内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

このブログは、広い視野から内外諸問題を分析し、提言を試みます。
Policy Essayist

北極海に広がるビジネス・チャンス-温暖化の恩恵か、警鐘かー (その1)

2009-11-26 | Weblog
北極海に広がるビジネス・チャンス-温暖化の恩恵か、警鐘かー (その1)
 北極海は、温暖化の影響で陸地まで連なっている氷海が収縮し、最近では夏期を迎えると陸に近い海域に航路が開け始めている。このため、船舶による航行や海底開発などが行い易くなり、ビジネス・チャンスも開け始めている。一方、北極圏での経済活動を中・長期に持続可能にするためには、地球温暖化への影響を十分に考慮しなくてはならない。
 このような状況を背景として、4月29日、ノルウエーのトロムソにおいて北極評議会が閣僚レベルで開催された。同評議会は、正式には1996年に設立され、本部はノルウエーにあり、北極圏に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国とアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成されている。北極評議会の目的は、北極海が直面する問題、特に、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することである。開発の側面は、北極海航行や大陸棚の開発など、沿岸国だけでなくその他の諸国にもビジネス・チャンスを提供する。環境の側面は、北極海の広大な氷原が縮小している問題であり、それは北極点周辺の気流や海流への冷却効果を低下させ、地球温暖化を早める恐れがあることである。同評議会にはオブザーバー資格での参加が可能であり、中国や韓国が既に申請していると伝えられており、日本も申請するなど、各国においてビジネス・チャンスに熱い期待が寄せられている。
 北極評議会は、2050年までには北極海が夏期には砕氷船なしで航行が可能になるとしつつ、北極海での運航ガイドラインの必要性、経済活動・インフラ開発面での安全基準の必要性、最低限の基準を含む石油・ガス開発ガイドラインの改定などに関する「宣言」を採択すると共に、北極海の氷海の融解に関する検討作業に協力し、気候変動に影響する炭酸ガス排出削減への努力を促している。
1、 期待される北極海航路
これまで北極海は、温暖化の影響で氷海が融け縮小し続けている。衛星写真でも、
2008年においては、6月末頃までは陸地まで氷海で覆われているが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能であり、その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路(Northern sea route)」である。衛星写真の画像でも夏の一時期(8月20日前後頃より9月末頃まで)には航行可能になる。この航路は主にロシアが使用しており、航行の安全と航行可能期間を延長するため砕氷船の建造を増やしており、原子力砕氷船の建造計画もある。将来更に海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となることが期待される。
 もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路(Northwest passage)」である。夏でも島と島の間の氷で覆われている海域が一部残っており、砕氷船を使用し年間7週間程度の航行が可能とされている。8月20日前後から9月中頃位までは航路が開ける。ところがこれらの諸島はカナダ領であるので、カナダは、これらの島の間の海路は「内水」であり、同国の管轄下にあると主張している。一方米国は、自由に航行できる「国際水路」であると主張しており、航路の設定など今後の取り扱いが注目される。
 今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。「北方海路」を使用できるようになれば、日本を含む極東から欧州等への航行が大幅に短縮され、また、「北西航路」が使用可能になれば北米の東海岸地域、大西洋への航路が短縮される。嘗て、北極海が氷と厳しい気候条件で航行が出来ず、大西洋と太平洋とを結ぶためパナマ運河が建設(1914年開通)されたが、パナマ運河の通行料は1トンにつき1.39ドル、5万トン級の船舶で約7百万円掛かる。従って、「北西航路」を使用して大西洋に抜けられるようになれば顕著なコスト減となる。
 欧州とアジアを結ぶスエズ運河(1869年開通)についても、通行料は1隻平均約1,500万円内外と見られており、北極海の「北方海路」が使えるようになれば、大幅なコスト減と時間短縮が可能になる。特に現在、ソマリア沖の海賊問題が深刻であり、スエズ運河を避け、アフリカ南端の喜望峰を迂回して運行する船舶も出ているので、「北方海路」の有用性は高い。
 北極海での航行が可能となると、観光を含む運航だけでなく、大陸棚の資源開発も容易になり、経済的意義は大きい。 (09.09.)    (All Rights Reserved.)
                         (不許無断転載)
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過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (総集編)

2009-11-12 | Weblog
過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (総集編)
 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
1、新政権に戸惑う米国
 10月20日、ゲーツ国防長官が訪日し、鳩山首相と表敬・懇談した他、岡田外務大臣、北沢防衛大臣とも会談したと会談した。在日米軍再編問題、特に沖縄県宜野湾市内にある米軍普天間飛行場を名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設する計画に関しては、ゲーツ長官は、「日米合意に従って米軍再編を着実に実施する必要があり、できるだけ早期に結論を出して欲しい」旨要請した。これに対し、日本側は、この問題に関する「日米合意」の存在を認めつつも、「現行案に関する検証の結果を踏まえて結論を出したい」とし、早期の結論は困難との認識を示した。
 岡田外相は、その後10月23日の記者会見において、この問題に時間を掛ければ掛けるほど普天間周辺の危険は継続するとする一方、県外移設は実際上選択肢として考えられないと述べたと伝えられている。その上で、名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設か嘉手納基地への統合の2案に絞られて来たとの認識が示された。北沢防衛大臣は、米軍再編の内容については、海兵隊約8千名のグアムへの配転、空中給油機の山口県岩国基地への移転を考慮すると、「県外移設」の意味合いを含んでいるとして、現行案に対し一定の理解を示したと伝えられており、それぞれの立場での意見が示されている。
 民主党は、9月の総選挙に際するマニフェストで「米軍再編や在日米軍基地のあり方等につき見直す」ことを表明しているので、総選挙で「見直し」が国民の一般的な支持を得たことになる。特に沖縄県では、9月の衆院選挙において4つの全ての小選挙区において現行案に批判的な議員(民主2、社民1、国民新1)が当選しているので、「現行案」は県民の支持を得れていないと言える。更に、連立政権の一角を形成している社民党との連立協議の際、具体的な内容には触れられていないものの、この問題の「見直し」で合意しており、連立政権を維持する限り「現行案」はそのままの形では受け入れ困難と見られる。社民党は、県外移設を含む見直しを念頭に置いている。
 他方、米国のゲーツ国防長官としては、11月にオバマ大統領の訪日を控えていることもあり、早期の決着を望むことは当然のことであろう。特に、同長官は、イラクからの米軍の撤収、アフガニスタンへの増派問題への対応のため、ブッシュ前
政権から引き続き国防長官に任命されているので、ブッシュ前政権下での合意の履行を期待するのも無理からぬところがある。
 このような日本の新政権の外交、安全保障問題での姿勢を受けて、米国のオバマ政権や日本研究者、マスコミなどは戸惑っている様子だ。
 米国政府の安全保障・外交関係筋は、従来の日米合意に基づき米軍再編計画が実施されない場合は「深刻な結果を招く」など、米国当局や所謂“日本通”の苛立ちを繁栄して一部マスコミも批判的な論調を掲げている。10月22日付ワシントン・ポスト紙は、“日本、速やかな基地問題の決定を回避 ―ワシントンは、日本の新リーダーによる同盟関係の再定義を懸念―”と題し、米国務省当局の発言を引用しつつ、基地移設問題や東アジア共同体などを念頭に置いて鳩山政権の外交・安全保障姿勢に懸念を示している。その中で同紙は、国務省関係高官が“米国は、日本をアジアの安定的な同盟国として関係を顕著に発展させて来た”が、現在はそうではない。“現在最も困難な問題は、中国ではなく、日本である。”と述べたことを引用している。そしてジョンズ・ホプキンス大学のライシャワー東アジア研究センターのケント・カルダー教授が、“従来米国側が解決案があると言えば、日本側は、あーそうですかと述べ、決着したものであるが、もはやそうではない。これは新たなことである。”とのコメントを引用して記事を締めくくっている。
 ウオール・ストリート・ジャーナル紙も論説で同様の懸念を表明しているが、両紙とも共和党支持の新聞であるので予想される反応と言えるが、米国政府内、及びアジア研究者や言論界で日本の本格的な政権交代に戸惑っている様子が伺える。
 2、 実質的な政権交代には政策転換が伴う 
 そもそも普天間飛行場の返還問題は、沖縄米海兵隊員による少女拉致・暴行事件(1995年9月)に端を発して、日米の外交・防衛当局により沖縄における米軍施設・区域に関する協議が開始され、橋本政権において移設を前提とするものの、普天間飛行場の返還の方向性が決断され、それ自体は評価されるところである。しかし米軍の再編計画については、沖縄の基地問題や日本の防衛のためだけではなく、1991年の湾岸戦争以降、中国が軍事力の近代化を中心とする急速な軍事力増強を行い、また最近北朝鮮が核・ミサイル開発を進めていることなどに対処するため、アジア・太平洋規模での安全保障を勘案して再編計画を打ち出していることは米国側も十分に認識しているところであろう。
 従って、鳩山政権が政権発足後1、2か月で2006年の日米合意に基づく移設計画に同意しないとしても、“最大の問題が中国ではなく日本”という認識は、そもそも日米同盟とは中国との関係よりも脆弱なものということを意味することになり、冷静さを欠く過剰な反応と言える。更に、日本側当局がこれまで自民党政権下で、米国の要請を丸呑みにして来たとのイメージや認識は、鳩山政権が主張している旧政権下の対米追従外交を米国の日本通も認めていることなる。日本の政治が戦後ほぼ一貫して自民党政権下で首班順送りがなされ、政権の安定的な運営のためにも経済的、政治的に対米国関係の安定的な維持が不可欠であったので、米国側もそれを当然視し、政権が交代してもそのような関係が継続すると期待しているとしても不思議はない。
 しかしオバマ政権としては、日本の今回の政権交代は首班順送りではなく、戦後初の本格的な政権交代であり、国民が政策転換を選択したことを認識すべきであろう。政権交代には、国内政策はもとより、外交、安全保障政策においても転換が伴うことは自然であろう。それが国民の明確な選択なのである。
 確かに政権が交代しても、外交、安全保障政策は、相手国との関係や、国際約束などの遵守を含め、国際社会での信頼性に関係するので、一定の安定性や一貫性が要求される。しかし、一般論として政権が交代すれば外交、安全保障政策においても転換されることは少なくない。米国においても、ブッシュ前政権において、温室効果ガス抑制の枠組みに関する京都議定書に不同意を表明し、また北朝鮮の核開発問題に関するクリントン政権下での米・朝枠組合意を破棄し、米・日・韓などにより北朝鮮で建設を開始した軽水炉計画を中止し、新たに6か国協議を枠組みでの交渉に転換するなど、国際的な約束や合意を修正している。また09年1月に発足したオバマ新政権は、温暖化ガス削減を目指すグリーン・ニューデイールを打ち出した他、これまで禁句に近かった「核無き世界平和と安全」を提唱し、中・東欧に建設を推進していたミサイル(MD)防衛網の建設中止を表明すると共に、イラク都市部を中心とする大幅撤退を表明するなど、変革(“チェンジ”)を図ろうとしている。
 鳩山新政権は、9月の総選挙において大幅な政策転換を伴う政権交代を訴えて地滑り的な国民の支持を獲得し、「マニフェスト」の具体化に向けて検討を開始した。実質的な政策転換が予想されている。
 米国において政権交代が行われる場合、新政権が軌道に乗るまで少なくても3か月から半年は掛かる。大使人事や課長クラスの人事についてはもっと時間を掛けている。大統領選挙後、選挙結果が明らかになってから翌年1月の就任式まで約1ヶ月半あり、その間に「政権移行チーム」の作業が開始し、閣僚人事や主要ポストの人事が固まっていくと共に、「政権移行作業」が行われる。そして大統領就任式後、優先的取り組み事項と各省庁の課長クラス以上を中心とする人事など、実施に向けての具体化作業が3ヶ月から6ヶ月程度掛けて行われる。外交政策についても同様で、日本を含め各国は、新政権の政策、姿勢についての情報収集が活発に行われる。一般的に、特定分野や地域を担当する次官補クラス(日本の局部長)が決まらないと新たな方向性は分からないし、次官補クラスが決まっても具体策などについては更に時間が掛かり、日本側は必死に米国の新政権の政策、方針を「学習」するのが常である。米国側の主要ポストが決まれば政策協議なども行われる。在外公館からその「学習結果」が報告されてくると、省内外の関係方面にも送達され、政府高官の発言など重要なものは大臣や首相官邸などにも伝えられる。米国の場合、4年から8年毎に共和党と民主党との間で政権交代が行われるので、日本の外交当局は「政権交代」への対応にはある程度慣れているが、重要な問題が一巡するまでの半年から1年前後は情報収集と学習の状況が続く。
 他方、米国側、特に米国の事務方は今回のような日本の政権交代、政策転換には不慣れであり、対応に戸惑っている。。日本においては戦後、1993年の細川政権を除き自民党を中心とする政権が継続し、政権が交代しても与党内の首班の交代であり、外交の一貫性も保たれていたからだ。米国の国務、国防当局が、従来の首班交代の時と同様、日本の新政権もほぼこれまで通りの政策を踏襲するものと期待していても不思議はない。米国側とすれば、むしろ日本側が「学習」してくれると期待する空気が強いと思われる。上述のワシントン・ポスト紙の記事で、従来であれば、米国の提案に対し日本側が“ああそうですか”と言って受け入れていたとしている。日本外交もそれ程単純でも、ナイーブでもないが、残念なことに米国のアジア研究者などにそのような印象を与えていたことが明らかになった。それ以上に、米国側の日本に対する認識がその程度かと寂しい限りである。ワシントン・ポスト紙は、共和党支持の保守系の新聞であるので、そのような論調をより強く打ち出しているのであろうが、党派を問わず同様の認識を持っている可能性があるので、今回は、米国側が日本の新政権の政策や国民の意識の変化を「学習」してもらう必要がありそうだ。
 政権交代を前提とすると、日米間の相互理解を促進する上でもう一つ制約要因がある。それは米国側だけではなく、日本の官僚組織が本格的な「政権交代」に不慣れであることだ。半世紀以上に亘る与党自民党の下での政権が継続していたわけであるので仕方がないことであり、外交、防衛当局は政策の一貫性を期待する。そのような期待感は米国側にも伝わり、米国側が日本側に強く要請すれば日本側は受け入れるとの印象を与える恐れがある。特に、事務レベル間での接触においてはそのような流れになる可能性が強い。そこで米国側が取る対応は、「外圧」である。「ガイアツ」という言葉は、米国の日本通などの間では、可なり広く知られている表現で、日本に強い圧力を掛ければ日本側が妥協するとの認識だ。“ガイアツ”は事柄により様々なチャンネルで日本にもたらされる。政治を動かしたい場合は実務レベルや民間レベル、官僚組織を動かしたいときは政治レベルなど、各種のチャンネルが使われる。11月3日、米国務省ケリー報道官が、普天間飛行場の移設問題に関連し「どのような関係を米国と持ちたいかを決めるのは日本次第である」と述べ、日本側に判断を迫ったが、オバマ大統領訪日までの決定を迫る“ガイアツ”であったのであろう。それらが多くの場合偏った意見、論調が両国のメデイアや評論家などを通じ両国の国民に伝えられる。
 3、見えてきた日米の課題
 鳩山首相としても、この問題を早期に決定する方針であるものの、オバマ大統領の訪日までの決定を期限とは考えていないとの考え方を予算委員会などで示した。このように日本の本格的な政権交代、政策転換に不慣れな米国側と日本の官僚組織という構図の中で、日米間の相互理解を深め、真の同盟関係を構築して行くためには、首脳間、担当大臣間など政治レベルでの対話が非常に重要になっている。恐らく米国側には日本の新政権の政策や問題意識、優先度に違和感を持つ部分もあるであろう。しかし、それが国民の今回の選択であり、オバマ大統領も国民の「変化」への選択で政権に就いたところであるので、まずお互いに意見を聞くと共に、日米両国が自由、民主主義、市場経済という基本的な価値観を共有し、両国関係が外交、安全保障の重要な基礎であるという大枠を確認した上で、個別の問題に取り組んで行くことが重要なのであろう。
 普天間飛行場の移設を含む米軍再編問題に関する2006年の「日米合意」は、
ブッシュ、安倍政権下での政府間合意である。基本的には相互に尊重されるべきであろうが、米国もオバマ民主党政権へ、日本も鳩山連立政権へ政権が交代しているので、当事者の一方である日本が選挙公約に照らして従来案を“見直し”、国民の支持が得られる形で決定することは、民主主義プロセスとしては自然な流れであろう。それはオバマ大統領も理解することであろう。
 その他のインド洋での給油活動の中止問題、海兵隊のグアム移転費問題など米軍再編問題や東アジア共同体構想の提唱の他、アフガニスタン支援問題、北朝鮮の各開発問題、地球温暖化問題、核兵器無き世界の平和と安全問題など、日米間の懸案は正にグローバルに亘るが、新政権同士の首脳として、将来に亘る日米同盟の健全な発展を見据えて忌憚の無い意見交換が行われることを期待したい。
 今回の日米首脳会談は、日米関係にとって戦後最も重要な会談の一つになると見られるが、首脳間協議に加え、日米間の相互理解の上で課題が見えて来た。日米双方での閣僚レベルはもとより、議員交流、知識人・研究者交流など、日米交流のあり方である。
 米国側としては、従来自民党政権を前提として議員交流や日本研究者などの交流、育成を図って来ており、対日理解の上で顕著な発展を見せている。しかし民主党を中心とする旧野党との交流や考え方の理解は限定的であり、今後この面での改善が望まれる。
 日本側も、従来政権与党の自民党を中心として議員交流や米国研究者、安全保障専門家などの育成、交流が図られて来たが、民主党はこの面で米国との新たなパイプ造りや研究者、専門家の育成を図らなくてはならない。日本の日米関係、安全保障問題の専門家や有識者・評論家なども自民党の政策を支持し、或いは誘導して来た層が多く、どうしても批判的な論調が強くなる傾向があるので、幅広い知識人や専門家、研究者の発掘、育成も課題であろう。
 外交、防衛政策に限らず、新政権の政策転換は4年間で実現し、実績をあげる必要がある。半世紀に亘る既成の制度、慣行、既得権益、組織の下での政策転換であるので時間が掛かる作業となろう。それぞれの事項、施策は、採用された当時には一定のニーズがあり、役割を果たしてきたのであろうから、それを転換しようとすると、それぞれの利益グループが「生活を掛けて」反対するのは仕方がない。しかし個々の「生活」や利益の問題ではなく、限られた国民の税金を時のニーズに沿ってどのような施策に優先度を与えて配分するかである。課題も多い。だが国民が選んだ政権であるので、まず4年間政権を担ってむらうしかない。(09.11.)  
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過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (総集編)

2009-11-12 | Weblog
過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (総集編)
 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
1、新政権に戸惑う米国
 10月20日、ゲーツ国防長官が訪日し、鳩山首相と表敬・懇談した他、岡田外務大臣、北沢防衛大臣とも会談したと会談した。在日米軍再編問題、特に沖縄県宜野湾市内にある米軍普天間飛行場を名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設する計画に関しては、ゲーツ長官は、「日米合意に従って米軍再編を着実に実施する必要があり、できるだけ早期に結論を出して欲しい」旨要請した。これに対し、日本側は、この問題に関する「日米合意」の存在を認めつつも、「現行案に関する検証の結果を踏まえて結論を出したい」とし、早期の結論は困難との認識を示した。
 岡田外相は、その後10月23日の記者会見において、この問題に時間を掛ければ掛けるほど普天間周辺の危険は継続するとする一方、県外移設は実際上選択肢として考えられないと述べたと伝えられている。その上で、名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設か嘉手納基地への統合の2案に絞られて来たとの認識が示された。北沢防衛大臣は、米軍再編の内容については、海兵隊約8千名のグアムへの配転、空中給油機の山口県岩国基地への移転を考慮すると、「県外移設」の意味合いを含んでいるとして、現行案に対し一定の理解を示したと伝えられており、それぞれの立場での意見が示されている。
 民主党は、9月の総選挙に際するマニフェストで「米軍再編や在日米軍基地のあり方等につき見直す」ことを表明しているので、総選挙で「見直し」が国民の一般的な支持を得たことになる。特に沖縄県では、9月の衆院選挙において4つの全ての小選挙区において現行案に批判的な議員(民主2、社民1、国民新1)が当選しているので、「現行案」は県民の支持を得れていないと言える。更に、連立政権の一角を形成している社民党との連立協議の際、具体的な内容には触れられていないものの、この問題の「見直し」で合意しており、連立政権を維持する限り「現行案」はそのままの形では受け入れ困難と見られる。社民党は、県外移設を含む見直しを念頭に置いている。
 他方、米国のゲーツ国防長官としては、11月にオバマ大統領の訪日を控えていることもあり、早期の決着を望むことは当然のことであろう。特に、同長官は、イラクからの米軍の撤収、アフガニスタンへの増派問題への対応のため、ブッシュ前
政権から引き続き国防長官に任命されているので、ブッシュ前政権下での合意の履行を期待するのも無理からぬところがある。
 このような日本の新政権の外交、安全保障問題での姿勢を受けて、米国のオバマ政権や日本研究者、マスコミなどは戸惑っている様子だ。
 米国政府の安全保障・外交関係筋は、従来の日米合意に基づき米軍再編計画が実施されない場合は「深刻な結果を招く」など、米国当局や所謂“日本通”の苛立ちを繁栄して一部マスコミも批判的な論調を掲げている。10月22日付ワシントン・ポスト紙は、“日本、速やかな基地問題の決定を回避 ―ワシントンは、日本の新リーダーによる同盟関係の再定義を懸念―”と題し、米国務省当局の発言を引用しつつ、基地移設問題や東アジア共同体などを念頭に置いて鳩山政権の外交・安全保障姿勢に懸念を示している。その中で同紙は、国務省関係高官が“米国は、日本をアジアの安定的な同盟国として関係を顕著に発展させて来た”が、現在はそうではない。“現在最も困難な問題は、中国ではなく、日本である。”と述べたことを引用している。そしてジョンズ・ホプキンス大学のライシャワー東アジア研究センターのケント・カルダー教授が、“従来米国側が解決案があると言えば、日本側は、あーそうですかと述べ、決着したものであるが、もはやそうではない。これは新たなことである。”とのコメントを引用して記事を締めくくっている。
 ウオール・ストリート・ジャーナル紙も論説で同様の懸念を表明しているが、両紙とも共和党支持の新聞であるので予想される反応と言えるが、米国政府内、及びアジア研究者や言論界で日本の本格的な政権交代に戸惑っている様子が伺える。
 2、 実質的な政権交代には政策転換が伴う 
 そもそも普天間飛行場の返還問題は、沖縄米海兵隊員による少女拉致・暴行事件(1995年9月)に端を発して、日米の外交・防衛当局により沖縄における米軍施設・区域に関する協議が開始され、橋本政権において移設を前提とするものの、普天間飛行場の返還の方向性が決断され、それ自体は評価されるところである。しかし米軍の再編計画については、沖縄の基地問題や日本の防衛のためだけではなく、1991年の湾岸戦争以降、中国が軍事力の近代化を中心とする急速な軍事力増強を行い、また最近北朝鮮が核・ミサイル開発を進めていることなどに対処するため、アジア・太平洋規模での安全保障を勘案して再編計画を打ち出していることは米国側も十分に認識しているところであろう。
 従って、鳩山政権が政権発足後1、2か月で2006年の日米合意に基づく移設計画に同意しないとしても、“最大の問題が中国ではなく日本”という認識は、そもそも日米同盟とは中国との関係よりも脆弱なものということを意味することになり、冷静さを欠く過剰な反応と言える。更に、日本側当局がこれまで自民党政権下で、米国の要請を丸呑みにして来たとのイメージや認識は、鳩山政権が主張している旧政権下の対米追従外交を米国の日本通も認めていることなる。日本の政治が戦後ほぼ一貫して自民党政権下で首班順送りがなされ、政権の安定的な運営のためにも経済的、政治的に対米国関係の安定的な維持が不可欠であったので、米国側もそれを当然視し、政権が交代してもそのような関係が継続すると期待しているとしても不思議はない。
 しかしオバマ政権としては、日本の今回の政権交代は首班順送りではなく、戦後初の本格的な政権交代であり、国民が政策転換を選択したことを認識すべきであろう。政権交代には、国内政策はもとより、外交、安全保障政策においても転換が伴うことは自然であろう。それが国民の明確な選択なのである。
 確かに政権が交代しても、外交、安全保障政策は、相手国との関係や、国際約束などの遵守を含め、国際社会での信頼性に関係するので、一定の安定性や一貫性が要求される。しかし、一般論として政権が交代すれば外交、安全保障政策においても転換されることは少なくない。米国においても、ブッシュ前政権において、温室効果ガス抑制の枠組みに関する京都議定書に不同意を表明し、また北朝鮮の核開発問題に関するクリントン政権下での米・朝枠組合意を破棄し、米・日・韓などにより北朝鮮で建設を開始した軽水炉計画を中止し、新たに6か国協議を枠組みでの交渉に転換するなど、国際的な約束や合意を修正している。また09年1月に発足したオバマ新政権は、温暖化ガス削減を目指すグリーン・ニューデイールを打ち出した他、これまで禁句に近かった「核無き世界平和と安全」を提唱し、中・東欧に建設を推進していたミサイル(MD)防衛網の建設中止を表明すると共に、イラク都市部を中心とする大幅撤退を表明するなど、変革(“チェンジ”)を図ろうとしている。
 鳩山新政権は、9月の総選挙において大幅な政策転換を伴う政権交代を訴えて地滑り的な国民の支持を獲得し、「マニフェスト」の具体化に向けて検討を開始した。実質的な政策転換が予想されている。
 米国において政権交代が行われる場合、新政権が軌道に乗るまで少なくても3か月から半年は掛かる。大使人事や課長クラスの人事についてはもっと時間を掛けている。大統領選挙後、選挙結果が明らかになってから翌年1月の就任式まで約1ヶ月半あり、その間に「政権移行チーム」の作業が開始し、閣僚人事や主要ポストの人事が固まっていくと共に、「政権移行作業」が行われる。そして大統領就任式後、優先的取り組み事項と各省庁の課長クラス以上を中心とする人事など、実施に向けての具体化作業が3ヶ月から6ヶ月程度掛けて行われる。外交政策についても同様で、日本を含め各国は、新政権の政策、姿勢についての情報収集が活発に行われる。一般的に、特定分野や地域を担当する次官補クラス(日本の局部長)が決まらないと新たな方向性は分からないし、次官補クラスが決まっても具体策などについては更に時間が掛かり、日本側は必死に米国の新政権の政策、方針を「学習」するのが常である。米国側の主要ポストが決まれば政策協議なども行われる。在外公館からその「学習結果」が報告されてくると、省内外の関係方面にも送達され、政府高官の発言など重要なものは大臣や首相官邸などにも伝えられる。米国の場合、4年から8年毎に共和党と民主党との間で政権交代が行われるので、日本の外交当局は「政権交代」への対応にはある程度慣れているが、重要な問題が一巡するまでの半年から1年前後は情報収集と学習の状況が続く。
 他方、米国側、特に米国の事務方は今回のような日本の政権交代、政策転換には不慣れであり、対応に戸惑っている。。日本においては戦後、1993年の細川政権を除き自民党を中心とする政権が継続し、政権が交代しても与党内の首班の交代であり、外交の一貫性も保たれていたからだ。米国の国務、国防当局が、従来の首班交代の時と同様、日本の新政権もほぼこれまで通りの政策を踏襲するものと期待していても不思議はない。米国側とすれば、むしろ日本側が「学習」してくれると期待する空気が強いと思われる。上述のワシントン・ポスト紙の記事で、従来であれば、米国の提案に対し日本側が“ああそうですか”と言って受け入れていたとしている。日本外交もそれ程単純でも、ナイーブでもないが、残念なことに米国のアジア研究者などにそのような印象を与えていたことが明らかになった。それ以上に、米国側の日本に対する認識がその程度かと寂しい限りである。ワシントン・ポスト紙は、共和党支持の保守系の新聞であるので、そのような論調をより強く打ち出しているのであろうが、党派を問わず同様の認識を持っている可能性があるので、今回は、米国側が日本の新政権の政策や国民の意識の変化を「学習」してもらう必要がありそうだ。
 政権交代を前提とすると、日米間の相互理解を促進する上でもう一つ制約要因がある。それは米国側だけではなく、日本の官僚組織が本格的な「政権交代」に不慣れであることだ。半世紀以上に亘る与党自民党の下での政権が継続していたわけであるので仕方がないことであり、外交、防衛当局は政策の一貫性を期待する。そのような期待感は米国側にも伝わり、米国側が日本側に強く要請すれば日本側は受け入れるとの印象を与える恐れがある。特に、事務レベル間での接触においてはそのような流れになる可能性が強い。そこで米国側が取る対応は、「外圧」である。「ガイアツ」という言葉は、米国の日本通などの間では、可なり広く知られている表現で、日本に強い圧力を掛ければ日本側が妥協するとの認識だ。“ガイアツ”は事柄により様々なチャンネルで日本にもたらされる。政治を動かしたい場合は実務レベルや民間レベル、官僚組織を動かしたいときは政治レベルなど、各種のチャンネルが使われる。11月3日、米国務省ケリー報道官が、普天間飛行場の移設問題に関連し「どのような関係を米国と持ちたいかを決めるのは日本次第である」と述べ、日本側に判断を迫ったが、オバマ大統領訪日までの決定を迫る“ガイアツ”であったのであろう。それらが多くの場合偏った意見、論調が両国のメデイアや評論家などを通じ両国の国民に伝えられる。
 3、見えてきた日米の課題
 鳩山首相としても、この問題を早期に決定する方針であるものの、オバマ大統領の訪日までの決定を期限とは考えていないとの考え方を予算委員会などで示した。このように日本の本格的な政権交代、政策転換に不慣れな米国側と日本の官僚組織という構図の中で、日米間の相互理解を深め、真の同盟関係を構築して行くためには、首脳間、担当大臣間など政治レベルでの対話が非常に重要になっている。恐らく米国側には日本の新政権の政策や問題意識、優先度に違和感を持つ部分もあるであろう。しかし、それが国民の今回の選択であり、オバマ大統領も国民の「変化」への選択で政権に就いたところであるので、まずお互いに意見を聞くと共に、日米両国が自由、民主主義、市場経済という基本的な価値観を共有し、両国関係が外交、安全保障の重要な基礎であるという大枠を確認した上で、個別の問題に取り組んで行くことが重要なのであろう。
 普天間飛行場の移設を含む米軍再編問題に関する2006年の「日米合意」は、
ブッシュ、安倍政権下での政府間合意である。基本的には相互に尊重されるべきであろうが、米国もオバマ民主党政権へ、日本も鳩山連立政権へ政権が交代しているので、当事者の一方である日本が選挙公約に照らして従来案を“見直し”、国民の支持が得られる形で決定することは、民主主義プロセスとしては自然な流れであろう。それはオバマ大統領も理解することであろう。
 その他のインド洋での給油活動の中止問題、海兵隊のグアム移転費問題など米軍再編問題や東アジア共同体構想の提唱の他、アフガニスタン支援問題、北朝鮮の各開発問題、地球温暖化問題、核兵器無き世界の平和と安全問題など、日米間の懸案は正にグローバルに亘るが、新政権同士の首脳として、将来に亘る日米同盟の健全な発展を見据えて忌憚の無い意見交換が行われることを期待したい。
 今回の日米首脳会談は、日米関係にとって戦後最も重要な会談の一つになると見られるが、首脳間協議に加え、日米間の相互理解の上で課題が見えて来た。日米双方での閣僚レベルはもとより、議員交流、知識人・研究者交流など、日米交流のあり方である。
 米国側としては、従来自民党政権を前提として議員交流や日本研究者などの交流、育成を図って来ており、対日理解の上で顕著な発展を見せている。しかし民主党を中心とする旧野党との交流や考え方の理解は限定的であり、今後この面での改善が望まれる。
 日本側も、従来政権与党の自民党を中心として議員交流や米国研究者、安全保障専門家などの育成、交流が図られて来たが、民主党はこの面で米国との新たなパイプ造りや研究者、専門家の育成を図らなくてはならない。日本の日米関係、安全保障問題の専門家や有識者・評論家なども自民党の政策を支持し、或いは誘導して来た層が多く、どうしても批判的な論調が強くなる傾向があるので、幅広い知識人や専門家、研究者の発掘、育成も課題であろう。
 外交、防衛政策に限らず、新政権の政策転換は4年間で実現し、実績をあげる必要がある。半世紀に亘る既成の制度、慣行、既得権益、組織の下での政策転換であるので時間が掛かる作業となろう。それぞれの事項、施策は、採用された当時には一定のニーズがあり、役割を果たしてきたのであろうから、それを転換しようとすると、それぞれの利益グループが「生活を掛けて」反対するのは仕方がない。しかし個々の「生活」や利益の問題ではなく、限られた国民の税金を時のニーズに沿ってどのような施策に優先度を与えて配分するかである。課題も多い。だが国民が選んだ政権であるので、まず4年間政権を担ってむらうしかない。(09.11.)  
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過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (総集編)

2009-11-12 | Weblog
過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (総集編)
 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
1、新政権に戸惑う米国
 10月20日、ゲーツ国防長官が訪日し、鳩山首相と表敬・懇談した他、岡田外務大臣、北沢防衛大臣とも会談したと会談した。在日米軍再編問題、特に沖縄県宜野湾市内にある米軍普天間飛行場を名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設する計画に関しては、ゲーツ長官は、「日米合意に従って米軍再編を着実に実施する必要があり、できるだけ早期に結論を出して欲しい」旨要請した。これに対し、日本側は、この問題に関する「日米合意」の存在を認めつつも、「現行案に関する検証の結果を踏まえて結論を出したい」とし、早期の結論は困難との認識を示した。
 岡田外相は、その後10月23日の記者会見において、この問題に時間を掛ければ掛けるほど普天間周辺の危険は継続するとする一方、県外移設は実際上選択肢として考えられないと述べたと伝えられている。その上で、名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設か嘉手納基地への統合の2案に絞られて来たとの認識が示された。北沢防衛大臣は、米軍再編の内容については、海兵隊約8千名のグアムへの配転、空中給油機の山口県岩国基地への移転を考慮すると、「県外移設」の意味合いを含んでいるとして、現行案に対し一定の理解を示したと伝えられており、それぞれの立場での意見が示されている。
 民主党は、9月の総選挙に際するマニフェストで「米軍再編や在日米軍基地のあり方等につき見直す」ことを表明しているので、総選挙で「見直し」が国民の一般的な支持を得たことになる。特に沖縄県では、9月の衆院選挙において4つの全ての小選挙区において現行案に批判的な議員(民主2、社民1、国民新1)が当選しているので、「現行案」は県民の支持を得れていないと言える。更に、連立政権の一角を形成している社民党との連立協議の際、具体的な内容には触れられていないものの、この問題の「見直し」で合意しており、連立政権を維持する限り「現行案」はそのままの形では受け入れ困難と見られる。社民党は、県外移設を含む見直しを念頭に置いている。
 他方、米国のゲーツ国防長官としては、11月にオバマ大統領の訪日を控えていることもあり、早期の決着を望むことは当然のことであろう。特に、同長官は、イラクからの米軍の撤収、アフガニスタンへの増派問題への対応のため、ブッシュ前
政権から引き続き国防長官に任命されているので、ブッシュ前政権下での合意の履行を期待するのも無理からぬところがある。
 このような日本の新政権の外交、安全保障問題での姿勢を受けて、米国のオバマ政権や日本研究者、マスコミなどは戸惑っている様子だ。
 米国政府の安全保障・外交関係筋は、従来の日米合意に基づき米軍再編計画が実施されない場合は「深刻な結果を招く」など、米国当局や所謂“日本通”の苛立ちを繁栄して一部マスコミも批判的な論調を掲げている。10月22日付ワシントン・ポスト紙は、“日本、速やかな基地問題の決定を回避 ―ワシントンは、日本の新リーダーによる同盟関係の再定義を懸念―”と題し、米国務省当局の発言を引用しつつ、基地移設問題や東アジア共同体などを念頭に置いて鳩山政権の外交・安全保障姿勢に懸念を示している。その中で同紙は、国務省関係高官が“米国は、日本をアジアの安定的な同盟国として関係を顕著に発展させて来た”が、現在はそうではない。“現在最も困難な問題は、中国ではなく、日本である。”と述べたことを引用している。そしてジョンズ・ホプキンス大学のライシャワー東アジア研究センターのケント・カルダー教授が、“従来米国側が解決案があると言えば、日本側は、あーそうですかと述べ、決着したものであるが、もはやそうではない。これは新たなことである。”とのコメントを引用して記事を締めくくっている。
 ウオール・ストリート・ジャーナル紙も論説で同様の懸念を表明しているが、両紙とも共和党支持の新聞であるので予想される反応と言えるが、米国政府内、及びアジア研究者や言論界で日本の本格的な政権交代に戸惑っている様子が伺える。
 2、 実質的な政権交代には政策転換が伴う 
 そもそも普天間飛行場の返還問題は、沖縄米海兵隊員による少女拉致・暴行事件(1995年9月)に端を発して、日米の外交・防衛当局により沖縄における米軍施設・区域に関する協議が開始され、橋本政権において移設を前提とするものの、普天間飛行場の返還の方向性が決断され、それ自体は評価されるところである。しかし米軍の再編計画については、沖縄の基地問題や日本の防衛のためだけではなく、1991年の湾岸戦争以降、中国が軍事力の近代化を中心とする急速な軍事力増強を行い、また最近北朝鮮が核・ミサイル開発を進めていることなどに対処するため、アジア・太平洋規模での安全保障を勘案して再編計画を打ち出していることは米国側も十分に認識しているところであろう。
 従って、鳩山政権が政権発足後1、2か月で2006年の日米合意に基づく移設計画に同意しないとしても、“最大の問題が中国ではなく日本”という認識は、そもそも日米同盟とは中国との関係よりも脆弱なものということを意味することになり、冷静さを欠く過剰な反応と言える。更に、日本側当局がこれまで自民党政権下で、米国の要請を丸呑みにして来たとのイメージや認識は、鳩山政権が主張している旧政権下の対米追従外交を米国の日本通も認めていることなる。日本の政治が戦後ほぼ一貫して自民党政権下で首班順送りがなされ、政権の安定的な運営のためにも経済的、政治的に対米国関係の安定的な維持が不可欠であったので、米国側もそれを当然視し、政権が交代してもそのような関係が継続すると期待しているとしても不思議はない。
 しかしオバマ政権としては、日本の今回の政権交代は首班順送りではなく、戦後初の本格的な政権交代であり、国民が政策転換を選択したことを認識すべきであろう。政権交代には、国内政策はもとより、外交、安全保障政策においても転換が伴うことは自然であろう。それが国民の明確な選択なのである。
 確かに政権が交代しても、外交、安全保障政策は、相手国との関係や、国際約束などの遵守を含め、国際社会での信頼性に関係するので、一定の安定性や一貫性が要求される。しかし、一般論として政権が交代すれば外交、安全保障政策においても転換されることは少なくない。米国においても、ブッシュ前政権において、温室効果ガス抑制の枠組みに関する京都議定書に不同意を表明し、また北朝鮮の核開発問題に関するクリントン政権下での米・朝枠組合意を破棄し、米・日・韓などにより北朝鮮で建設を開始した軽水炉計画を中止し、新たに6か国協議を枠組みでの交渉に転換するなど、国際的な約束や合意を修正している。また09年1月に発足したオバマ新政権は、温暖化ガス削減を目指すグリーン・ニューデイールを打ち出した他、これまで禁句に近かった「核無き世界平和と安全」を提唱し、中・東欧に建設を推進していたミサイル(MD)防衛網の建設中止を表明すると共に、イラク都市部を中心とする大幅撤退を表明するなど、変革(“チェンジ”)を図ろうとしている。
 鳩山新政権は、9月の総選挙において大幅な政策転換を伴う政権交代を訴えて地滑り的な国民の支持を獲得し、「マニフェスト」の具体化に向けて検討を開始した。実質的な政策転換が予想されている。
 米国において政権交代が行われる場合、新政権が軌道に乗るまで少なくても3か月から半年は掛かる。大使人事や課長クラスの人事についてはもっと時間を掛けている。大統領選挙後、選挙結果が明らかになってから翌年1月の就任式まで約1ヶ月半あり、その間に「政権移行チーム」の作業が開始し、閣僚人事や主要ポストの人事が固まっていくと共に、「政権移行作業」が行われる。そして大統領就任式後、優先的取り組み事項と各省庁の課長クラス以上を中心とする人事など、実施に向けての具体化作業が3ヶ月から6ヶ月程度掛けて行われる。外交政策についても同様で、日本を含め各国は、新政権の政策、姿勢についての情報収集が活発に行われる。一般的に、特定分野や地域を担当する次官補クラス(日本の局部長)が決まらないと新たな方向性は分からないし、次官補クラスが決まっても具体策などについては更に時間が掛かり、日本側は必死に米国の新政権の政策、方針を「学習」するのが常である。米国側の主要ポストが決まれば政策協議なども行われる。在外公館からその「学習結果」が報告されてくると、省内外の関係方面にも送達され、政府高官の発言など重要なものは大臣や首相官邸などにも伝えられる。米国の場合、4年から8年毎に共和党と民主党との間で政権交代が行われるので、日本の外交当局は「政権交代」への対応にはある程度慣れているが、重要な問題が一巡するまでの半年から1年前後は情報収集と学習の状況が続く。
 他方、米国側、特に米国の事務方は今回のような日本の政権交代、政策転換には不慣れであり、対応に戸惑っている。。日本においては戦後、1993年の細川政権を除き自民党を中心とする政権が継続し、政権が交代しても与党内の首班の交代であり、外交の一貫性も保たれていたからだ。米国の国務、国防当局が、従来の首班交代の時と同様、日本の新政権もほぼこれまで通りの政策を踏襲するものと期待していても不思議はない。米国側とすれば、むしろ日本側が「学習」してくれると期待する空気が強いと思われる。上述のワシントン・ポスト紙の記事で、従来であれば、米国の提案に対し日本側が“ああそうですか”と言って受け入れていたとしている。日本外交もそれ程単純でも、ナイーブでもないが、残念なことに米国のアジア研究者などにそのような印象を与えていたことが明らかになった。それ以上に、米国側の日本に対する認識がその程度かと寂しい限りである。ワシントン・ポスト紙は、共和党支持の保守系の新聞であるので、そのような論調をより強く打ち出しているのであろうが、党派を問わず同様の認識を持っている可能性があるので、今回は、米国側が日本の新政権の政策や国民の意識の変化を「学習」してもらう必要がありそうだ。
 政権交代を前提とすると、日米間の相互理解を促進する上でもう一つ制約要因がある。それは米国側だけではなく、日本の官僚組織が本格的な「政権交代」に不慣れであることだ。半世紀以上に亘る与党自民党の下での政権が継続していたわけであるので仕方がないことであり、外交、防衛当局は政策の一貫性を期待する。そのような期待感は米国側にも伝わり、米国側が日本側に強く要請すれば日本側は受け入れるとの印象を与える恐れがある。特に、事務レベル間での接触においてはそのような流れになる可能性が強い。そこで米国側が取る対応は、「外圧」である。「ガイアツ」という言葉は、米国の日本通などの間では、可なり広く知られている表現で、日本に強い圧力を掛ければ日本側が妥協するとの認識だ。“ガイアツ”は事柄により様々なチャンネルで日本にもたらされる。政治を動かしたい場合は実務レベルや民間レベル、官僚組織を動かしたいときは政治レベルなど、各種のチャンネルが使われる。11月3日、米国務省ケリー報道官が、普天間飛行場の移設問題に関連し「どのような関係を米国と持ちたいかを決めるのは日本次第である」と述べ、日本側に判断を迫ったが、オバマ大統領訪日までの決定を迫る“ガイアツ”であったのであろう。それらが多くの場合偏った意見、論調が両国のメデイアや評論家などを通じ両国の国民に伝えられる。
 3、見えてきた日米の課題
 鳩山首相としても、この問題を早期に決定する方針であるものの、オバマ大統領の訪日までの決定を期限とは考えていないとの考え方を予算委員会などで示した。このように日本の本格的な政権交代、政策転換に不慣れな米国側と日本の官僚組織という構図の中で、日米間の相互理解を深め、真の同盟関係を構築して行くためには、首脳間、担当大臣間など政治レベルでの対話が非常に重要になっている。恐らく米国側には日本の新政権の政策や問題意識、優先度に違和感を持つ部分もあるであろう。しかし、それが国民の今回の選択であり、オバマ大統領も国民の「変化」への選択で政権に就いたところであるので、まずお互いに意見を聞くと共に、日米両国が自由、民主主義、市場経済という基本的な価値観を共有し、両国関係が外交、安全保障の重要な基礎であるという大枠を確認した上で、個別の問題に取り組んで行くことが重要なのであろう。
 普天間飛行場の移設を含む米軍再編問題に関する2006年の「日米合意」は、
ブッシュ、安倍政権下での政府間合意である。基本的には相互に尊重されるべきであろうが、米国もオバマ民主党政権へ、日本も鳩山連立政権へ政権が交代しているので、当事者の一方である日本が選挙公約に照らして従来案を“見直し”、国民の支持が得られる形で決定することは、民主主義プロセスとしては自然な流れであろう。それはオバマ大統領も理解することであろう。
 その他のインド洋での給油活動の中止問題、海兵隊のグアム移転費問題など米軍再編問題や東アジア共同体構想の提唱の他、アフガニスタン支援問題、北朝鮮の各開発問題、地球温暖化問題、核兵器無き世界の平和と安全問題など、日米間の懸案は正にグローバルに亘るが、新政権同士の首脳として、将来に亘る日米同盟の健全な発展を見据えて忌憚の無い意見交換が行われることを期待したい。
 今回の日米首脳会談は、日米関係にとって戦後最も重要な会談の一つになると見られるが、首脳間協議に加え、日米間の相互理解の上で課題が見えて来た。日米双方での閣僚レベルはもとより、議員交流、知識人・研究者交流など、日米交流のあり方である。
 米国側としては、従来自民党政権を前提として議員交流や日本研究者などの交流、育成を図って来ており、対日理解の上で顕著な発展を見せている。しかし民主党を中心とする旧野党との交流や考え方の理解は限定的であり、今後この面での改善が望まれる。
 日本側も、従来政権与党の自民党を中心として議員交流や米国研究者、安全保障専門家などの育成、交流が図られて来たが、民主党はこの面で米国との新たなパイプ造りや研究者、専門家の育成を図らなくてはならない。日本の日米関係、安全保障問題の専門家や有識者・評論家なども自民党の政策を支持し、或いは誘導して来た層が多く、どうしても批判的な論調が強くなる傾向があるので、幅広い知識人や専門家、研究者の発掘、育成も課題であろう。
 外交、防衛政策に限らず、新政権の政策転換は4年間で実現し、実績をあげる必要がある。半世紀に亘る既成の制度、慣行、既得権益、組織の下での政策転換であるので時間が掛かる作業となろう。それぞれの事項、施策は、採用された当時には一定のニーズがあり、役割を果たしてきたのであろうから、それを転換しようとすると、それぞれの利益グループが「生活を掛けて」反対するのは仕方がない。しかし個々の「生活」や利益の問題ではなく、限られた国民の税金を時のニーズに沿ってどのような施策に優先度を与えて配分するかである。課題も多い。だが国民が選んだ政権であるので、まず4年間政権を担ってむらうしかない。(09.11.)  
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過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (総集編)

2009-11-12 | Weblog
過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (総集編)
 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
1、新政権に戸惑う米国
 10月20日、ゲーツ国防長官が訪日し、鳩山首相と表敬・懇談した他、岡田外務大臣、北沢防衛大臣とも会談したと会談した。在日米軍再編問題、特に沖縄県宜野湾市内にある米軍普天間飛行場を名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設する計画に関しては、ゲーツ長官は、「日米合意に従って米軍再編を着実に実施する必要があり、できるだけ早期に結論を出して欲しい」旨要請した。これに対し、日本側は、この問題に関する「日米合意」の存在を認めつつも、「現行案に関する検証の結果を踏まえて結論を出したい」とし、早期の結論は困難との認識を示した。
 岡田外相は、その後10月23日の記者会見において、この問題に時間を掛ければ掛けるほど普天間周辺の危険は継続するとする一方、県外移設は実際上選択肢として考えられないと述べたと伝えられている。その上で、名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設か嘉手納基地への統合の2案に絞られて来たとの認識が示された。北沢防衛大臣は、米軍再編の内容については、海兵隊約8千名のグアムへの配転、空中給油機の山口県岩国基地への移転を考慮すると、「県外移設」の意味合いを含んでいるとして、現行案に対し一定の理解を示したと伝えられており、それぞれの立場での意見が示されている。
 民主党は、9月の総選挙に際するマニフェストで「米軍再編や在日米軍基地のあり方等につき見直す」ことを表明しているので、総選挙で「見直し」が国民の一般的な支持を得たことになる。特に沖縄県では、9月の衆院選挙において4つの全ての小選挙区において現行案に批判的な議員(民主2、社民1、国民新1)が当選しているので、「現行案」は県民の支持を得れていないと言える。更に、連立政権の一角を形成している社民党との連立協議の際、具体的な内容には触れられていないものの、この問題の「見直し」で合意しており、連立政権を維持する限り「現行案」はそのままの形では受け入れ困難と見られる。社民党は、県外移設を含む見直しを念頭に置いている。
 他方、米国のゲーツ国防長官としては、11月にオバマ大統領の訪日を控えていることもあり、早期の決着を望むことは当然のことであろう。特に、同長官は、イラクからの米軍の撤収、アフガニスタンへの増派問題への対応のため、ブッシュ前
政権から引き続き国防長官に任命されているので、ブッシュ前政権下での合意の履行を期待するのも無理からぬところがある。
 このような日本の新政権の外交、安全保障問題での姿勢を受けて、米国のオバマ政権や日本研究者、マスコミなどは戸惑っている様子だ。
 米国政府の安全保障・外交関係筋は、従来の日米合意に基づき米軍再編計画が実施されない場合は「深刻な結果を招く」など、米国当局や所謂“日本通”の苛立ちを繁栄して一部マスコミも批判的な論調を掲げている。10月22日付ワシントン・ポスト紙は、“日本、速やかな基地問題の決定を回避 ―ワシントンは、日本の新リーダーによる同盟関係の再定義を懸念―”と題し、米国務省当局の発言を引用しつつ、基地移設問題や東アジア共同体などを念頭に置いて鳩山政権の外交・安全保障姿勢に懸念を示している。その中で同紙は、国務省関係高官が“米国は、日本をアジアの安定的な同盟国として関係を顕著に発展させて来た”が、現在はそうではない。“現在最も困難な問題は、中国ではなく、日本である。”と述べたことを引用している。そしてジョンズ・ホプキンス大学のライシャワー東アジア研究センターのケント・カルダー教授が、“従来米国側が解決案があると言えば、日本側は、あーそうですかと述べ、決着したものであるが、もはやそうではない。これは新たなことである。”とのコメントを引用して記事を締めくくっている。
 ウオール・ストリート・ジャーナル紙も論説で同様の懸念を表明しているが、両紙とも共和党支持の新聞であるので予想される反応と言えるが、米国政府内、及びアジア研究者や言論界で日本の本格的な政権交代に戸惑っている様子が伺える。
 2、 実質的な政権交代には政策転換が伴う 
 そもそも普天間飛行場の返還問題は、沖縄米海兵隊員による少女拉致・暴行事件(1995年9月)に端を発して、日米の外交・防衛当局により沖縄における米軍施設・区域に関する協議が開始され、橋本政権において移設を前提とするものの、普天間飛行場の返還の方向性が決断され、それ自体は評価されるところである。しかし米軍の再編計画については、沖縄の基地問題や日本の防衛のためだけではなく、1991年の湾岸戦争以降、中国が軍事力の近代化を中心とする急速な軍事力増強を行い、また最近北朝鮮が核・ミサイル開発を進めていることなどに対処するため、アジア・太平洋規模での安全保障を勘案して再編計画を打ち出していることは米国側も十分に認識しているところであろう。
 従って、鳩山政権が政権発足後1、2か月で2006年の日米合意に基づく移設計画に同意しないとしても、“最大の問題が中国ではなく日本”という認識は、そもそも日米同盟とは中国との関係よりも脆弱なものということを意味することになり、冷静さを欠く過剰な反応と言える。更に、日本側当局がこれまで自民党政権下で、米国の要請を丸呑みにして来たとのイメージや認識は、鳩山政権が主張している旧政権下の対米追従外交を米国の日本通も認めていることなる。日本の政治が戦後ほぼ一貫して自民党政権下で首班順送りがなされ、政権の安定的な運営のためにも経済的、政治的に対米国関係の安定的な維持が不可欠であったので、米国側もそれを当然視し、政権が交代してもそのような関係が継続すると期待しているとしても不思議はない。
 しかしオバマ政権としては、日本の今回の政権交代は首班順送りではなく、戦後初の本格的な政権交代であり、国民が政策転換を選択したことを認識すべきであろう。政権交代には、国内政策はもとより、外交、安全保障政策においても転換が伴うことは自然であろう。それが国民の明確な選択なのである。
 確かに政権が交代しても、外交、安全保障政策は、相手国との関係や、国際約束などの遵守を含め、国際社会での信頼性に関係するので、一定の安定性や一貫性が要求される。しかし、一般論として政権が交代すれば外交、安全保障政策においても転換されることは少なくない。米国においても、ブッシュ前政権において、温室効果ガス抑制の枠組みに関する京都議定書に不同意を表明し、また北朝鮮の核開発問題に関するクリントン政権下での米・朝枠組合意を破棄し、米・日・韓などにより北朝鮮で建設を開始した軽水炉計画を中止し、新たに6か国協議を枠組みでの交渉に転換するなど、国際的な約束や合意を修正している。また09年1月に発足したオバマ新政権は、温暖化ガス削減を目指すグリーン・ニューデイールを打ち出した他、これまで禁句に近かった「核無き世界平和と安全」を提唱し、中・東欧に建設を推進していたミサイル(MD)防衛網の建設中止を表明すると共に、イラク都市部を中心とする大幅撤退を表明するなど、変革(“チェンジ”)を図ろうとしている。
 鳩山新政権は、9月の総選挙において大幅な政策転換を伴う政権交代を訴えて地滑り的な国民の支持を獲得し、「マニフェスト」の具体化に向けて検討を開始した。実質的な政策転換が予想されている。
 米国において政権交代が行われる場合、新政権が軌道に乗るまで少なくても3か月から半年は掛かる。大使人事や課長クラスの人事についてはもっと時間を掛けている。大統領選挙後、選挙結果が明らかになってから翌年1月の就任式まで約1ヶ月半あり、その間に「政権移行チーム」の作業が開始し、閣僚人事や主要ポストの人事が固まっていくと共に、「政権移行作業」が行われる。そして大統領就任式後、優先的取り組み事項と各省庁の課長クラス以上を中心とする人事など、実施に向けての具体化作業が3ヶ月から6ヶ月程度掛けて行われる。外交政策についても同様で、日本を含め各国は、新政権の政策、姿勢についての情報収集が活発に行われる。一般的に、特定分野や地域を担当する次官補クラス(日本の局部長)が決まらないと新たな方向性は分からないし、次官補クラスが決まっても具体策などについては更に時間が掛かり、日本側は必死に米国の新政権の政策、方針を「学習」するのが常である。米国側の主要ポストが決まれば政策協議なども行われる。在外公館からその「学習結果」が報告されてくると、省内外の関係方面にも送達され、政府高官の発言など重要なものは大臣や首相官邸などにも伝えられる。米国の場合、4年から8年毎に共和党と民主党との間で政権交代が行われるので、日本の外交当局は「政権交代」への対応にはある程度慣れているが、重要な問題が一巡するまでの半年から1年前後は情報収集と学習の状況が続く。
 他方、米国側、特に米国の事務方は今回のような日本の政権交代、政策転換には不慣れであり、対応に戸惑っている。。日本においては戦後、1993年の細川政権を除き自民党を中心とする政権が継続し、政権が交代しても与党内の首班の交代であり、外交の一貫性も保たれていたからだ。米国の国務、国防当局が、従来の首班交代の時と同様、日本の新政権もほぼこれまで通りの政策を踏襲するものと期待していても不思議はない。米国側とすれば、むしろ日本側が「学習」してくれると期待する空気が強いと思われる。上述のワシントン・ポスト紙の記事で、従来であれば、米国の提案に対し日本側が“ああそうですか”と言って受け入れていたとしている。日本外交もそれ程単純でも、ナイーブでもないが、残念なことに米国のアジア研究者などにそのような印象を与えていたことが明らかになった。それ以上に、米国側の日本に対する認識がその程度かと寂しい限りである。ワシントン・ポスト紙は、共和党支持の保守系の新聞であるので、そのような論調をより強く打ち出しているのであろうが、党派を問わず同様の認識を持っている可能性があるので、今回は、米国側が日本の新政権の政策や国民の意識の変化を「学習」してもらう必要がありそうだ。
 政権交代を前提とすると、日米間の相互理解を促進する上でもう一つ制約要因がある。それは米国側だけではなく、日本の官僚組織が本格的な「政権交代」に不慣れであることだ。半世紀以上に亘る与党自民党の下での政権が継続していたわけであるので仕方がないことであり、外交、防衛当局は政策の一貫性を期待する。そのような期待感は米国側にも伝わり、米国側が日本側に強く要請すれば日本側は受け入れるとの印象を与える恐れがある。特に、事務レベル間での接触においてはそのような流れになる可能性が強い。そこで米国側が取る対応は、「外圧」である。「ガイアツ」という言葉は、米国の日本通などの間では、可なり広く知られている表現で、日本に強い圧力を掛ければ日本側が妥協するとの認識だ。“ガイアツ”は事柄により様々なチャンネルで日本にもたらされる。政治を動かしたい場合は実務レベルや民間レベル、官僚組織を動かしたいときは政治レベルなど、各種のチャンネルが使われる。11月3日、米国務省ケリー報道官が、普天間飛行場の移設問題に関連し「どのような関係を米国と持ちたいかを決めるのは日本次第である」と述べ、日本側に判断を迫ったが、オバマ大統領訪日までの決定を迫る“ガイアツ”であったのであろう。それらが多くの場合偏った意見、論調が両国のメデイアや評論家などを通じ両国の国民に伝えられる。
 3、見えてきた日米の課題
 鳩山首相としても、この問題を早期に決定する方針であるものの、オバマ大統領の訪日までの決定を期限とは考えていないとの考え方を予算委員会などで示した。このように日本の本格的な政権交代、政策転換に不慣れな米国側と日本の官僚組織という構図の中で、日米間の相互理解を深め、真の同盟関係を構築して行くためには、首脳間、担当大臣間など政治レベルでの対話が非常に重要になっている。恐らく米国側には日本の新政権の政策や問題意識、優先度に違和感を持つ部分もあるであろう。しかし、それが国民の今回の選択であり、オバマ大統領も国民の「変化」への選択で政権に就いたところであるので、まずお互いに意見を聞くと共に、日米両国が自由、民主主義、市場経済という基本的な価値観を共有し、両国関係が外交、安全保障の重要な基礎であるという大枠を確認した上で、個別の問題に取り組んで行くことが重要なのであろう。
 普天間飛行場の移設を含む米軍再編問題に関する2006年の「日米合意」は、
ブッシュ、安倍政権下での政府間合意である。基本的には相互に尊重されるべきであろうが、米国もオバマ民主党政権へ、日本も鳩山連立政権へ政権が交代しているので、当事者の一方である日本が選挙公約に照らして従来案を“見直し”、国民の支持が得られる形で決定することは、民主主義プロセスとしては自然な流れであろう。それはオバマ大統領も理解することであろう。
 その他のインド洋での給油活動の中止問題、海兵隊のグアム移転費問題など米軍再編問題や東アジア共同体構想の提唱の他、アフガニスタン支援問題、北朝鮮の各開発問題、地球温暖化問題、核兵器無き世界の平和と安全問題など、日米間の懸案は正にグローバルに亘るが、新政権同士の首脳として、将来に亘る日米同盟の健全な発展を見据えて忌憚の無い意見交換が行われることを期待したい。
 今回の日米首脳会談は、日米関係にとって戦後最も重要な会談の一つになると見られるが、首脳間協議に加え、日米間の相互理解の上で課題が見えて来た。日米双方での閣僚レベルはもとより、議員交流、知識人・研究者交流など、日米交流のあり方である。
 米国側としては、従来自民党政権を前提として議員交流や日本研究者などの交流、育成を図って来ており、対日理解の上で顕著な発展を見せている。しかし民主党を中心とする旧野党との交流や考え方の理解は限定的であり、今後この面での改善が望まれる。
 日本側も、従来政権与党の自民党を中心として議員交流や米国研究者、安全保障専門家などの育成、交流が図られて来たが、民主党はこの面で米国との新たなパイプ造りや研究者、専門家の育成を図らなくてはならない。日本の日米関係、安全保障問題の専門家や有識者・評論家なども自民党の政策を支持し、或いは誘導して来た層が多く、どうしても批判的な論調が強くなる傾向があるので、幅広い知識人や専門家、研究者の発掘、育成も課題であろう。
 外交、防衛政策に限らず、新政権の政策転換は4年間で実現し、実績をあげる必要がある。半世紀に亘る既成の制度、慣行、既得権益、組織の下での政策転換であるので時間が掛かる作業となろう。それぞれの事項、施策は、採用された当時には一定のニーズがあり、役割を果たしてきたのであろうから、それを転換しようとすると、それぞれの利益グループが「生活を掛けて」反対するのは仕方がない。しかし個々の「生活」や利益の問題ではなく、限られた国民の税金を時のニーズに沿ってどのような施策に優先度を与えて配分するかである。課題も多い。だが国民が選んだ政権であるので、まず4年間政権を担ってむらうしかない。(09.11.)  
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過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (総集編)

2009-11-12 | Weblog
過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (総集編)
 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
1、新政権に戸惑う米国
 10月20日、ゲーツ国防長官が訪日し、鳩山首相と表敬・懇談した他、岡田外務大臣、北沢防衛大臣とも会談したと会談した。在日米軍再編問題、特に沖縄県宜野湾市内にある米軍普天間飛行場を名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設する計画に関しては、ゲーツ長官は、「日米合意に従って米軍再編を着実に実施する必要があり、できるだけ早期に結論を出して欲しい」旨要請した。これに対し、日本側は、この問題に関する「日米合意」の存在を認めつつも、「現行案に関する検証の結果を踏まえて結論を出したい」とし、早期の結論は困難との認識を示した。
 岡田外相は、その後10月23日の記者会見において、この問題に時間を掛ければ掛けるほど普天間周辺の危険は継続するとする一方、県外移設は実際上選択肢として考えられないと述べたと伝えられている。その上で、名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設か嘉手納基地への統合の2案に絞られて来たとの認識が示された。北沢防衛大臣は、米軍再編の内容については、海兵隊約8千名のグアムへの配転、空中給油機の山口県岩国基地への移転を考慮すると、「県外移設」の意味合いを含んでいるとして、現行案に対し一定の理解を示したと伝えられており、それぞれの立場での意見が示されている。
 民主党は、9月の総選挙に際するマニフェストで「米軍再編や在日米軍基地のあり方等につき見直す」ことを表明しているので、総選挙で「見直し」が国民の一般的な支持を得たことになる。特に沖縄県では、9月の衆院選挙において4つの全ての小選挙区において現行案に批判的な議員(民主2、社民1、国民新1)が当選しているので、「現行案」は県民の支持を得れていないと言える。更に、連立政権の一角を形成している社民党との連立協議の際、具体的な内容には触れられていないものの、この問題の「見直し」で合意しており、連立政権を維持する限り「現行案」はそのままの形では受け入れ困難と見られる。社民党は、県外移設を含む見直しを念頭に置いている。
 他方、米国のゲーツ国防長官としては、11月にオバマ大統領の訪日を控えていることもあり、早期の決着を望むことは当然のことであろう。特に、同長官は、イラクからの米軍の撤収、アフガニスタンへの増派問題への対応のため、ブッシュ前
政権から引き続き国防長官に任命されているので、ブッシュ前政権下での合意の履行を期待するのも無理からぬところがある。
 このような日本の新政権の外交、安全保障問題での姿勢を受けて、米国のオバマ政権や日本研究者、マスコミなどは戸惑っている様子だ。
 米国政府の安全保障・外交関係筋は、従来の日米合意に基づき米軍再編計画が実施されない場合は「深刻な結果を招く」など、米国当局や所謂“日本通”の苛立ちを繁栄して一部マスコミも批判的な論調を掲げている。10月22日付ワシントン・ポスト紙は、“日本、速やかな基地問題の決定を回避 ―ワシントンは、日本の新リーダーによる同盟関係の再定義を懸念―”と題し、米国務省当局の発言を引用しつつ、基地移設問題や東アジア共同体などを念頭に置いて鳩山政権の外交・安全保障姿勢に懸念を示している。その中で同紙は、国務省関係高官が“米国は、日本をアジアの安定的な同盟国として関係を顕著に発展させて来た”が、現在はそうではない。“現在最も困難な問題は、中国ではなく、日本である。”と述べたことを引用している。そしてジョンズ・ホプキンス大学のライシャワー東アジア研究センターのケント・カルダー教授が、“従来米国側が解決案があると言えば、日本側は、あーそうですかと述べ、決着したものであるが、もはやそうではない。これは新たなことである。”とのコメントを引用して記事を締めくくっている。
 ウオール・ストリート・ジャーナル紙も論説で同様の懸念を表明しているが、両紙とも共和党支持の新聞であるので予想される反応と言えるが、米国政府内、及びアジア研究者や言論界で日本の本格的な政権交代に戸惑っている様子が伺える。
 2、 実質的な政権交代には政策転換が伴う 
 そもそも普天間飛行場の返還問題は、沖縄米海兵隊員による少女拉致・暴行事件(1995年9月)に端を発して、日米の外交・防衛当局により沖縄における米軍施設・区域に関する協議が開始され、橋本政権において移設を前提とするものの、普天間飛行場の返還の方向性が決断され、それ自体は評価されるところである。しかし米軍の再編計画については、沖縄の基地問題や日本の防衛のためだけではなく、1991年の湾岸戦争以降、中国が軍事力の近代化を中心とする急速な軍事力増強を行い、また最近北朝鮮が核・ミサイル開発を進めていることなどに対処するため、アジア・太平洋規模での安全保障を勘案して再編計画を打ち出していることは米国側も十分に認識しているところであろう。
 従って、鳩山政権が政権発足後1、2か月で2006年の日米合意に基づく移設計画に同意しないとしても、“最大の問題が中国ではなく日本”という認識は、そもそも日米同盟とは中国との関係よりも脆弱なものということを意味することになり、冷静さを欠く過剰な反応と言える。更に、日本側当局がこれまで自民党政権下で、米国の要請を丸呑みにして来たとのイメージや認識は、鳩山政権が主張している旧政権下の対米追従外交を米国の日本通も認めていることなる。日本の政治が戦後ほぼ一貫して自民党政権下で首班順送りがなされ、政権の安定的な運営のためにも経済的、政治的に対米国関係の安定的な維持が不可欠であったので、米国側もそれを当然視し、政権が交代してもそのような関係が継続すると期待しているとしても不思議はない。
 しかしオバマ政権としては、日本の今回の政権交代は首班順送りではなく、戦後初の本格的な政権交代であり、国民が政策転換を選択したことを認識すべきであろう。政権交代には、国内政策はもとより、外交、安全保障政策においても転換が伴うことは自然であろう。それが国民の明確な選択なのである。
 確かに政権が交代しても、外交、安全保障政策は、相手国との関係や、国際約束などの遵守を含め、国際社会での信頼性に関係するので、一定の安定性や一貫性が要求される。しかし、一般論として政権が交代すれば外交、安全保障政策においても転換されることは少なくない。米国においても、ブッシュ前政権において、温室効果ガス抑制の枠組みに関する京都議定書に不同意を表明し、また北朝鮮の核開発問題に関するクリントン政権下での米・朝枠組合意を破棄し、米・日・韓などにより北朝鮮で建設を開始した軽水炉計画を中止し、新たに6か国協議を枠組みでの交渉に転換するなど、国際的な約束や合意を修正している。また09年1月に発足したオバマ新政権は、温暖化ガス削減を目指すグリーン・ニューデイールを打ち出した他、これまで禁句に近かった「核無き世界平和と安全」を提唱し、中・東欧に建設を推進していたミサイル(MD)防衛網の建設中止を表明すると共に、イラク都市部を中心とする大幅撤退を表明するなど、変革(“チェンジ”)を図ろうとしている。
 鳩山新政権は、9月の総選挙において大幅な政策転換を伴う政権交代を訴えて地滑り的な国民の支持を獲得し、「マニフェスト」の具体化に向けて検討を開始した。実質的な政策転換が予想されている。
 米国において政権交代が行われる場合、新政権が軌道に乗るまで少なくても3か月から半年は掛かる。大使人事や課長クラスの人事についてはもっと時間を掛けている。大統領選挙後、選挙結果が明らかになってから翌年1月の就任式まで約1ヶ月半あり、その間に「政権移行チーム」の作業が開始し、閣僚人事や主要ポストの人事が固まっていくと共に、「政権移行作業」が行われる。そして大統領就任式後、優先的取り組み事項と各省庁の課長クラス以上を中心とする人事など、実施に向けての具体化作業が3ヶ月から6ヶ月程度掛けて行われる。外交政策についても同様で、日本を含め各国は、新政権の政策、姿勢についての情報収集が活発に行われる。一般的に、特定分野や地域を担当する次官補クラス(日本の局部長)が決まらないと新たな方向性は分からないし、次官補クラスが決まっても具体策などについては更に時間が掛かり、日本側は必死に米国の新政権の政策、方針を「学習」するのが常である。米国側の主要ポストが決まれば政策協議なども行われる。在外公館からその「学習結果」が報告されてくると、省内外の関係方面にも送達され、政府高官の発言など重要なものは大臣や首相官邸などにも伝えられる。米国の場合、4年から8年毎に共和党と民主党との間で政権交代が行われるので、日本の外交当局は「政権交代」への対応にはある程度慣れているが、重要な問題が一巡するまでの半年から1年前後は情報収集と学習の状況が続く。
 他方、米国側、特に米国の事務方は今回のような日本の政権交代、政策転換には不慣れであり、対応に戸惑っている。。日本においては戦後、1993年の細川政権を除き自民党を中心とする政権が継続し、政権が交代しても与党内の首班の交代であり、外交の一貫性も保たれていたからだ。米国の国務、国防当局が、従来の首班交代の時と同様、日本の新政権もほぼこれまで通りの政策を踏襲するものと期待していても不思議はない。米国側とすれば、むしろ日本側が「学習」してくれると期待する空気が強いと思われる。上述のワシントン・ポスト紙の記事で、従来であれば、米国の提案に対し日本側が“ああそうですか”と言って受け入れていたとしている。日本外交もそれ程単純でも、ナイーブでもないが、残念なことに米国のアジア研究者などにそのような印象を与えていたことが明らかになった。それ以上に、米国側の日本に対する認識がその程度かと寂しい限りである。ワシントン・ポスト紙は、共和党支持の保守系の新聞であるので、そのような論調をより強く打ち出しているのであろうが、党派を問わず同様の認識を持っている可能性があるので、今回は、米国側が日本の新政権の政策や国民の意識の変化を「学習」してもらう必要がありそうだ。
 政権交代を前提とすると、日米間の相互理解を促進する上でもう一つ制約要因がある。それは米国側だけではなく、日本の官僚組織が本格的な「政権交代」に不慣れであることだ。半世紀以上に亘る与党自民党の下での政権が継続していたわけであるので仕方がないことであり、外交、防衛当局は政策の一貫性を期待する。そのような期待感は米国側にも伝わり、米国側が日本側に強く要請すれば日本側は受け入れるとの印象を与える恐れがある。特に、事務レベル間での接触においてはそのような流れになる可能性が強い。そこで米国側が取る対応は、「外圧」である。「ガイアツ」という言葉は、米国の日本通などの間では、可なり広く知られている表現で、日本に強い圧力を掛ければ日本側が妥協するとの認識だ。“ガイアツ”は事柄により様々なチャンネルで日本にもたらされる。政治を動かしたい場合は実務レベルや民間レベル、官僚組織を動かしたいときは政治レベルなど、各種のチャンネルが使われる。11月3日、米国務省ケリー報道官が、普天間飛行場の移設問題に関連し「どのような関係を米国と持ちたいかを決めるのは日本次第である」と述べ、日本側に判断を迫ったが、オバマ大統領訪日までの決定を迫る“ガイアツ”であったのであろう。それらが多くの場合偏った意見、論調が両国のメデイアや評論家などを通じ両国の国民に伝えられる。
 3、見えてきた日米の課題
 鳩山首相としても、この問題を早期に決定する方針であるものの、オバマ大統領の訪日までの決定を期限とは考えていないとの考え方を予算委員会などで示した。このように日本の本格的な政権交代、政策転換に不慣れな米国側と日本の官僚組織という構図の中で、日米間の相互理解を深め、真の同盟関係を構築して行くためには、首脳間、担当大臣間など政治レベルでの対話が非常に重要になっている。恐らく米国側には日本の新政権の政策や問題意識、優先度に違和感を持つ部分もあるであろう。しかし、それが国民の今回の選択であり、オバマ大統領も国民の「変化」への選択で政権に就いたところであるので、まずお互いに意見を聞くと共に、日米両国が自由、民主主義、市場経済という基本的な価値観を共有し、両国関係が外交、安全保障の重要な基礎であるという大枠を確認した上で、個別の問題に取り組んで行くことが重要なのであろう。
 普天間飛行場の移設を含む米軍再編問題に関する2006年の「日米合意」は、
ブッシュ、安倍政権下での政府間合意である。基本的には相互に尊重されるべきであろうが、米国もオバマ民主党政権へ、日本も鳩山連立政権へ政権が交代しているので、当事者の一方である日本が選挙公約に照らして従来案を“見直し”、国民の支持が得られる形で決定することは、民主主義プロセスとしては自然な流れであろう。それはオバマ大統領も理解することであろう。
 その他のインド洋での給油活動の中止問題、海兵隊のグアム移転費問題など米軍再編問題や東アジア共同体構想の提唱の他、アフガニスタン支援問題、北朝鮮の各開発問題、地球温暖化問題、核兵器無き世界の平和と安全問題など、日米間の懸案は正にグローバルに亘るが、新政権同士の首脳として、将来に亘る日米同盟の健全な発展を見据えて忌憚の無い意見交換が行われることを期待したい。
 今回の日米首脳会談は、日米関係にとって戦後最も重要な会談の一つになると見られるが、首脳間協議に加え、日米間の相互理解の上で課題が見えて来た。日米双方での閣僚レベルはもとより、議員交流、知識人・研究者交流など、日米交流のあり方である。
 米国側としては、従来自民党政権を前提として議員交流や日本研究者などの交流、育成を図って来ており、対日理解の上で顕著な発展を見せている。しかし民主党を中心とする旧野党との交流や考え方の理解は限定的であり、今後この面での改善が望まれる。
 日本側も、従来政権与党の自民党を中心として議員交流や米国研究者、安全保障専門家などの育成、交流が図られて来たが、民主党はこの面で米国との新たなパイプ造りや研究者、専門家の育成を図らなくてはならない。日本の日米関係、安全保障問題の専門家や有識者・評論家なども自民党の政策を支持し、或いは誘導して来た層が多く、どうしても批判的な論調が強くなる傾向があるので、幅広い知識人や専門家、研究者の発掘、育成も課題であろう。
 外交、防衛政策に限らず、新政権の政策転換は4年間で実現し、実績をあげる必要がある。半世紀に亘る既成の制度、慣行、既得権益、組織の下での政策転換であるので時間が掛かる作業となろう。それぞれの事項、施策は、採用された当時には一定のニーズがあり、役割を果たしてきたのであろうから、それを転換しようとすると、それぞれの利益グループが「生活を掛けて」反対するのは仕方がない。しかし個々の「生活」や利益の問題ではなく、限られた国民の税金を時のニーズに沿ってどのような施策に優先度を与えて配分するかである。課題も多い。だが国民が選んだ政権であるので、まず4年間政権を担ってむらうしかない。(09.11.)  
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過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (総集編)

2009-11-12 | Weblog
過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (総集編)
 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
1、新政権に戸惑う米国
 10月20日、ゲーツ国防長官が訪日し、鳩山首相と表敬・懇談した他、岡田外務大臣、北沢防衛大臣とも会談したと会談した。在日米軍再編問題、特に沖縄県宜野湾市内にある米軍普天間飛行場を名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設する計画に関しては、ゲーツ長官は、「日米合意に従って米軍再編を着実に実施する必要があり、できるだけ早期に結論を出して欲しい」旨要請した。これに対し、日本側は、この問題に関する「日米合意」の存在を認めつつも、「現行案に関する検証の結果を踏まえて結論を出したい」とし、早期の結論は困難との認識を示した。
 岡田外相は、その後10月23日の記者会見において、この問題に時間を掛ければ掛けるほど普天間周辺の危険は継続するとする一方、県外移設は実際上選択肢として考えられないと述べたと伝えられている。その上で、名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設か嘉手納基地への統合の2案に絞られて来たとの認識が示された。北沢防衛大臣は、米軍再編の内容については、海兵隊約8千名のグアムへの配転、空中給油機の山口県岩国基地への移転を考慮すると、「県外移設」の意味合いを含んでいるとして、現行案に対し一定の理解を示したと伝えられており、それぞれの立場での意見が示されている。
 民主党は、9月の総選挙に際するマニフェストで「米軍再編や在日米軍基地のあり方等につき見直す」ことを表明しているので、総選挙で「見直し」が国民の一般的な支持を得たことになる。特に沖縄県では、9月の衆院選挙において4つの全ての小選挙区において現行案に批判的な議員(民主2、社民1、国民新1)が当選しているので、「現行案」は県民の支持を得れていないと言える。更に、連立政権の一角を形成している社民党との連立協議の際、具体的な内容には触れられていないものの、この問題の「見直し」で合意しており、連立政権を維持する限り「現行案」はそのままの形では受け入れ困難と見られる。社民党は、県外移設を含む見直しを念頭に置いている。
 他方、米国のゲーツ国防長官としては、11月にオバマ大統領の訪日を控えていることもあり、早期の決着を望むことは当然のことであろう。特に、同長官は、イラクからの米軍の撤収、アフガニスタンへの増派問題への対応のため、ブッシュ前
政権から引き続き国防長官に任命されているので、ブッシュ前政権下での合意の履行を期待するのも無理からぬところがある。
 このような日本の新政権の外交、安全保障問題での姿勢を受けて、米国のオバマ政権や日本研究者、マスコミなどは戸惑っている様子だ。
 米国政府の安全保障・外交関係筋は、従来の日米合意に基づき米軍再編計画が実施されない場合は「深刻な結果を招く」など、米国当局や所謂“日本通”の苛立ちを繁栄して一部マスコミも批判的な論調を掲げている。10月22日付ワシントン・ポスト紙は、“日本、速やかな基地問題の決定を回避 ―ワシントンは、日本の新リーダーによる同盟関係の再定義を懸念―”と題し、米国務省当局の発言を引用しつつ、基地移設問題や東アジア共同体などを念頭に置いて鳩山政権の外交・安全保障姿勢に懸念を示している。その中で同紙は、国務省関係高官が“米国は、日本をアジアの安定的な同盟国として関係を顕著に発展させて来た”が、現在はそうではない。“現在最も困難な問題は、中国ではなく、日本である。”と述べたことを引用している。そしてジョンズ・ホプキンス大学のライシャワー東アジア研究センターのケント・カルダー教授が、“従来米国側が解決案があると言えば、日本側は、あーそうですかと述べ、決着したものであるが、もはやそうではない。これは新たなことである。”とのコメントを引用して記事を締めくくっている。
 ウオール・ストリート・ジャーナル紙も論説で同様の懸念を表明しているが、両紙とも共和党支持の新聞であるので予想される反応と言えるが、米国政府内、及びアジア研究者や言論界で日本の本格的な政権交代に戸惑っている様子が伺える。
 2、 実質的な政権交代には政策転換が伴う 
 そもそも普天間飛行場の返還問題は、沖縄米海兵隊員による少女拉致・暴行事件(1995年9月)に端を発して、日米の外交・防衛当局により沖縄における米軍施設・区域に関する協議が開始され、橋本政権において移設を前提とするものの、普天間飛行場の返還の方向性が決断され、それ自体は評価されるところである。しかし米軍の再編計画については、沖縄の基地問題や日本の防衛のためだけではなく、1991年の湾岸戦争以降、中国が軍事力の近代化を中心とする急速な軍事力増強を行い、また最近北朝鮮が核・ミサイル開発を進めていることなどに対処するため、アジア・太平洋規模での安全保障を勘案して再編計画を打ち出していることは米国側も十分に認識しているところであろう。
 従って、鳩山政権が政権発足後1、2か月で2006年の日米合意に基づく移設計画に同意しないとしても、“最大の問題が中国ではなく日本”という認識は、そもそも日米同盟とは中国との関係よりも脆弱なものということを意味することになり、冷静さを欠く過剰な反応と言える。更に、日本側当局がこれまで自民党政権下で、米国の要請を丸呑みにして来たとのイメージや認識は、鳩山政権が主張している旧政権下の対米追従外交を米国の日本通も認めていることなる。日本の政治が戦後ほぼ一貫して自民党政権下で首班順送りがなされ、政権の安定的な運営のためにも経済的、政治的に対米国関係の安定的な維持が不可欠であったので、米国側もそれを当然視し、政権が交代してもそのような関係が継続すると期待しているとしても不思議はない。
 しかしオバマ政権としては、日本の今回の政権交代は首班順送りではなく、戦後初の本格的な政権交代であり、国民が政策転換を選択したことを認識すべきであろう。政権交代には、国内政策はもとより、外交、安全保障政策においても転換が伴うことは自然であろう。それが国民の明確な選択なのである。
 確かに政権が交代しても、外交、安全保障政策は、相手国との関係や、国際約束などの遵守を含め、国際社会での信頼性に関係するので、一定の安定性や一貫性が要求される。しかし、一般論として政権が交代すれば外交、安全保障政策においても転換されることは少なくない。米国においても、ブッシュ前政権において、温室効果ガス抑制の枠組みに関する京都議定書に不同意を表明し、また北朝鮮の核開発問題に関するクリントン政権下での米・朝枠組合意を破棄し、米・日・韓などにより北朝鮮で建設を開始した軽水炉計画を中止し、新たに6か国協議を枠組みでの交渉に転換するなど、国際的な約束や合意を修正している。また09年1月に発足したオバマ新政権は、温暖化ガス削減を目指すグリーン・ニューデイールを打ち出した他、これまで禁句に近かった「核無き世界平和と安全」を提唱し、中・東欧に建設を推進していたミサイル(MD)防衛網の建設中止を表明すると共に、イラク都市部を中心とする大幅撤退を表明するなど、変革(“チェンジ”)を図ろうとしている。
 鳩山新政権は、9月の総選挙において大幅な政策転換を伴う政権交代を訴えて地滑り的な国民の支持を獲得し、「マニフェスト」の具体化に向けて検討を開始した。実質的な政策転換が予想されている。
 米国において政権交代が行われる場合、新政権が軌道に乗るまで少なくても3か月から半年は掛かる。大使人事や課長クラスの人事についてはもっと時間を掛けている。大統領選挙後、選挙結果が明らかになってから翌年1月の就任式まで約1ヶ月半あり、その間に「政権移行チーム」の作業が開始し、閣僚人事や主要ポストの人事が固まっていくと共に、「政権移行作業」が行われる。そして大統領就任式後、優先的取り組み事項と各省庁の課長クラス以上を中心とする人事など、実施に向けての具体化作業が3ヶ月から6ヶ月程度掛けて行われる。外交政策についても同様で、日本を含め各国は、新政権の政策、姿勢についての情報収集が活発に行われる。一般的に、特定分野や地域を担当する次官補クラス(日本の局部長)が決まらないと新たな方向性は分からないし、次官補クラスが決まっても具体策などについては更に時間が掛かり、日本側は必死に米国の新政権の政策、方針を「学習」するのが常である。米国側の主要ポストが決まれば政策協議なども行われる。在外公館からその「学習結果」が報告されてくると、省内外の関係方面にも送達され、政府高官の発言など重要なものは大臣や首相官邸などにも伝えられる。米国の場合、4年から8年毎に共和党と民主党との間で政権交代が行われるので、日本の外交当局は「政権交代」への対応にはある程度慣れているが、重要な問題が一巡するまでの半年から1年前後は情報収集と学習の状況が続く。
 他方、米国側、特に米国の事務方は今回のような日本の政権交代、政策転換には不慣れであり、対応に戸惑っている。。日本においては戦後、1993年の細川政権を除き自民党を中心とする政権が継続し、政権が交代しても与党内の首班の交代であり、外交の一貫性も保たれていたからだ。米国の国務、国防当局が、従来の首班交代の時と同様、日本の新政権もほぼこれまで通りの政策を踏襲するものと期待していても不思議はない。米国側とすれば、むしろ日本側が「学習」してくれると期待する空気が強いと思われる。上述のワシントン・ポスト紙の記事で、従来であれば、米国の提案に対し日本側が“ああそうですか”と言って受け入れていたとしている。日本外交もそれ程単純でも、ナイーブでもないが、残念なことに米国のアジア研究者などにそのような印象を与えていたことが明らかになった。それ以上に、米国側の日本に対する認識がその程度かと寂しい限りである。ワシントン・ポスト紙は、共和党支持の保守系の新聞であるので、そのような論調をより強く打ち出しているのであろうが、党派を問わず同様の認識を持っている可能性があるので、今回は、米国側が日本の新政権の政策や国民の意識の変化を「学習」してもらう必要がありそうだ。
 政権交代を前提とすると、日米間の相互理解を促進する上でもう一つ制約要因がある。それは米国側だけではなく、日本の官僚組織が本格的な「政権交代」に不慣れであることだ。半世紀以上に亘る与党自民党の下での政権が継続していたわけであるので仕方がないことであり、外交、防衛当局は政策の一貫性を期待する。そのような期待感は米国側にも伝わり、米国側が日本側に強く要請すれば日本側は受け入れるとの印象を与える恐れがある。特に、事務レベル間での接触においてはそのような流れになる可能性が強い。そこで米国側が取る対応は、「外圧」である。「ガイアツ」という言葉は、米国の日本通などの間では、可なり広く知られている表現で、日本に強い圧力を掛ければ日本側が妥協するとの認識だ。“ガイアツ”は事柄により様々なチャンネルで日本にもたらされる。政治を動かしたい場合は実務レベルや民間レベル、官僚組織を動かしたいときは政治レベルなど、各種のチャンネルが使われる。11月3日、米国務省ケリー報道官が、普天間飛行場の移設問題に関連し「どのような関係を米国と持ちたいかを決めるのは日本次第である」と述べ、日本側に判断を迫ったが、オバマ大統領訪日までの決定を迫る“ガイアツ”であったのであろう。それらが多くの場合偏った意見、論調が両国のメデイアや評論家などを通じ両国の国民に伝えられる。
 3、見えてきた日米の課題
 鳩山首相としても、この問題を早期に決定する方針であるものの、オバマ大統領の訪日までの決定を期限とは考えていないとの考え方を予算委員会などで示した。このように日本の本格的な政権交代、政策転換に不慣れな米国側と日本の官僚組織という構図の中で、日米間の相互理解を深め、真の同盟関係を構築して行くためには、首脳間、担当大臣間など政治レベルでの対話が非常に重要になっている。恐らく米国側には日本の新政権の政策や問題意識、優先度に違和感を持つ部分もあるであろう。しかし、それが国民の今回の選択であり、オバマ大統領も国民の「変化」への選択で政権に就いたところであるので、まずお互いに意見を聞くと共に、日米両国が自由、民主主義、市場経済という基本的な価値観を共有し、両国関係が外交、安全保障の重要な基礎であるという大枠を確認した上で、個別の問題に取り組んで行くことが重要なのであろう。
 普天間飛行場の移設を含む米軍再編問題に関する2006年の「日米合意」は、
ブッシュ、安倍政権下での政府間合意である。基本的には相互に尊重されるべきであろうが、米国もオバマ民主党政権へ、日本も鳩山連立政権へ政権が交代しているので、当事者の一方である日本が選挙公約に照らして従来案を“見直し”、国民の支持が得られる形で決定することは、民主主義プロセスとしては自然な流れであろう。それはオバマ大統領も理解することであろう。
 その他のインド洋での給油活動の中止問題、海兵隊のグアム移転費問題など米軍再編問題や東アジア共同体構想の提唱の他、アフガニスタン支援問題、北朝鮮の各開発問題、地球温暖化問題、核兵器無き世界の平和と安全問題など、日米間の懸案は正にグローバルに亘るが、新政権同士の首脳として、将来に亘る日米同盟の健全な発展を見据えて忌憚の無い意見交換が行われることを期待したい。
 今回の日米首脳会談は、日米関係にとって戦後最も重要な会談の一つになると見られるが、首脳間協議に加え、日米間の相互理解の上で課題が見えて来た。日米双方での閣僚レベルはもとより、議員交流、知識人・研究者交流など、日米交流のあり方である。
 米国側としては、従来自民党政権を前提として議員交流や日本研究者などの交流、育成を図って来ており、対日理解の上で顕著な発展を見せている。しかし民主党を中心とする旧野党との交流や考え方の理解は限定的であり、今後この面での改善が望まれる。
 日本側も、従来政権与党の自民党を中心として議員交流や米国研究者、安全保障専門家などの育成、交流が図られて来たが、民主党はこの面で米国との新たなパイプ造りや研究者、専門家の育成を図らなくてはならない。日本の日米関係、安全保障問題の専門家や有識者・評論家なども自民党の政策を支持し、或いは誘導して来た層が多く、どうしても批判的な論調が強くなる傾向があるので、幅広い知識人や専門家、研究者の発掘、育成も課題であろう。
 外交、防衛政策に限らず、新政権の政策転換は4年間で実現し、実績をあげる必要がある。半世紀に亘る既成の制度、慣行、既得権益、組織の下での政策転換であるので時間が掛かる作業となろう。それぞれの事項、施策は、採用された当時には一定のニーズがあり、役割を果たしてきたのであろうから、それを転換しようとすると、それぞれの利益グループが「生活を掛けて」反対するのは仕方がない。しかし個々の「生活」や利益の問題ではなく、限られた国民の税金を時のニーズに沿ってどのような施策に優先度を与えて配分するかである。課題も多い。だが国民が選んだ政権であるので、まず4年間政権を担ってむらうしかない。(09.11.)  
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過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (その3)

2009-11-11 | Weblog
過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (その3)
 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
 1、新政権に戸惑う米国 (その1として掲載掲済み)
 2、実質的な政権交代には政策転換が伴う  (その2として掲載掲済み) 
 3、見えてきた日米の課題
 鳩山首相としても、この問題を早期に決定する方針であるものの、オバマ大統領の訪日までの決定を期限とは考えていないとの考え方を予算委員会などで示した。このように日本の本格的な政権交代、政策転換に不慣れな米国側と日本の官僚組織という構図の中で、日米間の相互理解を深め、真の同盟関係を構築して行くためには、首脳間、担当大臣間など政治レベルでの対話が非常に重要になっている。恐らく米国側には日本の新政権の政策や問題意識、優先度に違和感を持つ部分もあるであろう。しかし、それが国民の今回の選択であり、オバマ大統領も国民の「変化」への選択で政権に就いたところであるので、まずお互いに意見を聞くと共に、日米両国が自由、民主主義、市場経済という基本的な価値観を共有し、両国関係が外交、安全保障の重要な基礎であるという大枠を確認した上で、個別の問題に取り組んで行くことが重要なのであろう。
 普天間飛行場の移設を含む米軍再編問題に関する2006年の「日米合意」は、
ブッシュ、安倍政権下での政府間合意である。基本的には相互に尊重されるべきであろうが、米国もオバマ民主党政権へ、日本も鳩山連立政権へ政権が交代しているので、当事者の一方である日本が選挙公約に照らして従来案を“見直し”、国民の支持が得られる形で決定することは、民主主義プロセスとしては自然な流れであろう。それはオバマ大統領も理解することであろう。
 その他のインド洋での給油活動の中止問題、海兵隊のグアム移転費問題など米軍再編問題や東アジア共同体構想の提唱の他、アフガニスタン支援問題、北朝鮮の各開発問題、地球温暖化問題、核兵器無き世界の平和と安全問題など、日米間の懸案は正にグローバルに亘るが、新政権同士の首脳として、将来に亘る日米同盟の健全な発展を見据えて忌憚の無い意見交換が行われることを期待したい。
 今回の日米首脳会談は、日米関係にとって戦後最も重要な会談の一つになると見られるが、首脳間協議に加え、日米間の相互理解の上で課題が見えて来た。日米双方での閣僚レベルはもとより、議員交流、知識人・研究者交流など、日米交流のあり方である。
 米国側としては、従来自民党政権を前提として議員交流や日本研究者などの交流、育成を図って来ており、対日理解の上で顕著な発展を見せている。しかし民主党を中心とする旧野党との交流や考え方の理解は限定的であり、今後この面での改善が望まれる。
 日本側も、従来政権与党の自民党を中心として議員交流や米国研究者、安全保障専門家などの育成、交流が図られて来たが、民主党はこの面で米国との新たなパイプ造りや研究者、専門家の育成を図らなくてはならない。日本の日米関係、安全保障問題の専門家や有識者・評論家なども自民党の政策を支持し、或いは誘導して来た層が多く、どうしても批判的な論調が強くなる傾向があるので、幅広い知識人や専門家、研究者の発掘、育成も課題であろう。
 外交、防衛政策に限らず、新政権の政策転換は4年間で実現し、実績をあげる必要がある。半世紀に亘る既成の制度、慣行、既得権益、組織の下での政策転換であるので時間が掛かる作業となろう。それぞれの事項、施策は、採用された当時には一定のニーズがあり、役割を果たしてきたのであろうから、それを転換しようとすると、それぞれの利益グループが「生活を掛けて」反対するのは仕方がない。しかし個々の「生活」や利益の問題ではなく、限られた国民の税金を時のニーズに沿ってどのような施策に優先度を与えて配分するかである。課題も多い。だが国民が選んだ政権であるので、まず4年間政権を担ってむらうしかない。(09.11.)  
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過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (その2)

2009-11-11 | Weblog
過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (その2)
 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
 1、新政権に戸惑う米国 (その1として掲載掲済み)
 2、実質的な政権交代には政策転換が伴う 
 そもそも普天間飛行場の返還問題は、沖縄米海兵隊員による少女拉致・暴行事件(1995年9月)に端を発して、日米の外交・防衛当局により沖縄における米軍施設・区域に関する協議が開始され、橋本政権において移設を前提とするものの、普天間飛行場の返還の方向性が決断され、それ自体は評価されるところである。しかし米軍の再編計画については、沖縄の基地問題や日本の防衛のためだけではなく、1991年の湾岸戦争以降、中国が軍事力の近代化を中心とする急速な軍事力増強を行い、また最近北朝鮮が核・ミサイル開発を進めていることなどに対処するため、アジア・太平洋規模での安全保障を勘案して再編計画を打ち出していることは米国側も十分に認識しているところであろう。
 従って、鳩山政権が政権発足後1、2か月で2006年の日米合意に基づく移設計画に同意しないとしても、“最大の問題が中国ではなく日本”という認識は、そもそも日米同盟とは中国との関係よりも脆弱なものということを意味することになり、冷静さを欠く過剰な反応と言える。更に、日本側当局がこれまで自民党政権下で、米国の要請を丸呑みにして来たとのイメージや認識は、鳩山政権が主張している旧政権下の対米追従外交を米国の日本通も認めていることなる。日本の政治が戦後ほぼ一貫して自民党政権下で首班順送りがなされ、政権の安定的な運営のためにも経済的、政治的に対米国関係の安定的な維持が不可欠であったので、米国側もそれを当然視し、政権が交代してもそのような関係が継続すると期待しているとしても不思議はない。
 しかしオバマ政権としては、日本の今回の政権交代は首班順送りではなく、戦後初の本格的な政権交代であり、国民が政策転換を選択したことを認識すべきであろう。政権交代には、国内政策はもとより、外交、安全保障政策においても転換が伴うことは自然であろう。それが国民の明確な選択なのである。
 確かに政権が交代しても、外交、安全保障政策は、相手国との関係や、国際約束などの遵守を含め、国際社会での信頼性に関係するので、一定の安定性や一貫性が要求される。しかし、一般論として政権が交代すれば外交、安全保障政策においても転換されることは少なくない。米国においても、ブッシュ前政権において、温室効果ガス抑制の枠組みに関する京都議定書に不同意を表明し、また北朝鮮の核開発問題に関するクリントン政権下での米・朝枠組合意を破棄し、米・日・韓などにより北朝鮮で建設を開始した軽水炉計画を中止し、新たに6か国協議を枠組みでの交渉に転換するなど、国際的な約束や合意を修正している。また09年1月に発足したオバマ新政権は、温暖化ガス削減を目指すグリーン・ニューデイールを打ち出した他、これまで禁句に近かった「核無き世界平和と安全」を提唱し、中・東欧に建設を推進していたミサイル(MD)防衛網の建設中止を表明すると共に、イラク都市部を中心とする大幅撤退を表明するなど、変革(“チェンジ”)を図ろうとしている。
 鳩山新政権は、9月の総選挙において大幅な政策転換を伴う政権交代を訴えて地滑り的な国民の支持を獲得し、「マニフェスト」の具体化に向けて検討を開始した。実質的な政策転換が予想されている。
 米国において政権交代が行われる場合、新政権が軌道に乗るまで少なくても3か月から半年は掛かる。大使人事や課長クラスの人事についてはもっと時間を掛けている。大統領選挙後、選挙結果が明らかになってから翌年1月の就任式まで約1ヶ月半あり、その間に「政権移行チーム」の作業が開始し、閣僚人事や主要ポストの人事が固まっていくと共に、「政権移行作業」が行われる。そして大統領就任式後、優先的取り組み事項と各省庁の課長クラス以上を中心とする人事など、実施に向けての具体化作業が3ヶ月から6ヶ月程度掛けて行われる。外交政策についても同様で、日本を含め各国は、新政権の政策、姿勢についての情報収集が活発に行われる。一般的に、特定分野や地域を担当する次官補クラス(日本の局部長)が決まらないと新たな方向性は分からないし、次官補クラスが決まっても具体策などについては更に時間が掛かり、日本側は必死に米国の新政権の政策、方針を「学習」するのが常である。米国側の主要ポストが決まれば政策協議なども行われる。在外公館からその「学習結果」が報告されてくると、省内外の関係方面にも送達され、政府高官の発言など重要なものは大臣や首相官邸などにも伝えられる。米国の場合、4年から8年毎に共和党と民主党との間で政権交代が行われるので、日本の外交当局は「政権交代」への対応にはある程度慣れているが、重要な問題が一巡するまでの半年から1年前後は情報収集と学習の状況が続く。
 他方、米国側、特に米国の事務方は今回のような日本の政権交代、政策転換には不慣れであり、対応に戸惑っている。。日本においては戦後、1993年の細川政権を除き自民党を中心とする政権が継続し、政権が交代しても与党内の首班の交代であり、外交の一貫性も保たれていたからだ。米国の国務、国防当局が、従来の首班交代の時と同様、日本の新政権もほぼこれまで通りの政策を踏襲するものと期待していても不思議はない。米国側とすれば、むしろ日本側が「学習」してくれると期待する空気が強いと思われる。上述のワシントン・ポスト紙の記事で、従来であれば、米国の提案に対し日本側が“ああそうですか”と言って受け入れていたとしている。日本外交もそれ程単純でも、ナイーブでもないが、残念なことに米国のアジア研究者などにそのような印象を与えていたことが明らかになった。それ以上に、米国側の日本に対する認識がその程度かと寂しい限りである。ワシントン・ポスト紙は、共和党支持の保守系の新聞であるので、そのような論調をより強く打ち出しているのであろうが、党派を問わず同様の認識を持っている可能性があるので、今回は、米国側が日本の新政権の政策や国民の意識の変化を「学習」してもらう必要がありそうだ。
 政権交代を前提とすると、日米間の相互理解を促進する上でもう一つ制約要因がある。それは米国側だけではなく、日本の官僚組織が本格的な「政権交代」に不慣れであることだ。半世紀以上に亘る与党自民党の下での政権が継続していたわけであるので仕方がないことであり、外交、防衛当局は政策の一貫性を期待する。そのような期待感は米国側にも伝わり、米国側が日本側に強く要請すれば日本側は受け入れるとの印象を与える恐れがある。特に、事務レベル間での接触においてはそのような流れになる可能性が強い。そこで米国側が取る対応は、「外圧」である。「ガイアツ」という言葉は、米国の日本通などの間では、可なり広く知られている表現で、日本に強い圧力を掛ければ日本側が妥協するとの認識だ。“ガイアツ”は事柄により様々なチャンネルで日本にもたらされる。政治を動かしたい場合は実務レベルや民間レベル、官僚組織を動かしたいときは政治レベルなど、各種のチャンネルが使われる。11月3日、米国務省ケリー報道官が、普天間飛行場の移設問題に関連し「どのような関係を米国と持ちたいかを決めるのは日本次第である」と述べ、日本側に判断を迫ったが、オバマ大統領訪日までの決定を迫る“ガイアツ”であったのであろう。それらが多くの場合偏った意見、論調が両国のメデイアや評論家などを通じ両国の国民に伝えられる。(09.11.)  (All Rights Reserved.)
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過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (その1)

2009-11-11 | Weblog
過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (その1)
 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
1、新政権に戸惑う米国
 10月20日、ゲーツ国防長官が訪日し、鳩山首相と表敬・懇談した他、岡田外務大臣、北沢防衛大臣とも会談したと会談した。在日米軍再編問題、特に沖縄県宜野湾市内にある米軍普天間飛行場を名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設する計画に関しては、ゲーツ長官は、現行案は両国間で長い間様々なオプションを検討した結果であり、「唯一実現可能」として「日米合意に従って米軍再編を着実に実施する必要があり、できるだけ早期に結論を出して欲しい」旨要請した。これに対し、日本側は、この問題に関する「日米合意」の存在を認めつつも、「現行案に関する検証の結果を踏まえて結論を出したい」としつつ、早期の結論は困難との認識を示した。
 岡田外相は、その後10月23日の記者会見において、この問題に時間を掛ければ掛けるほど普天間周辺の危険は継続するとする一方、県外移設は実際上選択肢として考えられないと述べたと伝えられている。その上で、名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設か嘉手納基地への統合の2案に絞られて来たとの認識が示された。北沢防衛大臣は、米軍再編の内容については、海兵隊約8千名のグアムへの配転、空中給油機の山口県岩国基地への移転を考慮すると、「県外移設」の意味合いを含んでいるとして、現行案に対し一定の理解を示したと伝えられており、それぞれの立場での意見が示されている。
 民主党は、9月の総選挙に際するマニフェストで「米軍再編や在日米軍基地のあり方等につき見直す」ことを表明しているので、総選挙で「見直し」が国民の一般的な支持を得たことになる。特に沖縄県では、9月の衆院選挙において4つの全ての小選挙区において現行案に批判的な議員(民主2、社民1、国民新1)が当選しているので、「現行案」は県民の支持を得れていないと言える。更に、連立政権の一角を形成している社民党との連立協議の際、具体的な内容には触れられていないものの、この問題の「見直し」で合意しており、連立政権を維持する限り「現行案」はそのままの形では受け入れ困難と見られる。社民党は、県外移設を含む見直しを念頭に置いている。
 他方、米国のゲーツ国防長官としては、11月にオバマ大統領の訪日を控えていることもあり、早期の決着を望むことは当然のことであろう。特に、同長官は、イラクからの米軍の撤収、アフガニスタンへの増派問題への対応のため、ブッシュ前
政権から引き続き国防長官に任命されているので、ブッシュ前政権下での合意の履行を期待するのも無理からぬところがある。
 このような日本の新政権の外交、安全保障問題での姿勢を受けて、米国のオバマ政権や日本研究者、マスコミなどは戸惑っている様子だ。
 米国政府の安全保障・外交関係筋は、従来の日米合意に基づき米軍再編計画が実施されない場合は「深刻な結果を招く」など、米国当局や所謂“日本通”の苛立ちを繁栄して一部マスコミも批判的な論調を掲げている。10月22日付ワシントン・ポスト紙は、“日本、速やかな基地問題の決定を回避 ―ワシントンは、日本の新リーダーによる同盟関係の再定義を懸念―”と題し、米国務省当局の発言を引用しつつ、基地移設問題や東アジア共同体などを念頭に置いて鳩山政権の外交・安全保障姿勢に懸念を示している。その中で同紙は、国務省関係高官が“米国は、日本をアジアの安定的な同盟国として関係を顕著に発展させて来た”が、現在はそうではない。“現在最も困難な問題は、中国ではなく、日本である。”と述べたことを引用している。そしてジョンズ・ホプキンス大学のライシャワー東アジア研究センターのケント・カルダー教授が、“従来米国側が解決案があると言えば、日本側は、あーそうですかと述べ、決着したものであるが、もはやそうではない。これは新たなことである。”とのコメントを引用して記事を締めくくっている。
 ウオール・ストリート・ジャーナル紙も論説で同様の懸念を表明しているが、両紙とも共和党支持の新聞であるので予想される反応と言えるが、米国政府内、及びアジア研究者や言論界で日本の本格的な政権交代に戸惑っている様子が伺える。
(09.11.)  (All Rights Reserved.)
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過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (その2)

2009-11-11 | Weblog
過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (その2)
 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
 1、新政権に戸惑う米国 (その1として掲載掲済み)
 2、実質的な政権交代には政策転換が伴う 
 そもそも普天間飛行場の返還問題は、沖縄米海兵隊員による少女拉致・暴行事件(1995年9月)に端を発して、日米の外交・防衛当局により沖縄における米軍施設・区域に関する協議が開始され、橋本政権において移設を前提とするものの、普天間飛行場の返還の方向性が決断され、それ自体は評価されるところである。しかし米軍の再編計画については、沖縄の基地問題や日本の防衛のためだけではなく、1991年の湾岸戦争以降、中国が軍事力の近代化を中心とする急速な軍事力増強を行い、また最近北朝鮮が核・ミサイル開発を進めていることなどに対処するため、アジア・太平洋規模での安全保障を勘案して再編計画を打ち出していることは米国側も十分に認識しているところであろう。
 従って、鳩山政権が政権発足後1、2か月で2006年の日米合意に基づく移設計画に同意しないとしても、“最大の問題が中国ではなく日本”という認識は、そもそも日米同盟とは中国との関係よりも脆弱なものということを意味することになり、冷静さを欠く過剰な反応と言える。更に、日本側当局がこれまで自民党政権下で、米国の要請を丸呑みにして来たとのイメージや認識は、鳩山政権が主張している旧政権下の対米追従外交を米国の日本通も認めていることなる。日本の政治が戦後ほぼ一貫して自民党政権下で首班順送りがなされ、政権の安定的な運営のためにも経済的、政治的に対米国関係の安定的な維持が不可欠であったので、米国側もそれを当然視し、政権が交代してもそのような関係が継続すると期待しているとしても不思議はない。
 しかしオバマ政権としては、日本の今回の政権交代は首班順送りではなく、戦後初の本格的な政権交代であり、国民が政策転換を選択したことを認識すべきであろう。政権交代には、国内政策はもとより、外交、安全保障政策においても転換が伴うことは自然であろう。それが国民の明確な選択なのである。
 確かに政権が交代しても、外交、安全保障政策は、相手国との関係や、国際約束などの遵守を含め、国際社会での信頼性に関係するので、一定の安定性や一貫性が要求される。しかし、一般論として政権が交代すれば外交、安全保障政策においても転換されることは少なくない。米国においても、ブッシュ前政権において、温室効果ガス抑制の枠組みに関する京都議定書に不同意を表明し、また北朝鮮の核開発問題に関するクリントン政権下での米・朝枠組合意を破棄し、米・日・韓などにより北朝鮮で建設を開始した軽水炉計画を中止し、新たに6か国協議を枠組みでの交渉に転換するなど、国際的な約束や合意を修正している。また09年1月に発足したオバマ新政権は、温暖化ガス削減を目指すグリーン・ニューデイールを打ち出した他、これまで禁句に近かった「核無き世界平和と安全」を提唱し、中・東欧に建設を推進していたミサイル(MD)防衛網の建設中止を表明すると共に、イラク都市部を中心とする大幅撤退を表明するなど、変革(“チェンジ”)を図ろうとしている。
 鳩山新政権は、9月の総選挙において大幅な政策転換を伴う政権交代を訴えて地滑り的な国民の支持を獲得し、「マニフェスト」の具体化に向けて検討を開始した。実質的な政策転換が予想されている。
 米国において政権交代が行われる場合、新政権が軌道に乗るまで少なくても3か月から半年は掛かる。大使人事や課長クラスの人事についてはもっと時間を掛けている。大統領選挙後、選挙結果が明らかになってから翌年1月の就任式まで約1ヶ月半あり、その間に「政権移行チーム」の作業が開始し、閣僚人事や主要ポストの人事が固まっていくと共に、「政権移行作業」が行われる。そして大統領就任式後、優先的取り組み事項と各省庁の課長クラス以上を中心とする人事など、実施に向けての具体化作業が3ヶ月から6ヶ月程度掛けて行われる。外交政策についても同様で、日本を含め各国は、新政権の政策、姿勢についての情報収集が活発に行われる。一般的に、特定分野や地域を担当する次官補クラス(日本の局部長)が決まらないと新たな方向性は分からないし、次官補クラスが決まっても具体策などについては更に時間が掛かり、日本側は必死に米国の新政権の政策、方針を「学習」するのが常である。米国側の主要ポストが決まれば政策協議なども行われる。在外公館からその「学習結果」が報告されてくると、省内外の関係方面にも送達され、政府高官の発言など重要なものは大臣や首相官邸などにも伝えられる。米国の場合、4年から8年毎に共和党と民主党との間で政権交代が行われるので、日本の外交当局は「政権交代」への対応にはある程度慣れているが、重要な問題が一巡するまでの半年から1年前後は情報収集と学習の状況が続く。
 他方、米国側、特に米国の事務方は今回のような日本の政権交代、政策転換には不慣れであり、対応に戸惑っている。。日本においては戦後、1993年の細川政権を除き自民党を中心とする政権が継続し、政権が交代しても与党内の首班の交代であり、外交の一貫性も保たれていたからだ。米国の国務、国防当局が、従来の首班交代の時と同様、日本の新政権もほぼこれまで通りの政策を踏襲するものと期待していても不思議はない。米国側とすれば、むしろ日本側が「学習」してくれると期待する空気が強いと思われる。上述のワシントン・ポスト紙の記事で、従来であれば、米国の提案に対し日本側が“ああそうですか”と言って受け入れていたとしている。日本外交もそれ程単純でも、ナイーブでもないが、残念なことに米国のアジア研究者などにそのような印象を与えていたことが明らかになった。それ以上に、米国側の日本に対する認識がその程度かと寂しい限りである。ワシントン・ポスト紙は、共和党支持の保守系の新聞であるので、そのような論調をより強く打ち出しているのであろうが、党派を問わず同様の認識を持っている可能性があるので、今回は、米国側が日本の新政権の政策や国民の意識の変化を「学習」してもらう必要がありそうだ。
 政権交代を前提とすると、日米間の相互理解を促進する上でもう一つ制約要因がある。それは米国側だけではなく、日本の官僚組織が本格的な「政権交代」に不慣れであることだ。半世紀以上に亘る与党自民党の下での政権が継続していたわけであるので仕方がないことであり、外交、防衛当局は政策の一貫性を期待する。そのような期待感は米国側にも伝わり、米国側が日本側に強く要請すれば日本側は受け入れるとの印象を与える恐れがある。特に、事務レベル間での接触においてはそのような流れになる可能性が強い。そこで米国側が取る対応は、「外圧」である。「ガイアツ」という言葉は、米国の日本通などの間では、可なり広く知られている表現で、日本に強い圧力を掛ければ日本側が妥協するとの認識だ。“ガイアツ”は事柄により様々なチャンネルで日本にもたらされる。政治を動かしたい場合は実務レベルや民間レベル、官僚組織を動かしたいときは政治レベルなど、各種のチャンネルが使われる。11月3日、米国務省ケリー報道官が、普天間飛行場の移設問題に関連し「どのような関係を米国と持ちたいかを決めるのは日本次第である」と述べ、日本側に判断を迫ったが、オバマ大統領訪日までの決定を迫る“ガイアツ”であったのであろう。それらが多くの場合偏った意見、論調が両国のメデイアや評論家などを通じ両国の国民に伝えられる。(09.11.)  (All Rights Reserved.)
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過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (その3)

2009-11-11 | Weblog
過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (その3)
 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
 1、新政権に戸惑う米国 (その1として掲載掲済み)
 2、実質的な政権交代には政策転換が伴う  (その2として掲載掲済み) 
 3、見えてきた日米の課題
 鳩山首相としても、この問題を早期に決定する方針であるものの、オバマ大統領の訪日までの決定を期限とは考えていないとの考え方を予算委員会などで示した。このように日本の本格的な政権交代、政策転換に不慣れな米国側と日本の官僚組織という構図の中で、日米間の相互理解を深め、真の同盟関係を構築して行くためには、首脳間、担当大臣間など政治レベルでの対話が非常に重要になっている。恐らく米国側には日本の新政権の政策や問題意識、優先度に違和感を持つ部分もあるであろう。しかし、それが国民の今回の選択であり、オバマ大統領も国民の「変化」への選択で政権に就いたところであるので、まずお互いに意見を聞くと共に、日米両国が自由、民主主義、市場経済という基本的な価値観を共有し、両国関係が外交、安全保障の重要な基礎であるという大枠を確認した上で、個別の問題に取り組んで行くことが重要なのであろう。
 普天間飛行場の移設を含む米軍再編問題に関する2006年の「日米合意」は、
ブッシュ、安倍政権下での政府間合意である。基本的には相互に尊重されるべきであろうが、米国もオバマ民主党政権へ、日本も鳩山連立政権へ政権が交代しているので、当事者の一方である日本が選挙公約に照らして従来案を“見直し”、国民の支持が得られる形で決定することは、民主主義プロセスとしては自然な流れであろう。それはオバマ大統領も理解することであろう。
 その他のインド洋での給油活動の中止問題、海兵隊のグアム移転費問題など米軍再編問題や東アジア共同体構想の提唱の他、アフガニスタン支援問題、北朝鮮の各開発問題、地球温暖化問題、核兵器無き世界の平和と安全問題など、日米間の懸案は正にグローバルに亘るが、新政権同士の首脳として、将来に亘る日米同盟の健全な発展を見据えて忌憚の無い意見交換が行われることを期待したい。
 今回の日米首脳会談は、日米関係にとって戦後最も重要な会談の一つになると見られるが、首脳間協議に加え、日米間の相互理解の上で課題が見えて来た。日米双方での閣僚レベルはもとより、議員交流、知識人・研究者交流など、日米交流のあり方である。
 米国側としては、従来自民党政権を前提として議員交流や日本研究者などの交流、育成を図って来ており、対日理解の上で顕著な発展を見せている。しかし民主党を中心とする旧野党との交流や考え方の理解は限定的であり、今後この面での改善が望まれる。
 日本側も、従来政権与党の自民党を中心として議員交流や米国研究者、安全保障専門家などの育成、交流が図られて来たが、民主党はこの面で米国との新たなパイプ造りや研究者、専門家の育成を図らなくてはならない。日本の日米関係、安全保障問題の専門家や有識者・評論家なども自民党の政策を支持し、或いは誘導して来た層が多く、どうしても批判的な論調が強くなる傾向があるので、幅広い知識人や専門家、研究者の発掘、育成も課題であろう。
 外交、防衛政策に限らず、新政権の政策転換は4年間で実現し、実績をあげる必要がある。半世紀に亘る既成の制度、慣行、既得権益、組織の下での政策転換であるので時間が掛かる作業となろう。それぞれの事項、施策は、採用された当時には一定のニーズがあり、役割を果たしてきたのであろうから、それを転換しようとすると、それぞれの利益グループが「生活を掛けて」反対するのは仕方がない。しかし個々の「生活」や利益の問題ではなく、限られた国民の税金を時のニーズに沿ってどのような施策に優先度を与えて配分するかである。課題も多い。だが国民が選んだ政権であるので、まず4年間政権を担ってむらうしかない。(09.11.)  
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過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (その3)

2009-11-11 | Weblog
過熱する日米同盟論議と基地問題-オバマ大統領訪日の波紋― (その3)
 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
 1、新政権に戸惑う米国 (その1として掲載掲済み)
 2、実質的な政権交代には政策転換が伴う  (その2として掲載掲済み) 
 3、見えてきた日米の課題
 鳩山首相としても、この問題を早期に決定する方針であるものの、オバマ大統領の訪日までの決定を期限とは考えていないとの考え方を予算委員会などで示した。このように日本の本格的な政権交代、政策転換に不慣れな米国側と日本の官僚組織という構図の中で、日米間の相互理解を深め、真の同盟関係を構築して行くためには、首脳間、担当大臣間など政治レベルでの対話が非常に重要になっている。恐らく米国側には日本の新政権の政策や問題意識、優先度に違和感を持つ部分もあるであろう。しかし、それが国民の今回の選択であり、オバマ大統領も国民の「変化」への選択で政権に就いたところであるので、まずお互いに意見を聞くと共に、日米両国が自由、民主主義、市場経済という基本的な価値観を共有し、両国関係が外交、安全保障の重要な基礎であるという大枠を確認した上で、個別の問題に取り組んで行くことが重要なのであろう。
 普天間飛行場の移設を含む米軍再編問題に関する2006年の「日米合意」は、
ブッシュ、安倍政権下での政府間合意である。基本的には相互に尊重されるべきであろうが、米国もオバマ民主党政権へ、日本も鳩山連立政権へ政権が交代しているので、当事者の一方である日本が選挙公約に照らして従来案を“見直し”、国民の支持が得られる形で決定することは、民主主義プロセスとしては自然な流れであろう。それはオバマ大統領も理解することであろう。
 その他のインド洋での給油活動の中止問題、海兵隊のグアム移転費問題など米軍再編問題や東アジア共同体構想の提唱の他、アフガニスタン支援問題、北朝鮮の各開発問題、地球温暖化問題、核兵器無き世界の平和と安全問題など、日米間の懸案は正にグローバルに亘るが、新政権同士の首脳として、将来に亘る日米同盟の健全な発展を見据えて忌憚の無い意見交換が行われることを期待したい。
 今回の日米首脳会談は、日米関係にとって戦後最も重要な会談の一つになると見られるが、首脳間協議に加え、日米間の相互理解の上で課題が見えて来た。日米双方での閣僚レベルはもとより、議員交流、知識人・研究者交流など、日米交流のあり方である。
 米国側としては、従来自民党政権を前提として議員交流や日本研究者などの交流、育成を図って来ており、対日理解の上で顕著な発展を見せている。しかし民主党を中心とする旧野党との交流や考え方の理解は限定的であり、今後この面での改善が望まれる。
 日本側も、従来政権与党の自民党を中心として議員交流や米国研究者、安全保障専門家などの育成、交流が図られて来たが、民主党はこの面で米国との新たなパイプ造りや研究者、専門家の育成を図らなくてはならない。日本の日米関係、安全保障問題の専門家や有識者・評論家なども自民党の政策を支持し、或いは誘導して来た層が多く、どうしても批判的な論調が強くなる傾向があるので、幅広い知識人や専門家、研究者の発掘、育成も課題であろう。
 外交、防衛政策に限らず、新政権の政策転換は4年間で実現し、実績をあげる必要がある。半世紀に亘る既成の制度、慣行、既得権益、組織の下での政策転換であるので時間が掛かる作業となろう。それぞれの事項、施策は、採用された当時には一定のニーズがあり、役割を果たしてきたのであろうから、それを転換しようとすると、それぞれの利益グループが「生活を掛けて」反対するのは仕方がない。しかし個々の「生活」や利益の問題ではなく、限られた国民の税金を時のニーズに沿ってどのような施策に優先度を与えて配分するかである。課題も多い。だが国民が選んだ政権であるので、まず4年間政権を担ってむらうしかない。(09.11.)  
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 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
 1、新政権に戸惑う米国 (その1として掲載掲済み)
 2、実質的な政権交代には政策転換が伴う  (その2として掲載掲済み) 
 3、見えてきた日米の課題
 鳩山首相としても、この問題を早期に決定する方針であるものの、オバマ大統領の訪日までの決定を期限とは考えていないとの考え方を予算委員会などで示した。このように日本の本格的な政権交代、政策転換に不慣れな米国側と日本の官僚組織という構図の中で、日米間の相互理解を深め、真の同盟関係を構築して行くためには、首脳間、担当大臣間など政治レベルでの対話が非常に重要になっている。恐らく米国側には日本の新政権の政策や問題意識、優先度に違和感を持つ部分もあるであろう。しかし、それが国民の今回の選択であり、オバマ大統領も国民の「変化」への選択で政権に就いたところであるので、まずお互いに意見を聞くと共に、日米両国が自由、民主主義、市場経済という基本的な価値観を共有し、両国関係が外交、安全保障の重要な基礎であるという大枠を確認した上で、個別の問題に取り組んで行くことが重要なのであろう。
 普天間飛行場の移設を含む米軍再編問題に関する2006年の「日米合意」は、
ブッシュ、安倍政権下での政府間合意である。基本的には相互に尊重されるべきであろうが、米国もオバマ民主党政権へ、日本も鳩山連立政権へ政権が交代しているので、当事者の一方である日本が選挙公約に照らして従来案を“見直し”、国民の支持が得られる形で決定することは、民主主義プロセスとしては自然な流れであろう。それはオバマ大統領も理解することであろう。
 その他のインド洋での給油活動の中止問題、海兵隊のグアム移転費問題など米軍再編問題や東アジア共同体構想の提唱の他、アフガニスタン支援問題、北朝鮮の各開発問題、地球温暖化問題、核兵器無き世界の平和と安全問題など、日米間の懸案は正にグローバルに亘るが、新政権同士の首脳として、将来に亘る日米同盟の健全な発展を見据えて忌憚の無い意見交換が行われることを期待したい。
 今回の日米首脳会談は、日米関係にとって戦後最も重要な会談の一つになると見られるが、首脳間協議に加え、日米間の相互理解の上で課題が見えて来た。日米双方での閣僚レベルはもとより、議員交流、知識人・研究者交流など、日米交流のあり方である。
 米国側としては、従来自民党政権を前提として議員交流や日本研究者などの交流、育成を図って来ており、対日理解の上で顕著な発展を見せている。しかし民主党を中心とする旧野党との交流や考え方の理解は限定的であり、今後この面での改善が望まれる。
 日本側も、従来政権与党の自民党を中心として議員交流や米国研究者、安全保障専門家などの育成、交流が図られて来たが、民主党はこの面で米国との新たなパイプ造りや研究者、専門家の育成を図らなくてはならない。日本の日米関係、安全保障問題の専門家や有識者・評論家なども自民党の政策を支持し、或いは誘導して来た層が多く、どうしても批判的な論調が強くなる傾向があるので、幅広い知識人や専門家、研究者の発掘、育成も課題であろう。
 外交、防衛政策に限らず、新政権の政策転換は4年間で実現し、実績をあげる必要がある。半世紀に亘る既成の制度、慣行、既得権益、組織の下での政策転換であるので時間が掛かる作業となろう。それぞれの事項、施策は、採用された当時には一定のニーズがあり、役割を果たしてきたのであろうから、それを転換しようとすると、それぞれの利益グループが「生活を掛けて」反対するのは仕方がない。しかし個々の「生活」や利益の問題ではなく、限られた国民の税金を時のニーズに沿ってどのような施策に優先度を与えて配分するかである。課題も多い。だが国民が選んだ政権であるので、まず4年間政権を担ってむらうしかない。(09.11.)  
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 民主党政権が発足して1ヶ月半程過ぎた。補正予算の無駄の凍結や予算編成など国内問題と共に、ゲーツ米国防長官の訪日を受けて外交、安全保障問題の議論も過熱気味になって来ている。特に、日米双方とも両国同盟関係を重視しているものの、民主党政権は沖縄の基地移転問題などで自民党政権とは異なる姿勢を示しているおり、11月13、14日に予定されているオバマ大統領の訪日に向けて日米双方で意見の調整が活発に行われている。
 1、新政権に戸惑う米国 (その1として掲載掲済み)
 2、実質的な政権交代には政策転換が伴う  (その2として掲載掲済み) 
 3、見えてきた日米の課題
 鳩山首相としても、この問題を早期に決定する方針であるものの、オバマ大統領の訪日までの決定を期限とは考えていないとの考え方を予算委員会などで示した。このように日本の本格的な政権交代、政策転換に不慣れな米国側と日本の官僚組織という構図の中で、日米間の相互理解を深め、真の同盟関係を構築して行くためには、首脳間、担当大臣間など政治レベルでの対話が非常に重要になっている。恐らく米国側には日本の新政権の政策や問題意識、優先度に違和感を持つ部分もあるであろう。しかし、それが国民の今回の選択であり、オバマ大統領も国民の「変化」への選択で政権に就いたところであるので、まずお互いに意見を聞くと共に、日米両国が自由、民主主義、市場経済という基本的な価値観を共有し、両国関係が外交、安全保障の重要な基礎であるという大枠を確認した上で、個別の問題に取り組んで行くことが重要なのであろう。
 普天間飛行場の移設を含む米軍再編問題に関する2006年の「日米合意」は、
ブッシュ、安倍政権下での政府間合意である。基本的には相互に尊重されるべきであろうが、米国もオバマ民主党政権へ、日本も鳩山連立政権へ政権が交代しているので、当事者の一方である日本が選挙公約に照らして従来案を“見直し”、国民の支持が得られる形で決定することは、民主主義プロセスとしては自然な流れであろう。それはオバマ大統領も理解することであろう。
 その他のインド洋での給油活動の中止問題、海兵隊のグアム移転費問題など米軍再編問題や東アジア共同体構想の提唱の他、アフガニスタン支援問題、北朝鮮の各開発問題、地球温暖化問題、核兵器無き世界の平和と安全問題など、日米間の懸案は正にグローバルに亘るが、新政権同士の首脳として、将来に亘る日米同盟の健全な発展を見据えて忌憚の無い意見交換が行われることを期待したい。
 今回の日米首脳会談は、日米関係にとって戦後最も重要な会談の一つになると見られるが、首脳間協議に加え、日米間の相互理解の上で課題が見えて来た。日米双方での閣僚レベルはもとより、議員交流、知識人・研究者交流など、日米交流のあり方である。
 米国側としては、従来自民党政権を前提として議員交流や日本研究者などの交流、育成を図って来ており、対日理解の上で顕著な発展を見せている。しかし民主党を中心とする旧野党との交流や考え方の理解は限定的であり、今後この面での改善が望まれる。
 日本側も、従来政権与党の自民党を中心として議員交流や米国研究者、安全保障専門家などの育成、交流が図られて来たが、民主党はこの面で米国との新たなパイプ造りや研究者、専門家の育成を図らなくてはならない。日本の日米関係、安全保障問題の専門家や有識者・評論家なども自民党の政策を支持し、或いは誘導して来た層が多く、どうしても批判的な論調が強くなる傾向があるので、幅広い知識人や専門家、研究者の発掘、育成も課題であろう。
 外交、防衛政策に限らず、新政権の政策転換は4年間で実現し、実績をあげる必要がある。半世紀に亘る既成の制度、慣行、既得権益、組織の下での政策転換であるので時間が掛かる作業となろう。それぞれの事項、施策は、採用された当時には一定のニーズがあり、役割を果たしてきたのであろうから、それを転換しようとすると、それぞれの利益グループが「生活を掛けて」反対するのは仕方がない。しかし個々の「生活」や利益の問題ではなく、限られた国民の税金を時のニーズに沿ってどのような施策に優先度を与えて配分するかである。課題も多い。だが国民が選んだ政権であるので、まず4年間政権を担ってむらうしかない。(09.11.)  
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