
新採研修の係として、この1年4人の初任者の先生とともに研修をしてきた。
私はそのための加配ということで、授業もなく、分掌もなく、もちろん担任もなくただただ研修を繰り返す1年だった。
幸いにも、熱心な優秀な先生方に恵まれた。
おかげで、純粋に教材と向かい合い、ともに子どもや教材について語り合う日々だった。
今週は、その4人の先生方が、全員最後の研究授業を行った。
一年間の総仕上げの授業だ。
その4人の先生のうちの、4人目の授業があった。
この授業で、私のこの1年の仕事も終わる。
だから彼女に満足して終わってほしかった。
しかし、彼女は手応えはあったものの、もっとできたのではないかと満足はしていなかった。
そこで、私はこれらの写真を見せながらこう話した。
たくさんの子がハイハイハイと挙手をし、次々と発表する授業が必ずしも良い授業ではないんだ。
この写真を見てごらん。
目をみると、考えていることが分かる。
本当に良い授業は、子どもが考え続ける授業だと思っている。
授業の最終的な目的は、スーホの気持ちが分かることではなく、情景を正確に読み解くことではなく
そうした作業を通じて、子どもを成長させることなんだよ。
成長するということは、それまでの自分と変わるということ。
自分が変わるということは、今まで気付かなかったことに気付く目をもつこと
今まで、当たり前だと思っていたことを、本当にそうだろうかと立ち止まって見直すこと。
そうして、今まで分かったつもりであったことが実はぼんやりした世界であって
学ぶことを通して、世の中をより曇りのない眼で見つめることができること。
そんなことなんじゃないかな。
そうだとすると、本時のこの子たちの目は
まさに、そうした成長しようとしている、透き通った、力のある目だと思う。
授業の善し悪しは、教師が満足感を感じるかどうかよりも
子どもたちが、それを通して成長した姿を見せられたかどうかで決まるのだと思うんだ。
そう考えると、本時は十分成功した授業だったと思う。
友達の意見を聞き、教師の発問を聞き
50分間、子どもたちはずっと考え続けた。
本時は最後の最後になって、思いもよらない山場が生まれた。
スーホの白い馬で、何本も突き刺さった矢をスーホが抜く。
すると傷口からは血が吹き出し、次第に白馬が弱っていく場面だ。
S君が、K君の発言に反論した。
S:今K君が、矢を抜くと白馬が弱って死んでいくから悲しいと言ったけれどおかしいよ。
僕は、死なないために歯を食いしばって矢を抜いたのだと思うんだ。
S:あのね、K君は、その後の「次の日のこと」を読んでいるから死ぬっていう言葉を使ったのだけど、
この時点では死ぬという言葉はかいてないよ。
新任の先生は、このS君の反論をとっさに使って、新たな問題を作った。
それまでたくさん出された意見を、一つにまとめていく大事な発問だった。
T:つまり、K君は「生かそうと思って抜いたのか」「抜くことによって弱っていくと分かって抜いたのか」を問題と感じたんだね。
ここから議論が白熱した。
「弱らせようとしてぬくはずはないよ。」
「血が出ることが分かっていても、助けたいから抜いたんだよ。」
「だって、白馬が死んだら悲しいじゃない。悲しくなりたくないから抜くんだよ。」
「白馬は、家族じゃん。家族がいなくなったら寂しいよ。生きてほしいに決まってるジャン。」
指導案とは違う流れだった。
しかし、指導案以上の迫力のある学びになった。
子どもの思考に寄り添い、とっさに一人の子どもの疑問を、クラス全員の学びへと変換させたのだ。
見事な、かじさばきだった。
時に、子どもたちは教師の予想の範疇を超えてしまうのだ。
K君の発言を聞き逃さずに「あれっ」と、その違和感に立ち止まって考えたS君。
K君とS君の質疑から、その違和感を感じ取り、さらっと流さずに、立ち止まってそれを問題として取り上げた先生。
K君とS君の質疑と、そこから先生の見つけ出した課題を自分の問題として真剣に考えた子どもたち。
これが、本当の授業だと思う。
このラスト10分の授業がコンスタントにできたら、
そのときこそ、教師も満足できる授業となるのだと思う。
T:そうした、死なないで、一緒に生き続けてほしい気持ちが表れた言葉があるね。
S:「白馬、僕の白馬、死なないでおくれ。」
T:「最後にみんなで、この文を読んでみようよ。」
S:「白馬、僕の白馬、死なないでおくれ。」
その読みは、劇団員が読む朗読のように、心がこもり、悲しい響きがした。
1年間、お疲れ様でした。すばらしい先生とともに研修でき幸せでした。
41回 | 2014年4月12日 | 土 | 9:00 | 12:00 | 天竜壬生ホール | 第2会議室 |
42回 | 2014年5月10日 | 土 | 9:00 | 12:00 | 天竜壬生ホール | 第2会議室 |
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