とする方針である。温室効果ガスの削減目標については、民主党政権が2020年度までに“1990年度比で25%削減”との目標を提示し、国連総会でも表明している。環境省の上記の目標は、基準年を2005年としているが、1990年度比で換算すると逆に約3%増となるとされており、後退感が否めない。政府当局は、‘原子力発電が再稼働されれば高い目標に修正する’としている趣であるが、果たして原子力発電頼みで良いのであろうか。
 1、意見が分かれる地球温暖化の原因
 温暖化の速度、原因などについては議論が分かれている。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。国連の「気候変動に関する政府間パネル」が出した07年の第4次評価報告書でも、“ヒマラヤの氷河は2035年までに解けてなくなる可能性が強い”と指摘している。同グループはゴア米元副大統領と共にノーベル賞を受賞したが、氷河学者からは300mもの厚さの氷河がそんなに早くは融けないとの疑問が呈され、同グループがそれを認めるなど、信憑性が疑われている。地球がミニ氷河期に入っているとの説もある。

 2、荒れる世界の気候
 どの説を取るかは別として、着実に進んでいる事実がある。北極海の氷原が夏期に融けて縮小していることだ。衛星写真でも、08年においては6月末頃までは陸地まで氷海で覆われていたが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能となる。その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。6、7年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。また南極大陸などでは氷原がとけ、南極海に流れ出し海洋の水位を上げている。
これは今起きている現実である。短期的には夏の一定期間航行が可能になり、商業航路や観光、北極圏開発のビジネスチャンスが広がる。
 他方それは温暖化への警告でもある。北極の氷海縮小は、気流や海流による冷却効果を失わせ、地球温暖化を早め、海流や気流が激変し気候変動を激化させる恐れがある。氷海が融ければ白熊や微生物などの希少生物も死滅して行く。取り戻すことは出来ない。北極圏の環境悪化は、米、露など沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えている。
 現在、日本はもとより世界各地で気流や海流の動きや温度がこれまでのパターンでは予測できない荒々しい動きを示しており、局地的な豪雨や突風・竜巻、日照りや干ばつ、豪雪や吹雪などにより従来の想定を越えた被害を出している。それが世界各地で今起こっている。地球環境は、近年経験したことがない局面に入っていると言えよう。

 3、国際的な保護を必要とする北極圏と南極大陸
同時に忘れてはならないのは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。またヒマラヤやアルプス、キリマンジェロ等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 北極圏も南極同様、人類の共通の資産と位置付け、大陸棚の領有権や「線引き」の凍結や北極圏の一定の範囲を世界遺産に指定するなど、国際的な保護が必要だ。

 4、必要とされる政府レベルの対応と生活スタイルの転換
 それ以上に、地球温暖化の進行や気候変動の激化を食い止め、地球環境を保護、改善する必要性に今一度目を向けることが緊要ではないだろうか。それはこの地球自体を人類共通の遺産として保全することを意味する。
 地球環境は、政府に委ねておけば良いというものではなく、家庭や産業自体が工夫、努力しなくては改善できない。比喩的に言うと、家庭で使用する電球を10個から7個にすれば日常生活にそれほど不自由することなく節電できる。企業やオフィスビルなどについても同様で、節電を図ればコスト削減にもなり、企業利益にもプラスとなる。レジ袋や必要以上の過剰な食物などを少なくして行けば生産に要するエネルギーの節約となる。また日本が環境技術先進国と言うのであれば、自然エネルギーの組織的な開発、活用や節エネ技術の更なる開発などで温室効果ガスの削減にそれぞれの立場から努力、貢献することが出来るのではないだろうか。またそのような努力から、地球環境にもプラスとなる生活スタイルやビジネスチャンスが生まれることが期待される。
 しかし、政府や産業レベルでの対応は不可欠であろう。経済成長についても、温室効果ガスの減少を目標とし、再生可能エネルギーに重点を当てた成長モデルを構築する事が望まれる。原子力発電については、段階的に廃止することを明確にすると共に、再稼働に関しては、施設の安全性を確保する一方、各種の膨大な原子力廃棄物の最終的な処理方法を確立することがまず必要であろう。
また途上国援助においても、従来型の重厚長大なインフラ開発・整備ではなく、再生可能エネルギーを使用するなど、温室効果ガスの排出が少ない経済社会の構築を目標とする開発モデルや政府開発援助(ODA)モデルとして行くことが望まれる。
 現在中国が、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立に向けて準備している。それが途上国における従来型の長大重工型、大量のエネルギー消費型のインフラ建設に投資されていくとすると地球環境の悪化に繋がることになるので、温室効果ガスの減少につながる環境改善インフラへの投資促進となることが望ましい。中国自体も、これまでのような高成長、高エネルギー消費の経済成長を継続すれば、いずれ住めない大陸となる恐れもある。    
(2014.3.31./15.4.3.改定)(All Rights Reserved.)

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社会保障と税の一体改革に欠ける視点 (改定版、総合編)<再掲>

2024-07-29 | Weblog

社会保障と税の一体改革に欠ける視点 (改定版、総合編)<再掲>

  <はじめに>

 2013年1月、野田民主党政権が打ち出した社会保障と税の一体改革を政権交代を受けて引き継いだ形の安倍自・公政権は、消費税10%への引き上げを実施したものの、社会保障改革につ社会保障の財源を目的税的に消費税に特化しつつ、その余剰を社会保障以外の歳出財源に振り替える一方、年金の支給年齢の引き上げや介護委保険料の引き上げを図りつつ国民年金から天引きし、また支給基準自体の引き下げを図るなど、社会保障費の圧縮を行う結果となっている。これは、社会保障費の圧縮を図りつつ社会保障以外の歳出財源を捻出するとの観点からは評価されるのであろうが、消費増税は行われても社会保障自体は改善するどころか、国民年金は圧縮され介護保険料など国民の実質負担は高くなるという結果を招いている。消費増税により期待された社会保障を通じる所得の再配分が適正に行われていないことを意味する。

 子育て支援の拡充や出産費の保険適用なども社会保障の対象分野であるが、10%への消費増税により社会保障がどのように改善されたかを点検すると共に、社会保障と税の一体改革においていわば冷や食を食べさせられて来た社会保障の改善を図ることが必要になって来ているようだ。このような観点から本稿を再掲する。(2023/04/26追記)


 野田政権は、社会保障と税の一体改革大綱の素案を取りまとめるため、2011年12月12日、関係5閣僚会議で社会保障分野の検討を開始した。これに先立ち厚生労働省は社会保障改革案の中間報告を公表した。
  中間報告は、年金、医療・介護、及び子育て分野まで網羅しており、受給資格期限の10年への短縮、低所得層に対し年金加算、国民健康保険料や介護保険料の軽減(給付増要因となる)など、低所得層、パート、主婦などに一定の配慮をしているが、高所得者の年金減額、70-74歳の窓口負担引き上げ、外来患者への1回100円の負担上乗せ(料金収入増要因となる)など、収入を図る一方給付水準を下げ、利用者に負担を掛ける内容となっている。他方、年金支給開始年齢の引き上げ、デフレ下での年金給付額調整(給付水準引き下げ)、厚生年金保険料上限の引き上げなどについては法案提出を先送るとしている。
 一方消費税増税を中心とする税制改革については、年末の12月29日、民主党税調と一体改革調査会の合同会議を野田首相出席の下で開催し、消費税を「2014年4月に8%、15年10月に10%」に引き上げることなどを決定した。
 そしてこれら一連の検討を経て野田内閣は、2月17日、消費税増税を軸とした社会保障と税の一体改革大綱を決定した。
  同一体改革大綱は、1月に政府・与党が決定した素案とほぼ同様の内容で、消費税増税を含むものであり、社会保障制度自体の改革については現行制度を前提とした若干の手直し程度となっている。基本的な制度として、破綻状態の国民年金の改革には一切言及がない。一方厚生年金と共済年金の統合を検討するとしているものの、厚労相はそれは時間の掛かることであり、且つ“消費税増税には関係しない”と説明しており、そうであるなら何故わざわざ異なる給与体系・労働条件の厚生と共済を統合しなくてはならないのか疑問が残る。
 増税方針の決定は一つの政治的リーダーシップの発揮として評価されるところであり、その責任はいずれ国会で審議され、最終的には選挙において問われ、国民の審判に委ねられることになろう。だが増税案が示されても、年金制度などの社会保障制度改革について実質的な方針が示されなければ「一体改革」にはならない。しかしそのベースとなる大綱において低所得層、パート、主婦などに一定の配慮をしており評価されるものの、基本的に次の諸点が欠けている。
 1、欠けるコスト削減の側面
 昨年末の民主党合同会議においての上記の増税方針を決定した際、09年8月の総選挙で約束したマニフェストを重視するグループよりの意見を踏まえて、議員定数の削減と公務員給与の引き下げの実施や景気が好転していない場合の増税凍結などを了承し、公務員給与の引き下げについては4月より平均7.8%の削減(2年間)ているが、年金や医療等の社会保障制度を実施・管理するためのコストなどには触れられていない。今回採択された国家公務員給与の引き下げについても2年間の削減であるので、いわば福島原発事故に伴う賠償や被災地の復旧・復興のための当面の財源を確保するための財源と見られるところであり、年金や医療など、中・長期に必要なコスト削減にはならない。
 拠出を前提とする国民年金、厚生年金、共済年金は、拠出者が6割内外に激減している国民年金を中心として破綻状態にあり、少子(拠出負担者)の漸減と高齢化・長寿化(受給者)の漸増という今後の傾向を考慮すると、現行体制では年金勘定の赤字は更に悪化することが予想される。
 制度が破綻状態にあり赤字がより深刻化すると予想される場合に、まず行われるべきことは抜本的なコスト削減であり、制度のスリム化であろう。企業であれ、どのような組織、制度であれコストの観念が無くては事業は成り立たず、将来は無いと言って良い。
 景気停滞期に雇用を維持するというワーク・シェアリングの観点からすると、年金事務分野等での給与ベース自体を実質的に引き下げ、抑制しつつ、職務に励んでいる職員には気の毒ではあるが、自主的な希望退職を促しつつ可能な範囲で優先度の低い部局等の人員を削減して行くことであろう。それが困難であれば実質的な人員整理を3年程度の期間掛けて実施するのも止むを得ない。東北地方出身の職員については、被災地の行政事務、復興事業支援などを希望する者を募り、人材の活用、斡旋を図ることなども可能であろう。多くの企業は数年前よりワーク・シェアリングを実施している。それも一つの社会貢献であり、社会的な責任を果たしていると言える。 その他一般管理費、事務費、交通・通信費等の諸費用を抜本的に節減するとの姿勢が望まれる。一度に実施困難であれば、3年間程度で段階的、継続的に行えば良い。それは制度を存続させるための組織の長の責任であり、また政権与党及び野党を含む国会の責任であろう。
 また年金事務の制度的な簡素化が不可欠である。年金事務については、日本年金機構を頂点として、全国の都道府県及び市町村に9ブロックの本部と地区毎に年金事務所が多数設置されている。これらの事務所、施設を全て廃止、売却し、都道府県、市町村に事務を集約するなどの改善が望まれる。国民健康保険事務や国民年金、旅券の交付なども地方公共団体に移管されているので可能であろう。年金は健康保険と同様に地域住民に密着した業務であるので、地方公共団体の業務サービスに適している。公的年金の積立金を管理・運用している年金積立金管理運用独立行政法人についても、民間の投資・金融・保険会社にコンソーシアムを形成させるなどして何らかの形で管理運用を民間専門機関に委託できないかなどを検討することが望まれる。
  因みに、中央官庁は設置法があり縦割りとなっていることから、ハローワークや労働基準局の他、財務局や法務局、河川・道路地方整備局事務所など、多くの省庁が全国に独自の事務所、施設を持っているが、公的債務が1,000兆円を超える状況であり、大幅な財政赤字が継続している今日、各省庁が全国に事務所、施設を抱えている余裕はない。地方自治促進の意味からもこれらの業務、事務を原則地方公共団体に移管し、中央官庁は調整業務のみを行うなど制度の抜本的な簡素化、集約を図ることが時の流れと言えよう。国や地方公共団体が数多くの国・公有地や施設を抱えていることは、多額の人件費、管理費が掛かり財政を圧迫している上、民間移管すれば得られる固定資産税等の機会を放棄していることになるので2重にコストを掛けている。国家レベルでの財政赤字である今日、国・公有地や施設を抜本的に廃止・売却し、民間での活用を図ることが望ましい。それにより地方経済も活性化されることが期待される。ほとんどの地方公共団体の公有地や施設についても同じようなことが言える。
 日本の戦後の行・財政モデルは、各種の制度、社会インフラ等が未整備で、地方公共団体も整っていない状況で高成長期に築かれて来たものであるが、今後少子、高齢化・長寿化により、税の負担者が減り、社会保障関係支出が増加することは避けられないので、未来を見据えた簡素で効率的な行・財政モデルを構築して行く必要もあろう。
 事業的には、年金給付額を引下げたり、給付年齢を引き上げることにより支出を減らすことも可能である。しかしそれは年金事業の本来的な目的である年金給付サービスを低下させることになり、年金への信頼性を著しく失わせる結果となるので、行うとしても最後の手段とも言える。最初に抜本的なコスト削減を行うことが不可欠であろう。
 2、最大の欠陥である国民年金など、見えない抜本改革
 国民、厚生、共済各年金とも拠出形であり、厚生、共済両年金の一本化が検討されているが、最大の欠陥は国民年金にある。国民年金にのみ加入している者の2011年4―7月の納付率は55.0%だが、失業等で納付免除者を加えると納付率は更に低くなる。納付していない者が半数近くいるので、受給者層が増加の一途であることを考慮すると、国民年金(基礎年金)制度は持続不可能な状況になっている。他方生活保護者は208万人以上に達しているが、国民年金の給付額は平均5.3万円であるのに対し、東京都の生活保護支給額は30代単身で13万円以上、60代後半単身でも8万円強で、家族構成などで加算されることになっているため、国民年金の方が掛け金を支払っていながら受給額は少ないので、納付意欲を失わせる形となっている。
 現在、厚生年金と共済年金の一本化や国民年金(基礎年金)との統合などが検討されているが、まず最大の欠陥を抱えている国民年金の在り方を検討することが先決であろう。国民年金の納付率を上げると共に、不加入者をどう解消して行くかが検討されなくてはならない。国民年金も拠出制であり、本来的には拠出していない者には給付も無いことになる。基本的には受益者負担と自己責任の原則に則らざるを得ない。また生活保護支給額に対し、国民年金給付額が逆差別されている状況も是正する必要があろう。
 社会保障改革案では、基本的には中間報告に沿って低所得者への加算や高所得者の年金減額など、現行制度に基づいた微調整、手直にしか過ぎず、国民年金の抜本改革には触れていない。拠出型の国民年金は拠出者に対して継続するとしても、いずれの年金にも拠出していない者をどの程度、どのように救済するかについては、納税や拠出努力をしている者との公平性や生活保護との関係を含め、基礎年金をどのように制度設計するかが問われていると言えよう。
 また国民、厚生、共済の3つの年金制度があり、分り難いとの評もあり、その面は否定できないが、3つとも雇用形態や所得水準、賃金体系などが異なるので一本化には複雑な調整が必要になるばかりか、一本化すれば年金問題が解決するというものでもない。統合することによりそれぞれの問題点が見え難くなり、或いは共倒れする恐れがある。国民、厚生、共済の3年金制度とも料率納付を前提としているので、原則として拠出者には入会時の条件になるべく近い水準で給付することが期待される。それなくしては年金の信頼性は維持出来ない。問題は、拠出型3年金の適正な給付を確保すると共に、いずれの年金についても受給資格が無い者をどう救済し、財源をどう確保して行くかである。しかし努力しなくても救済される、努力しても報われないというような意識が生まれ、国民の間にモラルハザードを引き起こすようなことは健全で活力ある社会発展を図る上で避けなくてはならないのであろう。
 3、社会保障に関する新たな制度設計と消費税増税
 上記のような観点からすると、抜本的なコスト削減を行わず、また国民年金を中心とする年金制度の本質的な改革を行わないままで消費税などの増税を実施すれば、制度上の不備、赤字体質を残したままコスト高で非効率な年金制度を引きずることになり、問題を残す可能性が高い。拠出制を残すのであれば、受益者負担と自己責任という基本的な基準に沿って、抜本的なコスト削減を図った後、高額所得者への給付の留保や定年制の引き上げに連動した給付年齢の引き上げなどを実施する方が分り易い。その上で全国民を対象とした税による最低限の基礎年金の導入を検討すべきであろう。その際拠出型の年金については、基礎年金に相当する部分について給付額を削減すると共に、料率も引下げるなどの調整が望ましい。また生活保護制度については、適用を基礎年金受給年齢までとするなどの調整が必要であろう。
 医療費や介護費についても、赤字であり制度存続が困難であれば、受益者負担の原則に沿って窓口料金を引き上げるなど、個人負担を若干引き上げることも止むを得ないのであろう。介護保険については、年金受給者も支払う義務があり年金給付額から差し引かれ、実質的な年金給付額の減額に当たるので、年金以外の他の所得がない者に対しては免除するなどの配慮をすると共に、健康保険料や窓口負担を全体として引き上げることも止むを得ない。しかしその前提は、抜本的なコスト削減の実施であろう。
 福祉は、高所得者が負担し生活困窮者や低所得者などを救済するとの考え方があるが、社会保障は所得に応じてではあるが国民全体として負担し、貧富の差なく適用されるべきものであり、低所得者が一切負担や努力をする義務がないというものでもない。受益者負担と自己責任の基準に沿って低所得者も応分の負担はすべきものであろう。それなくしては負担しなくても救済される、努力する者が損をするというモラルハザードを起す可能性がある。消費増税に際し、逆進性を緩和するため低所得者には税の還付をするとの案があるが、制度が複雑になり事務を肥大化させると共に、低所得者は所得税等も小額か支払ってないかであるので、更に消費税の一部も還付を受けると一市民、一社会人としての租税負担義務を免除されることになり、過剰な保護になる恐れがある。そうであれば低所得層に対し、所得税・住民税の課税所得水準の引き上げや税率の引き下げを行うと共に、最低賃金を引き上げるなど、所得面での救済を行う方が望ましい。
 制度設計の基本的な基準、軸が何であるかも問われている。(2012.3.2.)(All Rights Reserved.)

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