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支流からの眺め

世の動きは力が決める(5)進化の力

 前述の通り技術の力は驚異的ではある。しかし、自然現象の前には見る影もない。そもそも、宇宙の創造の力は正しく天文学的に大きい。そのごく僅かなおこぼれで太陽や地球が生まれたのである。十億年単位の未来には、人類はおろか太陽も地球もこの世にはない。有史の範囲でも、暴風雨や火山、地震の脅威にはなす術もなく、小氷期でも飢饉や革命が起こる。自然現象は人間の思惑と無関係で発生し、その力は所与の環境として受け入れるしかない。思案する甲斐もなかろう。

 しかし、ヒトが生物であることに鑑みれば、進化という自然現象は考慮すべきである。ダーウィンの言う通り、進化は環境への適応である。環境が変化すれば、過去の環境に適応した形質(遺伝的な特徴)は意味をなさず、不利になることすらある。環境の変化が速いと、進化が間に合わない。温暖化と豊富な食料に恵まれ巨大化した恐竜は、急激な寒冷化と食料不足に適応できなかった。ヒトの進化もこの法則に従って進み、延々と環境への適応を続けて今日に至ったのだろう。

 如何なる進化が、ヒトを地球上で君臨するまでに押し上げたのか。ヒトの身体機能は、雑食性や二足歩行という点で優越している。しかし、凶暴な肉食獣には勝てないし、感染症(細菌や寄生虫という他の生物による攻撃)の猛威には今も苦しめられている。気象環境や外力に耐える力は弱々しく、長期間の飢餓や脱水に備えた機能は乏しい。生める子孫の数も決して多くないし、生まれた子は長期間の保護と養育を必要とする。これらの特性は、百万年単位で大して変化していない。

 ヒトに際立つ進化形質は、やはり、手指の器用さ・思考力・言語能力などを可能とした高次脳機能であろう。脳の基本構造は脊椎動物に共通で、何と数億年前の魚類の脳にもヒトと同じ12対の脳神経(嗅神経、視神経、・・舌下神経)があり、貧弱とはいえ前頭葉も存在する。ここから時間をかけつつも着実に前頭葉を発達させたのがヒトである。その脳が生む智慧の力で、他の生物を凌ぐ発展を遂げたのである。つまり、ヒトの進化とは即ち脳の進化ということであろう。

 但し、脳がいくら優秀とは言え、個々人の達成度は限られる。今日の人類の発展は、ヒトが共同体を作り、協力し合い、体系的な知識や技術を蓄積・伝承してきたことによる。であれば、より大きな共同体の形成と更なる文明の発展に、進化は向かっているはずである。もっとも、文明の発展途中で次々と共同体同士の衝突が発生してきた。この現象はヒトにとって新たな環境であり、環境への適応が進化というならば、その衝突の連鎖こそがヒトを選別する進化圧なのかもしれない。

 脳の進化はどこに向かうのか。脳(交信しあう神経細胞の集合体)が欲しがるのは、刺激と興奮である。困難な課題(手強い敵)は大いなる刺激であり、困難であるほどその解決(勝利)に脳は興奮する。脳はヒトをして難題に挑ませ戦いに駆り立ててきた。その成果が今日の巨大な文明社会なのである。この先も、終わりのない挑戦を脳は強いてくるであろう。この無間地獄のような脳による苛酷な進化圧をヒトはいかに凌ぐのか。それには、やはり脳を使うしかないのである。

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