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時の関守

たましいの絆 3 母の記憶(1)清水の舞台から飛び降りたつもりで…

その人の人生の、かなりの部分を知っているはずなのに
記憶を呼び覚ますと
たましいに刻まれるような、鮮烈な部分しか残っていなかったことに気づかされます。

私が中学三年のとき、母が「町に行くから、付いてこない?」
と言いますので、何気なく「ああ、行く。」と、言ってしまいました。
当時、中学三年にもなると、母と買物など、まず行かなかったのに…。

とくに何か買ってもらえるわけでもなく、母の買うものに興味があるはずもありません。
おもむろに、母は「このカーディガン、ちょっと高いけど、ばあちゃんにちょうどいいよね。」と言うのです。
そして、私の返事も待たず、
「清水の舞台から飛び降りたつもりで、これ買うか…。」
と言うのです。

私は内心、ちょっとびっくりしていました。
母が珍しく、おおげさな言い方をしたこと。
もうひとつ。
母と姑が、かなりのバトルを繰り広げていたことも、薄々知っていました。
お互いが、かなりの勝ち気同士ですので、仲良くできるわけもありません。
ですから、とてもおどろいたのです。
しかし、当時、姑が脳梗塞で倒れ、やっと安定してきたこともあり、休戦状態といったところでした。

ばあちゃんがその夜、そのカーディガンに一度、手に通したと記憶しております。
たしかに、その夜でした。
私にとっては祖母である人は、急逝しました。
脳出血だったようです。
大好きな風呂に入っているなかのことでした。

あわただしく、葬式の準備がなされ、母の買ったカーディガンが、話題になることもありませんでした。
今では、私の心の中だけの記憶でしかありませんが、鮮烈な記憶です。

この世を去った母は、別の世界で、このことも忘れずに報告してしているのだろうか。
それとも、まだ中学生だった私を、なぜか連れていこうと思い立ったのは、たった一人でもいいから、記憶として残しておきたかったからなのだろうか…。
今私が、このことをこうして思い出しているのだから…。
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