ウクレレとSwing(スヰング)音盤

Amazing Ukulele (2020) / Ohta-San


2020年にビクターからリリースされた、全曲新録によるアルバム。前作はライヴ盤であったので、スタジオ録音としては5年ぶりとなる。

オータサンの長年弾きなれたレパートリーの中から、今回は特にクラシック寄りの曲が集められた。クラシック寄りとは言ってもそこはウクレレの神様オータサンであるので、ドビュッシーあり、ガーシュインあり、ショパンあり、シューベルトあり、スペイン民謡ありとお馴染みの楽曲ばかりでポピュラー音楽のリスナーにも充分楽しめる作品になっている。収録時間も約30分程度と短めだが決して物足りなくは感じさせないあたり、さすがの貫禄である。

2018年に『最後の日本ツアー』と銘打って告知された日本公演がキャンセルとなり、その後はご本人のフェイスブックで時折、療養中の信息が伝えられるのみとなっていたオータサンであったが、ある時自宅でウクレレを奏でる動画に「この曲を新しいアルバムでも弾いています」という言葉が添えられていたので、ちょっと信じられないという気がしながらも正式なリリース情報を楽しみに待っていたものだ。

録音は5年前にリリースされたスタジオ録音盤『Rendezvous in Hawaii (2015)』と同じ、ハワイのランデブー・レコーディング・スタジオ。前作と同様にオータサンのウクレレによる独奏(ソロ)だけで構成されており、4曲(2,5,7,9)のみ本作の共同プロデューサーとしてオータサンと共に名を連ねるPierre Grill(ライナーノーツに拠ればランデブー・レコーディング・スタジオのオーナー兼エンジニアとのこと)の編曲に拠るMIDIオーケストラが加えられている。

1. 月の光(ドビュッシー)
2. ボレロ(ラヴェル)
3. ラプソディ・イン・ブルー(ガーシュイン)
4. ショパン・メドレー(幻想即興曲~別れの曲)
5. メキシカン・ファンタジー(エル・サロン・メヒコ)(コープランド)
6. シューベルト・メドレー(セレナーデ~アヴェ・マリア)
7. マカレナ(モンテルデ)
8. コンチェルト第2番(ラフマニノフ)
9. マラゲーニャ(スペイン民謡)
10. 夢想(ドビュッシー)

今もなお、時に人種差別に大きく揺れるアメリカという国で、後に続く日系ハワイ人ミュージシャンに門戸を開いた偉大なる第一人者としての功績。これまで拙稿で紹介してきたように、これほどまでに大量の音楽を作品としてウクレレ1本で生み出し続けた音楽家は洋の東西どこにもいない。まさに最高峰の巨人である。

ただでさえ音楽ソフト市場の縮小と販売数量の急激な落ち込みが聞かれて久しい時代にあって、オータサンご本人が高齢化により、以前の様に日本公演とのパッケージによるプロモーション活動が期待できない状況下においても、CDというメディアであえて新録盤をファンに届けるという英断を下した我が国のレコード会社(ビクター)に対しても最大級の敬意を表したいと思う。

本作では達人がさらに練磨され、練熟を以て精妙の域に達したような演奏を聴く事ができる。それでも85歳(当時)のウクレレの神様はいつものようににこやかな佇まいで、ありのままの自然体である。


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