情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

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裁判員HPに異議あり!~刑事裁判に臨む上でもっとも大切なことは無罪推定原則では?

2008-11-11 08:38:00 | 適正手続(裁判員・可視化など)
 裁判員裁判の開始がいよいよ、半年先まで迫ってきた。法曹三者による広報活動もますます盛んになっている。私もあるところで頼まれて、裁判員制度の解説を行った。そのために、最高裁判所の裁判員に関するホームページ(http://www.saibanin.courts.go.jp/)をチェックしたところ、なんと、無罪推定原則について、とってもないがしろにされていることが分かり、驚きまくっている…。

 最新のパンフレット(http://www.saibanin.courts.go.jp/news/navigation.html)は、本文部分が45頁まである。うち、刑事裁判に関する基礎知識という部分に8頁を割いている(http://www.saibanin.courts.go.jp/news/pdf/navigation/1_1.pdf)。

 刑事裁判の原則は、その最初の頁で取り上げられている。

 引用してみよう。

■ ■ 引用開始 ■ ■

【刑事裁判とは】
 犯罪を犯した者に刑罰を科すには,刑事裁判で有罪とされ,刑が定められなければなりません。
 検察官は,捜査の結果,被疑者が犯罪を犯しており,刑罰を科すのが相当だと判断した場合には,裁判所の裁判を求める「起訴」を行います。起訴ができるのは,国を代表する検察官だけです。
起訴された人を「被告人」と呼び,裁判所は,被告人が起訴された犯罪を犯したのかどうか(有罪かどうか),犯罪を犯したと認められる場合にはどのような刑にするかを判断します。
刑事裁判では,検察官が,「被告人が犯罪を犯したこと」を証拠により証明する責任を負います。

◆◆ 被告人の権利 ◆◆
被告人は,弁護士を弁護人として選任することができ,自分で弁護人を選任することができない場合には,国に弁護人の選任を求めることもできます(国選弁護人)。
刑事裁判では,被告人が無実の罪で処罰されることのないよう,被告人にさまざまな権利が保障されています。上記の弁護人を選任する権利もその1つですが,そのほか,法廷では,話したくないことは話す必要はなく,話さなかったということだけで不利な扱いを受けない権利(「黙秘権」)も保障されています。

◆◆ 証拠による裁判 ◆◆
刑事裁判で最も重要な原則は,被告人が有罪かどうか,あるいはどのような刑にするかは,法廷で適法に調べられた証拠によってのみ判断されるということです。証拠以外の,例えば,マスコミの報道やうわさなどによって判断することは許されません。また,被告人・弁護人は,証人などの証拠の適格性や信用性を争う機会を保障されます。

◆◆ 有罪か無罪か ◆◆
証拠によって,被告人が犯人であることが確信できれば被告人は有罪とされますが,このような確信に至らない場合(「被告人が有罪であることに合理的な疑いが残る場合」)には,被告人は有罪とはされず,無罪とされます(「疑わしきは被告人の利益に」)。
有罪の裁判が確定すれば,検察官の指揮により,刑が執行されます。
 
 
■■引用終了■■


 45頁のうち、「無罪推定」という趣旨の説明がでてくるのはここだけだ。裁判員裁判の流れを説明する中でも、当然、触れるべきことだと思うが、まったくない。しかも、このわずか一カ所でさえ、その意味を読む者に印象づけようという姿勢は感じられない。むしろ、「無罪推定隠し」をしている感さえある。

 上記引用部分の最後の段落の見出しに注目してほしい。ここは、本来、「無罪推定の原則」として、基本原則に注意して判断しましょう、という趣旨にしなければならないはずだ。

 それにもかかわらず、「有罪か無罪か」という訳の分からない見出しでお茶を濁している。疑わしいだけでは罰せられないんだ、ということの意味をきちんと理解してもらおうという姿勢は全く感じられない。

 さらに実は、「公判前整理手続き」についての記載でも、問題部分があった(というか、ほかにも散見するが、また後ほど…)。引用する。

■■引用開始■■

 公判前整理手続は,最初の公判期日の前に,裁判所,検察官,弁護人が,争点を明確にした上,これを判断するための証拠を厳選し,審理計画を立てることを目的とする手続です。
❖ ❖ ❖
 これまでの刑事裁判,特に争点が複雑な事件などでは,事案の真相を解明するため,大量の書類を証拠として採用し,また,証人に対しても長時間にわたり詳細な尋問を行った上,裁判官がこれらの書類や証人尋問の記録(調書)を読み込んで判断をするという審理が少なくありませんでした。
❖ ❖ ❖
 しかし,裁判員の負担を考えると,大量の証拠書類を読んでもらうことや,長時間にわたる詳細な証人尋問の内容を理解してもらうのは大変です。そこで,裁判員裁判では,法廷での審理を見聞きするだけで争点に対する判断ができるような審理をしなければなりません。そのためには,何よりも,争点をシンプルな形にした上で,これを証明するための証拠を最良のものに厳選することが必要です。裁判員法が,裁判員裁判ではすべての事件で公判前整理手続を行わなければならないとしているのは,このような考えからなのです。
❖ ❖ ❖
 公判前整理手続は,審理の進行を担う裁判所のリードのもとで行われ,検察官及び弁護人双方が,証拠により証明しようとする具体的事実(証明予定事実)及びこれを立証するための証拠を請求するとともに,その内容を相手方に示します(証拠の開示)。これに対し,双方は,相手方の証明予定事実をどのように争うかを具体的に明らかにしながら,争点を絞っていきます。これまでは,請求予定のもの以外の検察官の手持ち証拠が開示されないことを理由に,弁護人が,早期に主張を明らかにしたり争点を絞ることに難色を示すこともありました。公判前整理手続では,このような手持ち証拠の開示に関する争いも裁判所が裁定しますので,弁護人が早期に主張を明らかにしやすい環境ができます。また,公判前整理手続では,証拠の採否の決定,公判期日の指定なども行われ,具体的な審理計画が立てられます。
❖ ❖ ❖

■■引用終了■■


どこが問題かお分かりでしょうか?

【これまでは,請求予定のもの以外の検察官の手持ち証拠が開示されないことを理由に,弁護人が,早期に主張を明らかにしたり争点を絞ることに難色を示すこともありました。公判前整理手続では,このような手持ち証拠の開示に関する争いも裁判所が裁定しますので,弁護人が早期に主張を明らかにしやすい環境ができます。】

という部分だ。本来、検察官が手持ち証拠を開示しないこと自体が問題なのに、いかにも弁護人がごねているような書き方だ。捜査側に不利な証拠を隠すこと自体が問題であるはずなのに…。


ということで、裁判員ウェブサイトの問題点を見つけた方は、コメントを残してください。なお、コメントを非公開としたい方はその旨記載してください。




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