私が「アンネの日記」を読んだのは、十六歳の夏だった。
何を読んだら良いのか分からなかった私は、当時、書店等でもてはやされていた同書を読むことにした。
十六歳の読後の感想は、「チャーミングで頭がよくて、ちょっとおしゃまっぽい普通の女の子の日記じゃん。」というものだった。
その普通の女の子がと民族浄化の犠牲者となっているという事実を重ね合わせて、民族間の憎しみやいがみ合いについて考えるほど大人ではなかった。
遠い記憶だが、ナチスの党員(だったと思う。)が、アンネの家に押し掛けてきた時の状況描写は鮮明だ。太っちょのその党員はユダヤ人であるフランクリン家へ押し掛けてきたのだが、壁に立て掛けてあった陸軍大佐の制服(アンネの父親は、第一次世界大戦で、ドイツ軍の大佐として戦った。)憎むべきユダヤ人と尊敬すべき大佐が同一人物であつことが理解不能となり、父親の顔と制服を交互に見比べ困惑しているばかりだったということ書いていた。
アンネの筆には、ナチス党員を滑稽がると同時に言外に父親への尊敬の眼差しが感じられた。この一文だけで、私はアンネが好きになった。世界中にフアンは数多いるんだろうけどね。
読書嫌いだった私が、この年に読んだのは、この一冊だけだった。