エッセイ 「少女」 課題【男・女】 2010・12・24
私が通った小学校は家から遠かった。
砂埃の舞う砂利道を、いつも敏子さん和子さんと三人で帰った。
ランドセルを揺する癖のある敏子さんはよくしゃべった。
「又、お母さんが少女を送ってくれるって」。
「少女」とはその頃人気のあった少女雑誌のことで、クラスでそれを買ってもらえるのは敏子さんぐらいだった。
敏子さんのお母さんは東京で働いていたので、お祖父ちゃんと暮らしていた。
田舎の小学生にとって「少女」は、まぶしく憧れだった。
松島とも子や美空ひばりがどんな洋服を着ているのか、封切られる映画は何か、今流行している歌など、知りたいことが沢山載っていた。
3人とも美空ひばりに夢中で、美空ひばりの歌や映画の話をいつも話題にした。
特に可哀そうな話が好きで、「りんご追分」や「越後獅子」の歌を歌いながら「かわいそうだったよね」と、急にその場面を思い出し、涙ぐみながら歩いた。
和子さんは、小さい時から家の近い敏子さんと遊んでいて、敏子さんの言うなりのようになっていた。
私はどちらかと言うと、いやな事ははっきり言う癖がある。
時々、敏子さんの話す事が気に入らないと、「ちがうよ」と言い返して黙り込む。
すると敏子さんは「お母さんが少女を」と言い出す。
雑誌が届くと敏子さんはクラスの人気者になる。
休み時間には、皆が「少女」を覗き込み、「うあ~」とか「すごいね」とか歓声が上がる。
私は輪の外で知らん振りをする。
帰り道、「少女」の話が出ると、どうしても見たい気持ちを抑えられなくなり、敏子さんの関心を引こうと媚びた話し方をした。
敏子さんを思い出すとき、自分勝手な苦い思い出も付いてくる。
先生の講評……少女の心をたどる細やかな心理描写。
つつじのつぶやき……エッセイ教室に通い始めて2年目の作品です。
遠い日の記憶をたどるのもいいものですね。
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