ある、6年生のお子さんから、こんな質問を受けました。
紫式部は藤原道長の長女「中宮・彰子」に仕えます。
そして源氏物語をかきました。
でも、どうして藤原道長は、源氏を主人公にする物語を書くことを許したのですか?
藤原氏を主人公にすればいいのではないでしょうか?
困りました。
今まで、そんなこと考えたこともありませんでした。
どう答えていいか分からないので、とりあえずあれこれ調べることから始めています。
○○さんへ
社会科で、平安時代に女流文学がさかんになること、紫式部と清少納言がその代表であることが教科書に載っています。
その紫式部も清少納言も、藤原氏の娘(天皇のお后)の家庭教師になっています。
普通の子は、ここで勉強はおしまいです。
でも、○○さんは、藤原氏は他の氏族を押しのけて出世していること、 源氏物語が「光源氏」という源氏の若者が主人公であること、他の氏族をよく思わない藤原氏が源氏を主人公とした物語を認めるのはおかしいことなど、鋭いことに気付いています。
すごいことだと思います。
この答えは、とても難しいです。
どれぐらい難しいかというと、文学を学んでいる大学生が、卒業論文にまとめているぐらい難しい問題なのです。
源氏物語は、今から1000前に書かれた物語です。
本物も残っていません(書き写した者が何種類も残っています)し、資料も少ないです。
正確に分かっていない部分(いろいろな説に分かれる部分)もあります。(作者も紫式部ではないという説もたくさんあるぐらいです。)
ですから、しっかりとは分からないこと、答えられないことも多いのです。
以下、少し私の調べたことを載せてみます。
〔源氏について〕
源氏というと、鎌倉幕府を開いた、源頼朝を思い出します。
この人は、清和天皇の子孫で、この清和天皇の子孫の源氏を、清和源氏と言います。
そんな書き方をすると、他にも源氏があるみたいに思えますよね。
あるんです。
嵯峨源氏 仁明源氏 文徳源氏 清和源氏 陽成源氏 光孝源氏 宇多源氏 醍醐源氏 村上源氏 冷泉源氏 花山源氏 三条源氏 後三条源氏 後白河源氏 順徳源氏 後嵯峨源氏 後深草源氏 正親町源氏と、いっぱいあります。
ちなみに、平清盛で有名な平氏も同じように、いくつかの平氏に分かれています。
どうしてこんなにたくさん、源氏があるのか。
この源氏の「清和」「嵯峨」「後醍醐」「後白河」などは、天皇の名前なのです。
天皇に関係があるのです。
今の日本にも天皇がいます。
その天皇に大問題が起こっているのを知っていますか?
今の天皇家には男の子供(次の天皇を皇太子といいます)が2人います。
だから、今の天皇が死んでも大丈夫です。
でも、天皇の孫は、男の子が1人しかいません。
もしこの子が、病気や事故で亡くなってしまったらたちまち困ります。
あととりが、いなくなるのです。
それに、この男の子は、皇太子の子供ではありません。
大問題とは、天皇のあととりがいない(少ない)ということです。
2000年近く続いている家系は、おそらく世界でもこの「天皇家」以外にはありません。その貴重な家系が、途切れるおそれがあるのです。
昔も同じです。
昔の天皇も、家系が途絶えないようにたくさんの子供を産みたいと考えました。
そこで、天皇には(貴族も)たくさんの奥さんがいました。
たくさんの子供を産みました。
これは、とてもめでたいことです。
しかし、今度は逆の問題が起こります。
たくさん子供がいても、天皇になれるのはその中の1人か2人です。
天皇の子供といえば高貴な身分です。
生活費もとてもかかります。
いつまでも、天皇家の家の中においておくと、天皇家のお金が無くなってしまうし、住む部屋も満員になってしまいます。
そこで、天皇になれなかった(なれそうもない)皇子は、天皇家でない一般の人になります。
当時、天皇は人というより、神に近い存在でした。
天皇は、神様みたいな人なので、(今でも)死ぬまで名字がありません。
死んで始めて、名字がつきます。
天皇になれない天皇の子どもは、一般の人になります。
でも、それでは名字がありません。
そこで一般の人になった証拠として名字をもらいます。
その際、どの名字でもいいわけでなく、「源」や「平」という名字をもらいます。
天皇の子孫であることを、一目で証明できるようにするわけです。
嵯峨源氏は、嵯峨天皇の一般人になった子どもと、その子孫です。
清和源氏は、清和天皇の一般人になった子どもと、その子孫です。
日本では、「鎌倉幕府」「室町幕府」「江戸幕府」と3つの幕府が国を治めました。
それまでの貴族に代わって武士が日本の政治を行いました。
新しい政治が始まったように見えます。
でも、実は、幕府の将軍になる人は、源氏でなければならない習わしになっています。
源頼朝だけでなく、足利尊氏も、れっきとした源氏です。
つまり、天皇の子孫なのです。
天皇の子孫が幕府を開いているのです。
(ただ、徳川氏は源氏だと名乗っていますが、疑わしいそうです。)
飛鳥時代や大和朝廷の時代から、江戸時代、明治、大正、昭和と、日本の歴史は、結局天皇家を抜きには語れないのです。
〔光源氏は、なぜ源氏なのか〕
光源氏父親は、桐壺天皇です。(本当にはいません)
天皇の子どもで、天皇になれなかったので、源氏になったのです。
光源氏は、天皇の子ども、高貴な人なのです。
~次回へ続く~
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