トランプ大統領の野望―米国経済世界一の地位
トランプ米大統領は、1期目の2018年3月、‘中国が米国の知的財産権を侵害している’として、最大で600億ドル(約6.3兆円)規模の中国製品に対し関税を課す大統領覚書に署名し、その後米中両国間交渉において、中国の国営企業の中央管理や実質的補助、中国への企業進出に際する中国企業への技術ライセンス供与などについては中国側が原則の問題として譲らず膠着状態となったことから、米国は協議の進展を促すため25%の関税引き上げの対象をすべての中国製品にすることを表明し、漸次実施された。バイデン政権もこれを引き継いだ形となった。
1、2回目のトランプ政権による製品別、国別関税戦略
トランプ大統領は2025年2回目の就任後、多くの大統領令に署名したが、関税引上げは直ちには発動せず、外国歳入庁を設立し、2月4日から不法薬物の輸出や2国間の貿易赤字等を理由としてメキシコ、カナダに25%の関税を(実施は1ヶ月延期)、また中国に対し10%の追加関税を課した。また2月12日より、原則全ての国を対象に鉄鋼・アルミ製品に対し25%の関税を掛け(対米赤字の豪州は除外か)、米国の製造業の育成を図るとしている。今後、これら諸国からの輸入状況等を確認しつつ、自動車、半導体などへの関税を検討するとしており、これら各国ともいろいろな形で接触しながら判断するものと見られる。
主な目的は、米国の製造業の再興、促進と経済安全保障とされる。しかし製造業については、1990年代後半より中国の改革開放政策に乗って急速に中国に製造拠点を移したのは米国企業自体である。しかも米国企業は、製造の本社機能も中国に移したことにより、多くの場合、米国には資本・投資管理と輸入販売を中心とした部門しか残らなかった。それでも米国経済は潤い、消費者は低廉な製品が購入出来るようになった。しかし中国企業の成長に伴い、技術ライセンスも中国に移転する一方、米国の製造産業は空洞化し、米国の対中国貿易赤字が拡大したのである。従って、米国の製造産業の再興・促進は米国自体の産業界の理解と協力がなければ実現できない。その間の限定的な関税と言えようが、関税を速やかに引き下げ・撤廃できるよう米国自体の努力が望まれる。
2,早過ぎた中国の世界貿易機関(WTO)への加盟
2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した。当時、中国からの輸出は外資系企業の製品が中心であったため、WTO加盟への抵抗が少なかったと見られるが、それを契機に世界レベルの自由化、多国間主義が進み、中国が世界の自由市場のメリットを享受し飛躍的な経済成長を遂げ、またその他途上諸国が経済発展を遂げた。その中で米国は世界最大の経済国の地位を維持しているが、中国が世界2位の地位を占め、またBRICSやグローバル・サウスと呼ばれる諸国が顕著な発展を遂げた。それ自体は歓迎すべきことであるものの、2000年代初期に比し世界経済構造が変化し、米国の地位が相対的に低下し、加えて米国の製造部門が衰退し米国内の雇用機会が奪われていることへの懸念があるとしても不思議はない。
中国については、‘社会主義市場経済’の下で、国内では国営企業など基幹産業に補助金を出し、経済活動のみならず人の移動等をも厳しく制限し中央統制する一方、国外に向かっては多国間主義を主張し世界の隅々まで自由市場の恩恵を享受している状態はフェアーでも衡平でもない。2001年の中国のWTO加盟に際し、経済・金融改革・是正につき10年程度の期限を付すべきであった。国際社会の期待は裏切られた今日、加盟時に求められた是正・改革、諸条件につき、早急に厳密な審査を行うべきであろう。その上で、市場の内外格差が是正されない場合は、速やかな是正を求めると共に、それまでの間限定的に関税を課すことはやむを得ないであろう。
3、米国は関税政策によって米国経済世界一の地位を守り切れるか
2023年の米国の国内総生産(GDP)は27.3兆米ドルで世界1位であるが、中国のGDPはその約70%の17.8兆ドルと迫っている上、3位のドイツ4.4兆ドル、4位の日本 4.2兆ドルと中国に大幅に水をあけられており、この流れを放置しておけば世界の経済構造は激変し、世界経済秩序も不安定化する恐れがある。
世界経済は岐路にあり、米国だけの問題ではない。このような世界経済の構造変化に対し経済主要国が早急に対応を検討しなくてはならない時期にあるのではなかろうか。
今後トランプ政権の2国間の限定的・局部的関税の動向を注視しつつ、相互主義に基づく多国間主義へ転換を図るべく、貿易収支のみに限定せず、資本収支、貿易外収支を含めた総合収支に基づく経済秩序を検討すべき時期ではなかろうか。(M.K.)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます