情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

「知らしむべからず」が有効な国でよいのか!~対米兵士裁判権放棄密約に怒れ、市民、ジャーナリスト!

2009-05-03 19:11:34 | メディア(知るための手段のあり方)
 在日米軍兵士に対する刑事裁判権放棄の日米密約の存在を示す資料を国会図書館が閲覧禁止としたために、ジャーナリストの斎藤貴男さんが閲覧禁止処分の取消を求めて訴訟を提起したことはすでに報告したとおりだが(http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/0f6d58b0589f811d34d71c650c7eea40)、この密約は、実は、同じく米軍が派遣されている諸外国では、堂々と公表されているというのだ。

 新原昭治さんの編訳による「米政府安保外交秘密文書」(新日本出版社)によれば、1954年、オランダ政府と米国政府の間で、「オランダ当局が司法権を行使すべき特別重要なもの」とオランダ政府が決定するものを除き、オランダ国内で犯罪をおかした米軍人を裁く第一次的権利を放棄することにオランダ側が同意し、公表されたらしい。以後、西ドイツやギリシャなどにも適用され、「NATOオランダ方式」と呼ばれるようになったという。
 
 ところが、日本政府は、同じ内容の合意を公表することを恐れ、秘密合意となったという。本当にそうなのだろうか。確かめるために、まずは、NATO軍地位協定を探すと、7条3項Cに次のような条項があった。

 【If the State having the primary right decides not to exercise jurisdiction, it shall notify the authorities of the other State as soon as practicable. The authorities of the State having the primary right shall give sympathetic consideration to a request from the authorities of the other State for a waiver of its right in cases where that other state considers such waiver to be of particular importance. 】


 これは次の日米地位協定17条3項Cと同じものとなっている。

 【第一次の権利を有する国は、裁判権を行使しないことに決定したときは、できる限りすみやかに他方の国の当局にその旨を通告しなければならない。第一次の権利を有する国の当局は、他方の国がその権利の放棄を特に重要であると認めた場合において、その他方の国の当局から要請があつたときは、その要請に好意的考慮を払わなければならない。】

 簡単に言うと、日本やオランダ、ドイツなどは、米国から裁判権を放棄するよう要請された際は、その要請にできるだけ応えるよう努めなければならない、ということだ。ただし、形式的には、日本やオランダ側からも米国が裁判権を持つ場合(兵士が公務の場合など)、放棄を要請できるような条項になっており、これだけでは、一方的とはいえない。

 ここまでは、NATO諸国も日本も同じ内容だ。

 問題は、ここからだ。

 オランダの文書は見つからなかったが、NATOオランダ方式をとりいれたドイツの文書(ドイツ連邦共和国に駐留する外国軍隊に関して北大西洋条約当事国間の
軍隊の地位に関する協定を補足する協定)が見つかった。その協定の19条1項には次のように書かれている。

【裁判権が競合する場合に派遣国(ヤメ蚊注:米国)の要請があるときは、連邦共和国(ヤメ蚊注:ドイツ)は、NATO軍地位協定第7条第3項⒝号によりドイツの当局に認められる第一次的権利を、同協定第7条第3項⒞号の枠内で、かつ本条第2項,第3項,第4項及び第7項の規定に従うことを条件として、当該派遣国(ヤメ蚊注:ドイツ)のために放棄する。】

 ずばり、ドイツは、裁判権を放棄することを明示してある。

 ところが、日本政府は、この条項が表沙汰になり、米軍への反発が大きくなるのを恐れ、秘密合意としてしまったのだ。

 このため、日本では、不透明なまま裁判権の放棄が続けられ、新原昭治さんが米国立公文書館で入手した米陸軍法務局作成の統計資料によると、1962年12月1日~63年11月30日までの沖縄を除く在日米陸海空軍の合計のデータで【日本の裁判に付されるべき犯罪三千四百三十三件のうち、日本側が裁判権を保持し手放さなかったのは三百五十件で、全体の10・2%。米軍が日本に対し裁判権を譲るよう請求した事件(二千六百二十七件)のうち、日本から放棄を勝ち得たのは二千四百四十八件で、全体の93・2%。】だったという(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-05-18/2008051802_02_0.html)。

 驚きの数字だ。

 しかし、驚くのはまだ早い。ドイツでは、米軍犯罪を促進するような上記協定を改正する努力を続け、1993年には、協定19条3項として、【ドイツの権限ある当局が、ドイツの司法行政上の利益からドイツの裁判権の行使が必須であるとの見解を有する場合、ドイツの同当局は、本条第2項に定める通告の受理後21日以内に又は本条第7項に基づく取極に定めるそれより短い期間内に、権限ある軍当局又は軍隊以外のその他の当局宛の声明書を提出することによって、本条第1項で認められる権利の放棄を撤回することができる。】という条項を盛り込むことに成功し、裁判権放棄を撤回することができることが明文化された。

 ところが、日本政府は、秘密合意の存在を否定し続けてきたため、当然改正もままならない。ようやく、【日本に駐留する米兵らの事件をめぐり、1953年に日米両政府が「重要な案件以外、日本側は裁判権を放棄する」と密約をしていた問題で、日米関係研究者新原昭治氏が23日までに、密約を記した文書を米国立公文書館で見つけた。同日午後、都内で公表した。文書は、53年10月28日付の日米合同委刑事裁判権分科委員会の議事録。密約の存在はその後の米側公文書などで知られていた。文書本体が公表されるのは初めて。議事録は、同年9月29日の同委員会会議での発言として、日本側代表が「日本にとって実質的に重要ではない案件について、米兵らに対する1次裁判権を行使しない」と日本政府の見解を述べたと記載。日米両代表がこの見解に合意したことになっている。】(http://www.47news.jp/CN/200810/CN2008102301000065.html)と報道されたとおり、秘密合意の本体そのものが米国の公文書館で発見されたが、それでも、日本政府は、その存在を認めていない。

 ということは、この秘密合意がいまも生きているということだ。

 今年も、多くの米兵が日本の市民の身体や財産を傷つけ、そのうちの大半が起訴されることなく日本に滞在し続け、あるいは、本国へ送還されるのだろう。

 そうなるのは嫌だというあなた、ぜひ、http://lislog.livedoor.com/r/25488でアンケートに答えて欲しい。

 そして、ジャーナリストの皆さん、密約にされたうえ、その密約がばれたにもかかわらず、本当のことを言わない自民党政権に、ここまでバカにされて黙っていますか?あなた方が突っ込まないと、暗黒時代が続きまっせ。

 海軍大佐にまで昇進しながらも、第一次大戦の惨禍及び米国の経済力を目の当たりにして当時としては極めて先見的な非戦・平和論を唱えた水野廣徳氏は、戦後、友人にあてた手紙の中で次のように述べている。
  「次の選挙こそは、日本がはたして正しく生き返るや否やの試金石であると思います。しかし概観すれば、鳩山一郎や清瀬一郎などのご都合主義の人物が、矢張り多数を制するのではありますまいか。きわめて露骨にかつ率直に白状すれば、日本人という民族は、無主義、無節操のオッチョコチョイで、時の権力に阿附することを恥としない、きわめて劣等な性格の持主であると思います。しかも病すでに膏肓に入った奴隷的人種であると思います。むしろ米国人によってこの機会に厳正なる選挙と、政治の標本を示してくれんことを望みます。僕等より見れば日本人は今後数十年間は、正しき立憲政治を行う能力はないものと思われます。これは一般国民の愚蒙よりも、むしろ指導者の故意の教育によるものと思われます」
  (http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/mizuno.html)

 そう、指導者の故意の教育をすすめるジャーナリストになるか、市民に必要な情報を伝えるジャーナリストになるか?そのことを自分に問い直して欲しい。


※「知らしむべからず」の意味間違えているぞとのご指摘あり。確かにそのとおりでした。「知らすことができない」という状況を踏まえての為政者のあるべき姿を述べたものということのようです。すっかり、誤用してしまいました。しかし、いまは、知らすことができるし、知らせなければならないのでしょうね。




 
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★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
★「News for the People in Japanを広めることこそ日本の民主化実現への有効な手段だ(笑)」(ヤメ蚊)
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