家を出る決心をした僕は
心の中に 帰る家など
もうなかった
思い出すのは
ベランダから見た夜空
満天の星を見上げて
流れるものを待った
吐く息が白くなるほど
寒さが染みる夜でも
星を見ているとどこか
希望が持てる気がした
思い出すのは
窓から仰いだ空
きゅうきゅう鳴る胸を
抱えながら見た青
締めつけられるような
切なさに囚われながら
青に染まる感覚が
たまらなく心地よく
ひとりぼっちで生きて
誰も見つからなくても
この空さえあれば
大丈夫だと
思い出すのは
壊れそうな孤独感
もう終りにしようと
何度も繰り返したこと
あの家を出ようと思った時
もともと帰るべき家なんて
随分前からなかったんだと
そう思っていた
僕が帰りたかったのは
家じゃなかった
僕が欲しかったのは
居る場所じゃなかった
温かい
ぬくもりだった
思い出すのは
彼女の体温
同じようにぬくもりを求めていた
分厚くて弱い人